【助けて】呼吸使えるけど、オサレが使えない【転生】 作:ぬー(旧名:菊の花の様に)
その絶叫は、先程のうめき声とは比べ物にならないほど、しっかりとした絶叫だった。
光に照らされ、大きな拡声機が付いているこの場でそんな大きな絶叫を出せば、誰もが目につくだろうし、気になる。
だけど、周囲の人達は何も気になっている様子はない。
思わず耳を塞ぎたくなるような大声に俺は顔をしかめる。
「ちょっと……まずそうでッスね」
「こちらにいましたか」
「鉄斎さん」
「これは……対策は?」
「別に虚になるくらいならばアタシらが手を出す必要はないんじゃないんですかね」
隣では、いつの間にか現れた鉄斎さんと、ちびっこ二人(ジン太くんとウルルちゃんだったはず)がそばに来ていた。
鉄斎さんも聞こえているのか、何らかの動きを見せようとするが、それを浦原さんは止める。
ジン太くんとウルルちゃんも聞こえているのか、顔をしかめている。
流石に子供は耐えられないか。
「俺行きますか?」
「……こういうことには首を突っ込まない主義なのでは?」
「別にそれで人として最低な行為を見過ごせるか、ってのは話が別ですよ」
「もしやアタシに惚れちまってポイント稼ごうと……」
「惚れてもないしポイントってなんですか」
いつの間にか取り出したセンスで口元を隠す浦原さん。
そんな様子に突っ込んでいる最中にも、叫び声は続いている。
「多分源氏さんがいなくとも大丈夫だとは思うッスよ」
「どういうことですか?」
「ほらあれ」
叫び声に気を取られていたせいで気づかなかったが、やけに前のほうが忙しい。
よく目を凝らし、人混みの間に視線を通すと、ちらりと見えたのは、多数の警備員と……
「一護?」
「えぇ。ルキアさんも一緒にいるようッスね」
「一護のやつ……バカでは?」
死神の仕事って、人間に対して秘密なのでは?
ここからでも何か朽木さんと一護が話しているのが聞こえる。
何話しているのかは分からないが、人目多すぎない?
「それにしても、あれはまずそうッスねぇ」
「不味そうどころか、今日って生放送ですよね?」
「う、うん」
「あ、ありがとうウルルちゃん。
……で、生放送ってことはアイツラ全国にこの姿が……」
血の気が引いていく。
別にテレビに映ることは悪くない。
けど、テレビで虚や霊について話したらそれはそれで面倒。
更に警備員が多数いる状況から、教師に怒られるのも面倒。
「源氏さん」
「……はい?」
「あの状況どうにかしてくれないッスか?」
「俺に何ができるっていうんですか」
「これ、はい」
もうこの場から逃げ出してやろうかと頭を抱えていると、浦原さんから何かを差し出される。
それは、手袋。
手の甲にドクロマークが描いた、中学生の採捕道具で使われそうな装飾のもの。
「何ですかこれ」
「これはルキアさんも持っているんスけど、肉体から魂魄を剥離させる効果がある道具ッス」
「……つまり?」
「これを使って黒崎さんの体をどつけば、黒崎さんは死神化します」
手袋を受け取りながら、俺は思考する。
確かに一度だったか一護が朽木さんの手によって死神化するのは見たことがある。
そのときには手のひらで体を押すような感じでできていたのだが、もしかしてこれを付けていたのだろうか。
自分の手元にある手袋を見ながら思案し、思い出す。
「これって浦原さん手袋無くても……」
「それじゃあアタシらは事後処理するんで後はヨロシクオネガイシマスー!!!」
顔を上げて質問すると、そこには既に浦原さんの姿はない。
……逃げた?
俺がこの前同じようなことをされた時、浦原さんにやってもらったよな。
あの時は杖でやられた……ってことは、
「押し付けられたのかぁ……」
まぁ、浦原さんは事後処理してくれるらしいし(多分)、やれば良いのだろうか。
でも、俺から一護たちまでの距離は少し遠いし、人混みが途中である。
どうすれば良いんだろうか。
人混みをかき分けよう。
ここで変に呼吸とか使う必要はない。
単純な力で言えば、結構ある方なので、問題はない。
それに剣術意外にもそれなりの(本当にそれなり)体術の知識もあるから、なんとかなるだろう。
人混みに手を入れて、避けようとすると、
「「キャァァァ!!!」」
「へ?」
目の前にいた人はおばさん二人で、俺が触れた瞬間叫び声を上げた。
一瞬で頭が真っ白になる。
なんで叫ばれた。
別に腰あたりを触っただけでセクハラではないはず。
というかおばさんに対してセクハラとは。
え、待ってこれ俺悪いの?
というかおばさんブサイクすぎない?
目の前のおばさん二人は何かガミガミ言っているが、頭の中に入ってこない。
というか絶叫のせいでまともに聞こえない。
やばいこれは。
俺が捕まったら最悪の展開だ。
「す、すいません!」
踵を返し、走る。
本気で走る。
おばさん二人は背後から何かを言っていたが、聞かないふりをした。
……というかなんでおばさん二人が俺から触られただけで叫び声を上げたんだよ。
俺のほうが損してるじゃねぇかよ。
数十秒走ると、人混みは遥か彼方。
暗闇でガタガタの道路が続いている。
両端は森。
俺はこのまま帰るでも、人混みに入るでもなく、
森の中に入る。
いや、正確には木の上に登った。
少し低めの枝に登った俺は、人混みの先にいるであろう一護と朽木さんを確認する。
「あれか」
人混みをかき分けれない以上、何らかの方法で俺は気付かれないように、なおかつ騒ぎにならない程度に一護のもとに行く必要がある。
だからこそ、ちょっと小狡い方法を使う。
シィィィィィィ
雷の呼吸
壱の型
霹靂一閃:無刀
枝からまっすぐ、一護のもとへ。
常人の目には高速で移動する物体にしか見えないくらいの速度で、空中を横に落下する。
多分踏み込みで乗ってた枝は壊れたけど、誰にも迷惑かかってないから大丈夫……だと思いたい。
流れる景色の最中、チャドの姿を見つけた。
恐らくは一護を助けるためだろう。
良いやつだ。
そして、一瞬の景色のブレの後、俺は一護に対して極力まで手加減と優しさと自愛を込めたグーパンをお見舞いした。
「ブベボホォォォォ?!」
その勢いのせいか、死神の一護は肉体から勢いよく飛び出し、地面にこすりつけられていた。
それを確認する暇も、一護と会話する必要もない。
シィィィィィィ
雷の呼吸
壱の型
霹靂一閃
歩法のみの使用。
連続の使用は結構面倒だが、2発程度なら問題はない。
それに同じ型を2回。
他の型を連続して行うよりずっとやりやすい。
俺の姿はカメラに突如写った残像、位のものであるはずだ。
写ったら……高跳びするか???
ジジイもいるし、別に海外で食い扶持探すくらい……。
そんなくだらないことを考えながらも、二回目の霹靂一閃で森の中に消えていく。
どうなったかは知らないけど、俺はこのまま逃げよう。
テレビで生中継してるし、家帰ってから見ればいい。
チャド、啓吾、水色には申し訳ないけど。
森を出ずに帰るかどうか思案していると、背後で急に爆発音がなる。
火薬が炸裂したかのような爆発音。
何だ何だと後ろを振り返る。
ここから一護たちのところまでは間に人混みがないため、森の中で暗いとは言え、しっかりと見える。
そこには、爆発に驚いた死神姿の一護と、その背後にいるドン観音寺。
霊の姿も、あの大きな鎖に関してもない。
……どこいった?
成仏したとか?
呑気なことを考える。
絶叫の消えた現場、人混みも爆発音が聞こえたのか、黙りこくっている。
そんな中、俺の気配察知が警報を鳴らした。
警報の度合いはとても低い。
別に強いというわけではないが、どこからかがわからない。
ここら一帯が危険な感じがしている。
そして、その危険な感じはどんどん一つに集まり、
虚の形をしていった。