【伊アオ】「伊之助とアオイのほわほわもみじ狩り」【鬼滅の刃二次創作】   作:?がらくた

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書きたかった8話まで、なんとか完成。
物語の山場を終えたので、ここからは少し明るくほのぼのした展開になります!
半分以上は執筆したので、残り数話の物語に最後まで付き合っていただければ、嬉しいです。


第8話 繋がれた命、紡いでいく命、救われた2つの命

数日後

 

 

 

 

その日は秋風が強く吹いていた。

ガラス戸が風で軋むと、蝶屋敷全体がギィギィと音を立てる。

掃除をしていると屋敷の周りに生えた植物から、枯れ葉が大量に落ちていた。

外の景色に冬が目前に近づき、生物が息絶え草花は枯れる、死の季節の訪れをアオイは実感する。

時折物憂げな伊之助が何を言うでもなく、アオイをちらちらと見遣る。

普段であればもっとやんちゃな伊之助に、なんだか覇気がないのも、やりづらさを覚える理由の一つだった。

喉に魚の骨がつかえたような違和感に、彼女はほとほと困り果てた。

良くも悪くも直情的な彼が、アオイに遠慮や我慢するなど、相当な異常事態である。

患者の心身の状態を診るのも、看護婦としての役目。

そう意気込むとアオイは握り拳を作り、気合を入れた。

 

「今日はいい天気ですね~。洗濯物もよく乾きそう」

「……」

「晴れてますし、気分まで明るくなりそうです」

「……」

 

当たり障りのない会話から入っていき、少しずつ本題へと持っていこうとする。

伊之助はというと何も反応せず、沈黙を貫いている。

よほど言いにくいのだろうかと、アオイは笑顔を作って

 

「最近元気ないですね〜、何かありましたか? 私でよければ相談してみてください。人に話すとスッキリするものですよ」

 

優しく聞いてみる。

彼女に促された伊之助は呼吸を整えると

 

「聞かせてもらうけどよ。強い人間ほど先に死んでいくの。しのぶ様の代わりに私が……。その後になんて言おうとした?」

 

予期せぬ一言に、アオイの表情は真顔に戻って瞬く間に凍りつく。

顔の筋肉は硬直してピクリとも動かなくなり、張り付いたような不自然な笑いになってしまう。

極限状態に吐露した一言を、彼は覚えている。

よりにもよって、一番触れられたくない部分を。

どうやって誤魔化せばいいかと、彼女の心はいっぱいになっていく。

 

「さぁ、そんなこと言いました? 記憶にありません」

 

嘘で塗り固めた微笑を見せながら、伊之助へ対応する。

そんな彼女を伊之助は眉を八の字にして、困ったような気の毒がるような表情で見つめる。

自信家の彼に似合わない憐れみの視線に、アオイは彼が自分の言おうとした台詞の、大方の予想がついているのを察する。

 

(私が代わりに死ねばよかった。私がしのぶ様たちの代わりに……そう言おうとしたことを気がついてる)

 

誰も教えてくれるはずもない問いかけが、頭の中で堂々巡りしていた。

親しいカナヲに話せば、必要以上に心配をかける。

三人娘には、あまりにも荷が重い相談だ。

距離が近ければ近いほど、話すのが難しいこともある。

 

「本当に覚えていなくて。用件はそれだけですか。濡れタオルでも持ってきますね」

 

彼から距離を置く他に、話を中断する手段はない。

話題を逸らして部屋から退室しようと立ち上がると、伊之助は彼女の手首を掴む。

 

「逃げるのかよ。まだ話は終わってねーだろ」

 

ごつごつした岩のような手が、離そうとしない。

最前線で鬼の首を刎ねて、文字通り命懸けの戦闘を繰り返してきた伊之助の手は、生きてきた世界の違いを感じさせた。

数多くの人々を守り抜いた強い手は、隊士の責任から逃げてきた自分自身の至らなさを思い知らされた。

 

(不器用な優しさに溢れた手だ。ノコギリの刃みたいな日輪刀を握り締めて、戦場の前線で人々を守ってきた手だ。私とは何もかも違う手だ)

 

「離してくださいよ。痛いじゃないですか」

 

平静を取り繕い、伊之助を振り解こうとする。

けれども遊びにいこうと誘ってくれた彼なりに、私に気を遣ってくれているのは痛いほど伝わった。

―――私は鬼だけではなく、心配する彼からさえも逃げようとしているのだ。

不幸を嫌っておきながら救いの手を振りほどく馬鹿な女が私、神崎アオイという人間なのだ。

 

「離さねぇよ!」

「私が闘っていたら、しのぶ様は助かっていたかもしれない。他の命が救えたかもしれない。私が死んでいれば……そう言おうとしたんですよ」

 

その一言を聞いた伊之助はショックだったのか、手を離す。

振り返って面食らう伊之助に、アオイはさらに言葉を続ける。

 

「だから、なんだっていうんですか?! しのぶ様や柱の方々に生き残ってほしかったって願うのは、そんなに傲慢ですか! いいじゃないですか! ガミガミうるさい女がいなくなったら、伊之助さんも清々するでしょ!」

 

もう全て彼はお見通しだ。

なら吐き出して、楽になってしまえばいい。

吹っ切れた彼女は自分への苛立ちや至らなさ、蝶屋敷から親しい人が一人、また一人いなくなっていった寂しさを、ありのままぶつける。

 

(……嫌われちゃったかな)

 

「ああ、傲慢だね! お前の命と引き換えに生きたいなんて誰が望んだ!? しのぶたちがそう言ったのか、俺がお前に頼んだか!」

「……ッ!」

「弱味噌だろうが生きてていいに決まってるだろ。死んでいった連中に示しがつかねーし、命を粗末に扱ってみろ。しのぶにどやされるぞ。三途の川の向こう岸から、まだ来るなって追い返してくるぞ。怒らせると怖いって、長い付き合いだったお前が一番よく知ってるだろうが!」

「……でも!」

「俺もお前も鬼殺隊の生き残った全員が、亡くなった奴らに繋がれた命なんだ。これからは俺たちが、あいつらの分まで命を紡いでいかねーといけねーんだよ! このバカタレ!」

 

怒号にも聞こえる伊之助の心の叫びが、屋敷に響く。

アオイに向けられた彼の叫びは次第に大きくなっていき、屋敷が地震でも起きたかのように揺れる。

野太い声が微かに震えていて、その大声はやりきれなさを孕んでいた。

炎柱・煉獄杏寿郎や、しのぶの死。

自分の不甲斐なさや乗り越えて、前に進んできたのだ。

弱くて嫌いな自分に鞭を打ちながら。

猪頭の仮面の下で強がる彼は、様々な表情を隠していたのだ。

屋敷に運ばれた際は異形の怪物のように感じた少年は、誰よりも人間らしかった。

臆病な自分も勇敢な彼も、そう大差はないのかもしれない。

 

(この人も私と一緒だった。目の前で助けられたかもしれない命が亡くなるのを、たくさん見てきたんだ……)

 

「分かってますよ、そんなことくらい。でも、ずっと頭の中にこびりついて離れないんです」

「忘れないでいいんじゃねーか。むしろ忘れるんじゃねぇ。生き残った奴らの頭からも消えちまったら、あいつらだって報われないしな」

 

心情を吐露すると、伊之助はまっすぐアオイに向き合って、少年は自分の考えをぶつける。

年頃の女子が蝶屋敷にいることに、事情を知らない市井の人間に奇異の目で見られた。

鬼がいるといっても、与太話と片付けられるだけ。

自然と私たち鬼殺隊員は周囲から孤立し、それに反比例するように隊員内の絆が深くなった。

鬼殺隊員は身寄りのない孤児ばかりで、悲しむのは産屋敷家当主と、恋人か妻くらいなものである。

親も兄弟も失った彼らの命を尊ぶことなど、最後を看取った自分以外の誰ができようか。

伊之助の台詞に、ようやく自分に。

 

「それとな、救えなかった命だけ数えるのは止めろ。俺や同期の連中だって何回も助けられてんだ。しのぶのこと、お前に非はねーよ」

「……そんな責任、伊之助さんにもカナヲにもないですよ。いったい誰が悪いんでしょう?」

「……俺だってわかんねーよ」

 

鬼との戦いを終えても、私たちは今でも戦っている最中だ。

傷は深く、そう簡単に傷が癒えることはない。

しかし一人では立ち上がれなくても、仲間となら乗り越えれる気がした。

 

「私、どうかしてたみたいです」

「ハッ、子分の面倒を見るのは親分として当然のことだ。俺様に指図してこないアオコなんて、アオコじゃねーしな」

「そうですね。今後も伊之助さんが悪いことしたら、お尻を叩きますので覚悟しておいて下さい」

「……うっ、それでこそお前だ!」

 

尻を叩くというと、伊之助は縮こまる。

この人がいなければ、私は大事なものを見失ったままだった。

少しは大目に見てあげよう。

 

「伊之助さんが退院する時は、天ぷらをいっぱいご馳走しますね!」

「おう、楽しみにしておくぜ!」

 

伊之助が元気いっぱいに叫ぶと、腹の虫が鳴った。

 

「お前の様子がおかしいから、メシも喉とおらなかったじゃねーか!」

「軽食でも持ってきますよ」

 

そういうとアオイは部屋を出ていく。 

勢いで彼にはキツイことを言ってしまい、顔を合わせづらいというのもあった。

後ろ手に扉を閉めると

 

「あんまり思い詰めるなよ。俺たちは同じ目標を持って動いたんだ。鬼殺隊がなくなっても、一丸となって戦った記憶まではなくならねーからよ」

「それとよ。人の命は大事にできる奴なのに、自分の命は粗末に扱うのは、なんかちげーよな」

 

扉に背を向けたアオイへ、伊之助が投げ掛けた。

いつもはぶっきらぼうで刺々しい言葉が、その時だけは妙に優しく感じた。

最前線ではなくとも、屋敷で彼らと共に戦っていたアオイを慰める一言に、元鬼殺隊の絆を感じさせる一言に、アオイの瞳からは大粒の涙が零れた。

 

(これから先も、生き残った罪の意識が綺麗さっぱり消えてなくなることはないし、誤った選択をする度に後悔するに違いない)

 

(―――それでも私は生きていいんだ。どんなに弱くても、自分の無力さに打ちのめされても)

 

扉を閉めると胸の中で渦巻く、ごちゃごちゃした感情が、とめどなく溢れた。

膝から崩れ落ちたアオイの頬は、びしょ濡れになっていた。

しのぶや柱のためではない、自分のための涙。

日々の忙しさに忙殺され、自分自身を見つめ直したのなど、いつぶりだろう。

 

「伊之助さん……ありがとう……紅葉狩り楽しかった……」

「……それとごめんなさい……いつも怒って……何度も助けられたのに……私は……何も返せてなくて……」

 

扉越しの伊之助の耳にも届いていただろう。

しかし彼は、アオイの発言に返事をしなかった。

今はそっとしておいてやろう。

彼の声なき声が聞こえてくるようで、伊之助の心遣いが身に沁みる。

外の風はいつの間にか収まり、屋敷の中は無人と錯覚するほど静まり返っていた。

穏やかな時の中で伊之助とアオイは自らの悲しみ、苦しみを噛み締める。

もがきながらも、前へと進むために。




伊アオと一切関係ないんですが、一言言わせていただきます。
ペパアオを推せ!
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