【助けて】呼吸使えるけど、オサレが使えない【転生】 作:ぬー(旧名:菊の花の様に)
「しゃべるインコ……」
「オニイチャン! コンニチハ!
ナマエハ?」
「あ、俺の名前は源氏。
よろしく」
「ヨロシク! ゲンジオニイチャン!」
「おいおいこいつ意思疎通できてるやんけ」
「……もらったインコだ」
「端折り過ぎじゃない?! 説明?!」
啓吾のツッコミに同意しながらも、別にこんなインコ一つに何かあるわけでもないし、というか俺の預かり知らぬことなので、戯れる。
「名前はシバタ、だったよな?」
「ボクノナマエハシバタ!」
「そうかそうか。
何か食べるか?」
俺は手持ちに何かないかと探す。
パンとかあったらいいんだけど……
「啓吾、パン少し分けてやらない?」
「え? 俺の昼飯だけど……」
「たかだかインコに分ける分くらいけちんな。
焼きそば食えないからパンの部分だけだよ」
啓吾からパンを一つまみもらい、インコに分け与える。
「アリガトウ!」
「おうよどうぞどうぞ」
にしても、このインコ意思疎通が取れすぎてるな。
しかも、気配が鳥っぽくない。
気配察知とかは得意じゃないけど、森で修行していたからか、動物の気配は基本的に察知できる。
鳥とかは結構わかりやすいから、目の前のインコもそうかと思っていたが、何か違う。
まるで複数の人間の霊が……
「源氏! 俺も上げてみたい!」
「……いや、お前の焼きそばパンなんだからお前が上げろよ」
「確かに!」
啓吾の言葉に思考が遮られるが、振り向いた瞬間に見たのは、一護と朽木さんの姿。
何か二人だけでコソコソと話していた。
……あぁ。
何か分からないが、何かが起こることは理解できた。
「ほーれ、いんこちゅわん、パンですよー」
「ボクノナマエハシバタ!」
「なんかやけに人間みたいな名前だね」
「……飼い主のもとに返してあげたいと思っている」
「あ、迷子……鳥なんだね」
水色が少し言い淀む。
啓吾はなんかインコの好感度を下げたのか、餌をもらってくれていない。
なんだ、あいつは嫌われる星のもとにでも生まれたのか?
「今日は、こいつの飼い主を探しに行こうと思っている」
「俺の方でもいないか聞いてみるよ。
隣町から飛んできた、ってのも考えられるし」
「僕の方でも探してみるよ。
こういう鳥って女の人飼いそうだし」
俺と啓吾の笑顔がひきつるが、スルー。
こいつにこの程度のことで腹を立てていればきりがない。
というか水色的にはこういうのは悪意を持っていっているわけではないので、突っかかるほうが悪い。
そんな会話を繰り広げていると、昼休みは終わる。
インコか。
鳥って飼ったことないから分からなかったけど、結構かわいいもんだな。
☆☆☆☆☆
「…………」
「…………」
どうしてこうなった。
俺は、現在チャドと一緒に帰路についている。
別に俺はチャドと特別仲がいいわけではない。
たまたま同じグループに属していた、というだけの知り合いだ。
別に嫌いとか好きではなく、知らない。
知り合い程度の理解しかない間柄だった。
それが、今は仲良く下校している。
……仲良くなのかどうかはいざ知らないが。
そして続く無言の時間。
はっきり言って気まずい。
チャドのことは知らないので、何を話せばいいのか分からない。
なのでこうした無言の時間がかれこれ5分続いている。
「……ここらへんで、今日は探すのか?」
「あぁ」
会話が終わった。
俺から切り出した苦肉の会話が、一太刀で終わった。
チャドは現在、鳥の飼い主を探すために俺と一緒の道を歩いている。
俺の下校ルートは栄えている商店街あたりを抜けて行くルート。
そのため、人通りの多いところでチャドは鳥の飼い主を探すために一緒に歩いている。
チャドの片手には、みんなに見えやすいように持たれた鳥かご。
通行人は、チャドの大きさに一度驚き、そしてなぜか鳥かごを持っていることに疑問を抱く。
俺としてはなんで隣を歩いているのか不思議でたまらない。
「……鳥、好きなのか?」
「……鳥が好きというわけではない」
無言が続いたせいか、弾はまだ温存している。
出し尽くそう。
チャドのことを知るいいチャンスだ。
しかし、会話は終わる。
俺は次の弾に移行しようと頭を働かせると、
「だが」
「ん?」
「可愛いものは好きだ」
「へ?」
脳が思考を止める。
何を言っているのか理解できなかった。
入学してから今まで、俺はチャドと接した回数が少なければ、彼のことをアイアンマンくらいにしか考えてなかった。
なので、彼から出たそんな摩訶不思議な言葉に少し思考がショートしながらも、
「例えば?」
「……クマトラくん」
知っている。
うちのクラスでも一部の女子の流行りだしているキャラである『クマトラくん』。
熊の格好にトラのたてがみ、というそれ熊ライオンでは? というツッコミを喉元にしまわせているキャラクター。
確かに可愛いのは知っている。
女子と会話するために常に流行は捉えているので、知っているには知っているが……
「あれ、可愛いよな」
「……あぁ」
似合わないなぁ。
嫌似合わないだろぉ、この図体には。
アイアンマンのほうがすごい可愛く見えるよ?
「……笑わないんだな?」
「へ?」
「……俺が可愛いものを好きって言うと、大抵のやつは笑う。
笑わなかったのは、一護とお前だけだ」
……そんな思考の最中に、チャドが言葉を差し出してきた。
何やらと思っていると、そんなことだった。
笑ったほうが良かったのか? と一瞬思ったが、
「いや、別に何が好きでもいいだろ。
チャドはチャドだし」
「……あぁ」
個人的には笑うほうがおかしいのでは? と思ってしまったので、つい真面目に返してしまった。
もうちょっとおちゃらけた会話をしたいのに、チャドの前だと気が狂う。
「オニイチャンハイイヒト!」
「……そうだな」
「シバタまで……俺をからかいたいのか?」
挙句の果てまで、町中で話すなと言われていたシバタまで話し始めた。
チャドってこういうやつなのか。
見た目通りというか、優しいやつと言うか。
いいやつだなぁ。やっぱ。
「あ」
そこで、栄えている商店街付近から遠ざかるルートに差し掛かる。
ここを真っ直ぐ行くのが帰りのルート。
ここを引き返して同様にインコの飼い主を探すのがチャドのルート。
ここで分かれるというところで、チャドは止まる。
「……それじゃあ」
チャドは、なんでもない様子で引き返そうとする。
俺もそれに小さく声を返し、行こうとする。
ところで、足を止め、後ろを見る。
背中から見るチャドは、少し小さく見えた。
「手伝わせろ」
宿題は徹夜で一護に写させてもらおう。
☆☆☆☆☆
インコ探しに俺が協力してから2時間。
夜も更け、あたりは暗くなる。
栄えている付近はやめ、俺らは少し住宅街の方まで足を伸ばしていた。
流石に2時間もウロウロしているわけにも行かず、様々なところをさまよっていた。
途中警察に職質まがいのことをされたけど、俺が説明した。
チャドの説明だとやばい奴らに間違われそうになったからだ。
「いないな」
「だな」
シバタは黙ってくれている。
道中、チャドと言葉少ないながらに話をした。
別に他愛にない話だ。
好きなもの、嫌いなもの、勉強のこと、恋バナ。
残念ながらチャドは色恋とかに興味はないので俺からの話が主にだったが。
チャドはいいやつだ。
少し独特な雰囲気を持つだけで、根っこは普通のいいヤツ。
話をしっかり聞いてくれるし、待てば普通に話してくれる。
食わず嫌いは悪いということだ(違う)
「そろそろ暗いし帰るか?」
「……そうだな」
もう少し粘りたそうにしていたチャドだったが、流石にこれ以上探し回れば警察に見つかる。
俺としては親御さんに連絡とか非常にやめてほしいので(世間的にもジジイ的にも)、切り上げようとした。
場所は十字路。
チャドの家は知らないが、俺とは正反対の方向だろう。
家路につく人もまばらにいる最中、チャドと別れの挨拶をと振り返る。
「げん……」
その瞬間、俺の視界はブレる。
聞こえるのは、車の音と、鈍い衝突音と、
ヘヘヘ……
笑い声だった。