起きたらドデブスの魔女に生まれ変わっていた俺の話、聞いてくれる?   作:サイスー

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アスター

 

 俺の日課には筋トレと有酸素運動、借金返済と魔法薬作りがある。そこに最近、高位魔法薬作成の修行が加わった。

 王妃様に納品するのだし、なんて。

 責任感のような義務感のようなものもある。

 今の実力を認めらたからこそのオーダーなのだから、きっと問題はないのだろう。

 だが巷でのグラジオラスの魔法薬を作る腕は相当高いと認識されている。そんなグラジオラスが王妃へ納品するのに、薬を作る腕が現状維持、というか正確に言うと俺がグラジオラスのなかに入り込んだことで、以前より低くなっているのだ。このままではいかん、と思ってしまったのだ。

 悲しきかな、俺は根っからの社畜である。面倒くさがり屋のくせに変なところ真面目な社畜なのである。

 

 昔のグラジオラスの腕を期待して、高位魔法薬の作成を依頼してくる客だってそのうち出てくるだろうし、腕を磨いておくにこしたことはない。

 言うのは簡単だが、毎日こつこつと練成し、成果が目に見えないというのは結構怠いものもある。

 ダイエットや筋トレと一緒だ。一日二日じゃ成果はでない。

 やるべきことを、ただやるだけ。簡単なことだ。

 ……思うだけなら。

 

「はぁ」

「重いため息ばかり吐いてないで、何か言ったらどうです?」

「ん〜? なんだろな。やる気が出ない?」

「いつものことではありませんか」

 

 グサリと正論が飛んでくる。

 

「違うんだって。魔法薬の練習のやる気は格別に出ないんだ。

 例えるなら、やろうと思っていたことを嫌なやつにいますぐやれ、って命じられて、別にいますぐやるべきことでもないし、ものすげぇ気乗りしなくなってやっぱやるのやめよっかな、って気分になることあるじゃん。あんな感じのやる気の出なさなんだよ」

「そこまで頑張ってやる気の出なさを熱弁しなくとも、その熱量を行動に向ければよろしいのでは?」

「かぁー! 聞いといてなんだその言い草は」

「何か言ったら、とは申しましたが、慰めるとは一言も申しておりませんので」

 

 カロスはワインレッドの瞳を細めて柳眉を曲げ、やれやれとでも言うように肩を竦めている。すらりとした体躯と、縁起めいたその仕草が妙に様になっている。

 

 大丈夫、別に俺もカロスが慰めてくれるとは思ってなかった。露とも思ってなかった。

 

 筋トレとダイエットは少しずつ成果も出てきて、楽しくなってきたんだよな。

 余分な脂肪が日に日に、知らず知らずのうちに少しずつ減っていって、着々と筋肉もついてきた。日常生活が少しばかり楽になった。

 ジョギングはいまでも変わらず辛い。辛いことしてるんだから、そりゃ辛い。でも、辛いなかにも以前よりも楽な部分を見つけたりして、それが少しばかり嬉しかったりする。

 ふにょんふにょんだるんだるんでウォーターベッドみたいだった身体が、自分でもわかるくらい明らかに引き締まってきたのだ。これは結構感動である。脂肪の柔らかさだけじゃなくて、芯のところに筋肉の弾力があるのだ。

 肌も自分で作った基礎化粧品で毎日の手入れを欠かしていないおかげでつやつやのぷるんぷるんだ。

 

 魔法薬作りの修行をはじめてそれほど経っていないのに、既にやる気をなくしつつあるのは、ダイエット以上に魔法の修行は成果が見えづらいからだと思う。

 

 1日の最後にまわすと結局やらない日ができそうで、1日の一番初めに修行することにしている。

 朝起きた瞬間からやらなくちゃやらなくちゃと思ってはいるのだが、既に起きてから3時間も経過した。

 

 朝から心のなかで繰り返しため息をつき、違うことをして、再びやらなくちゃという気持ちが首をもたげては――

 

「はぁ」

 

 本物のため息をつく繰り返しだった。ダメダメだな、俺。

 

 なぅん、と身体をこすりつけてきたフリージアのふわふわの毛並みに癒される。

 無理しないで。そう言われているような気がするのはどうしてだろうか。

 

「お前は本当に優しい子だなぁ」

 

 指先で喉元をくすぐるように撫でる。

 

『優しいのはオレじゃなくて主人(あるじ)なんだよ』

「…………?」

 

 気のせいだろうか。

 俺はキョロキョロと辺りを見回した。誰かがフリージアにアテレコした? いや、オレ以外にこの部屋にいるのはカロスしかいない。カロスはそんなことしない。したらしたでちょっと面白いけど、声色も違ったし。

 カロスは俺の視線を受けてこちらを見る。その表情からして、先ほどの声は聞こえていなさそうだ。

 俺はフリージアに向き合った。カロスに馬鹿にされないよう、こっそりと耳打ちする。

 

「……いま喋った? フリージア」

「なぅん♪」

 

 尻尾をふりふりしつつ、俺の手のひらに顔を擦り付けてくる。

 がんばれがんばれ、と応援してもらっている気分だ。

 よし、やるぞ! 俺は変わるって決めたんだ。

 

「そうかそうか。ありがとうなーフリージア。よし……俺、そろそろ頑張るよ」

 

 さっき喋ったのは気のせいだな。俺は思考を切り替えた。

 魔界の猫は話すのだろうかと一瞬思ったが、街を散策したときに見かけた猫は、フリージアほどの知性は感じられなかった。たぶん、言語を解したり、ましてや話したりする能力はないと思う。

 

 どっこらせ、と椅子から立ち上がり、俺はようやく高位魔法薬のレシピを開いた。

 

 この修行の後にはいつもの日課が残っている。早いこと修行を終わらせないと。

 やらなくちゃやらなくちゃとずっと思っていた心の焦りが少しずつ心に積もっていたせいか、身体の動きがようやく追いついたことに心が爆発的に反応する。

 早く早く、早く。心が身体を急き立てる焦燥感でレシピを見る目が文字の上を滑っていく。ろくに頭のなかに入ってこないのを必死こいて脳に刻みつける。

 

 煩雑な手順だ。ひとつひとつ集中して、レシピ通りに魔法薬を作っていく。

 魔力量は毛糸一本分ほどの量を常時揺らぐことなく注ぎ続ける。

 火加減も工程によって微量に違っていて、その温度差もまた成功するか否かを分ける大事な要素だ。

 丁寧に裏ごししたジゴクタケ(地獄に生息する真っ赤なキノコだ。そこそこ希少性が高い)を最後に魔力とともに少しずつ加えていき――出来た。

 完成品はこういうものだ、と書かれているレシピ本のそれとは一致しない。

 本来ならば色は薄紫色になる。

 目の前にあるのは、綺麗なレモン色。ハッハー! 失敗だ。

 

 失敗した魔法薬を使うことほど恐ろしいことはないので、きちんと廃棄ボックスに入れておく。

 何が悪かったのだろう。こういうときに適切な助言をくれる師匠がいればとても心強いのに。

 

 せっかく魔法薬を作る練習をしたので、次はその流れでオーダーの品を作っていく。

 どこから知れたのか、王妃様から直々に魔法薬を献上することを許されたと評判になり、次から次へとオーダーが舞い込んでいる。それらのほとんどは王妃様にお渡しした基礎化粧品で、高位魔法薬とは難易度が全然違う。

 よそ見をしていても作れるくらいに簡単だ。もちろん商品なのでよそ見なんてしないけど。

 魔法薬なんて不思議なものが作れるんだから、きっと高位魔法薬だってそのうち作れるようになるはずだ。

 

 合間合間ではカロスが食事や間食の差し入れをしてくれる。会話の応酬をすれば実にいやみったらしい男だが、細々した気配りは一級品だ。

 

 ゴキ◯リを見るような目で俺のことを物言いたげに見ていることはあるけど、俺が自分から重い腰を上げて物事をはじめるまで絶対に急かしたりしないんだよな。

 

 それからは黙々と集中して魔法薬を作り続ける。

 単純作業は嫌いじゃなくなった。

 コツコツした作業は年を経るごとに得意になっていった。昔は反復作業のようなつまらなさを覚える繰り返しが嫌いだったんだけど、今はそれが結構心地よい。

 

 作業を始めて早5時間。手元の時計を確認した俺は大きく伸びをした。

 

「あーーーーーつっかれたーーーー! あ、そうだ」

 

 ダリアに連絡しないとだった。

 人に連絡をするというのは、俺にとってちょっとばかし腰が重いことだ。ついつい後回しにしてしまう程度に、だけど。

 

 令和の世の中はとても便利だった、とつくづく思う。スマホさえあれば好きなときに連絡ができて、調べ物ができて、暇つぶしができた。電話をしなくても、ちょっとしたメッセージを送ればよかった。

 

 ダリアに連絡を取りたいのにスマホがない。

 会って聞かなければならないことがあるのに、連絡手段が手紙しかないのだ。

 そういえば、火急の要件の際はどうすればいいのだろう。スマホがない時代の日本人ってどうやって連絡を取り合っていたんだ? 飛脚? 電報?

 

「不便な世の中だなあ……魔界」

「貴女の脳内はいつもやかましいですね。

 何にお困りですか?」

 

 カロスがルビーのような目を細めて聞いてくる。

 心を読めるカロスは俺の垂れ流しの思考回路を全部見ているのだ。

 認めよう。俺の思考は結構うるさい。四六時中物事を考えている。俺だって考えていて疲れることがある。けど勝手に考えちまうんだから仕方がない。

 カロスは俺の思考を勝手に読んで勝手に疲れているんだから、まあ御愁傷様としか言いようがない。

 

「魔界で誰かと連絡を取りたいときってどうしたらいいんだ? カロエモン」

 

 困ったときにはいつでも助けてくれる、便利なカロスに聞いてみる。

 部屋を黙々と掃除していたカロスは俺の謎の呼びかけに眉根を寄せつつ「モカラを呼んで伝えさせればよいのでは?」と俺でも思いつきそうなことを言った。

 

 たしかに。

 以前カロスは窓際に置いている水晶玉に話しかけていたっけか。

 俺が忙しくしている間、窓際でフリージアが小さな白毛玉のように丸まってお昼寝をしていた。横長の毛玉だが、もっとぎゅっと丸まればニヒムに見えなくもないな。

 窓際に近寄った俺はもふもふとフリージアの背中を撫でつつカロスに聞く。

 

「この水晶玉に話しかければいいのか?」

「はい。通販と直通になっていて、誰かしらが寄越されるようになっているのですが、この家には基本モカラが来ます」

「別の人が来ることもあんの?」

「ございます。が、名前を指定すればそのようなこともなくなります」

「なるほど。通販と直通なんだったら、モカラに伝言させて……なんつーか、通販的にはいいのか?」

 

 本来であれば通販の品物を買ったり売ったりする際の運び人のような立ち位置だと思うのだが。

 俺の疑問に対して、カロスは赤い瞳を真っ直ぐにこちらへ向けたまま小さく頷いた。

 

「大元である魔法陣通信販売へ金が支払われたのちに、モカラへと配当されるので問題ありません」

「魔法陣通信……」

 

 そんな名前だったんだ。いや、そこはどうでもいいか。

 そんなこんなの会話をしているうちに、するりと窓際へと移動したカロスが水晶玉に魔力を込めて「モカラ、伝言の依頼を」とやたらいい声で囁く。なんかいちいちムカつくんだよな。いい声の押し売りって感じで。

 

 しばらくすると、魔法陣が光る。そうして現れたのは、一枚の紙だった。前回みたいにすぐにモカラが現れるかと思いきや、2とだけ数字が書かれたピンクの紙だ。

 

「なんじゃこりゃ」

「おや珍しい。モカラ待ちがあるようです。貴女の前に1人待っているということです。

 他の者ならばすぐに対応できるでしょうが、どうします?」

「ダリアへ伝言を頼みたいからモカラがいい。待つよ」

「おや。ダリアであれば早く言ってくださればいいのに。彼女の家とこの家は転移陣を繋いでおりますから」

 

 転移陣といっても人が移動できるほどの規模ではなく、物しかできないらしい。

 人が移動できる魔法陣は、基本的には王家と、王家から許可を受けた魔法陣通信の専売特許となっているのだという。

 

「わたしほどの力があれば転移陣などなくとも、転移することは可能ですがね」

 

 魔法陣は万人が使える力だから、制限をかけている。

 だが、個人の能力として転移する分には制限はないのだ。

 転移は高度な魔法に位置付けられており、魔界で転移の魔法を使えるのは一握りの存在だ。もちろん俺には使えない。

 

「お前は自分の力を誇示しないと死んじゃうの?」

「以前も申し上げた通りの理由でございます。

 継続は力なり。日々の努力を惜しまず、主人様のつるつるの脳みそにわたしの有能さを刻んでいるのです」

「はいはい、わかったわかった、すごいすごい」

「初めからそうやって認めていればいいのですよ」

 

 ふふんと胸を張るカロス。ムッとするがそれを出したら相手の思う壺だ。俺は気にしていない風を装った。

 

「でもモカラも転移できるじゃん」

「あれは転移しかできないのですよ。

 息をするほど当たり前にできる固有魔法が希少な転移だっただけのこと。珍しくはありますが、凄くはありません」

 

 固有魔法というやつと、普通の魔法はまた違うらしい。

 

 くぁぁ、とアクビしたフリージアが俺たちのやりとりを不思議そうに眺めている。くりくりのサファイアの眼に見つめられると、なんだか大人気ない自分が恥ずかしくなってきた。ちっちゃいことで腹を立てない、おっきな器の人間になりたいよ、俺は。

 

 ていうかカロスが転移できるんだから、カロスに手紙持っていって貰うのでもよかったんじゃないの?

 

 モカラを魔法陣通信で既に呼んでしまった後だから、一応待っていたのだけれど、もうそろそろ5分は経つか。

 

 最長でどれくらい待つことがあるんだろう。そう思ってカロスを見る。

 瞬間、魔法陣が光った。

 

「長らくお待たせしております。魔法陣通信のアスターと申します」

 

 ぼふん、と煙とともに魔法陣から現れたのは初めて見る双子だった。同じような背丈のが二人いる。

 首元でさっぱりと切り揃えられたおかっぱ頭。

 見た瞬間に双子だとわかった。容姿は極めてよく似ており、表情の違いこそ大きいが、髪の色が濃いか薄いかの違いしか見た目の違いはない。

 

 アスターと名乗ったのは、濃紫色の髪をした子どもだ。日本でいえば小学生くらいの大きさだ。

 

「こっちはシオン。オレの妹です」

 

 アスターがハキハキとした物言いで紹介してくれる。

 どちらかといえば白よりの、薄い紫色の髪の少女がぺこりと頭を下げた。

 二人とも瞳の色は綺麗な黄色で、猫のようなつぶらな瞳だ。アスターのほうは黄色い瞳を爛々と輝かせているのだが、シオンは眠たげに目を細めていて、パーツは驚くほどにそっくりなのに全く違う顔のようにも見える。

 

「ご要望いただきましたモカラが今しばらくお時間を頂戴しそうでして。

 ご迷惑をおかけし、大変申し訳ございません。代わりに、我らでよろしければ割り引いた価格で引き受けさせていただきます」

 

 アスターがスラスラと話す。シオンはアスターが話した後に首を縦に振った。

 

「わざわざ来てくれてありがとう。せっかくだけどモカラにお願いしたい内容だったから……。今回はキャンセルでも構わない?」

「もちろん構いません。

 お待たせした挙句、ご要望を叶えることができず誠に申し訳ございません。

 わざわざ来てくれてありがとう……だなんて、言われたの初めてで、ちょっと戸惑ってます」

 

 頰を染めてアスターがそう言い、シオンもまた頷いた。

 俺からしたらそこに反応されるとは思ってもみなくて、内心驚いた。社交辞令というか、大抵の日本人はそう言うと思うし。

 喜びを隠しきれない様子のアスターたちがなんだかいじらしい。小学生のような見た目も相俟って余計に。

 

「もしよかったら、提案なんですけど。

 モカラがいないときの代理にオレたちを指定してくれませんか?

 自分で言うのもなんだけど、オレたちは結構評判が良くて、人気が高いんで、オレたちを指名したがる人も多いんですよ」

 

 うんうん、とシオンが頷く。

 

「一番はモカラじゃなくて、オレたちを専属にしてもらうことなんですけど……」

 

 ちらりと上目遣いにこっちを見てくる。あざとかわいいってやつだな。

 俺は無条件の好意には警戒を覚えるタチだ。

 

「……それまたどうして?」

「オレ、貴女の魔力すっごく好きなんです! なんならオレたちともじゅ――」

「アスター?」

「カリステファス様! 大変失礼いたしました。ちょっと口が滑りました」

 

 ぎょっとした様子で丁寧にカロスに向き合って、シオンは腰からぺこりと綺麗なお辞儀をした。そして再び俺に向く。

 

「従魔の件は無理でも、モカラの代わりの件は本気で考えておいてください。

 オレたちは結構役に立ちますよ。それじゃ!」

 

 言うだけ言い、二カリと眩しい笑顔を残してアスターとシオンは消えた。

 

「……すごかったな」

 

 残された俺はポツリと呟いた。

 

「そうでしょうか?

 貴女が色々と人に遠慮をしすぎているだけで、悪魔なんて基本あんな感じですよ」

 

 そうなのか。魔界では俺が少数派なのか。

 長らく日本で生きてきた俺からしたら、なんか色々と勢いが凄く感じた。

 あと、勘違いだとは思うけど、俺のこと好き好きオーラも凄かった。初対面なのにそんなに相手のことを好きだって気持ちを全面に出せるのもまた凄い才能だと思う。

 あれが人類皆友達マインドの根っから陽キャってやつなんだろう。

 

「俺の魔力ってそんなに凄いの?」

「魔力の量も質も、かなり高いです。元からよかったですが、最近は特に」

「へえ」

 

 カロスが素直に褒めてきて、普通にびっくりした。びっくりしすぎていつもみたいに返事できなかった。

 

「貴女の魔力の恩恵を受けているニヒムも喜んで薬草を献上してくるようになったではありませんか」

 

 ……そうなのだ。最近薬草畑に行くと、マッシロシロスケがピカピカの薬草を持ってきてくれるのだ。

 もしかしてこれも、ダイエットや魔力の修行の成果だったのか。

 だとしたら、ちょっと嬉しいな。俺の努力は、きちんと明日に繋がっているんだ。

 明日もまた頑張ろう、とちょっとだけ思えた。

 

「言っておきますが、わたしは貴女の専属従魔です。この立ち位置を誰かと譲り合う気はありません。

 それこそ貴女が気に入っているモカラでさえも許す気はありません」

「……うん、まあ、俺としても別にお前以外の新しい人を、なんて考えてないけど」

「そうですか。それならばよろしいのです」

 

 満足気に頷いたカロスは再び掃除に戻っていった。

 俺は首を傾げ、ダリアへと手紙をしたためる。

 

 結局ダリアには、転移陣で手紙を送ることにしたのだ。

 始めからこうしておけば無駄はなかったが、なんだかんだ色々あったのも楽しかった。

 

 それにしてもモカラ、呼んだらすぐに来てくれるイメージだったけど、忙しいこともあるんだな。何してるんだろ。

 

 





「酷いですー!! モカラに嘘の場所を教えたですね!?
 魔法陣が発動しないからおかしいなあとは思ったですけど……騙すなんて酷いですー!!! しっかり転移先の魔女さんに怒られてしまったですー!」

 魔法陣で戻っていったアスターたちは、待ち構えていたモカラにポカポカと殴られる。

 モカラへ依頼が入ったことをいち早く察知したアスターが、モカラに待ちが発生していると偽りの情報を流し、モカラにも偽りの場所への依頼を頼んだのだ。
 自分の正規の依頼を素早くこなして、なんとか捻出した時間でグラジオラスのもとを訪れた。
 アスターたちが人気なのは、嘘ではないのだ。

「ごめんごめん。ちょっと重要な依頼の絡みで、グラジオラスのことをどうしても一度見ときたかったんだよ。
 ……まあ、カリステファス様が従魔に下ったって聞いた時から興味はあったんだけどさ」
「モカラもグラジオラス様にお会いしたかったのにー!!」
「埋め合わせはするから」
「むぅ……!」

 謝ればすぐに許すモカラがいまだにむくれている。シオンが意外そうにしながらぽんぽんと頭を撫でた。
 するとモカラが眉尻を下げた。

「……グラジオラス様はどうでしたか?」

 モカラはグラジオラスの様子が知りたかった。
 最後に会った時、彼女はとても落ち込んでいるようだったから。
 モカラはグラジオラスが元気そうだったならば、アスターの奇行、もとい自分への意地悪を許そうと思っていた。

「うん、いいね、彼女。あの魔力ならばカリステファス様が従魔に下るのもわかる気がする。魔法薬を作る腕が心配されてたけどあの様子なら大丈夫だろうし、アレはネモフィラじゃなくてグラジオラスに依頼した方がいいって王に進言しようと思ってる」
「モカラはそんなことを聞いたんじゃないですー!」

 むきー! と両腕を威嚇するように挙げたモカラに、どうどうとアスターが片手を前に出し、モカラの額をおさえる。

 シオンはモカラの勢いにびっくりして、モカラの頭を撫でていた手を引っ込めた。

「えぇー、何が知りたいのさ」
「グラジオラス様はお元気そうだったですか?」
「まあ普通に元気そうだったけど……そんな気になるなら会いに行けばいいじゃん」
「あそこの場所には高位結界が貼っているから魔法を使って行くなら呼ばれないといけないのに、アスター先輩が取っちゃったんじゃないですかー!!」

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