ガリアの魔王と商人聖女   作:孤藤海

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後日談
ハルケギニアからの交易船


わたしはアレキサンドリアの国境門の上でガリアからやってきた船を見つめていた。

 

「母上、あれがハルケギニアという場所のガリアという国の船なのですね」

 

「そうですよ、レオンハルト」

 

長男のレオンハルトはわたしの話す色々な物語を聞いて育ってきた。その物語の中にはハルケギニアで集めたものもあったので、秋の終わりにやってくるガリアの交易船にも興味津々だったのだ。

 

けれど、ユルゲンシュミットでは洗礼式を終えるまでは城の外には出ることはできない。さすがのわたしも、そのルールを破るわけにはいかず、レオンハルトは今年の春の洗礼式を心待ちにしていたのだ。

 

レオンハルトと話しながらも、ガリアの船からは目を離さない。そうして、三隻目の交易船が通過したのを確認すると、わたしはすぐに国境門を閉じた。これはフェルディナンド救出時のランツェナーヴェの侵攻を反省材料にして、国境門を開けっぱなしにすることを止めて、一度にユルゲンシュミットを訪れる人数も制限したことによるものだ。

 

「母上、あの船は空は飛ばないのですよね」

 

「ええ、ユルゲンシュミットを訪れる船は飛行できないものに限ると、ガリアとは約束をしていますからね」

 

「いつか、空に多くの島が浮かんでいて、その間を空飛ぶ船が行き交っているという光景を見てみたいです」

 

「アレキサンドリアの外になりますから、それはさすがに成人後になるでしょうね」

 

通常は特別な用事がない限りは未成年は街の外に出ることはできない。レオンハルトは神殿の神事で外出をするが、他は青色神官や巫女の見習いくらいのものだ。アウブの子が率先して決まりを破らせるわけにはいかない。

 

「けれど、母上は未成年の頃から何度もハルケギニアを訪れていたとハルトムートから聞いていますが?」

 

「あれは事故と、まだハルケギニアの存在がユルゲンシュミットに知られていなかったという特殊事情によるものです。そもそも今はシュタープを得るのも成人前なのです。以前と同じようにはいきませんよ。フェルディナンドもわたくしと同じ意見です」

 

レオンハルトからずるいと言われたときのためにフェルディナンドと一緒に十分に対策は練ってきた。そして、フェルディナンドが同意見だと言えば、レオンハルトは一度は引き下がってくれる。フェルディナンドがたいへん厳しい教師なのは自分の子供が相手でも変わらず、わたしたちは自然と、厳しい父親と優しい母親という役割分担となっている。

 

もっとも、側近たちによると、レオンハルトならできます、と言って大量の課題を積み上げていくわたしは、フェルディナンドとは少し方向性が違うだけの、やはり厳しい母親に見えるという話だった。けれど、わたしが積んでいく課題は子育てでは先輩であるクラリッサの子供ができた量だ。上級貴族の子供ができた課題くらいは領主候補生としてできないと後で困ることになる。わたしは、けして闇雲に課題を積み上げているわけではないのだ。

 

「わかりました。城に戻りましたら、まずは父上と話をさせていただきます」

 

エーレンフェストから連れてきた側近の中では最も出産の早かったのがクラリッサで、その関係でレオンハルトの世話も手伝ってもらった。そのせいかレオンハルトは手を変え品を変えて何度でも挑むというダンケルフェルガー的な精神を持ってしまった。

 

とはいえ、子供が用意した理屈に簡単に敗北する魔王様ではない。これまでの戦績で勝利はわずかに一度、対する敗北の数は三桁に達するほどだ。

 

「フェルディナンドとお話をするのはよいですが、それはガリアの者が帰国してからにするのですよ。しばらくはフェルディナンドも忙しくなるはずですから」

 

国境門を閉じたわたしは、次に境界門を開きながらレオンハルトに釘をさす。以前のわたしほどではないけれど、レオンハルトも何かに夢中になると周りが見えなくなるという傾向があるのだ。

 

三隻の船が通過するのを見て、今度は境界門を閉じる。そうすれば、後は騎獣を使って先に城に帰り、ガリアの使者を歓迎する宴の準備の最終確認だ。わたしよりも側仕えたちの方が細かい部分にも気が付くので、わたしの確認などなくとも問題は起きないと思うけれど、責任の所在という意味でわたしの確認は必要なのだ。

 

わたしが騎獣を出し、後部座席にレオンハルトが乗り込む。そうして城に戻ろうとしたところで、ガリアの船から白い鳥が飛んでくるのに気が付いた。

 

「キュルケです。今年から使節団に復帰することになりました。後でお会いできるのを楽しみにしています」

 

三度、繰り返して魔石に戻ったオルドナンツをわたしはシュタープで叩く。

 

「ローゼマインです。しばらくは取引に関する話で忙しいと思うので、少し落ち着く頃にお茶会をいたしましょう。詳しくはグレーティアと相談してくださいませ」

 

そう吹き込んでオルドナンツを飛ばす。すると、レオンハルトが横から聞いてきた。

 

「キュルケというと、ハルケギニアで最も母上と関係が深い方の名前でしたか?」

 

「そうですね。何か繋がりのようなものができたようで、わたくしが魔術でハルケギニアに向かうと、必ずキュルケの元に着いてしまうのです」

 

そのキュルケだが、ここ三年ばかりは会っていない。使者としてユルゲンシュミットを訪れると、一週間程度は滞在することになる。そのため出産後、しばらくは使節団に加わることは控えると聞いていた。

 

これが訪問先がハルケギニアの方だったら、子連れで訪問をして、交渉の間だけ誰かに見ていてもらうということもできた。実際、キュルケからはそのような打診も受けた。けれど、ユルゲンシュミットでは洗礼式前の子供は外に出さないもの。ランツェナーヴェも子供を連れてアーレンスバッハを訪問していなかったので、控えてもらうよりなかった。

 

ちなみにキュルケは出産だけでなく、結婚自体もわたしより後だった。わたしが帰って少ししてから徐々にハルケギニアでの隆起する土地が増加し、キュルケもコルベールも、その対応のために奔走することになったためだ。

 

けれども、ここ最近はようやく落ち着き始めているという。それは、最重要地点だけでも闇の神の祝詞により死守をすることができたこと、そして、何よりハルケギニアの人々も徐々に大隆起に対する耐性ができたためだ。大隆起は明らかに異常事態だけど、それも頻発すれば日常になるということだろう。

 

もっとも、人々が大隆起を日常と受け止めることができたのは、タバサたちの事前の準備と尽力が大きい。タバサはそれまで軍港サン・マロンに駐留させていた両用艦隊を各地に分散配置した。そうして、大隆起が発生した場所に急行して人命救助に当たらせたのだ。それに加えて、両用艦隊所属の輸送艦も支援物資の輸送に投入した。そうしたタバサの姿勢も、風石の発見された地域からの移住を受け入れる人が増えることに寄与したという。

 

もう一つ、タバサの目指していたブリミル教の弱体化も順調に進んでいるようだ。新宗教の命名にユルゲンシュミットから一部を取ってユルゲン教と名付けたのはどうかと思うけれど、収穫量を増加させるという農民から見れば奇跡とも言える宗教行事を武器に、農村からブリミル教の教会を駆逐しているという。加えて旧ロマリアが聖地からの物として溜め込んでいた品を解析し、急激に技術力を上げているということだ。

 

後の楽しみが一つ増えたわたしは、意気揚々と騎獣を城へと向かわせる。その途中でふとガリアの船を見下ろすと、甲板の上に立っている赤い髪の女性が見えた。見間違うことなきキュルケだ。

 

わたしは少しだけ騎獣を左右に揺らしてキュルケへの応答とし、皆がわたしの戻りを待つ城への道を急いだ。

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