【伊アオ】「伊之助とアオイのほわほわもみじ狩り」【鬼滅の刃二次創作】 作:?がらくた
物語の山場を終えたので、ここからは少し明るくほのぼのした展開になります!
半分以上は執筆したので、残り数話の物語に最後まで付き合っていただければ、嬉しいです。
数日後
その日は秋風が強く吹いていた。
ガラス戸が風で軋むと、蝶屋敷全体がギィギィと音を立てる。
掃除をしていると屋敷の周りに生えた植物から、枯れ葉が大量に落ちていた。
外の景色に冬が目前に近づき、生物が息絶え草花は枯れる、死の季節の訪れをアオイは実感する。
時折物憂げな伊之助が何を言うでもなく、アオイをちらちらと見遣る。
普段であればもっとやんちゃな伊之助に、なんだか覇気がないのも、やりづらさを覚える理由の一つだった。
喉に魚の骨がつかえたような違和感に、彼女はほとほと困り果てた。
良くも悪くも直情的な彼が、アオイに遠慮や我慢するなど、相当な異常事態である。
患者の心身の状態を診るのも、看護婦としての役目。
そう意気込むとアオイは握り拳を作り、気合を入れた。
「今日はいい天気ですね~。洗濯物もよく乾きそう」
「……」
「晴れてますし、気分まで明るくなりそうです」
「……」
当たり障りのない会話から入っていき、少しずつ本題へと持っていこうとする。
伊之助はというと何も反応せず、沈黙を貫いている。
よほど言いにくいのだろうかと、アオイは笑顔を作って
「最近元気ないですね〜、何かありましたか? 私でよければ相談してみてください。人に話すとスッキリするものですよ」
優しく聞いてみる。
彼女に促された伊之助は呼吸を整えると
「聞かせてもらうけどよ。強い人間ほど先に死んでいくの。しのぶ様の代わりに私が……。その後になんて言おうとした?」
予期せぬ一言に、アオイの表情は真顔に戻って瞬く間に凍りつく。
顔の筋肉は硬直してピクリとも動かなくなり、張り付いたような不自然な笑いになってしまう。
極限状態に吐露した一言を、彼は覚えている。
よりにもよって、一番触れられたくない部分を。
どうやって誤魔化せばいいかと、彼女の心はいっぱいになっていく。
「さぁ、そんなこと言いました? 記憶にありません」
嘘で塗り固めた微笑を見せながら、伊之助へ対応する。
そんな彼女を伊之助は眉を八の字にして、困ったような気の毒がるような表情で見つめる。
自信家の彼に似合わない憐れみの視線に、アオイは彼が自分の言おうとした台詞の、大方の予想がついているのを察する。
(私が代わりに死ねばよかった。私がしのぶ様たちの代わりに……そう言おうとしたことを気がついてる)
誰も教えてくれるはずもない問いかけが、頭の中で堂々巡りしていた。
親しいカナヲに話せば、必要以上に心配をかける。
三人娘には、あまりにも荷が重い相談だ。
距離が近ければ近いほど、話すのが難しいこともある。
「本当に覚えていなくて。用件はそれだけですか。濡れタオルでも持ってきますね」
彼から距離を置く他に、話を中断する手段はない。
話題を逸らして部屋から退室しようと立ち上がると、伊之助は彼女の手首を掴む。
「逃げるのかよ。まだ話は終わってねーだろ」
ごつごつした岩のような手が、離そうとしない。
最前線で鬼の首を刎ねて、文字通り命懸けの戦闘を繰り返してきた伊之助の手は、生きてきた世界の違いを感じさせた。
数多くの人々を守り抜いた強い手は、隊士の責任から逃げてきた自分自身の至らなさを思い知らされた。
(不器用な優しさに溢れた手だ。ノコギリの刃みたいな日輪刀を握り締めて、戦場の前線で人々を守ってきた手だ。私とは何もかも違う手だ)
「離してくださいよ。痛いじゃないですか」
平静を取り繕い、伊之助を振り解こうとする。
けれども遊びにいこうと誘ってくれた彼なりに、私に気を遣ってくれているのは痛いほど伝わった。
―――私は鬼だけではなく、心配する彼からさえも逃げようとしているのだ。
不幸を嫌っておきながら救いの手を振りほどく馬鹿な女が私、神崎アオイという人間なのだ。
「離さねぇよ!」
「私が闘っていたら、しのぶ様は助かっていたかもしれない。他の命が救えたかもしれない。私が死んでいれば……そう言おうとしたんですよ」
その一言を聞いた伊之助はショックだったのか、手を離す。
振り返って面食らう伊之助に、アオイはさらに言葉を続ける。
「だから、なんだっていうんですか?! しのぶ様や柱の方々に生き残ってほしかったって願うのは、そんなに傲慢ですか! いいじゃないですか! ガミガミうるさい女がいなくなったら、伊之助さんも清々するでしょ!」
もう全て彼はお見通しだ。
なら吐き出して、楽になってしまえばいい。
吹っ切れた彼女は自分への苛立ちや至らなさ、蝶屋敷から親しい人が一人、また一人いなくなっていった寂しさを、ありのままぶつける。
(……嫌われちゃったかな)
「ああ、傲慢だね! お前の命と引き換えに生きたいなんて誰が望んだ!? しのぶたちがそう言ったのか、俺がお前に頼んだか!」
「……ッ!」
「弱味噌だろうが生きてていいに決まってるだろ。死んでいった連中に示しがつかねーし、命を粗末に扱ってみろ。しのぶにどやされるぞ。三途の川の向こう岸から、まだ来るなって追い返してくるぞ。怒らせると怖いって、長い付き合いだったお前が一番よく知ってるだろうが!」
「……でも!」
「俺もお前も鬼殺隊の生き残った全員が、亡くなった奴らに繋がれた命なんだ。これからは俺たちが、あいつらの分まで命を紡いでいかねーといけねーんだよ! このバカタレ!」
怒号にも聞こえる伊之助の心の叫びが、屋敷に響く。
アオイに向けられた彼の叫びは次第に大きくなっていき、屋敷が地震でも起きたかのように揺れる。
野太い声が微かに震えていて、その大声はやりきれなさを孕んでいた。
炎柱・煉獄杏寿郎や、しのぶの死。
自分の不甲斐なさや乗り越えて、前に進んできたのだ。
弱くて嫌いな自分に鞭を打ちながら。
猪頭の仮面の下で強がる彼は、様々な表情を隠していたのだ。
屋敷に運ばれた際は異形の怪物のように感じた少年は、誰よりも人間らしかった。
臆病な自分も勇敢な彼も、そう大差はないのかもしれない。
(この人も私と一緒だった。目の前で助けられたかもしれない命が亡くなるのを、たくさん見てきたんだ……)
「分かってますよ、そんなことくらい。でも、ずっと頭の中にこびりついて離れないんです」
「忘れないでいいんじゃねーか。むしろ忘れるんじゃねぇ。生き残った奴らの頭からも消えちまったら、あいつらだって報われないしな」
心情を吐露すると、伊之助はまっすぐアオイに向き合って、少年は自分の考えをぶつける。
年頃の女子が蝶屋敷にいることに、事情を知らない市井の人間に奇異の目で見られた。
鬼がいるといっても、与太話と片付けられるだけ。
自然と私たち鬼殺隊員は周囲から孤立し、それに反比例するように隊員内の絆が深くなった。
鬼殺隊員は身寄りのない孤児ばかりで、悲しむのは産屋敷家当主と、恋人か妻くらいなものである。
親も兄弟も失った彼らの命を尊ぶことなど、最後を看取った自分以外の誰ができようか。
伊之助の台詞に、ようやく自分に。
「それとな、救えなかった命だけ数えるのは止めろ。俺や同期の連中だって何回も助けられてんだ。しのぶのこと、お前に非はねーよ」
「……そんな責任、伊之助さんにもカナヲにもないですよ。いったい誰が悪いんでしょう?」
「……俺だってわかんねーよ」
鬼との戦いを終えても、私たちは今でも戦っている最中だ。
傷は深く、そう簡単に傷が癒えることはない。
しかし一人では立ち上がれなくても、仲間となら乗り越えれる気がした。
「私、どうかしてたみたいです」
「ハッ、子分の面倒を見るのは親分として当然のことだ。俺様に指図してこないアオコなんて、アオコじゃねーしな」
「そうですね。今後も伊之助さんが悪いことしたら、お尻を叩きますので覚悟しておいて下さい」
「……うっ、それでこそお前だ!」
尻を叩くというと、伊之助は縮こまる。
この人がいなければ、私は大事なものを見失ったままだった。
少しは大目に見てあげよう。
「伊之助さんが退院する時は、天ぷらをいっぱいご馳走しますね!」
「おう、楽しみにしておくぜ!」
伊之助が元気いっぱいに叫ぶと、腹の虫が鳴った。
「お前の様子がおかしいから、メシも喉とおらなかったじゃねーか!」
「軽食でも持ってきますよ」
そういうとアオイは部屋を出ていく。
勢いで彼にはキツイことを言ってしまい、顔を合わせづらいというのもあった。
後ろ手に扉を閉めると
「あんまり思い詰めるなよ。俺たちは同じ目標を持って動いたんだ。鬼殺隊がなくなっても、一丸となって戦った記憶まではなくならねーからよ」
「それとよ。人の命は大事にできる奴なのに、自分の命は粗末に扱うのは、なんかちげーよな」
扉に背を向けたアオイへ、伊之助が投げ掛けた。
いつもはぶっきらぼうで刺々しい言葉が、その時だけは妙に優しく感じた。
最前線ではなくとも、屋敷で彼らと共に戦っていたアオイを慰める一言に、元鬼殺隊の絆を感じさせる一言に、アオイの瞳からは大粒の涙が零れた。
(これから先も、生き残った罪の意識が綺麗さっぱり消えてなくなることはないし、誤った選択をする度に後悔するに違いない)
(―――それでも私は生きていいんだ。どんなに弱くても、自分の無力さに打ちのめされても)
扉を閉めると胸の中で渦巻く、ごちゃごちゃした感情が、とめどなく溢れた。
膝から崩れ落ちたアオイの頬は、びしょ濡れになっていた。
しのぶや柱のためではない、自分のための涙。
日々の忙しさに忙殺され、自分自身を見つめ直したのなど、いつぶりだろう。
「伊之助さん……ありがとう……紅葉狩り楽しかった……」
「……それとごめんなさい……いつも怒って……何度も助けられたのに……私は……何も返せてなくて……」
扉越しの伊之助の耳にも届いていただろう。
しかし彼は、アオイの発言に返事をしなかった。
今はそっとしておいてやろう。
彼の声なき声が聞こえてくるようで、伊之助の心遣いが身に沁みる。
外の風はいつの間にか収まり、屋敷の中は無人と錯覚するほど静まり返っていた。
穏やかな時の中で伊之助とアオイは自らの悲しみ、苦しみを噛み締める。
もがきながらも、前へと進むために。
伊アオと一切関係ないんですが、一言言わせていただきます。
ペパアオを推せ!