【伊アオ】「伊之助とアオイのほわほわもみじ狩り」【鬼滅の刃二次創作】   作:?がらくた

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炭治郎に斬られたがってる人って、炎炎の消防隊の新門紅丸大隊長に「よく頑張ったな」って言われて鎮魂されたそう(偏見)


第四話 束の間の平穏

山の中を歩き回ると、大勢の人の声が一行の鼓膜に届いて、そちらに向かって歩き続けると開けた場所に辿り着いた。

人の手が入った森林は適度に木が伐採され、雑草もきちんと刈られている。

先客たちは切り株に腰を落ち着けるなどして、思い思いに穏やかな時間を過ごしていた。

 

「結構歩き回ったし、私たちもご飯にしましょうか」

「うん、賛成」

「そうですね~、お腹ペコペコです~」

 

少女たちは口々に呟く。

伊之助ただ一人を除いて。

 

「お前ら、本当に弱味噌だな。少し歩いたくらいで休もうとしやがって」

「伊之助さん、ここで休憩しましょう。あの三人は、体力がないので……」

 

彼に合わせてもらおうと言葉を尽くしていると、グギュルルルル……。

獣の唸り声の如き腹の虫が、周囲に鳴り響く。

その音は、伊之助の方からする。

 

「まだドングリ集めも済んでねぇってのに。しゃあねぇ、飯にするか」

 

あまりの切り替えの早さに、アオイは呆気に取られ、カナヲは声を殺して、身体を揺らして笑う。

空いていた場所に敷物を敷いて、風呂敷の結び目をほどくと、四段になった重箱が露わになった。

漆器にはすだれのような藤の花と、それ目掛けて数匹の蝶が羽ばたく金蒔絵(かなまきえ)が施されている。

工芸に明るくないズブの素人でも、値の張る一品物なのが窺える代物だ。

その上には、豪勢な重箱に不釣り合いな市販の竹編み箱が置かれており、アオイが伊之助の前にそれを差し出すと、彼はきょとんとしながら彼女に視線を送った。

 

「なんだよ、これ」

「伊之助さんは、人の食べ物を横取りしかねないですから。なので余分に作ってきました」

「全部、俺が食っていいのか? 俺専用のお盆の飯と一緒か?」

 

アオイがはい、と言うと同時に伊之助は蓋を開けて、中のお握りを鷲掴みにした。

お握りをまじまじと凝視する彼の唇の両端は、次第に吊り上がっていく。

 

「……食べないの?」

 

カナヲに促されると、彼は目で堪能していたお握りを近づけて、頬袋に餌を溜めるリスのように、食べ物を次から次へと口に詰め込む。

咀嚼する時間すら惜しみ、他の誰にも横取りされまいと言わんばかりに。

 

「伊之助さん、ここ」

 

口元に米粒をついているのを指摘すると、伊之助は人差し指で、付いた米粒を舐め取る。

意地汚いが豪快な食いっぷりに、アオイは胸がすくような爽快な気分がした。

せっかくの料理を食べ残されるより、丹精込めて作った甲斐があるというものだ。

 

「喉につかえますよ、お茶どうぞ」

 

水筒を渡すと、口の中の食べ物をお茶ごと一気に流し込む。

 

「目移りしちゃいますね~」

「……これとそれ、私が作った。上手に出来てるか心配なんだけど、よかったら」

 

蓋を開けるとカナヲが指差す先には、一口大の手巻き寿司と、サバの照り焼きが重箱に彩りを添えている。

 

「どれどれ、私の味に少し近づいた?」

「私にも一口下さ~い」

 

申し訳なさそうに喋るカナヲに、アオイと三人娘が穏やかな笑みを向け、箸を伸ばす。

 

「……どうかな? 口に合うと嬉しい」

 

彼女は伏し目がちに俯いて、感想を求めた。

挟んだ箸を近づけると、香ばしい匂いが風に乗って漂う。

魚肉はほどよく柔らかく、軽く嚙み合わせただけで、身が簡単にほぐれた。

油と甘辛のタレが混ざった汁が噛む度に溢れると、ごまのふりかかった塩味の効いたご飯が恋しくなり、ついつい食が進む。

料理を始めて日が浅い割には、それなりにまとまっているというのが、アオイの偽らざる感想だった。

 

「うんうん、お米と合うわね。しょうがの風味が強いから、もう少し他の調味料が多くてもよかったかも。これだけ上手なら、次はもっと美味しく作れるわよ」

「私、アオイさんの味より好きかもしれませ~ん」

「……頑張ってよかった」

 

迂闊な発言をせぬよう言葉を選びつつ、彼女を激励すると、カナヲはゆっくりと肩を撫で下ろして安堵する。

 

「チビ助、がっつくな。俺の分がなくなるじゃねーか」

「嫌ですよ~。モタモタしてたら伊之助さんに全部食べられちゃいます」

「じゃあ、競争だ。全部食われても後悔すんなよ」

 

すみの発言を皮切りに、熾烈なおかずの争奪戦が始まる。

時折、刀と刀の鍔迫り合いのように箸と箸がぶつかって、カチャカチャと音が鳴る。

 

「ちょっと貴方たち、お行儀が悪いわよ!」

「はい、アオイ。どんどん食べて」

「あーっ、それ俺が食おうとしてたのに!」

 

カナヲに寿司を手渡されると、食い意地の張った伊之助に、潤んだ瞳で見つめられる。

早く食べてしまおうと大きく口を開くと、彼は顎の外れた猫のような間抜けな顔をした。

視線のせいで呑気に舌鼓を打てる状況ではなく、二人はそのまま暫く、縄張り争いで牽制し合う動物の如く、睨みを利かせあう。

(食べづらい……)

食欲旺盛な伊之助に、ついにアオイが根負けして

 

「わ、分かりましたよ。あげますから」

 

蓋の上に置くと、ひょいと素手でつまむ。

 

「どう、伊之助?」

「ん~、アオコの飯の方が俺好みだな」

「無神経すぎますよ、カナヲだって最近は花嫁修業に精を出してるんです! 落ち込ませるような発言は謹んで下さい!」

「……美味しいって言わない伊之助には、もう食べさせない」

 

無神経な一言は、乙女の非難の嵐にさらされる。

 

「お、俺は素直な感想をだな……」

「伊之助さんのせいで、お嫁にいけなくなったらどうするんですか! 何でもかんでも思ったことを口にしないで、人並みの処世術を身につけないと、人間社会で通用しませんよ!」

「お前、本当に面倒くせーな。子分の癖に偉そうに……」

 

たじろぐ伊之助にアオイがきつい一言を浴びせると、普段の傍若無人な態度は鳴りをひそめ、体を縮こまらせた。

ガミガミうるさいチビ、いつも怒ってる女。

ぶつぶつと文句を言い出す彼に、彼女の中で怒りよりも、何故遊びに連れ出したのかという気持ちが込み上げた。

 

「どうして誘ってくれたんですか。今まではそんな風に、どこかに出掛けたりしなかったでしょう」

「……俺は山で育ってきて、山で過ごす生活が一番楽しいからよ。そんだけだ」

 

悪意があって誘ったのではないのは理解できたが、言葉が足りなさすぎる。

アオイは再度、同じ質問をぶつける。

ゆっくり言葉を紡げるよう、今度は急かさずに。

 

「お前らが好きなモンが分からねーから、自分の好きな所に連れてきた。どうせなら自分が楽しめる場所にいけって、アイツらがうるさくてな。故郷の山じゃねーから勝手が分からなくて、上手く案内できた自信はないけどよ」

 

ぎこちない話しぶりから、伊之助なりの思い遣りと誠意が伝わる。

 

「ありがとうございます、いい気分転換になりました。今日は伊之助さんのこと、よく知れた気がします」

「……そうかよ。ならよかった」

 

伊之助は俯きがちに呟くと、黙々と食事を摂り始めた。

自信家な伊之助が照れているのは、仕草が雄弁に物語っていた。

普段はやんちゃな彼が大人しくなるのは初々しく、からかってやりたい衝動に駆られたが、指摘すれば喧嘩になる。

アオイが敢えて言及せずにいると

 

「あ、伊之助さん照れてます~」

「あぁ!? なんで俺があのチビに!」

 

からかうきよに、伊之助は口汚い言葉を浴びせる。

髪飾りを探してもらった一件以来、懐いていた彼女は怯えたように、アオイの胸に飛び込む。

照れ隠しなのは一目瞭然だが、いたいけな少女をいじめるのは褒められない。

 

「脅かすのは止めて下さい。怖がってるじゃないですか」

「……悪かったな。これ、やるよ。手ぇ出せ」

 

伊之助はきよの真正面に座ると、仲直りの証と称して、彼女の開いた両手にドングリを置いた。

しかし彼自慢のドングリを貰っても、彼女の表情は晴れない。

 

「伊之助さん、物で誤魔化そうとしてもダメですよ~。悪いと思ったなら、もっと相応しい言葉がありますよね~」

「ご、め、ん、な、さ、い! これでいいだろ、チビ助!」

「きよ、貴方もからかったことは謝らないと」

「先ほどはすいませんでした」

 

年下のきよに常識を教わった伊之助は、一文字一文字声を張り上げて、謝意を述べる。

子供っぽい彼を諫めるきよの一言が可笑しかったのか、一行に再び和やかな雰囲気が訪れる。

(こんなに賑やかなのは、カナエ様やしのぶ様がいた時以来かな)

両親を失って、しのぶに先立たれ、手が届かないと思っていた日常が自分の目の前にあることに、その場に自分がいることに、彼女は複雑な心境だった。

鬼殺隊の面々が、文字通り命懸けで掴み取った日々を、肩を並べて歩んでいいのか。

平穏な日々の尊さを噛み締める度に、犠牲になったものの重みが、ずしりと肩にのしかかる。

(……私はあの人たちと何も変わらない)

アオイは、のほほんともみじ狩りを謳歌する一般庶民に目を遣った。

無論、鬼の存在を認知していない彼らに何ら罪はない。

しかし鬼の存在を、鬼に奪われた命を、彼女は昨日のことのように覚えている。

知っていながら、ただ待つことしかできなかった。

罪悪感や自己嫌悪といった感情はとびきり意地悪で、悲しみに打ちひしがれる日々は勿論、幸福に満ちた日々にも、平然と彼女について回った。

 

「アオイ、どうしたの?」

「また来ようね、カナヲ。平和な日がいつまでも続くとは限らないんだから。今の内に一生分思い出作ろうよ」

「……そうだね。今度は伊之助とアオイだけで、ね」

「なんで、そうなるの?!」

 

予想だにしない返答に、アオイの心臓がビクンと跳ね上がる。

 

「私たち、置いてけぼりにされたから。別行動するなら初めからそうして」

「あれは伊之助さんが引っ張ったから仕方なく……。私はカナヲたちと一緒に、ゆっくり散策したかったのになぁ」

「……そう」

 

カナヲが物言いたそうに口ごもると 二人の会話はパタリと途切れた。

アオイがよくよく観察していると、彼女たちの口許は微かに震えている。

 

「なんで黙るの、そこで! 私と伊之助さんは単なる友人ですから。貴方からも反論して下さいよ」

 

アオイが伊之助に視線を向けると、彼はいつになく険しい表情にしている。

思い当たりがあるとすれば、先ほどの暴飲暴食くらいだ。

健康優良児といえども、早食いをすれば、胃に負担がかかる。

 

「喉に食べ物でも詰まりました? だから、いつも注意を……」

「お前ら、すぐにここから離れるぞ!」

 

突如目を見開いて、伊之助は叫んだ。

あまりに突拍子もない発言に、アオイだけでなくカナヲや三人娘、一般庶民まで面食らっている。

突然すぎて状況が飲み込めない彼女が、説明してもらおうとすると

 

「き、きゃああああぁっ!」

 

束の間の平穏を、辺りに木霊する悲鳴が壊した。




6話の投稿はとても時間がかかりそうなので、誤字脱字に関しては5話投稿後に直します。
鬼滅のノベライズで、アオイちゃんは三人娘を呼び捨てにしていたのに気が付いたので、そこも随時、正しい呼び方に書き換える予定。
あと今更ですが、タグの登場人物は登場してから追加した方がよさそうなので、竈門炭治郎のタグは消しておきます。
かまぼこ隊の三人は出すので、楽しみにしていてください。
誤字脱字の指摘、報告ありがとうございました。
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