ありふれない慈愛で世界最強   作:月が好き

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2話 異世界召喚

強烈な光が弱まり、代わりに少しずつ騒がしくなる音と無数の気配を感じる。一体何がどうなったのかわからないですが、とりあえず目を開いて少しでも情報を得なければ。

 

そう思って周囲を見渡し、唖然とした。

 

真っ先に目に飛び込んできたのは巨大な壁画。まるで神様のように描かれている長い金髪の顔立ちの人物が描かれており、背景には草原や湖、山々が描かれており、それらを含めれば神聖な物であることを感じさせる。

 

「(なんですかこの壁画……この胸がざわつく感じは)」 

 

けれど、壁画を見てから私の中で何かがざわついている。壁画を神聖な物と感じる一方で、全く真逆で禍々しい物と感じてしまう。今までこんなこと一度たりとも体験したことがありません。

 

「ッ……!」

 

これ以上壁画を見続けるのは良くない。何が良くないのかはっきりとわかりませんが、自分の直感に従って壁画から視線を逸らした。

 

「……みんないるみたいですね」

 

視線を逸らした先にはハジメがおり、その後ろには白崎さんがいた。その他にも周囲を見渡している者、唖然としている者、驚きすぎて固まっている者もいますが、とりあえず先ほどまで教室にいたクラスメイトは全員揃っているようです。ついでに畑山先生も一緒みたいですね。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

声が聞こえ、クラスメイト全員が声のした方向へと振り向いた。そこにいたのは法衣のような衣装を身に纏い、祈りを捧げているかの格好の人たち。

 

その中でも声をかけてきた老人……イシュタル・ランゴバルドという人物が口にした言葉に呆然とするクラスメイトたち。そんなクラスメイトたちにイシュタルという人物は、好々爺然とした微笑みを向けていた。

 

 

 

 

 

 

現在、私たちは先ほどまでいた場所から移り、10メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。

 

部屋の内装は煌びやかなものであり、調度品や絵などの芸術品は素人目にもかなりの品であることが見受けられる。誰かを歓迎するためにはもってこいな部屋ですね。こんな部屋、一般人であれば一生のうちに一度目にすることができるかどうか、のレベルですね。

 

そんな部屋に通された私たちは、現在進行形で不自然なまでの沈黙を貫いていた。

 

まだ目の前のことを受け入れられていないのでしょう。それでもここまで来られたのは、イシュタルが説明すると言ったこと、天之河さんのカリスマ(笑)によるものでしょう。

本当にこのクラスの人間は、教師を敬うことも従うこともないようですね。畑山先生が哀れですよ。

 

「勇者様、そしてご同胞の皆様。先ずは紅茶でも飲んで落ち着いてくだされ」

 

全員の様子を見たからなのか、それとも最初からその予定だったのかはわかりませんが、イシュタルが指示を出すと部屋に入ってくるメイド集団。そのメイド集団を凝視しているクラスの男子たち。美女美少女メイド集団に心を奪われている思春期男子を批判するつもりはありませんが、この状況下でよくもまぁそんなことができますね、と呆れてしまいます。

 

男子の視線に気が付いた女子たちの視線は氷河期並に冷えていました。もちろん私も男ですけど女性側です。無自覚ですけど確実にメイドスキーなハジメが心配なので確認してみると、笑顔で笑っている白崎さんへと視線を向けていました。白崎さんは笑顔ですが、目が笑ってなくて殺気が籠ってますね。

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

紅茶が用意されたことを見て、イシュタルは語り始める。その内容はオタクである私にとってはありふれた、そして現実的に見るのであればどこまでも身勝手であり、納得できる話しではなかった。

 

まず、この世界はトータスと呼ばれている。そして、トータスには大きく分けて3つの種族がいるそうです。人間族、魔人族、亜人族の3つ。人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしい。この内、人間族と魔人族が長い間戦争を続けている。

 

元々魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたらしく、戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数10年起きていないとのこと。しかし最近になって異常事態が多発しているという。

 

それが、魔人族による魔物の使役。

 

魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだ、と言われているらしいですが、この世界の人々も正確な魔物の生体は分かっていないらしい。それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣とのこと。魔術師で言うところの使い魔って感じですかね。私も使えますが、いちいち口にする必要はありません。

 

今まで本能のままに活動する彼等を使役できる者はほとんど居なかった。使役できても、せいぜい1、2匹程度だったのに、その常識が覆された。

これの意味するところは、人間族側の数というアドバンテージが崩れたということ。つまり、人間族は滅びの危機を迎えている。

 

「あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という救いを送ると。あなた方には是非その力を発揮し、エヒト様の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

イシュタルが語るエヒト様。守護神であり唯一神ということですが、熱がこもりどこか恍惚とした表情を浮かべている。どうやらこのイシュタルという人物、狂信者と呼ばれる存在でしょう。神のためであれば死ぬことも厭わぬ狂人。そんな狂人の説明を受けて真っ先に反応したのは、この中で一番の年長であり責任者な畑山先生でした。

 

「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

生徒に愛ちゃん先生と親しみを込めて呼ばれている全く威厳の全くない先生の声に、クラスの面々はどこか落ち着いた感じで、そして安心感を得たような目で見つめている。しかしイシュタルの言葉にそんなクラスメイトの思いは打ち砕かれる。

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

残念そう……に見える表情で不可能と口にするイシュタル。その言葉にクラスメイトは固まり、場に静寂が訪れる。

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!?喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

畑山先生が叫ぶ。けれどそれはクラスメイト全員の思いだったのでしょうね。

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

「そ、そんな……」

 

畑山先生が椅子に崩れ落ちる。しかし私としてはそれどころではない。今、イシュタルはエヒトという神の意思だと口にした。それはつまり、エヒトという神が私たちを帰そうとしなければ帰れない、ということだ。しかも狂信者であるイシュタルはエヒトという神に喜んで従うでしょう。私たちのことなど関係なく。

 

「うそだろ?帰れないってなんだよ!」

「いやよ!なんでもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ!ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

 

パニックになるクラスメイトたち。いきなり異世界に連れてこられ、帰れないと言われればそうなりますね。しかし今のところ私にクラスメイトたちを心配する余裕はありません。理由は狼狽えているクラスメイトに口をはさむことなく様子を見ているイシュタル。

 

イシュタルの目には侮蔑の意味が込められている。口ではうまいことを言いながらも心の中では侮蔑の言葉を述べている前世のクソ上司たちのようです。おそらく狂信者らしく、偉大なるエヒト様に選ばれておりながらなぜ喜んでいないのか、とかそんな感じでしょうね。

 

しかし今の状況は最悪です。パニックになって意志の統一も考える余裕もありません。こんな状態では冷静な判断など期待できませんし、そもそもこのパニックを何とかしなければなりません。しかし畑山先生は期待できそうにありませんし、このままでは確実に最も最悪な未来を選択してしまうでしょう。

 

今現状で最も最善な選択を選べる人物。その人物に視線を向けると、やはり私が思った通りその人物は行動を起こしていた。机がパンッ、と音を立てながら叩くその人物……天之河さんにクラスメイト全員の視線が向いた。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない……イシュタルさん?どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

カリスマ(笑)を使って意気込む天之河さん。同時に、彼の言葉に絶望に浸っていたクラスメイトたちに希望の光が宿ってしまう。女子の中にはキラキラとした瞳を浮かべる人たちもいて、非常にいい状況です。後押しはいつものメンバーに任せましょう。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな……俺もやるぜ?」

「龍太郎……」

「今のところ、それしかないわよね……気に食わないけど……私もやるわ」

「雫……」

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織……」

 

天之河さんと一緒にいるいつものメンバー、坂上さん、八重樫さん、白崎さんが賛同してくれる。彼らが参加することを決めた結果、空気は一気に戦争参加へと傾いた。唯一反対しているのは畑山先生のみ。しかし大きく動き出した流れを変えることは不可能に近い。

 

これで最悪な選択――戦争に参加しないという未来を回避できた。

 

 

 

 

 

 

前世でも今世でも、異世界物の二次創作は数多く存在しています。そうした中には強制的に異世界に召喚された主人公が、命の危険を冒してまで召喚した世界を救おうとする作品があります。それらを見るとふと思ってしまうんですよね。

 

どうして見ず知らずの人のために命をかけるんだろうって。

 

だってそうじゃないですか。突然異世界に召喚されて、いつ死ぬかもわからないのに見ず知らずの人々のために命をかけて戦うなんて、まっとうな精神の持ち主であればまず間違いなくするはずがありません。物語の展開的に、なんて言葉は求めてません。

 

無理矢理召喚され家族や親友から引き離され、世界を救う運命を勝手に背負わされ、見ず知らずの人たちを救うために何度も死にかける。そんなこと、まっとうな精神の持ち主であれば絶対にするはずがありません。どこぞの衛宮何某さんや厨房(世界)の守護者の褐色白髪オカンなら喜んで救いそうですけど、あの人たちが異常なんですよ。

 

でも今回のことで主人公たちの本当の気持ちが理解できました。

 

彼らは世界を救うという使命感でも、義務感でも、ましてや無理やり救わされているわけではありません。彼らはそうしなければ生きていけない、という諦めと絶望から世界を救うことを決断しているんです。

 

強制的に召喚された彼らには元の世界に帰る方法なんて知るはずありません。頼る相手なんているはずありません。どこに行けばいいのかわかるはずがありません。その世界の知識など持ってません。法律や常識を知りません。お金の単位も物価も知りません。帰る場所もありません。どこに行けばいいのかさえわかりません。どうやって生きていけばいいのかさえ分かりません。

 

そんな絶望的な彼らにとって、世界を救うというのは藁にも縋る思いと同義。世界を救うことに承諾さえすれば、それなりの援助が約束される。戦う術も、生きていく術も、生活するすべも何もかも手に入れることができる。

 

だからこそ彼らは世界を救う。救国のためでもなく、正義感でもなく、自分が生きると言う人間なら誰もが持っているであろう基本的な生存欲求によって、戦うことを『自ら』の意思で選んでいるんです。 

 

まあ、自らの意思(笑)ってなりそうですけどね。 

 

天之河さんが戦争に参加を表明し、クラスメイト全員が戦争に参加することを決めてからすでに一日と言う時間が経っていた。あの後イシュタルに連れられて聖教教会本山の神山から麓に存在するハイリヒ王国へと案内され、王宮に行って王国の騎士団長や宰相、果てには王族に謁見しました。

 

ハイリヒ王国現国王のエリヒド・S・B・ハイリヒさんは外見こそ初老の男性ではありましたが、纏っている覇気と威厳は流石は王様だと感心しました。その隣にいた国王の妻でありルルアリア王妃、その息子で次の国王となるであろうランデル王子、その姉であり金髪碧眼なリリアーナ王女。その後に王国騎士団長と宰相など、高い地位を持つ方々を紹介され、謁見は終了。

ハイリヒ王国は聖教教会と密接な関係があるらしく、私たちのことはすでに教会から王国に伝えられていたらしく、当面は王国が面倒を見てくれることに。

 

その後は晩餐会が開かれ異世界料理を堪能しました。ピンク色のソースや虹色に輝く飲み物が出てきたときは毒かどうか疑いましたが、珍しさにつられたバカが毒見をしてくれたのでその心配は杞憂でした。あとランデル王子が白崎さんに頻繁に話しかけていましたね。軽くあしらわれていたのが笑えました。

 

ちなみに、私のことを子供だとかなんだとか言っていた貴族が数人いたので足を転ばせて大注目させてあげました。顔を真っ赤にして喜んでくれていたので良かったです。本当は蹴り飛ばしたかったんですけねぇ。

 

そして現在、私たちは異世界に来た次の日に早速訓練と座学が始まりました。

 

「よし、全員に配り終わったな?このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

まず、集まった私達に銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る私達に、騎士団長メルド・ロギンスさんが直々に説明を始めた。

メルドさんには国王との謁見の際に紹介されていたし、その後の晩餐会でも姿を見ている。

 

メルドさん自身は豪放磊落な性格で搦手を好む人間ではなく、晩餐会でも勇者の次に私を気にかけて話しかけてきた人だ。その理由が、召喚された中で最も幼い子供が戦争に参加させることに対する負い目だったようですが、私の実年齢を伝えたら驚いた顔をして謝罪してましたね。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。ステータスオープンと言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ?そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

「アーティファクト?」

 

聞きなれない単語に天之河さんが質問する。

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

 

なるほど。

とりあえずこのステータスプレートは身分証明書のようなものというわけですか。とりあえずメルドさんの指示通り指先を針で刺し、血を魔法陣へと擦り付けた。すると魔法陣が一瞬淡く輝き、文字が記されていた。

 

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カズラドロップ 17(?)歳 男(?) レベル:980

天職:アルターエゴ

筋力:98531

体力:98410

耐性:97289

敏捷:96267

魔力:97945

魔耐:98925

技能:言語理解・対魔力(B+)・気配遮断(A+)・騎乗(EX)・狂化(E-)・変身(A)・単独行動(A+)・陣地作成(EX)・怪力(EX)・領域粉砕(A)・束縛願望(A)・クラックアイス(EX)・同族嫌悪(E-)・インセクトイーター(EX)・加虐体質(A+)・メルトウイルス(EX)・クライム・バレエ(A)ハイ・サーヴァント(EX)・女神の真核(A)・トラッシュ&クラッシュ(EX)・被虐体質(A+)・ブラスト・バレー(A)・道具作成(A)・十の王冠(EX→×)・黄金の盃(EX)・自己改造(EX)・百獣母体(EX)・ヒュージスケール(EX)・グロウアップグロウ(EX)・自己暗示(EX)・幼化現象(EX→×)

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「……はっ?」

 

表示された数字と文字……というか文字を見て、私は声を出してしまった。




カズラのステータスについてはかなり迷いましたが、原作における決戦時のエーアストのステータスが66000、レベルⅩを発動したシアが70000越え。ならサクラファイブとBBを併せ持つ主人公であればこれくらいが妥当だろうと考えた次第です。

まあカズラが驚いたのは、数値よりも文字ですけどね(笑)
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