【助けて】呼吸使えるけど、オサレが使えない【転生】   作:ぬー(旧名:菊の花の様に)

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できないものはできないけど、やりたい時はある

「っとと」

 

 背にした化け物の首は、体と離れる。

 地に落ちるくらいで、その体はこの世から完全に消滅した。

 

「次は……」

 

 体をすっぽりと覆うマントに中は学生服。

 少しミスマッチな服装だが、別に問題はない。

 

 服装でパフォーマンスが変わっていたら、恐らく俺は全裸で戦うのが最適になる。

 

「まだか」

 

 鳴海町の、指定された場所に付いてから30分ほどで、浦原さんの言う通り、大量の虚が出現した。

 空には亀裂が走り、空座町に吸い寄せられるように虚は集まっていく。

 

 正確な察知ができない気配察知でも、しっかりと感じ取ることのできる大量の虚の気配。

 

 遠くからでも分かるその気配は、出現しては消え、出現しては消えを繰り返していた。

 恐らく一護と石田くんが頑張ってくれているのだろう。

 

 俺は現在2体目を倒したところだ。

 恐らくあちらの出現率に比べれば、特にこちらに危なげはない。

 寧ろ浦原さんから聞いていたのより、結構虚が弱くてホッとしているところだ。

 

 俺でも一発で首を切断できる。

 

 力という点ではあまり秀でた点がない雷の呼吸でも斬れるということは、かなり弱いということだ。

 

「っふぅ」

 

 と、いうことは、だ。

 

 暇だ。

 

 出てくるにしても、10分に1体出るかどうか。

 30分が経過している現在で、俺は暇を持て余していた。

 

 恐らく、普通に歩いていれば暇を持て余すことはないと考えられる。

 結構警戒範囲が広いし、普通に走って10分くらいかかるところにまばらに出現するし、大変なんだろう。

 

 だが、俺にはマントとこの足がある。

 

 人間の範囲での手加減は難しいが、地面や屋根、電柱に対する手加減はできる。

 

 そのせいで、現れた瞬間に1分経たずに瞬殺、というのがパターンだ。

 

 ピロロロロロロロロ!

 

「出た」

 

 間隔早くなってるな……

 でも近い。

 

 あそこか。

 

 シィィィィィィ

 

 雷の呼吸

 

 壱の型

 

 霹靂一閃

 

 電柱の上から、駆ける。

 

 歩数は一歩。

 時は過ぎ去り、

 

「ふぅ」

 

 敵は斬られたことに気づかず、斬られている。

 

「このペースだったらあっちに加勢しても大丈夫だと思うけど……」

 

 ちょっと調子に乗ってそんな発言をする。

 

 まぁ、流石にこんなに暇であれば出る発言だ。

 

 しかし、その発言のせいなのかは分からないが、

 

「ん?」

 

 空の亀裂が、動いた。

 

 いや、まず空に亀裂が走っている、って段階でおかしいんだけど、それが動いている。

 

 まるで罅が伝って、集まるように。

 

 地面からじゃ見えづらいから、適当な家の屋根に登って見ると、

 

「集まって……る?」

 

 遠くのせいで見えないが、虚が集まっているように……見えなくもない。

 気配察知に関しては、相変わらず大量の虚を察知しているせいで、精密な動きが分かりづらい。

 

 ただ、遠目で見て集合しているのがうっすら分かる。

 

「集まってるな」

 

 それが確信できたのは、虚が集まってある程度形を築き始めてから。

 何か大きな塊になっているような、そんな雰囲気の、モノ。

 

「合体的な?」

 

 一人でぼやいているが、気配察知の警報が大きくなっているのに気づく。

 あれは……強い感じの。

 

 いや、森の中で修行した時、そこらを仕切っている熊の集団に目を付けられた時みたいな……

 多勢に無勢、みたいな感じの気配。

 

「……おいおい倒せんのか?」

 

 流石にでかい。

 

 マンション。それも結構大きめのマンションを優に越える体長の、鼻の尖った仮面を着けた、山のような虚。

 いや、気配察知が伝えている。

 

 大勢の塊の、個の虚。

 

 矛盾を孕んだ存在。

 

 無言で手元の連絡機を使い、浦原さんに電話を繋ぐ。

 

『はいはいもしもし~』

「浦原さん」

『はいはいなんでしょうか~』

「あれ、見えてる?」

『……まぁ、見えていますけど』

「あれ、倒せるの?」

『一護さんと石田さんなら大丈夫じゃないですかねぇ?』

「そういう問題なんですか?」

 

 呼吸には、特色がある。

 それは各々が持つ特徴。

 

 一応知識としてこの世界に来てから他の呼吸のことは勉強させられたが、あの手の巨大なものを倒すのは炎の呼吸関係のものしかない。

 

 雷の呼吸はあくまで速さを追求した、先手必勝の具現化のような型。

 

 俺個人にアイツを倒す方法が無くはないが、それなりに命をかけないといけない。

 

『本当に、大丈夫ですって』

「……行きますか」

『いえいえ、本当に大丈夫なので~。

 こっちも用事があるので、失礼しますねー」

 

 切られる電話。

 

 何か……隠している?

 

 直感的にそう思った。

 何を隠しているのか。

 今までの話で隠しているような話をしていたか?

 

「ん?」

 

 そう言えば、石田くんって死神キライって言ってなかったっけ?

 ……死ぬほどキライって言ってたような……。

 

 じゃあこれは石田くんがッ?!

 

 ……いや、それなら虚なんて紛らわしい真似をする必要ないな。

 これはこれで普通に起きている事象だろうな……。

 

 俺の思考の最中に、巨大虚は、歩いた。

 

 振動がこちらまで伝わってくる。

 

「四の五の言ってられないかッ?!」

 

 呼吸を始めようとしたその瞬間。

 

「待つんじゃ」

「ッ?!」

 

 後ろに気配。

 

 咄嗟に振り向く、後ろに下がる。

 刀を構える。

 目の前の敵に……って。

 

「猫?」

「儂が夜一。

 お主にはあちらに行ってほしくないのでな、呼び止めた」

「……??」

「何を呆けておる」

 

 目の前には、黒猫。

 それはそれは普通の黒猫だ。

 何か特徴があるとすれば、毛並みがキレイ、といったところか。

 

「そんなことでは、死ぬぞ」

「っ?!?!?!」

 

 そんなことを考えていたら、声が後ろから聞こえた。

 

 猫までの距離は5メートルほど。

 猫にそんな移動速度があるわけがない。

 そう油断していたら、背後を取られた。

 

 流石に背後を取られるとは思っていなかった。

 

 反応したのは、死にかけることで鍛えられた反射。

 咄嗟にその場で横に一回転。

 周囲の敵を薙ぎ払うように刀を振るう。

 

「そんな刀じゃ当たらんわ」

 

 しかし、いつの間にか黒猫は先程と同じ場所に立っていた。

 

 いつの間に、というのは今更。

 俺と似たような歩法か、それ以外の技術か、知らない何かか。

 

 どれにしても、警戒度はあげる。

 

 目の前にいるのはただの黒猫ではない。

 

「ようやっと警戒心を強めたようじゃが、儂は別にお主と戦う気はない。

 警戒を解け」

「今更言われて信じると?」

「儂は危害を加えない。

 あくまでお主をあそこに近づけさせない、というだけじゃ」

「それはなん……」

 

 瞬間、後ろに悪寒。

 

 振り向くと、先程の巨大虚が、口元に何かを収束させていた。

 

「虚閃(セロ)

 一定以上の強さを持つ虚の行う、全力の一撃」

「あぶな……」

「見ておれ」

 

 その何かは、収束し、足元に放たれた。

 

 そして、何かに衝突した。

 

 何と衝突しているのかは見えなかったが、

 

「一護……」

「ほう……あれ程とはな」

 

 後ろの黒猫は感心しているが、俺の内心はヒヤヒヤしている。

 喰らえば無理だ、あれは。

 

 どれだけ鍛えていようと、俺は人間。

 あんな怪獣バトルの光線のようなものを受けて生きていられるとは思えない。

 

 それなのに、一護の気配が、あの光線と衝突している。

 

「「っ」」

 

 一瞬の拮抗の後、何かが天空に上がる。

 それは斬撃。

 強大な、恐ろしいほどに雑に強い、力。

 

 それが巨大虚の体を切り裂いた。

 

「メノスを両断するとは……アホなやつじゃ」

「……一護?!」

 

 俺の足は動く。

 友のために。

 

「やれやれ、お主の言うとおりになったぞ、喜助」

 

 その足は、2歩目を踏み出す前に、暗闇に足を堕とした。


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