ガリアの魔王と商人聖女   作:孤藤海

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最後の抵抗

ガセキ平原の戦いに勝利したあたしたちだったけど、すぐにヴィットーリオを討ち取るために宗教庁に向けて進軍をすることはできなかった。最初は敗走に見せかけて撤退をしていたので、そこでの負傷者も多かったし、何よりヴィットーリオが再召喚していると思われるヴィンダールヴと動員されるであろう民兵たちへの備えも必要だった。

 

死を恐れぬ狂信者というものは実力以上に怖い相手だ。ただし、怖いのは接近がされてからであり、練度がものを言う遠距離戦で圧倒すれば問題はない。あたしは開戦後も製造を続けていたゲルマニア銃をはじめとした兵器類を追加でガリアから届けさせた。

 

無論、ゲルマニア銃が届くまで無為に時間を過ごしていたわけではない。ロマリアに所属する都市でも信仰心には差があり、エイザーンのように絶対に降伏などしないという場所もあれば、勝ち目がないなら降伏やむなしという都市もある。

 

タバサはアルヌルフ、シバー、マヤーナ、リョシューンの四将にそれぞれの手勢を率いらせて、現実路線を取る各都市を降伏させていった。ひとまず武装解除として銃砲を接収しておけば、メイジや近接武器だけの軍勢なら今のガリア軍なら恐れるに足りない。

 

こうして後方の安全を着々と固めた後、ビゼーン、アウグスト、ギョーブの三人の子爵にそれぞれ一万の兵を預けて各地の備えとした。万全の態勢を整えたタバサの率いるガリア本軍七万は、ついにヴィットーリオを討ち取るために宗教庁に向けて進軍を開始した。

 

「民兵たちには高度な連携は望むべくもありません。ですが、カルロの率いるアリエステ修道騎士団やバッソモーリ修道騎士団の聖堂騎士たちは油断のできぬ相手です。彼らの奇襲には十分注意が必要と思われます」

 

それが、参謀エドゥアルドの見解だった。そのため、今回は中央軍の前面にアルヌルフの赤備え、右にマヤーナの白備え、左にリョシューンの青備え、後方にシバーの黒備えを置くという方円の陣での進軍を行っている。ちなみにあたしやジャンはタバサの隣で前の元素の兄弟たちのような暗殺者の襲撃に備えるのが役割だ。

 

「前方にロマリア軍を発見。数はおよそ五万」

 

やがて騎獣で前方の偵察を行っていた騎士からオルドナンツが飛んでくる。

 

「アリエステ修道騎士団、バッソモーリ修道騎士団の聖堂騎士たちがその中にいるか確認せよ」

 

タバサの指示を受けて参謀オーギュストがオルドナンツを飛ばす。少しして中軍後方から竜騎士たちが飛び立った。

 

竜騎士たちが敵軍の上空に近づいていく。すると、ロマリア側からもペガサス部隊が飛び立った。ペガサス部隊から魔法が放たれ、竜騎士たちは追い散らされる。三騎ほど逃げ切れずに撃ち落されたように見えた。

 

「讃美歌詠唱を確認。聖堂騎士たちの所属する修道騎士団であると推察されます」

 

貴重な竜騎士を用いた偵察により修道騎士団は前方の軍の中にいると確認された。仮にいくらかは伏兵として潜んでいようと、少数ならば跳ね返すことは容易いので、これで差し当たっての脅威は前方の軍のみということになった。

 

「マヤーナとリョシューンの隊に前進を指示せよ」

 

敵が前面に戦力を集中してくるなら、こちらも前面に戦力を集めるのみ。エドゥアルドがオルドナンツを送って両隊を前進させる。

 

「我が軍の前衛部隊と敵前衛部隊が交戦を開始。敵の炎の竜を作る魔法によりわが軍の前衛部隊に若干の被害が出ている模様」

 

「聖堂騎士たちの讃美歌詠唱、“第一楽章”始祖の目覚め、でしょうな。難しい分、威力の高い合体魔法ゆえ我が軍のメイジでも完全に防ぎきることは難しかったのでしょう」

 

前線からのオルドナンツを受け取ったオーギュストが苦々しげに言ってくる。聖堂騎士たちの讃美歌詠唱はガセキ平原の戦いの折にもガリア軍の前衛部隊に被害を与えていた。それだけに本戦までに対策を考えてはみた。けれど、純粋な魔法技術の高さによる攻撃であるため、強力なメイジを揃えるという正攻法くらいしか有効な対策というものが存在しなかったのだ。けれど、それができれば苦労はしない。

 

結局はある程度の被害を許容するということしかできなかった。讃美歌詠唱は強力なだけに何発かしか打てない。補充がしやすい平民を半ば見捨てる格好になるが、メイジたちには自分の身を守ることを優先してもらうことにした。

 

戦は最初のうちは、ややガリア不利で進行した。けれど、徐々に数とゲルマニア銃を配備した平民部隊の差でガリアが押し込むようになってくる。

 

「そろそろ敵軍が動く頃だと思われます」

 

今のままだとロマリアは敗北する。ヴィットーリオがこのまま手をこまねいているとは思えない。今まで動きがないヴィンダールヴが動くならそろそろのはずだ。

 

「ロマリアのペガサス部隊が本陣に向けて突入の動きあり」

 

その報告通り、敵軍はガセキ平原のときのようにタバサを狙ってヴィンダールヴが含まれると思われるペガサス隊を繰り出してきた。ただし、そのときとは違って単独でなく部隊での攻撃を企図してきた。前のときはヴィンダールヴの存在を予想していなかったのに対して、今回は予測して護衛を厚く置いているだろうから、妥当な判断といえよう。

 

「けれど、甘かったわね」

 

個人であろうと、部隊であろうと関係ない。あたしたちは空からの攻撃全般に対する備えを行ってきたのだから。ジャンがタバサの後方の荷馬車に向かい、かけられていた布を取り払った。そこにあったのは、地上配備型の“空飛ぶヘビくん”だ。

 

“空飛ぶヘビくん”が搭載された荷馬車は一台だけではない。タバサの周辺だけでも十二発の“空飛ぶヘビくん”が搭載された荷馬車が四台。中軍では合計十四台の“空飛ぶヘビくん”の発射台が配備されている。

 

まずはガリア軍のメイジにより迎撃のための魔法攻撃が行われる。そして、ロマリア軍がそれを魔法で防ごうとしたところで、中軍の前線に配備された“空飛ぶヘビくん”がペガサス部隊に向けて発射された。ロマリア自慢のペガサス部隊だが、防御魔法の反応を捉え追尾してくる “空飛ぶヘビくん”からは逃れきれずに次々と撃ち落されていく。

 

その中でも華麗にペガサスを操り、粘る一騎が見えた。それはヴィットーリオからも信頼が厚いカルロだった。カルロのペガサスの機動から、彼が新しいヴィンダールヴだと当たりをつけることができた。

 

「アリエステ修道騎士団長のカルロをペガサスから落とすことができたら殺すな! 何としてでも生け捕りとせよ!」

 

クリステルがタバサの護衛騎士たちに命じる。ヴィンダールヴは余裕があれば生け捕りとしなければ、また新たなヴィンダールヴを呼ばれてしまう。それを避けるためには生け捕りとしなければならない。そして、生け捕りとできたならば、その後は手がある。

 

あたしたちがガリア本国から追加で運んできたのはゲルマニア銃だけではない。次こそはヴィンダールヴを生け捕りとし、その後は安定的に捕虜とするためティファニアも呼び寄せていたのだ。

 

多くの犠牲を出したカルロの部隊は、四騎まで数を減らしながらも外縁部の部隊を突破してタバサの付近まで近づいてきた。けれど、そこでタバサの護衛騎士たちと、四十八発の“空飛ぶヘビくん”による一斉攻撃が加えられる。さしものヴィンダールヴも、逃れる場所のないほどの濃密な弾幕の前では意味をなさない。

 

羽を撃ち抜かれたカルロのペガサスが大地に落ちていく。カルロ自体はフライの魔法で地面への激突は避けたが、そのときには、ヴィンダールヴ対策として編成したソワッソン率いる四人のトライアングルクラスのメイジによる分隊が確保に向かっていた。

 

カルロ自身も優れたメイジであることは確かだ。けれども、連携の相性も含めて選抜された腕利きのトライアングルメイジ四人を相手にできるほどではない。激しく抵抗をしたようだが、ソワッソンの風の刃で負傷したところにスリープクラウドをかけられ、生け捕りとされていた。

 

「各修道騎士団の主要騎士は討ち取りました。ロマリア軍の各隊は徐々に戦意を失い後退を始めています」

 

捕らえたカルロをティファニアの元に移送している間にも、前線部隊からは吉報を告げるオルドナンツが飛ばされてくる。戦意旺盛だったロマリア軍だったが、攻めている間は徐々に後退をしながら執拗に銃撃を繰り返し続けたガリアの銃兵隊の前に犠牲ばかりを積み上げ、そのうちに戦意を失ったらしい。

 

ロマリア軍の精鋭たる聖堂騎士たちも、多くをすでに討ち取ったと聞いている。この戦場で勝利を収めれば、ロマリア軍に挽回は不可能だ。

 

あたしは、短くも苦しかったロマリアとの戦いの間近に迫っていることを感じていた。

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