神様印の神通力を駆使して介入する男であったが、どう足掻いても前途多難過ぎる青春ラブコメに頭を抱える……そんなお話です。
※pixivでも投稿していたものを改稿した作品となります。
前略、トラックに轢かれて死んだと思ったら神様見習いになりました。
え? 頭おかしいんじゃないかって? ……俺だって知るかよ。一番困惑してるのは間違いなく俺自身だわ。
まあ、兎にも角にも死んだと思ったらテンプレ神様転生な流れから気付けば自分が神様見習いへとジョブチェンジしてたんだよ。何を言ってるのか分からないと思うけど、俺だって分かんねぇよ。異世界転生だとか憑依モノとか、そんなチャチなもんじゃ断じてないから! もっと恐ろしい転生の片鱗を現在進行形で味わってるぜ!
……とまぁ、そんなこんなで神様見習いになった俺だが、ざっと体感で百年ばかし研修をやりました。いや、本当に百年なのかは知らんけど。だってカレンダーとかないし。
ちなみに研修で学んだ内容がどんなだったかと言えば、神様世界のルールやら天罰とか神通力の使い方だとか多岐に渡った。研修初日に『猿でもわかる! 神様の心得』とかいう六法全書みたいな厚さの本を渡された時は思わず全力で投げ捨ててしまって教師役の神様から天罰喰らったけど。だってあんな厚さの本読むとか正気の沙汰じゃないもの。図書館に入っただけで腹痛に襲われてトイレに駆け込む俺の惰弱さを舐めるなよ!?
「で、これが見習い卒業試験の課題か……」
でだ、なんやかんやで無事に研修も終わり、ようやく見習い卒業試験の受験資格を得られた俺に、試験官役の神様から言い渡された課題というのがこれだった。
【こちらが指定する管理世界にて、課題対象となる人物の恋愛を成就させること】
何とも奇妙な課題だった。あれかね? 『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ』という言葉を知らんのかね? こんなん神様がどうこうするような内容じゃないと思うんですけど、そこんとこどうなんです? ……あ、課題だから気にするなと。いいからやれと。はい、よろこんでー(諦めの境地)。
「……で、こいつが対象の『比企谷八幡』か。なんつーか、あれだな」
すごく、目が腐ってます。
いや、なにコイツ。最初、ゾンビとかグールなのかと思って難易度ハード過ぎじゃね? とか頭抱えちゃったじゃん。そのまま監視してたら普通に自転車乗って学校に通い出したから生きてる人間だって安心したけど。危うく諦めて課題投げ出すとこだったわ。
……第一印象がゾンビの恋愛ってどうやって成就させればいいんですかねぇ……(白目)。紫陽花の毒でも使って死者蘇生でもすればいいの? それとも学校で生活する部活に入部すればいいの?
「それにしてもコイツ、めっちゃウキウキで自転車漕いでんな。えーと、資料資料……あ、あった!」
俺はガサゴソと参考資料として渡された紙を探して改めて目を通す。
資料と言っても、ターゲットである比企谷八幡──名前呼び辛いし、ここは敬意と皮肉を込めて”主人公くん”でいいや──の簡単なプロフィールぐらいしか載ってない。マジ不親切。せめて生い立ちとか時代背景ぐらいは教えてほしい。今んとこ目の腐った男子高校生ってくらいしか情報がないんですけど。
『誰もいねぇ……。まあ、さすがに早く出過ぎたか。いや、あれだし? 別に入学式とか何にも期待してないし? 偶然、早く起きちまったから家を出ただけだし?』
あ、はい。説明ありがとう。そうか、高校の入学式だったのか。
ちなみに俺がどうやって監視しているかと言うと、別に雲の上から眺めたりしている訳じゃない。なんかアニメとかTVドラマを観る感じでブラウン管みたいなディスプレイで監視してます。
「これはあれかな? 入学式で不良に絡まれてる美少女を助けたり、廊下で出会い頭にぶつかったりする感じの流れなのかな?」
俺がこの先の展開について思考に耽っていると、唐突にディスプレイのスピーカーから『サブレーーーッ!』とかいう女の子の悲鳴が聞こえてきた。
慌てて画面を確認すれば、今まさに車に轢かれそうになっている犬と、それを助けようとして自転車から飛び降りて駆け出す主人公くんの姿が……。いや、ちょ!? おまっ!??
「青春開始一日目で事故死とかありえねぇだろ!?」
俺は咄嗟に神通力を使用し、少年と車の間にバリア的なものを構築して衝突の威力を緩和した。いや、危ない。マジでやばかった。神通力がなければ即死だった。
「とりあえず、大きな怪我もなさそうだし、これで…………は?」
《 課 題 失 敗 》
突然、監視していた映像が途切れ、暗転した画面にデカデカと映し出された『課題失敗』の四文字。
事態についていけずに混乱する俺を置いてけぼりにして、画面にはつらつらと文字が浮き上がっては消えていく。
『犬を助けてもらったお礼を言う少女だったが、比企谷八幡は無愛想に「別に……」と呟くだけの塩対応。
降りてきた車の運転手には「大丈夫です」とだけ言って、彼はさっさと立ち去ってしまった。車の後部座席に座る少女にも気付かずに……。
その後、二年生になった彼は部活に入るものの、人間関係が上手くいかず、最後まで孤立したまま高校を卒業。
大学でもそれは変わらず、就職した会社も三ヶ月で辞め、人知れず引き籠ったまま彼は若くして心不全で孤独死を迎え──』
「なんだこれ……」
どうやら事故は防いじゃダメだったっぽい。……わかるかぁ、そんなん!?
* * *
てっきりあれで試合終了だと思ったけど、普通にコンティニューできました。
だがしかし、そこから先で行き詰ってしまった俺。だって正解が分かんないんだもん。助けてもダメ。放置してもダメ。未然に防いでもダメってどうすりゃいいのさ。
「事故から助けても孤独死END。放置したら、そのまま事故死。未然に防ぐとフラグが建たないっぽくて一回目とほぼ同じ展開」
詰んだわ、これ。そんな諦めそうになる心を何とか奮い立たせ、俺はまだ試していないパターンについて考察してみる。
「事故を防ぐと終了ってことは、事故自体は発生させないとダメってことなんだよな。でも、そのままだと死んじまうし……そうか!」
閃いた俺は、ギリギリ死なない程度に主人公くんを助けてやることにした。これなら事故は発生してるし、主人公くんは生きてるし、文句ねえだろ!
「主人公くんが脊髄損傷で下半身麻痺になった挙句、ヤンデレ化した妹が犬の飼い主を刺殺してバッドエンドってどういうことだよぉ……」
ちょっと難易度高すぎませんかねぇ……。
それから何度目かの試行錯誤の末、ようやく『左足亀裂骨折で入院』ルートでバッドエンドを回避できた。この微妙な展開にもってくための神通力の力加減が超絶ムズかった。これセーブ機能とか無いの? もう一度やれって言われても、多分無理だよこれ。
「んで、ようやく話が進んでお見舞いイベントだと思ったら、主人公くん爆睡中とか……。おまえ、どんだけ間が悪いんだよ」
とりあえず、このままじゃあれなので神様式目覚まし術で主人公くんを覚醒させる。
おきなさい。おきなさい、私のかわいい主人公や……。
『……んあ?』
『およ? お兄ちゃんがちょうどよく起きた! ささ、どうぞどうぞこちらへ!』
『え、あ、うん……』
『……』
『……』
『あー、どちらさん?』
『あ、あの、あたしはサブレ……その、あなたが助けてくれた犬の飼い主の──』
『あー…、なるほどな。……別に気にしなくていいぞ』
『……え?』
『あれは俺が勝手に飛び出しただけだし。飼い主なら今後はリード放さないように注意してくれれば、俺としては特に何もない。謝罪とか感謝とかいらねぇよ』
『で、でも……。あたしの所為で怪我しちゃったし。学校だって……』
『別に、学校に通うタイミングが遅れたぐらい、どうってことない』
『まあ、お兄ちゃんの場合、入学式に出ても出なくても友達できないのは一緒だしね』
『うるせぇよ、小町』
『あの、実はあたしも同じ──』
『ともかく! もうお見舞いなんて来なくていい。俺が事故ったのは俺の責任で、それに関する不都合は全部自業自得だ。だから、お前がそのことで気に病むことは何一つない。だから──』
『俺に優しくしようとするな』
可愛い女の子にお見舞いされたらゲームオーバーとか、お前の人生ハードすぎない?
* * *
もはや神通力の力加減にも慣れた。
結局、あのお見舞いイベントの正解は寝たままスルーでOKだったっぽい。無駄に何度もやり直して損した。
その後、無事に退院した主人公くんが総武高校へ通い出し、ついにお見舞いにきたあの飼い主の子と学園ラブコメが始まるかと思ったのだが、思ったのだが……。一年間進展なしってどういうことなんですかねぇ……(半ギレ)。
おまえ、俺がこの一年間どんだけ右往左往したと思ってるわけ? 再会イベント用意したり、同じクラスの隣の席用意したり、挙句の果てには食パン咥えて曲がり角でぶつかる定番イベントまで用意してやったのに全部バッドエンドってなんだよそれ。主人公くん、どんだけコミュ障拗らせてんの? あとメインヒロイン(仮)! おまえもだよ!! なんで遠くからチラッチラ見てるだけで話しかけない!? いついくの? いまでしょ!? これ本当にフラグ建ってるの!? おかしいダルルォ!? 俺の時間を返せぇぇぇぇぇ!!!
『高校生活を振り返って、か……』
で、まあ高校二年生になった主人公くんな訳だけど……。コイツあれだよ、絶対に碌でもないことレポートに書く気だよ。俺は学んだ。この主人公くん、いわゆる中二病……を通り越して、高二病ってやつだ。なんつーの? 斜に構えてるっつーか、捻くれてるっていうか……。
とにかく、これ以上、変な言動で学校での印象を悪くしたら目も当てられない。ここは無難な感じのレポートを仕上げさせて、少しでも青春ポイントを溜めよう。どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!!
『青春とは嘘であり、悪である、っと』
『……ちなみにだが、もし私の授業で不真面目なレポートを書いてみろ。それ相応の対処をさせてもらう。それでも書きたいというのなら、私は一向にかまわんッッ』
『消しゴム、消しゴムは何処だ……っ!?』
よし、これで………………バッドエンドですか。そうですか。真面目に課題をやらせたら人生終了って呪われてんじゃねぇの、この主人公……。
『なぁ、比企谷。私が授業で出した課題は何だったかな?』
そんでもって放課後の職員室。
現国担当の美人教師に呼び出された主人公くんな訳だけど……。おい、まさかこれ、この教師もヒロイン候補じゃないよな? どこぞの勉強ができないラブコメみたいに人気投票で上位だったからってタイムスリップとかしないよね?
とかなんとか考えてたら、主人公くんが屁理屈こねて有無を言わせず強制連行されていった。……うーん。この強引な感じ。あれだ。この人絶対に結婚できな────ッ! なに今の殺気!? え、嘘、どゆこと!?
『……ふむ。気のせいか?』
『どうしたんすか、先生?』
『いや、なんでもない。行くぞ』
怖……。こっわ……! ええぇ……、なにこの人。見習いとはいえ神様に殺気飛ばせるとか人間辞めてんの? そもそも何で神界にいる俺の考えてること察せられてんだよ。
『平塚先生。入るときにはノックを、とお願いしていたはずですが』
どうやら俺が恐怖に慄いている間に、女教師の目的地に着いたらしい。
無遠慮に扉を開け放った教師に続いて、主人公くんも入室して……美少女を見て固まった。いや、見惚れていたのかな? ……おおぅ? これもしかして一目惚れイベントちゃうん? そうなんちゃうん!? なんでボッチすぐに惚れてしまうん?
『……そうね、ではゲームをしましょう』
『ゲーム?』
気付けば画面の向こうでは主人公くんと部長ちゃんの二人でクイズ大会が開かれていた。
俺知ってる。ここで好感度稼ごうとして下手に介入すると即バッドエンドになる展開のやつだ。だからここは静観こそが正解。間違いない。
『ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ』
しゃおらぁっ! 歓迎されたぜぇぇぇ!
確信したね。この子こそが主人公くんのヒロインだわ。あのお見舞いにきた犬の飼い主な女の子も可愛かったけど、何というか正統派清楚系ヒロインちっくな見た目がすべてを物語ってる。黒髪ロング清楚がメインヒロイン。はっきりわかんだね。まあ、胸は圧倒的に負けてる────ッッッ!? いま背筋がゾクってしたんだけど……。気のせい? 気のせいだよね?
俺が一人で出所不明な悪寒と恐怖に戦慄している横で、主人公くんとヒロインちゃん(本命)の掛け合いは続いていく。
『……俺はな、自分で言うのもなんだが、そこそこ優秀なんだぞ? 実力テスト文系コース国語学年3位! 顔だっていいほうだ! 友達がいないことと彼女がいないことを除けば基本高スペックなんだ!』
『最後に致命的な欠陥が聞こえたのだけれど……。そんなことを自信満々に言えるなんてある意味すごいわね。変な人。もはや気持ち悪いわ』
……ふぇぇ、この二人なんかすごい啀み合ってるよぉ。
え? これ本当に止めなくていいの? 罵倒がめっちゃ主人公くんに突き刺さってるんだけど。でもなぁ……、見方を変えれば、これが主人公とヒロインのコミュニケーションっていう可能性も……。
そんな風に迷っていたのがいけなかったのかもしれない。うんうん唸っていたら、いつの間にか『課題失敗』の文字が画面に踊っていた。どうやら、ここでの会話で険悪になり過ぎて、主人公くんが退部からの孤独死ルートへ入ってしまったっぽい。
なんだよもー! 止めてよかったのかよー!! ならそう言えよーーっ! くっそぉぉぉぉ!!
……まぁでもあれだな。はじめからやり直しなのは面倒臭いけど、ダメなら即打ち切りコンティニューなのだけはガチでありがたいわ。もし主人公くんが死ぬまで結果が分からないってなると、軽く発狂する自信があるし。でもせめてセーブ機能か選択肢をください。介入するタイミングの見極めが難し過ぎてマジ挫けそう。
『あなたのそれはただ逃げているだけ。変わらなければ前に進めないわ』
『逃げて何が悪いんだよ。変われ変われってアホの一つ覚えみたいに言いやがって』
さて、二人の雰囲気がどん底になりかけたタイミングで先生を再度乱入させ、どうにか話を前に進めることができた。
しっかし、この最初は仲悪いけど、徐々に打ち解けて相思相愛になってく展開って、確かにラブコメとしては王道なんだろうけど……。なんだろう、この違和感。すっげー不安だわ。
『勝負の裁定は私が下す。基準はもちろん私の独断と偏見だ。あまり意識せず、適当に……適切に妥当に頑張りたまえ』
それでいいのか高校教師。いや、俺としては主人公くんの恋路が前へと進んでくれれば何でもいいんだけどさ。もっとこう、やりようがあった……あったかなぁ? 放っておいたら険悪になる二人だし、とりあえず部活として動くために、二人でいることを許容させるには良い手なのかも。
……ふむ。そう考えると、この残念そうな女教師(響きがエロいよね)のやり方もありなのか。汎用性はなさそうだけど。つーか、ヒロインちゃんの煽り耐性の無さがなかったら成立しないんじゃね。
『お前さ、友達いんの?』
『……そうね、まずどこからどこまでが友達なのか定義してもらっていいかしら』
主人公くんが強制入部させられた翌日。
相変わらずこの二人は掛け合いというか、罵り合いというか、そんな会話をキャンキャンと吼えていた。昨日、あの女教師が勝負の流れを作ったからか、それとも流石に二日目ともなるとお互いに慣れたのか、致命的に険悪になることもなく主人公くんとヒロインちゃん(仮)は二人っきりの時間を過ごしていく。
え? どうしてヒロインちゃんに(仮)を付け足したのかって? ……いやだってこの子ちょっと口が悪すぎない? どうしちゃったんだろう。実は男性不信のガチレズだったりするの? 主人公くんって日夜スーパーの半額弁当を巡って殴り合ってたりしない? もしくはヒロインちゃん(仮)がお兄様にしか興味がないブラコンだったりとか……。
『なぁ、雪ノ下。なら、俺と友』
『ごめんなさい。それは無理』
無理かー。一刀両断ですかー。あれこれ望みある? わりとバッサリ切り捨てられちゃってるけど……。打ち切りにならないってことは、まだ大丈夫なんだろうけど、それにしたってお互いに好感度ゼロだもんなぁ……。
主人公くんも割かし面倒な奴だと思ったけど、このヒロインちゃん(仮)も大分メンドくせぇ感じがするし。もうさ、主人公くんの妹ちゃんとの禁断ENDでいいんじゃないかな。妹ちゃんも何だかんだでブラコン臭いし。舞台も都合よく千葉県だし。俺の担当する主人公くんの妹がこんなに可愛いわけがなーい!
* * *
そんな風に現実逃避していたある日。
『な、なんでヒッキーここにいんのよ!?』
『……いや、俺ここの部員だし』
部室に依頼者がやってきた。つーか、あの入学式のときの飼い主ちゃんだった。あれ? ここにきてまさかのフラグ回収? やっぱりこっちがヒロインだった的な?
『見た目はあれだけど……食べてみないとわからないよね!』
『そうね。味見してくれる人もいるわけだし』
『ふははは! 雪ノ下。お前にしては珍しい言い間違いだな。……これは毒見と言うんだ』
俺がどちらのヒロインをヒロインちゃんと呼ぶべきかそもそもヒロインの定義ってなんだっけヒロインヒロヒロヒロヒロリーンとヒロインがゲシュタルト崩壊しそうになりながら思案に暮れていると、なにやら三人揃って木炭みたいな黒い塊を前に不穏な会話をしていた。状況を鑑みるに、なにやらお菓子作りでもしていたみたいだけど……。なんで木炭錬成してんだろ。え、食べるの? 正気? いやいやいや、原材料が食用可能なものでも組み合わせ次第では毒にもなるからね!? それ以前に炭化したものは基本口に入れちゃダメ………………食中毒ENDってどういうことなんですかねぇ(震え声)。
それから幾度かのトライ&エラーの末、致死性の高い食品組み合わせパターンを特定した俺は、神としての権能をフル活用して飼い主ちゃん(毒属性)のポイズンクッキングを全力で妨害した。どうして砂糖とアーモンドを混ぜ合わせただけで青酸カリを生成できるのかと小一時間ばかし問い詰めたい。食べ合わせだとか化学反応じゃ説明つかんだろ。なんなの? この世界の人間は全員なにかしら呪いにでもかけられてるわけ? ファイナルなデスティネーションなの? 運命の殺意が高過ぎて心が折れそうです。
『……ヒッキーも揺れんの?』
『あ? あーもう超揺れるね。むしろ優しくされただけで好きになるレベル。っつーか、ヒッキーって呼ぶな』
過去最高に全力を尽くした俺の頑張りにより、どうにか無事に依頼は完了したようだった。
だが俺はそれどころじゃない。この物理と精神の両面で致死率が高いヒロイン候補たちにひどく困惑していたのだ。これ飼い主ちゃん(物理)がヒロインだったら主人公くんは遠くない未来に食中毒で死んじゃいそうだし、かといって部長ちゃん(精神)の場合は鬱を患って自殺しちゃいそうだし。じゃあ主人公くんには問題ないのかと言えば、コイツはコイツで高二病を拗らせて厄介だし。青春ラブコメってなんですか(哲学)。
なんなのもう俺に課題をクリアさせる気あるの? 安易にラブコメ展開に走ると即バッドエンドって酷くない? 誰か攻略Wikiかチャートはよ(死活問題)。
「つーか、良く考えたら飼い主ちゃんの依頼って、主人公くんへのお礼だよな。本人まったく気づいてないっぽいけど。つーことは、一番簡単なのは飼い主ちゃんルートで安定? たとえメシマズ属性だとしても飼い主ちゃん可愛いし、おっぱい大きいし、ちょっとアホっぽいけど良い子そうだし。なら主人公くんへ告白さえさせちゃえば……上手くいく未来が見えないのなんでだろう」
あれれー? おかしいぞー? と脳内でメガネをかけた胡散臭い小学生が声を上げる。
普通、こんな可愛い子から告白されたら大抵の男はOKすると思うんだけど、この主人公くん普通じゃねえしなぁ……。現にお見舞いイベントのときも即座にフラグへし折ってたし。これでもし飼い主ちゃんが事故の当事者だって知ったら、絶対に碌でもない展開になるな。間違いねーわ。なら打ち明けたさげな飼い主ちゃんには悪いけど、暫くは事故の件は黙ってもらう方針にしよう。もし喋っちゃいそうなら全力で介入して阻止する。それでいこう。そうしよう。
『おい、その辺で──』
『るっさい』
とりあえずの方針を決めた俺は、その後もちょいちょいと介入しながら主人公くんを見守り続けた。
飼い主ちゃんが教室で金髪ドリル(以下、あーしちゃん)から詰問されてるときは、神様式虫の知らせ術で部長ちゃんを二年F組へ誘導したり──
『で、あれって何のパクリ?』
『ぶふっ!? ぶ、ぶひ……ぶひひ』
せっかく部員が三人に増えた(疑惑)ので、依頼者として中二病な不審者(以下、中二くん)を神様式枕元のお告げ術で部室へと誘導したり──
『ぼく、男なんだけどなぁ……。そんなに弱そうに見えるかな?』
『え』
『……証拠、見せてもいいよ?』
いいぞもっとやれと歓声を上げてしまったオトコの娘(以下、天使ちゃん)の登場に悟りを開きながら主人公くんの青春を応援していた(解脱)。
そして今現在はどんな状況かと言うと……、
『HA・YA・TO! フゥ! HA・YA・TO! フゥ!』
よく分からない展開からいつの間にか金髪貴公子(以下、イケメンくん)とあーしちゃんペアとのテニス勝負な流れだった。
……おい、ふざけんなよ。天使ちゃんの練習邪魔すんな。そんなことは神が許しても俺が許さん。あ、俺が神様(見習い)じゃん。よっし、天罰落とすぞゴラァ!? と俺が息巻いてる間に事態は思いもしない方向へと進んでいく。
『あ?』
『やるって言ったの!』
『由比ヶ浜? バカ。ばっかお前、やめとけっつーの』
『バカとはなによっ!』
主人公くんが、自然にラブコメしてる……だと? おい、おいおいおいおいおい!? きたか! 遂に来たかこの流れ!!
いいね。いいね。最ッ高だねェ! 後押しするぜェ。超押すぜェェェ! 選べよォ、主人公くん。強風からのパンチラか? 転倒からのパイタッチか? Toラブるなハプニング起こしてやるぜェェェェ!!
「……待てあわてるな。これは死神の罠だ」
思わぬ展開に色めきたってしまった俺だが、これまで潜り抜けてきた(主人公くんの)死線の数々を思い出し、冷静さを取り戻す。
もしここで調子に乗り、安易にラッキースケベ的なイベントで介入したら即バッドエンドだろう。幸いテニスで人は死なないだろうし(パワーワード)、ここはぬるっと生温く見守ろう。……決してテニスウェアな飼い主ちゃんカワイイがんばれとかそういうことじゃない。どちらかと言えば天使ちゃんの女テニウェア姿が見たいです(世迷言)。
そうして始まった主人公くん達のテニス勝負。その結果がどうだったかと言えば──
「テニスで人は死なない………………そんなふうに考えていた時期が俺にもありました」
目の前で流れた映像に、俺は頭を抱える。
飛び交う血潮、飛び散る肉片、乱れ飛ぶ骨片、そのどれもが俺の知っているテニスとはかけ離れた光景だった。
『リズムにのるし!』
『……葉山キングダム』
『──────ぼっちドライブ』
『う、え? えぇ……っ!? えーと、えーと…優しすぎるぞーーっ!!』
主人公くん、それテニスやない……テニヌ(R-18G版)や。
テニヌ半端ないってもぉー! テニヌ半端ないって! 後ろ向きのボールめっちゃ貫通するもん(物理)。そんなん予想できひんやん普通、そんなんできる? 言っといてや、テニヌするんやったら……。
そんな感じで軽く絶望しつつ、もはや熟練と言っても差し支えない神通力捌きでサクサク介入し、入学式から今日まで主人公くんを生き残らせてテニス勝負の辺りまで話を進める。……恋愛はサバイバル(真理)。
『この馬鹿騒ぎは何?』
『あ、お前、どこ行ってたの? っつーか、その恰好なに』
保健室とは明後日の方向で迷子になっていた部長ちゃんを神様式道標術で保健室へと誘導し、突然テニスコートから走り去ってしまった飼い主ちゃんと合流させてみた。案の定、部長ちゃんが代役として参戦することとなり、テニス勝負は佳境へと差し掛かる。え? どうやってテニヌをテニスへと修正したのかって? ……世の中には知らない方が幸せなことだってあるんだよ(意味深)。
そんなことは置いといて、テニス勝負である。
部長ちゃん強い! 奉仕部チーム圧倒的です!! あーしさんチーム頑張ってください(運動会風)。
俺が「フハハハハハ! 圧倒的じゃないか我が軍は! 薙ぎ払えーっ!」っと中二くんとシンクロしながら楽観していると、突如として部長ちゃんが座り込んでしまった。
『……私、体力にだけは自信がないの』
うそーん。そこはもうちょっと頑張ろう? ほらやれる! 君ならやれるって!! 熱くなれよっ!!! 今にも燃えつきそうな生命だってHP1で粘れば何とかなるから(スゥーパァァーースキャアァァン!!!!)
『知ってる? 私、暴言も失言も吐くけれど、虚言だけは吐いたことがないの』
ここまできて、またもや課題失敗かと俺が諦めかけたとき、画面の向こうからそんな声が響いてきた。
見れば、ボールを手に不敵な笑みを浮かべる主人公の姿が……。
おい、マジか……? 今度こそ信じてもいいのか? もうお約束なんていらねーぞ?
祈るような俺の想いが届いたのか、主人公くんの放ったサーブは風に乗り、フラフラと宙を舞ってイケメンくんとあーしちゃんの意表をつく場所にポーンと間抜けな音を響かせてバウンドした。
『ありえないし……』
『やられた……本当に「魔球」だな』
さ、さすが主人公くん! 神様(見習い)にできない事を平然とやってのけるッ そこにシビれる! あこがれるゥ!
「……決めた。今回はもう俺は介入しない! 任せたからな、主人公くん!! 本当に任せたんだからな!! フリじゃねえぞ!!!」
これまで主人公くんや部長ちゃん、飼い主ちゃんに向けて色々と悪態ついてきたけど、不平不満をぶちまけたりしたけども、それでも俺はコイツらの青春を何百回と見守ってきたんだよ。
あの人の顔色ばかりを伺ってた飼い主ちゃんが、これだけの衆人環視の中で一歩、踏み出したのだ。
あの冷たい罵倒で何人も寄せ付けなかった部長ちゃんが、部員である二人に一歩、歩み寄ったのだ。
「はじめは皮肉のつもりで”主人公くん”なんて呼んだけどさ、訂正するわ」
俺はボールを握り締めたままイケメンくんと会話する主人公くんをしっかりと見据えて、口の端を吊り上げる。
「ここで決めなきゃ男が廃るぜ。この世界の主人公は間違いなくお前なんだ。だから…………決めろよ、”八幡”!」
やれ、やっちまえ! やるっきゃないぜ、八幡! ハートだって磨くっきゃない! とべよぉぉぉおおおおお!!!
そんな俺の絶叫に応えるように、画面の中の八幡がテニスボールを天高く放り投げる。
『っ! セーシュンのばかやろおぉーーーーーーっ!』
それはそれは見事なキャッチャーフライが、試合を決めた。
* * *
結論から言えば、八幡たちは試合に勝って勝負に負けた感じになってしまった。
『かっ、ったく、葉山がなんだっつーの。俺だって生まれと育ちが違ったらああなってたっつーの』
『それじゃ別人じゃない……まぁ、あなたは本当にリセットしたほうがいいと思うけどね』
『……で、でもさ。その、ヒッキーだからよかったっていうか、その……。それが良くなくもない、というか……』
けれど、俺にとってそれは、大金星に他ならない。賭けに勝ったとも言える。
俺はニヤニヤと弛んでしまう自分の口元を手で抑えながら、静かに天を仰ぐ。
「あー、もう。何なのコイツら……。もうホント、もうったら、もう!」
少しずつでも……いや、少しずつでいいのだ。
世間一般の常識からズレていたとしても、どんなに周りから間違っていると言われても構わない。彼ら彼女らのペースで、八幡と部長ちゃんと飼い主ちゃんの三人で、青春を謳歌すればいい。
「……とは言え、これ一年とかで決着つくかな? 高校卒業ぐらい迄にケリつけてくれると助かるんだが。まさかの大学生編とかヤメてよね」
そんな風に苦笑しながら、俺は微笑ましい気持ちでディスプレイへと視線を戻す。
『比企谷くん。……あの、ありがと』
『俺は別になんもしてないよ。礼ならあいつらに……』
天使ちゃんにお礼を言われて、軽く動転しながら(わかりみが深い)周囲をキョロキョロしていた八幡がテニス部の部室脇に近寄った────そのときだった。
『ゆきのし……あっ』
「あっ」
奇しくも、俺と八幡の台詞がシンクロした瞬間だった。
《 課 題 失 敗 》
アイエエエエ! ラケット!? ラケットナンデ!?
ちょ、おまっ、ふざ、ふっ、ふふふっふっざけんなよぉぉぉおおおおおお! 確かにラッキースケベ的なイベントはラブコメの王道だけどさ、そこはちょっと空気読めってーーーー!
「最後の最後でラケットの当たり所が悪くてバッドエンドってなんだよチクショォォォ!?」
あまりのショックに地面へと両手をついて慟哭する俺。
しかし、そんな俺に構うことなく、画面に映る八幡は鼻歌なんて歌いながら自転車を漕ぐ姿で再登場。また……? また入学式からやり直すの?
「あはっ、あはははは……」
自分でも分かるくらい頬を引き攣らせて乾いた笑みを浮かべながら、俺は画面越しで今まさに迫りくる車へと飛び込もうとする八幡へ神通力を使用しながら思うのだった。
──やはり俺が担当している青春ラブコメはまちがっている。