【助けて】呼吸使えるけど、オサレが使えない【転生】   作:ぬー(旧名:菊の花の様に)

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お金は大事、いつでも大事

「いやぁ、スミマセン源氏さん。

 お金忘れてて……」

「別に良いんですけど……ってか良いんですか?」

「何がですか?」

「いや、俺としてはもらえるのもいいですけど、虚ってお金になるのかなって」

「あー……。

 それに関してはちょっとツテがあるんスよ」

「はぁ……」

 

 浦原さんから半ば押し付けられるように仕事を頼まれ、了承していないのに了承したことになった。

 翌日の昼頃、俺は浦原商店に出向いていた。

 

 浦原さんからの連絡で、『忘れ物があったので学校が終わり次第こちらに来てもらえるっすか?』と来た。

 俺も少しは文句をつけようと、授業が終わり次第急いで浦原さんのところに来たら、急にお金を渡された。

 

 俺が鳴海町まで行くタクシー代を渡してくれたのだ。

 確かに鳴海町はここと若干近いところにあるため、交通機関で行くのは面倒だし、歩いていくには少し遠い。

 

 バスはあるにはあるのだが、そんな頻繁に通っているわけでもない。

 

「これで源氏さんはすぐにタクシーで個々の場所に向かってほしいんですけど」

「あの、浦原さん。

 俺別にやるってわけじゃ……」

「あ、今回はちゃんと報酬は用意しています。

 昨日渡したマントと多少なりともお金を融通できれば、と思っています」

「……」

「いやいや、源氏さんが強いとは言え、命がかかっているんスから、こちらとしてもそれ相応のお礼はしたいと思ってるっスよ」

「別にそういう問題では……」

「というか、丈さんにも説明しているので、多分やらないと面倒くさそうっすけど……」

 

 俺の顔面は明らかに今、面倒くさそうな表情をしている。

 

 頭の中には天秤。

 

 ここで断った場合と、ここで了承した場合。

 どちらが良いのだろうか。

 

「……ちなみに出てくる虚ってどんなもんですか」

「そうっすね……基本的には知能がないものが大半っすね」

「知能ないのって弱いんですか?」

「虚は強くなればなるほど、しっかりとした知能を持っていくっスから、基本的にはそうっスね」

 

 今まで敵対した虚に知能があったのかどうかを思い出す。

 

「……あの、俺知能のない虚と戦えるんですかね?」

「へ? まぁ、普通にやって負けるほうがおかしいとは思いますけど……」

 

 俺の中の天秤は、グラグラと傾きを続ける。

 断った場合のジジイの面倒臭さが頭によぎり続ける。

 そして受けた場合のメリットも俺の頭の中に響き続ける。

 

「……やります」

「そんな嫌そうな顔をしながら言うやりますはこちらとしても気が引けるんスけど……」

「……やるからもうちょっとお金弾んでください」

「そんな嫌そうな顔をしながらでも、しっかり言うところは言うんスね……」

 

 そうして、結果として俺はしっかりと浦原さんからの依頼を受けることになった。

 

 しっかりと内容を確認すると、別に命に別状があるというわけではなさそうだった。

 

 要は空座町から漏れる虚の討伐。

 

 しかも要員は俺だけではなく、他にも足に特化した要員が存在して、周辺の警戒をしてくれるらしい。

 夜一さん、という人らしいのだが、多分俺とは警戒区域が違うので会わないだろうと浦原さんは言っていた。

 

 ……正直その夜一さんという人のことが気になるんだけど、会わないのならば、触らぬ神に理論で聞くことをやめた。

 

「それじゃ、いってらっしゃいっす」

「はい」

 

 タクシーに搭乗し、浦原さんから事前に教えてもらった、俺だったらここにいれば大抵の範囲はカバーできる場所、というのに移動する。

 気乗りはしないけど、鍛えてはきたし、ちゃんと対価をもらうということなら、しっかりとやる。

 

 ……あ、一護と石田くんに話しかけるの忘れていたな。

 

 今日は午前授業で昼休みもなかったし、学校で不用意に虚とかの話をしてしまうことはないので、話す機会もなかった。

 

 今日は共に虚の討伐に向けて活動するのだから、連絡でもすればよかったかな。

 

「あ」

 

 一護にだけでもエールの言葉を送ろうか、そう考えてポケットを弄るが、なにもない。

 それはそうだ。

 

 浦原商店で、万が一壊れたらということで荷物は預かってもらっているし、今持っている連絡手段は、浦原さんからもらったどこのものとも分からないケータイ一つだ。

 

 確かに虚との戦闘で壊れてしまっては面倒だ、と思って預けたな。

 

 ……ま、朽木さんもいるし、なんとかなるだろ。

 

 タクシーの揺れを身に感じながら、空座町の空を見上げた。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「ふぅ」

「お疲れさまです」

「進捗は?」

「上々です。

 両名が接触しました」

「預けたものは」

「しっかりと使っていただけるようです」

「それはそれは」

「それにしても、気づかれないのでしょうか」

「誰に、ッスかね?」

「それは」

 

 源氏の去った浦原商店。

 二人の男が会話をする。

 

 ガタイのいい男が察してくれと言わんばかりに視線を外にやる。

 

「結構こっちも狙ってるっすからね。

 しかも何かあっても意味はわからないっすから」

「だとしても、です」

「……確かに、信頼を裏切る形になってはいます。

 しかし、それよりこちらの方が優先される、というだけです」

「もしこちらに敵意を向けてきた時は……」

「その時はこちらも誠意を持って、謝って、どうにもならない時は、そういう時ッス」

 

 帽子を目深にかぶった男は、視線を地に落とし、少し黙り込む。

 

「丈さんの系譜であれ、アタシの計画はしっかりと進めて行きますよ」

 

 ガタイのいい男は答えない。

 

「さ、アタシたちもしっかりと働いていきますよ」

「はい」

 

 ハットの男は、名前を呼ぶ。

 少年と少女が付いてくる。

 ガタイのいい男は、目の前の男の背中を見ている。


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