お品書き
鳥頭
チキンバーガーに取り憑かれた男がそうなるに至ったまでの過程を語るだけ
鳥頭
毎週金曜日の仕事終わり。私はハンバーガーチェーン店に寄っていってチキンバーガーを3つ買って帰る。毎週毎週行くので店員に顔を覚えられているようで、そこに行くたびに何か不思議なものを見るような目で見られる。アルバイトをしていた時は裏で常連に変な名前を付けて遊んだものだが、その経験からして私は鳥食い男、もしくはそれに近いような名前を付けられているのだろう。
家に帰るとさっそく買ってきたチキンバーガーを貪り食う。チキンフライのサクサクとした食感と肉厚感が良い。キャベツとドレッシングも程よい味付けで1日に3個、毎週食べても飽きない味付けだ。
他人から見たら奇行とまでは行かなくても、変な人には見えることだろう。そんなにチキンバーガーが好きなのだろうか、程度には思われるのだろう。
そういえばハンバーガー3個はどれくらいの分量なのだろうか。私は2個で腹9分位までいくので残り1個は朝食に残されるのだが、1個が1人分だとしたら毎回3個買っていく私はとても大食いに見られているだろう。そして、チキンバーガー専門のフードファイターだと私は店員から思われているのかもしれない。意識し過ぎだろうか。
話を戻そう。私は特段チキンバーガーが好きという訳では無い。ではなぜ、こんな風にチキンバーガーを毎週毎週食べているのか。それは私の奇妙な経験。そして、私が人に何かをしたという訳では無いが、その人への贖罪というのが起源となるのだろう。
確か小学校中学年ぐらいのことだっただろうか。数少ない友だちが別クラスにいって落ち込んでいた私は中々今のクラスに馴染めず悩んでいた。これが低学年くらいだったら私もグイグイいけたのかもしれないが、私の中学年時代はちょうど人見知りを始めるぐらいの時期であった。そのため仲良くしたいけど勇気が出ない。という状況だった。
そんなある日の帰り道だ。俯いて歩いていた私が余程気になったのか、
「おい、そこの」
少し顔の怖い青年が私を呼び止め包みを渡してきた。今なら不審者と言われるだろうしその時の私もこの人はもしかしなくても変な人では、と思うぐらいに、目の前の男はいきなり暖かい包みを私に渡したのだった。
「開けてみ」
言われるがままに袋を開けてしまった私だが、その中に美味しそうなチキンバーガーが入っていて、その時はゴクリと唾を飲んでしまうぐらいに何故かそれが魅力的に見えてしまった。
「...これは?」
「チキンバーガー。上手いから食べてくれや。」
そういうことを聞きたかった訳では無いしチキンバーガーぐらい知っているが、これまた言われるがままに食べてみるとまあまあ美味しい。
それを食べる私を見て、
「俺、そこでこれ作ってるから。気に入ったら来いよ。あ、これはサービスな。」
男はすぐすばのチェーン店でもなんでもない「鳥サンド」と書いてある看板ののった店を指差して、私が全部食べ終わるのを見てから店に戻って行った。
可笑しいというか、変というか、さっき言った奇妙な、という言葉がぴったりだろう?
まあ当然 この話、にはまだ続きがある。こんなんじゃ毎週チキンバーガーを食べる理由にはならないだろうし。
その次の休日私はやることもなかったので1人でそのお店に向かった。暇だったからというのが大きな理由ではあったが、どういう意図で私にチキンバーガーをあげたのかが単純に気になった。
その日の天気は曇りで、帰りに雨が降るかもしれないと思って、それが憂鬱であったため足取りが重かったりした。ただ、体があまりそこに行きたがらない理由がそれだけじゃないことを私はわかっていた。
店に着き、ドアを開けようとすると好奇心より不安が勝り、何故か緊張して、ドアを開けることを躊躇してしまった。1度フーっと息を吐いた。
上を見ると雲から太陽がひょっこりと顔を出し、「雨の心配はするな」と言っているようだった。
それを見てからだとなにか少し落ち着いた気がした。一度深呼吸をして、ドアノブに手をかけると、私は意を決して扉を前に押すのだった。
「お、先日ぶり。どうだい調子は。」
店に入ると男がそう言って出迎えてくれた。店はカウンター席が数席あるだけで、また客もいなかったので寂しい感じがした。
「なんでこのまえは僕にチキンバーガーを?」
そう、約束通りにチキンバーガーを1つ注文したあとに尋ねた。
すると男は"んー"と少し考えたあと話し始めるのだった。
「いつもあの時間は店の前を掃除しているんだけど元気な小学生が下校してる訳だ。ところが、月の始めくらいから1人で下を向きながら歩いてる子がいてさ。」
「それが僕ってことですか」
男は頷くと何かあったのかと聞いてきたので事情を話した。それを聞いた男は笑ったあと、ムッとした私を見てから、「ごめんごめん。歳相応な悩みだなって」と謝ったあと、
「でも、それなら心配ないだろう?」
そ男はこう付け加えた。
「心配ないって?」
私がそう聞くと彼は自信ありげで、また、楽しそうに話し始めた。
「前あった君は俺の事どう思った?変な人だなあと思ってるだろう?」
「まあ。」
「それでもこうやって話せている。友達になれているんだ。」
「僕達、友達ですか?」
「ああ。チキンバーガーを食えばみんなトモダチ。」
やはり変な人だなと思った。
「つまり、友達になるには、多少変だとおもわれてもいいんだ。欲しいのは話しかける勇気。そして勇気は今日出してるだろう。今日ここに来るのだって、勇気が欲しかったはずだ。よくわからない男のとこにまた行こうってんだからな。」
男はそう最後まで話終えるとにっと笑ってチキンバーガーを僕に差し出した。
これがその人と私の出会いで、その後もその人に何回も相談したり、逆にされたりもした。
チキンバーガー以外をメニューに加えるかとか 、どうして客が来ないかだとか。彼のチキンバーガーに対する熱意は尋常ではなくて相談をうけても結局はチキンバーガーしかメニューでださないし、客が来ない原因がそれであるのもそれであることは明白だった
しかし彼自身の人の良さのおかげか常連ができたり色んな人から頼み事をされたりするようになり、そのため数ヶ月もすると街のちょっとした有名人になっていた。その頃にはもう売上や、お客で相談されることも無くなった。
私が小学校を卒業するころ急に彼は店を畳むと言い出した。母親が病気で倒れたそうだ。そして町の人に惜しまれながらも鳥サンドは閉店。
彼は私に
「チキンバーガーを食べ続けて欲しい。チキンバーガーを美味しく食べてくれれば嬉しいし、なによりそうすれば多分、俺の事を忘れないはずだ。」
というような事を去り際に言って故郷へ帰って言った。その時は少し笑ってしまったが、時間が経つ事になにか寂しくなってきてチキンバーガーを月に一回は食べていた。
まあそれが続いたのは1年ぐらいだったが。
彼との約束をちょうど忘れかけて、チキンバーガーを3ヶ月ぐらい食べなくなったころ、私は中学生活を満喫し、その日もクラブの朝練の準備をしてちょうど学校へ行こうと家を出ると同時に靴紐がプツンと切れた。
「なんか、不吉だなあ」
と独り言を言ったあと家に戻り、母に替えの靴紐があるかどうか聞きに行った。
その時偶然テレビニュースが目に入った。なんでも、介護疲れで男が親と心中したらしいというもので、それだけだったら他人事で、悲しいニュースだなあ、と流すぐらいの物だった。
ただ、その男の名前が流れたら、悲しいというだけじゃすまなくなる位に混乱し、それが本当かどうか、自分が思い浮かべている男と同一人物なのかを必死になって調べた。
結論から言って、その男は鳥サンドの店長だった。あのあと、母すぐに逝き、父もそれで参ってしまって寝たきりに。会話も成り立たないといった状況になったそうだ。彼はその状況に耐えきれなくなり父と心中したそうだ。私は彼に助けてもらったし、彼がそんな状況にあるのに何もしていない私に心底腹が立った。
しかしそれより、なにか罪悪感の方が大きかったのだ。彼との約束を破りそれを忘れかけていたことは直接の死因とは関係がないのにそれが関係しているのではないかとか考えてしまうのだ。
何よりこのままじゃ時間とともに彼を本当に忘れてしまいそうな気がする。それが本当に怖くて怖くて、私は毎週欠かさずチキンバーガーを食べるようになった。
これがチキンバーガーを食べている理由なんだ。他人からは理解されないだろう。人の死とそれは直接関係がないのに、彼をちゃんと覚えていてあげれば別にそんなことをしなくていいのに。人によっては馬鹿らしいとまで思うかもしれない。
しかしこれが約束を破るということなのだ。
タイトルを共食いにするか迷った。