ガリアの魔王と商人聖女   作:孤藤海

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サガミールの夜戦

キュルケをはじめとしたハルケギニアの皆と護衛役のレオノーレを乗せ、わたしは騎獣を空に飛び立たせた。わたしの周囲にはフェルディナンド、ハルトムート、ユストクスの三人に加えて、わたしの護衛騎士であるコルネリウス、アンゲリカ、マティアスとラウレンツ、更にハルトムートとクラリッサとリーゼレータもいる。グレーティアとローデリヒは完全に留守番なのに対し、リーゼレータだけはわたしの世話のため、途中までは同行だ。

 

ハルケギニア勢ではキュルケとコルベール、ルイズに平賀、他にギーシュが率いる三十人の水精霊騎士隊の皆が騎獣の中にいる。そこに途中でギーシュの紹介で雇い入れたニコラという傭兵が率いる五十名とマチルダを加えることになる。

 

ちなみにわたしの騎獣はニコラ率いる傭兵の銃兵隊が存分に力を発揮するために、銃眼だらけとなっている。戦闘となると、わたしのレッサーくんからは多数の銃口が突き出される形となるわけだ。キュルケからは移動要塞なんて言われたけど、わたしの騎獣は断じてそんなものではない。

 

けれど、ユルゲンシュミットでもわたしの騎獣は引っ越しトラックのような扱いをされていたりしたのだ。今更、新たな用途が加わっても誰も何も言ってくれない。

 

予定通り途中で二コラが率いる五十名を拾ってわたしはトリステインとガリアの国境に駆ける。そして国境近くの街でマチルダと合流した。

 

「え……本当にローゼマインなのかい?」

 

「はい、神々の力で成長いたしましたが、わたくしはローゼマインです」

 

「ティファニアを置いて急にユルゲンシュミットに帰還したと思えば、今度は急成長して帰ってくるって、なんなのさ。そもそも急に匿えと言ってきたと思えば、その足で偵察に向かわされ、ガリアの貴族への密使にされたかと思えば、今度は戦場に立てだなんて、いくらなんでも人使いが荒すぎるだろ」

 

元々マチルダは学院に教師として入り込んだ怪盗フーケであり、その後は牢に入れられたかと思えば脱獄を助けられてアルビオンの革命軍に身を投じた。そして神聖アルビオン崩壊後は追われる身として逃亡人生となった。と考えると本当に波乱万丈だね。

 

「マチルダ様には色々と労を尽くしていただき感謝しています」

 

とりあえず、わたしたちの行動に関しては、自分でも非常識であると自覚しているので、さらっと流して、わたしたちが不在の間にキュルケとタバサのために頑張ってくれたことの礼を言っておく。

 

「それで、わたしはどう動けばいいんだい?」

 

「詳しい話は、ハルトムートから説明させていただきますね」

 

今回の奇襲に関しては、主にフェルディナンドとハルトムートとコルベールによって立案された。だから、説明に関してもその三人が最適なのだ。けして、わたしの作戦理解が浅いために説明する自信がないわけではない。

 

「まずは私たちの目的ですが、タバサ様の籠るサガミールの丘の北側に布陣するガリア軍のオーギャッツ侯爵に夜襲を加え、侯爵を捕縛します」

 

オーギャッツ侯爵が率いる兵は一万。対してわたしたちは全員でも百名に満たない。だから大将を捕らえるか討ち取るかして混乱をさせるしかない。周辺に点在する天幕の兵が集まってくれば戦いは厳しくなるので、作戦の成否は時間との勝負だ。

 

「オーギャッツ侯爵の陣に到達してからですが、初手はフェルディナンド様が受け持たれます。続いてエックハルト、コルネリウス、アンゲリカの三人が続いて、中心部の敵を吹き飛ばし、更に周囲にユストクスとクラリッサと私の三人でありったけの魔術具をばらまいたところで、ローゼマイン様が騎獣を低空まで降ろします」

 

四人が全力の魔力攻撃で中心付近の敵を掃討し、更に文官たちが魔術具で周辺の敵に打撃を加える。そうして、ある程度の安全を確保してからがわたしの出番だ。これはわたしの参戦までは仕方がないとして、中心に降りるのは安全を確認できてからでないと駄目だと、フェルディナンドとコルネリウスが頑として譲らなかったためだ。

 

「ローゼマイン様が騎獣を降ろす直前に騎獣内からニコラの傭兵隊が一斉射を行います。その後はサイト殿とキュルケ様、コルベール様の三名と水精霊騎士隊でオーギャッツ侯爵の捕縛に向かいます。最初に攻撃したフェルディナンド様たちが魔力を回復している間のローゼマイン様の守りはマティアスとラウレンツ、そして騎獣の中から銃撃を行うニコラの傭兵隊に任せますので、細かい部分はレオノーレの指揮に従ってください」

 

「ねえ、わたしの役割が何もないんだけど」

 

「マチルダ様の役割は撤退時になります。サイト殿がオーギャッツ侯爵の捕縛に成功したとき、もしくは作戦の成功が難しくなったときに、ゴーレムでサイト殿たちがローゼマイン様の騎獣に撤退するまでの時間を稼いでいただきます」

 

一番、臨機応変さが期待される重要な役割にマチルダは顔を引きつらせる。

 

「ねえ、わたしも何も役割が振られていないんだけど」

 

そう言ってきたのはルイズだ。

 

「ルイズ様は作戦の進行状況を見てサガミールの丘のタバサ様にオルドナンツを送っていただきます」

 

ハルトムートがルイズに振った役割は、はっきり言って貴族なら誰でもいいものだ。少し気の毒には思うけど、敵の中央に降りて戦う以上、どうしても乱戦になることが予想される。仮に虚無が使えたとしても詠唱が長いルイズは戦いに参加させるのが難しいのだ。

 

「ん、サガミールの丘にオルドナンツを送るってことは、丘にいる連中も戦いに参加させるのかい?」

 

「ええ、こちらは戦力が足りないのですから、千五百もの兵力を遊ばせておく余裕はないでしょう?」

 

「それで、丘の連中はどう動くんだい?」

 

「二通りが考えられています。基本的にはオーギャッツ侯爵の陣への夜襲が成功したことを前提に、より多くの戦果を得るために東のクボー侯爵の陣を襲うことになります。けれど、オーギャッツ侯爵の捕縛に失敗した場合には、こちらに加勢してくる予定です」

 

ちなみにタバサは全軍で城外に打って出ることになっている。サガミールの丘はあくまで一時的に籠るための場所で、町などと隣接している場所ではないので、絶対に保持しなければならない場所ではない。留守を守る兵すら無駄と言っていた。

 

「とりあえず全体の動きはわかったよ」

 

マチルダがそう言ったことで、軍議は終了となった。今回の夜襲は完全に深夜に行われるため、わたしたちはこれから仮眠を取ることになっている。わたしはリーゼレータが整えてくれた部屋で仮眠を取った。

 

「ローゼマイン様、どうかご無理はなさいませんように」

 

そうして夜、わたしの髪を整えながらリーゼレータが心配そうに言ってくる。

 

「大丈夫ですよ、リーゼレータ。わたしの騎獣は銃弾も防げることは昼のテストで確認できているでしょう」

 

騎獣の中の安全度を確認するため、念のため騎獣に銃撃を行ってもらってハルケギニアの一般的な銃ではわたしの騎獣を破壊できないことは確認してある。

 

「それに、フェルディナンド様もいるのですもの。心配はいりませんよ」

 

それでもまだ心配そうなリーゼレータに見送られて、わたしは宿泊場所としていた町を飛び立った。星の煌めく夜空の下、わたしはフェルディナンドのマントを追って飛ぶ。ただそれだけで、わたしは懐かしさに涙が出そうになった。

 

今回はトリステインの王女であるアンリエッタもガリアを敵と認識していて、密かに手を回してくれている。おかげで、トリステインの国境警備の目を気にする必要がない。わたしたちは一気に国境を超えてガリア国内に入る。

 

闇の中を飛んでいると、遠く明かりが見えてきた。中央に暗闇があり、それを囲むように三方に篝火の明かりが点在しているのが見える。中央の暗闇がサガミールの丘なのだろうから、その周囲の篝火は攻囲軍のものだろう。

 

だったら、一番手前の篝火がオーギャッツ侯爵の軍のものかな。そんなふうに考えている間にフェルディナンドからのオルドナンツが飛んできた。

 

「ローゼマイン、準備はいいか?」

 

「はい、いつでも大丈夫ですよ、フェルディナンド様」

 

わたしがオルドナンツを返してすぐ、フェルディナンドが剣先に魔力を集め始めた。

 

「はああっ」

 

青白い火花を散らしながら、フェルディナンドの乗る獅子の騎獣がサガミールの丘へと落ちていく。サガミールの夜戦の始まりだった。

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