【助けて】呼吸使えるけど、オサレが使えない【転生】 作:ぬー(旧名:菊の花の様に)
Q:突然の襲撃にはどうやって対応しますか?
A:悪意を察知するのが一番だと思います。
不意打ち闇討ち大歓迎と教えられた俺だが、不意打ち闇討ちをするからこそ逆にその怖さを知っていると言っても過言ではない。
不意打ちは強い。
反撃されること無く一撃を与えることができるのだ。
有効な攻撃ができれば、それこそその後の戦闘に大幅な有利を作ることができるし、その一撃で決まれば勝利することもできる。
だからこそ、精度はまだしも気配には敏感な人間だったはずなのに、
(……車に轢かれた?)
理由が分からない。
突然轢かれた。
車の接近に気づかなかった。
人の悪意を理解できなかった。
何が何やらという感情のままいるが、俺の体は無傷である。
そう、無傷だ。
車に轢かれた瞬間にとっさの常中と受け身によって無傷でいることができた。
だけど、半ば無意識に行った行動なので、今自分がどのような体勢で、どこらへんに位置しているのかが分からない。
飛ばされた?
どのくらいの強さで?
というか周りに人いなかったか?
思考は加速し、地面から立ち上がる。
そこは十字路から少し吹き飛ばされた場所。
周りには傷の大小様々だが、数人の人がいる。
車は近くの壁に衝突している。
……車の中に人は?
いない。
……誰が運転していたんだ?
交通事故なんて、前世含めあったことなんてなかったから初体験。
何をすればいいのかはわからないにしろ、こういう時は修行をしていてよかったと心の底から思う。
まずは119番か?
携帯を取り出そうとポケットに手をのばすと、
「源氏?!」
「あ」
チャドの存在を思い出す。
チャドは車に轢かれる位置ではなかった。
俺を心配しているのだろう。
声を出そうと顔を上げる。
その瞬間。
虚の気配。
場所は……。
「チャド!」
チャドの
「あぶ……」
うし……
次の瞬間、こちらに向かって走っているチャドの背後に現れた化け物が、その爪を振り下ろした。
「カハッ……」
チャドの背中に直撃する爪。
倒れるチャド。
持っていた鳥かごを落とす。
金属音が耳を刺す。
一瞬のことで理解ができなかった。
……いや、いくらチャドとはいえ、あの攻撃はまずいだろ。
どうしよう。
どうしよう。
まず、
「へへへ……これで邪魔者は……」
こいつ(虚)を
「いな」
退かす。
シィィィィィィ
雷の呼吸
壱の型
霹靂一閃:殴打
俺とチャドの距離はおおよそ10メートルほど。
その距離を一瞬で詰め、虚に体当たりをする。
攻撃が目的ではなく、押すことを目的とした霹靂一閃。
その速度と足があれば、これだけ相手が巨体でも……
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……
地面と何かが擦れる音が遠ざかる。
目の前には虚の姿はない。
振り返り、チャドのもとに近づく。
「大丈夫かッ?!」
「源氏……そっちこそ大丈夫……か?」
「俺は大丈夫だ!
お前は……」
地面に倒れているチャドを観察する。
怪我はどうなっているのか。
薄暗くて正確に見えなかったそれは、少しの明かりだが、近づくことで俺にしっかりと姿を見せる。
血に染まる背中。
「だい……じょうぶ……なのか?」
「あぁ……少し休めば……だいじょうぶだ」
チャドの怪我は、恐らく大丈夫でない。
これはしっかりとした治療が必要だ。
いくら鉄人、アイアンマン、なんて言われていようが、チャドは人間。
だからこそ、早くしないと……
「一護ッ……」
虚、怪我、現在地。
若干の混乱の中、俺が導き出したのは近くにある『クロサキ医院』
後虚相手だから一護。
連絡だ。
あいつが虚を任せて、交通事故の人もろともクロサキ医院に運び出せる。
急げ。
俺の体に異常はないはずだが、目の前のチャドの様子から、手元が震える。
少し時間がかかりながらも、通話ボタンを、押した。
コール音が鳴る。
『源氏、どうし』
「虚が出た!
怪我人も出た!
来てくれ!」
『虚が出た?! 場所は「アンタ、よくもやってくれたな」おい、源氏?!』
一護の声が遠くなる。
後ろで聞こえた、声。
それは、先程の笑い声と同じ、
「ガッ?!」
『…………?! ……?!』
携帯から声が聞こえる。
けど、そんな声はもう認識できない。
背後から感じた声と殺意に、体を動かしそうになったが、俺はその反射を抑え込んだ。
今動けば、チャドが犠牲になる。
できない。
背中が熱い。
痛い。
「なにしてくれてんだぁ?! アンタはぁ?!」
痛みで歩を止めるのは、死に急ぐのと同じ。
痛みを押し殺し、懐に手を突っ込み、
「それはこっちのセリフだぁ!」
殺意と、柄だけの刀を取り出した。
「は?」
俺の出した不思議な刀に面食らったのだろう。
虚は俺の様子に後ずさった後、こちらを見つめる。
「なんだそれは?! なめてんのかアンタ?!」
「舐めてねぇよ。
お前さっさといなくなってくれ」
「お前何言って……」
俺の柄だけの刀から、刃が出現する。
これは、この前もらった『月輪刀』だ。
柄しかないのは、俺が改造を頼んだため。
流石に今の時代社会生活を営みながら刀なんて持ち歩けない、と相談したところ、『刀の形状の魂を搭載することで、霊力を込めたときに霊子の刃が出現するんスよ』とよくわからないことを言われながら、新しい刀をもらった。
俺の呼吸の力を吸い取ってできている刀。
俺の意思によって出し入れできるらしい。
少しは練習していたため、出せないなんてことはない。
「……アンタ、死神か?」
「ちげぇよ」
「じゃあ……何者だ?」
一護を待つ?
遅い。
どれだけここから近かろうが、今は一分一秒を争っている。
のんきなことは言ってられない。
「ただの、剣士だ」
シィィィィィィ
雷の呼吸
参の型
聚蚊成雷(しゅうぶんせいらい)
俺の姿が消える。
虚はそれに気づいて腕を上げ、顔面をガードした。
それは悪手だ、化け物(クソヤロウ)
聚蚊成雷
この言葉の意味は「小さな物でも、集まれば大きな力になるということ」
雷の呼吸におけるこの技は、
「ガハッ」
変則的な足運びと、稲魂による連続斬撃の組み合わせ。
それによって生まれる、斬撃の嵐。
狙うは足。
移動を制限する。
虚の周りを円を描くように移動した後、元の場所に戻り、追撃を加えようと呼吸を整えた。
「いてぇじゃねぇかよぉ?!」
虚は大声を発しながら、何かを吐き出した。
何かは分からない。
けど、近づくのは危ない。
だからこそ、
シィィィィィィィ
雷の呼吸
肆の型
遠雷
遠くで鳴る雷のように、斬撃を飛ばす技、ではあるが、そもそも人間に斬撃は飛ばせるわけはない。
だからこそ、この技は対象に近づき、切りつけた後
カチッ
後方に下がる技なのである。
一瞬にして行われるため、まるで斬撃を飛ばしているように見える技であり、実質霹靂一閃の亜種みたいなものである。
俺が飛んできた何かを斬りつけると、それが爆発した。
霹靂一閃でなくてよかった。
爆風からチャドの盾となる。
ダメージはないが、チャドにもしものことがあっては大変だ。
「やったよ!! へへへ!」
虚は爆風で見えないことから、俺が死んだと思っているのだろう。
その声を聞いて、場所は理解できた。
シィィィィィィィ
雷の呼吸
壱の型
霹靂一閃
俺が降り立ったのは、虚の背後。
足を攻撃したのは、躱されないように。
それが功を奏したのかは知らないが、俺の背後にいた虚は、
「ハハハハハ! って……あれ?」
切られたことに気づくこと無く、滅びていった。