【助けて】呼吸使えるけど、オサレが使えない【転生】 作:ぬー(旧名:菊の花の様に)
退院して、2週間ほど経った。
それまでの間、俺に何かあったということはない。
一護に関しては、人が変わったかのような振る舞いをした時があったらしい。
一護が珍しく昼飯一緒じゃなかった日。
昼飯を終えて教室に戻ると、そこには鬼神がいた。
まぁ有沢なんだけど。
有沢は怒った様子で窓から人が飛び降りた、とか(俺らの教室は3階)織姫の手の甲にキスをした、とか言っていた。
俺としてはまた虚絡みかと警戒心を挙げたが、その後にいつの間にか現れた浦原さんたちが、俺と石田くん以外のやつの記憶を消して回っていた。
浦原さんが原因のことだったらしく、忙しい忙しいと言いながら、俺も多少の手伝いをさせられた(壊れたものの修復とか)
そんな騒動が過ぎて、俺は一護から、この事の事情を聞くことになったのだが、
「よっ」
「ぬい…………ぐるみ?」
知らないぬいぐるみが喋って俺とコミュニケーションを取ってきた。
死神になるための道具、だったのがこんなのになったらしい。
聞いてもよくわからないが、とりあえずは一護が死神として活動している時、このぬいぐるみのやつが生身の一護の肉体に入っているということ、だ。
これによって朽木さんがわざわざいなくても、死神になれるようになったらしい。
ぬいぐるみが話しているのには驚いたが、今更化け物を見た後だとそんな印象は薄い。
「一応源氏にも知ってもらえればいいと思って……」
「あ、あぁ。
なんか起きた時は俺がフォローすれば良いのな」
一護からはこう言われているが、恐らくというか確実になんか起きるだろ。
と思っていたが、そんなことはなかった。
結構このぬいぐるみ……コンと言う名前のやつは良いやつで、少しスケベだが、俺としては話もあう奴。
一護は面倒な顔をしながらも、今日も今日とて死神としての活動を、俺やその他のやつが知らないうちにやっていた。
「源氏ー、お前の選択課題って何だっけ?」
「あ? 俺は書道だよ」
「何書いたの?」
「ほれ」
「……なんで『安寧平和』?」
「俺が望んでいるから」
朝、教室の一時。
啓吾と選択の課題の見せあいをしていた。
俺、啓吾、水色は書道を選択授業で受けている。
ちなみに一護は国際教養。
将来は何したいか決まってないらしいけど、とりあえず勉強しとけば問題ないって言う発言通り、一護は真面目だった。
啓吾の苦笑いを受け流しながら、啓吾のかばんから課題を引っこ抜く。
「『酒池肉林』……」
「へへっ、いいだろ」
「キモイ」
「ストレートじゃないっすか源氏くん?!」
学生にしてなんて言葉を書いているのか、こいつは。
そんな感じでお互いの課題を見合っていると、
「あ、黒崎くんおはよう!」
「おう! 井上おはよう!」
一護が登校してきた。
いつもと変わらない様子の一護。
その一護の様子を見て、声を縣けた井上さんが苦い表情をした。
それに対して有沢となにか話していたがここからだと何を話しているのかは分からない。
「よう、啓吾、源氏」
「おっす一護ー。
コッキョウ(国際教養の略称)って課題ないの?」
「あ? 確かないと思うけど……書道はあるのか?」
「あぁ。
美術もあるみたいだから、そっちもあるもんかと思ってた」
啓吾と一護の会話を聞きながら、俺は一護にひらひらと手元の紙を見せる。
それは、啓吾の課題。
「……あぁ、啓吾のか。
てっきり源氏のだと思った」
「なんで俺のだと納得したような表情になるんだよ」
「書いてもおかしくなくね?」
「……確かに」
「……いや、流石にネタよ?」
「「え?」」
俺と一護が二人して啓吾のことを惚けた表情で見る。
そして次の日、一護は学校を休んだ。
☆☆☆☆☆
「あぁ、おふくろさんの命日か」
「すまねぇ。
俺としても虚には対応したいんだけどな」
「別に良いってことよ。
出たら速攻で電話するけど」
「……今日だけは出てこないことを祈るわ」
休んだ日の、昼休み。
先生の目を盗んで屋上で電話をする。
相手はもちろん一護。
一護が今日休んだのは、母親の命日ということで、墓参りに行っているから。
薄々知ってはいたけど、一護の口から直接死んでいる、なんてことを聞くのは初めてだ。
でも、それにしても一護のやつ、そんな素振りを見せなかったな。
「おっ、いたいた」
「なにやってんだい源氏?」
「ん? 一護に連絡。
二限の高原のやつが出してた課題」
「あぁ、あれか」
「僕はやってもらうことにした」
「へ? いいなぁ!
誰にやってもらうんだ水色?」
「あさのけいごくん」
「俺なの?!」
梅雨の季節は通り過ぎ、夏の日照りが屋上を照らしている。
そろそろ屋上もきつくなってくる頃合いか、なんて考えながら、俺は自分の弁当を開く。
今日は少し暑かったから手抜き料理だ。
別に俺が食うから問題ないけど、手を抜いたら抜いた分だけ自分の弁当に結果として出るのは、少し悲しい。
☆☆☆☆☆
prrrrrr
放課後、俺の携帯が鳴る。
授業は終わり、今日は別に遊ぶ約束もないため、
少し買い物をして帰る途中だった。
空は既に茜色に染まっている。
カラスは鳴き声を挙げ、
商店街からは美味しそうな匂いもちらほらしてきた。
夕飯変えようかな。
そんなことを思っているときにきた連絡。
『黒崎一護』
何かあったのか?
あ、課題でわからないところでもあったのか?
適当に電話を取ると、
『源氏か?』
「……一護?」
『違う違う、コン様だ』
一護の声でコン様、なんて言われると少し意外な感じがするのでやめてほしいのだが、こいつはこんな変ないたずらをするわけはないので、
「おう。
どした?」
『もし時間空いてたら、ーーーーまで来てくれねぇか?』
「ーーーー?」
言われた場所は、知らない住所。
地理に詳しくない俺でも、なんとなくどこなのかは分かる。
そこらは特に何かあるわけでもない、住宅街だったはず……。
いや、森もあったっけな。
『一護のやつが、結構強い虚と戦っている』
「……やられたのか?」
『いやいや、あいつは殺しても死なないようなやつだろ?』
「ならどうして……」
『コイツラの家族が狙われた』
「そういうことか」
今日一護が行っているところは、墓。
確か今言った住所に墓地があったな。
そこだったか。
「言っとくけど、戦力にはならんし、守りきれるとも言えんよ」
一護と朽木さんに感づかれているのは知っている。
まあ、虚が出た、という発言の後、虚を俺が倒したのだから知られても当然だ。
だが、それに関して俺はまだ何も聞かれていない。
別に俺としては極力戦闘にはしたくない、というのが本音であり、虚とは戦いたくない。
それに、コンには俺の実力が知られている、なんてことはない。
だからこいつは俺の力とかを抜きにして、
『多分、危ない。
だから、来なくても良い。
けど、俺様一人の手であいつの守りたいもんを守れるとも思えない』
コンは、結構賢いやつである。
エロとスケベの前ではIQが3になるが、それ以外では独自の価値観としっかりとした判断のできるやつだ。
そして俺が危ないのを嫌いなのも、なぜかコンは知っている。
一護から聞かされているのか。
「……晩飯をおごってもらおう」
『一護のやつがおごってくれる』
「分かった」
晩飯は抜き、か。
買い物袋を引っさげながら、俺は全速力で走った。