【助けて】呼吸使えるけど、オサレが使えない【転生】 作:ぬー(旧名:菊の花の様に)
死神代行
そんな物騒な役目を引き受けた俺……黒崎一護は、死神となるきっかけを作った女……朽木ルキアと共に、夜道を走っていた。
話は一本の電話から始まった。
なんてことない平日。
実家が街の病院なんてものをやっているため、少し消毒臭い。
そんな実家の、自分の部屋。
「げんじ?」
コール音に反応して、液晶を見ると、そこには『我妻源氏』の名前が。
我妻源氏。
高校の同級生で友達。
運動神経よし、勉強はそこそこ、顔も悪くない、というのになぜか女に振られている奴。
俺個人としては、霊媒体質友達ということで意気投合している部分もある、友達。
死神になった時は、以前の記憶から源氏のことを死神だと思ったが、本人からも、ルキアからも違うという答えが出た。
それ以降、特にこれと言ったこともないので、気にしないでいたが、
「源氏、どうし」
『虚が出た!
怪我人も出た!
来てくれ!』
「虚が出た?! 場所は『アンタ、よくもやってくれたな』おい、源氏?!」
いきなりの連絡、虚という言葉。
何が何やら分からない状態。
「おい!」
「虚が出たんだろ?!」
そこで俺の部屋の窓からルキアが入ってくる。
俺の言葉にルキアは少し面食らいながらも、
「なら話は早い! 行くぞ!」
「おう!」
ルキアの持つドクロマークの付いた手袋。
これを俺に当てることにより、俺の死神としての魂が体から抜ける。
倒れ込む俺の体を支え、ベッドに寝かせる。
自分の体を見るのはまだ慣れないが、そんなことを言っている場合ではない。
部屋の窓を飛び出し、走る。
「虚の出現を察知できたのか?!」
「そんなんじゃねぇ!
源氏から襲われたって連絡が来た!」
「あやつか?!」
どこに行くのかはわからないため、ルキアに案内は任せる。
その間、俺の胸中には言いようのない不安があった。
「あいつ、怪我人も出たって……」
「くっ、被害を抑えなければもっと怪我人が増えるぞ!」
「わかってる!」
源氏は、何かを隠している。
それは理解できる。
というか、今までの不思議な言動と合致する節があった。
源氏は入学当初、びっくり箱なんていうあだ名を付けられていた。
人間離れした身体能力を度々見せることから付いたあだ名だが、別にそれを誇るわけでも見せびらかすわけでもない。
まるで間違ってしまったかのような態度。
今ではいつものこと、ということで済まされているが、それは虚から身を守るために磨いたものなのではないか。
「もしもあいつが倒してくれたなら……」
「贅沢言ってんな! 源氏は普通の人間だろ?!」
ルキアがボソリとつぶやいた言葉に、俺は反応する。
本来なら無視してもいいその言葉に突っかかったのは、俺がそうと信じたかったからだ。
薄っすらとある、俺が死神になる前に、虚に襲われた記憶。
あのとき、俺と源氏は一緒にいた。
そこで虚に襲われることになった。
俺は虚の攻撃で意識を失う直前、源氏が虚を斬ったのを見た。
そして翌日、源氏が大怪我をしていた。
今では治っているし、本人的には事故ということで片付けたそうにしていたので、俺は協力した。
もし、源氏が本当に倒していたのなら、源氏は何者なのか。
源氏でなければ、誰が倒したのか。
ルキアにも話はしたが、そんなことを考えるよりも目の前の虚を何とかすることに必死だったため、今まで議論してこなかった。
そしてその議論の答えが、
「待て」
「なっ、げ……」
目の前に出された。
遠くには、虚と思われる仮面の化け物。
そしてそれと対峙している源氏。
周りの様子を見るに、交通事故でも起こったのだろう車と、倒れる人。
そして源氏の後ろには、倒れている人影。
俺の声と同時に、
源氏の姿が消えた。
「我妻源氏」
ルキアの声。
源氏の姿は消え、次の瞬間には元の場所に現れる。
それと同時に、防御の姿勢を取った虚の足がずたずたに切り裂かれた。
「本来頭を一撃で倒すことを理想としている虚戦だが、それは貴様のような力あるものにしか推奨されない。
本来、女のような力が弱く、一撃のもとに屠れない死神には、足を奪うことを推奨されている」
虚はその場に崩れ落ち、自分に起きたことを理解したようだ。
激怒している。
そして、虚が口から何かを吐き出した。
このとき、いつもなら俺は飛び出していた。
けど、俺の足は動かなかった。
生まれてこの方、足がすくんだ、なんて経験は少なかった。
そのせいで後悔したことがあるからこそ、恐怖に臆することを恐れた。
「一護。
もし貴様がこの場で飛び出そうものなら私は貴様を殴ってでも止める」
「なんで……」
「あの戦いにおいて、貴様が足手まといだからだ」
ルキアからの言葉。
それに俺は少し安心してしまった。
……なぜかは、わかりたくなかったけど。
虚の口から吐き出された何かは、正確には見えないが、何らかの攻撃であることは理解できる。
その何かが近づこうとしたその瞬間、源氏は何かをした。
俺の目には源氏の姿が見えなかった。
それくらい速い速度で、源氏は何かをした。
その何か、というのは理解できないが、結果は遅れて現れる。
虚の出した物体を細切れにした。
同時に、細切れになった何かは爆発。
源氏にはそよ風程度の爆風が襲いかかる。
「虚は対面で勝負するのは得策ではない。
虚は食らうため、害すための存在だ。
死神はそれに対して、生きるための存在。
虚を殺すことはできても、虚を殺すことに特化しているわけではない」
ルキアは、何やら小難しいことを言っている。
「そしてあの手際を見る限り、本来ならあやつは虚を手玉に取れるくらいの実力を持っていると見る。
それなのに、ああして目の前に立っているということは……」
そこに関しては、俺も理解した。
源氏は、何かを守りながら戦っている。
爆風の中、虚の笑い声が聞こえる。
気味の悪い笑い声だ。
そう感じていると、
「あれが虚から身を守れる程度の人間なのか?」
「……分からねぇ」
虚は、その体を2つに分ける。
分裂や取り外しといったものではない。
包丁で何かを切るときのような、切断の意味での、言葉。
「そうか。
なら、まだ追求はしない」
「わかってる。
俺も同じ気持ちだよ」
我妻源氏とは、何者なのか。
それは、俺らの間でより疑問になった。
目で見ることで何をできるのかは知ったが、なぜできるのかは明確ではない。
でも、それよりも今は為すべきことを為す。
「救出手伝え」
「当然だ」
俺とルキアは、源氏のもとへと走った。