【伊アオ】「伊之助とアオイのほわほわもみじ狩り」【鬼滅の刃二次創作】   作:?がらくた

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久々のほのぼの回。
今までは書き溜めていたものがあるのですが、これから先は文章量が少ないので更新頻度が落ちます。


第9話 ことろことろ、童心に帰る少女たち

秋が深まり、冬が間近の屋外で、アオイは白い息を吐きながら洗濯をしていた。

問題児の看護で気を回したせいか、アオイには疲労が溜まり、溜息をつく回数が増えた。

普段ならば学校帰りの三人娘やカナヲが手伝うのだが、伊之助が蝶屋敷にいる時は、三人娘の遊び相手や話し相手になってくれる。

遊んでいる最中なら、気も紛らわせるだろう。

鬼に肉親を惨殺された三人娘に、寂しい思いをさせたくない。

そんな思いを胸に秘めて、目の前の作業に取り掛かる。

 

「アオイ」

「伊之助さん、お体は大丈夫……」

「寝てると体が鈍ってしょうがねぇ。お前、それ貸せよ」

「え、ちょっと!」

「いいから寄越せ!」

 

伊之助は洗濯物の入ったたらいを、強引にひったくる。

衣服を破られやしないだろうか。

そんなアオイの不安とは裏腹に、伊之助はテキパキと洗濯をこなしていく。

しつこかった泥の汚れも、あっという間に落ち、新品同様の綺麗な姿に様変わりした。

 

「伊之助さん、洗濯できるんですね。意外です……」

「そりゃ、家事手伝いしてるからな。炭治郎は左腕が言う通りに動かねーし、善逸は足が悪い。俺と禰豆子しか身近に頼る人間はいねーんだ。だから俺がその分、しっかりしないといけねー」

 

洗濯を嫌がった素振りも見せず、伊之助は淡々という。

野生児だった猪に、人としての情と責任が芽生えているようだ。

薬湯を容赦なくぶちまけて宙吊りにしてきた人間と、とても同一人物には思えず、目をぱちぱちと見開く。

 

「疲れてるみたいだし、この季節の水仕事は辛いからな。毎日よくやってんな」

「伊之助さん、昔とは大違い。随分丸くなりましたね~、優しいですね~」

「そんなんじゃねぇ、ニヤニヤすんな! 俺の気まぐれだからな! からかってくんなら二度とやってやらねぇからな!」

 

笑うなと言われても、自然と笑みが零れてしまって止まらない。

 

(からかうつもりはなかったんだけどな。確かにそう見えてもしょうがないか。ありがとう、伊之助さん)

 

アオイは心の中で感謝を述べた。

気持ちというものは生物(なまもの)だ。

感じたものは感じた瞬間に言わないと、感情の鮮度が落ちてしまう。

特に厚意を伝える際は。

 

「ありがとうございます。でも無茶は禁物ですよ。炭治郎さんも善逸さんも禰豆子さんも……それに私も、伊之助さんが大事なんです。怪我に障らない程度にお願いしますね」

「……あいつらの入れ知恵かよ。ケッ、そういうのは直接本人に言いやがれってんだ」

 

(……直接いったら悪態つく癖に)

 

伊之助がフンと荒々しい鼻息を漏らすと、アオイはいっそう頬を緩ませる。

 

「とにかくお前は休んでろ。親分の命令だ」

「お言葉に甘えますね」

 

普段なら突っぱねていた提案を、素直に受け入れられた。

自分に厳しくするのと、自分を責めるのは、似ているようでまるで違う。

 

(私は、私に優しくしていいんだよね?)

 

そう唱えていると、少しずつ気持ちが楽になっていく気がした。

縁側に座り、伊之助との会話をしていると、瞬く間に時間は流れていく。

子供の頃の一日は、大人になったら一瞬だ。

三人娘が帰宅して三人娘とカナヲがやってきて、伊之助が家事する姿に、顎を外した猫のような表情で驚いているのが印象深かった。

ほどなくすると、屋敷の庭に洋服に着替えた三人娘とカナヲが集まる。

食事時にはまだ早いが、下拵えでもしておこうか。

瞳を閉じて思案すると

 

「よーし! お前ら一列に並べ。俺様が弱味噌のお前らを鬼から守ってやる」

 

鬼という物騒な単語を耳にした伊之助の方へ、アオイの注意は自然とそちらに向いた。

―――また鬼が?!

アオイの心配は杞憂だった。

どうやら、ことろことろという童遊びに興じているらしい。

最前列の伊之助は腕を交差させ、後ろにはカナヲ、すみ、なほが順番に並んでいた。

一番後ろにいる子役のなほを、前にいる親役の伊之助が制限時間の間、鬼役から守る。

時間内に子役が捕まれば、鬼の勝ち。

その様子は親のカルガモが、我が子を引き連れて歩いているようで、微笑ましい。

和気藹々とした五人を見て、退行した鬼の禰豆子が懐いていたのを思い出す。

彼の元に生まれた子供は退屈しなさそうだ。

 

(伊之助さんの子供か。男の子なら彼に似て元気だろうなぁ。女の娘は悪い男に引っかからないか心配ね。しっかりした奥さんじゃないと、この人の相手は無理だろうなぁ)

 

アオイは伴侶を漠然と妄想する。

だが、まるで想像がつかない。

人の世で生きるには、彼は足りない所が多すぎる。

そういう部分を上手く補うような器量のいい女性でなければ、務まらないはずだ。

 

「こーとろことろ、どの子をとーろ。こーとろことろ、どの子をとーろ」

 

童謡を歌い始めると、鬼役のきよからは柔和な表情は消えて、鋭い顔つきになる。

遊びに真剣になる五人の姿に、アオイはかつての自分と両親を眺めているような、懐かしい気持ちになった。

 

「て、手加減してもらわないと勝負になりませんってーっ!」

 

数十秒が経過して、時間切れが近づくにつれ、鬼役のきよが弱音を吐く。

そんな彼女にも手加減は一切せず、時間は淡々と過ぎていった。

 

「がっはっは、俺から子どもを奪うのは無理だったようだなー。こんなちんちくりんに、山の神が負けるはずねーけどな」

「伊之助、一方的でつまらないんだけど」

「だから、やりたくないんですよ~」

「かごめかごめ、やりましょ~」

 

カナヲと三人娘は、不満の声を上げた。

遊びというのは実力が近しい相手でないと、こういった不満が当然出るもの。

非難が飛び交う中、伊之助が顎に手を当てて考え事をする。

 

「アオイ、お前が鬼をやれ!」

 

と言い放つ。 

突然の指名に驚き

 

「わ、私ですか?!」

 

彼女は素っ頓狂な声をあげた。

 

「カナヲが激しい運動すんのは危なっかしいからな。それに、この中だとカナヲの次に強いだろ。まっ、一番は俺様に決まってるがな」

 

伊之助は立てた親指を自慢げに自分に向けて、アオイを挑発する。

得意げにする彼によほど苛立っているのか、カナヲや三人娘はアオイを応援する。

 

「アオイさーん、頑張ってー」

「アオイ。生意気な伊之助、けちょんけちょんにして!」

「俺はお前らの親役なんだぞ! もっと崇め、敬え!」

 

歓声を受けると、がぜんやる気が満ちてくる。

 

「楽しみにしてて。高慢ちきな猪頭、こてんぱんに叩きのめしてやるから」

「んだとゴラァ! 弱味噌女でも山の王は容赦しねぇからな! 弱肉強食の世界で生き抜いた俺様の力を見せてやる!」

 

挑発した彼女は伊之助の前に立つと、距離を詰めて、じりじりと最後尾のきよにじり寄る。

伊之助を牽制するようにアオイが視線を投げ掛けるも、人の気配や殺気には人一倍敏感な男だ。

円を描くように動き回るも、流石は元鬼殺隊士だけあって一分の隙を見せない。

 

(さすがに身体能力なら伊之助さんの方が上、よね。どうしよう。一瞬でも隙を作れれば……)

 

アオイは勝利を模索した。

注意深く窺うと見つめている間、彼の若干動きが鈍くなるのに気がつく。

 

(距離をギリギリまで詰めて……一気にきよちゃんを捕まえる)

 

頭でシュミレーションした動きを実行に移す。

すると思っていたよりもすんなりと、きよを抱き締めるのに成功した。

 

「やった〜! きよちゃん、つ〜かまえた!」

「今のはまぐれだ。アオイみたいなチビに、俺様が負けるはずは……」

「伊之助、弱いね」

「やった~。アオイさんが勝った~」

「威張ってた伊之助さん、おとなしくなりましたね〜」

 

本気で遊びに興じたのなど、何年振りだろう。

蝶屋敷に拾われてからというもの、心のどこかで皆の役に立たねばと、重荷を感じていた。

けれども今は重圧から解放され、清々しい気分だ。

 

「もう一回勝負だ! 負けたら子分に示しがつかねぇ」

「いいですよ。敗者の伊之助さんの健闘に免じて、もう一回やってあげましょう。でも負けたら、三人の他の遊びにも付き合ってあげてくださいね」

「……調子に乗りやがって! ブッ倒す!」

 

その後も日が暮れるまで、伊之助たちの遊びは続いた。

外ではカラスが大合唱して、夜の訪れを知らせる。

 

「おなかペコペコです〜」

「みんなで夕食つくろっか」

 

カナヲが三人娘と献立を話していると

 

「やっと元のお前になったな。鬼がいなくなってから腑抜けてたもんな」

 

伊之助は吐き捨てる。

 

「紅葉狩りに連れていってくれたのも、定期的に会いにきたのも、もしかして私のために?」

「冗談だろ。俺はお前の飯、食いにきてただけだ」

「本当に素直じゃない人ですね。私が言うのもなんですけど」

「ケッ、うるせぇ」

 

半ば冗談でいった台詞に、伊之助は顔を真っ赤にしている。

否、夕焼けのせいでそう見えただけかもしれない。

 

「伊之助さん、私の作るご飯が気に入ったみたい。どうしようか?」

「アオイさん、野生生物に餌付けしたら大変ですよ」

「屋敷に住み着きかねませんしね~」

「ご飯目当てに、人を襲うようになっちゃうんじゃないですか?」

「絶対に敷居をまたがせたらダメ。人里に降りてきた猪は、食べ物を食い荒らすから」

「そうね。伊之助さんは出禁にしましょうか」

 

訊ねると蝶屋敷の乙女たちは、冗談めかして伊之助を猪扱いする。

小馬鹿にしてきた彼女たちに、怒りが頂点に達したのか

 

「おい、テメェら! 俺様への敬意が足りてないぞ!」

「伊之助が怒った。みんな逃げよ〜」

「きゃ〜、怖いです〜っ」

「カナヲ、すみちゃん、きよちゃん、なほちゃん。捕まったら襲われちゃうよ〜」

 

伊之助が怒号を飛ばすと蜘蛛の子を散らすように、二人の元からカナヲと三人娘は去る。

年頃の少女らしい反応に鬼という異形の存在の脅威は去り、この国が平和になったとアオイは感じた。

本当に鬼殺隊の皆には、感謝してもしきれない。

 

「ったく。あいつら、俺を何だと思ってやがる」

「伊之助さん、案外面倒見がいいんですね。鬼だった禰豆子さんにも、延々名前を覚えさせていましたし。あの子たちが懐いたのもわかります」

「うるせーガキは、疲れるまで遊ばせんのが一番だからな」

 

つっけんどんな物言いで、伊之助は言った。

憎まれ口を叩いても、面倒見のいい親分だ。

 

「……人払いできたし、ちょうどいいか。お前に言っておかないといけないことがある」

 

伊之助は畏まって、アオイに告げる。

そんなに重要なことなのかと、彼女は静かに傾聴した。

 

「なんでしょう?」

「治ったら、しばらくここには来れそうにねぇ。炭治郎たちが心配だからな。親分の俺がいないと、アイツらも寂しがるだろう」

「……え」

 

伊之助がそう言うと、いつまでも続くと思っていた幸せが、突如終わりを告げた。

そんな気がして、アオイは呆けた声を出すのだった。




全13話で完結予定です。
それまでよければ、お付き合いください。
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