【助けて】呼吸使えるけど、オサレが使えない【転生】 作:ぬー(旧名:菊の花の様に)
「浦原さん?」
「あぁ、良かった源氏さんでしたね。
人違いかなぁって思ったからヒヤヒヤしましたよ」
「あ、こんばんは。
なんでここに?」
「あたしは別に興味はないんですが、あの二人が行くって聞かなくて
今は源氏さんと話すってことで少し離れてもらっていますが、鉄斎さんも来てるっスよ」
「鉄斎さんも来てるんですか。
子どもたちは……名前聞いてないですけどいるんですね」
「ジン太とウルルです」
「浦原さんのお子さんですか?」
「さぁ、どうなんでしょうねぇ」
廃病院。
鳴海町の近くにあるそれは、空座町でも端の地域にあり、ここらへんは住宅街もなく、かろうじて街灯が並んでいる地域だ。
しかし、ここには今多くの人間が存在している。
本来は夜闇に包まれ、隣の人さえ認識できないほどの場所だったのが、明るく照らされている。
何台もの大型車が並び、その大型車の側面には俺らもよく知るテレビ局の名前が並んでいた。
これから撮影しますよと言わんばかりのここには人だかりができている。
そんな中、浦原さんはいつもどおりハットを目深にかぶり、ヘラヘラとした雰囲気を出している。
正直、この人混みの中では少し変な人にも見える。
それにしてもやっぱり人気あるな、ドン観音寺。
「俺、友達と来てるんで」
「あ、すいません。
お友達のところに行くのは良いんですけど、少し一緒にいてくれませんか?」
「は?」
「ちょっと源氏さんにお話がありましてね」
「……はぁ」
浦原さんから話だなんて、何かあるのだろうか。
というか、浦原さんが来る時点でここ怪しいのでは?
帰る……とかは今の状況では他の奴らに問いただされると思うし、チャドも啓吾も水色も虚が出てきたら怪我をしてしまうかもしれない。
「……あの、浦原さん。
もしかしてこれから危ないことが起きるとかそんな感じですか?」
「いえいえ。
まだわかりませんが、ここ、本当に出るので安全が確認できるまで一緒にいてもらおうかと」
浦原さんは表情ひとつ変えずに(というか見えない)話しかけてくる。
その様子から俺は本当にここが危険になるかどうかの判断がつかない。
本当に人死がないとは言い切れない。
それは心に命じているため、懐にある柄だけの刀があるかを確認する。
「あ、多分源氏さんは今回万に一つも戦うことはないと思うっスよ」
「なんでですか?」
「だって、いるじゃないっスか、黒崎さん」
「あ、確かに」
「源氏さんはなるべく争いたくない、んスよね?」
「そうですよ。
俺は生身の弱々しい人間。
虚なんて化け物と戦えばただじゃ済まないですから」
浦原さんのわざとらしい言葉をスルーしながらも、気配察知に集中する。
人が多いせいで感知しづらいが、今の所脅威になりえるものはない。
「ところで、源氏さん」
「なんですか?」
「あなたは『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』……っと」
「うるさっ」
「どうやら番組の方がテリトリーに踏み入れたらしいっスね」
「テリトリー?」
「あぁ。
確か源氏さんは魂魄についてはまだ知らないことが多いんスよね」
浦原さんが話しかけてきた途端響いた不快な大声。
人間の腹から出るにはとても大きく、おぞましいその声は、俺と浦原さん以外には聞こえていないらしい。
キモいしうるさいし気にするなという方が無理ではあるが、別にこれで俺の体が攻撃されているわけでもないので、切り替える。
「……源氏さん、大丈夫なんスか?」
「別に、うるさくてキモいだけですよね?
不快ではありますけど、別にそんな倒れるほどじゃ……」
「結構図太いですよね、源氏さんって」
「そうですかね?」
俺から言わせてみれば、啓吾の図太さと比べればパスタの麺ほどの太さだ。
誇るほどでもない。
それに、今俺が顔をしかめれば周囲に何かあったと心配される可能性はある。
別に心配されること自体は面倒ではないのだが、一緒に来ている友達に迷惑がかかる。
それと比べれば何のそのだ。
「……それで、魂魄についての話なんスけど。
この世にはいくつもの死んだあとの魂魄のあり方があります。
しかしその全てが以前見たような、因果の鎖に繋がれています」
「……死んだあとにも肉体と鎖つながってるんですか?」
「いえいえ。
死んだ時点で肉体との因果の鎖は切れ、魂葬されるか、虚になるかの二択っス。
あたしが言っているのは、死んだあとの因果の鎖は、その魂魄の念によって、絡みつくことを言ってるんスよ。
ほら、ちょうどあれみたいに」
浦原さんの説明は、今日はわかりやすく、俺も多少の合いの手を入れながら進めていく。
その最中、浦原さんが顔を向けた先は、廃病院。
廃病院は先程まで何も異常がなかったように見えたが、今は違う。
病院全体に、鎖が絡みついていた。
「なんですかね、あれ」
「あれが念の付いた因果の鎖。
場所に、人に、モノに。
鎖は様々な形でまとわりつきます」
「それが、今の例は廃病院だと」
「そうっすね」
俺と浦原さんは人混みの後ろにいる。
そのせいで、鎖の先が見えないのだが、何かいるのは確実だろう。
なにやら叫んでいるようにも聞こえるが、少し遠くて聞き取りづらい。
叫んでるのが分かって、言語として聞き取れない程度だ。
『それでは撮影を始めます!』
『5秒前!』
『4! 3! 2! 1!』
『ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』
『ーーーーーーーーーーーーー』
『ーーーーーーーーーーー』
『ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』
撮影が始まった。
何か話しているが、恐らくはぶら霊恒例の前置きだろう。
恐らくはこの廃病院で何らかの霊障が起きている……とかそんな感じの。
でもこれ少しは霊感ある人でも結構気づかないのかな、この声。
『それでは登場していただきましょう!』
『新世紀のカリスマ霊媒師! 地獄のメッセンジャー!!!』
『ミスタァア~~~』
『ドン! 観音寺ィィ~~~~~!!!』
「お、今回は空からっスか。
金かかってるッスねぇ」
「え」
ぼーっと見ていると、いつの間にかみんな空を見上げていた。
慌ててみると、そこには暗闇が広がるばかり。
いや、違う。
一つ、影がある。
それはだんだん大きくなり……
「ごきげんいかがかなベイビーたち!!」
「スピリッツ・アーーー!」
「オールウェイズ!!」
「ウィズ!!!」
「ィィユーーー~~~~~!!!」
人が落ちてきた。
流石にパラシュートを開いたその人の声に、隣から、いや周囲から割れんばかりの黄色い歓声が出た。
いやほんと、マジでよく出るわ。
「すごいっすねぇ相変わらず!」
「浦原さんはファンじゃないんですか?!」
「別にあたしは普通ですよ!!!」
周りがうるさすぎて大声で会話するしかない俺ら。
それほどまでの人気を誇る彼は、いつものポーズをしながら地面に着地する。
そのまま続いていく番組。
会話を入れないようにと大きなカンペが出されながら、こちらにも声が届くように、メガホンが使用されていた。
それによると、何やらここはどんな感じのことが起きていて、誰それの霊が存在していて、何かが起きている、という話だった。
内容が適当なのは、拡声機を使用しても絶妙に聞き取りづらいから、こんな薄い内容になっているだけだ。
夜闇が打ち消されている今、俺はぼーっと前の人の後頭部を見ている。
「どうやら何もないみたいっスね。
取り越し苦労だったか『スメルズ・ライク・バッド・スピリッツ!!!』……あぁ」
浦原さんと二人で呑気に見て、そろそろ俺もチャドたちのところに戻ろうかと思っていたところ、変な掛け声が発せられた。
あ、こんなのもあったなドン観音寺。
そして、直後、ドン観音寺のセリフとともに、
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」
絶叫が辺りに響き渡った。