【助けて】呼吸使えるけど、オサレが使えない【転生】   作:ぬー(旧名:菊の花の様に)

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本作では、
・BLEACH漫画版中心に二次創作を行います(アニメ、映画キャラは出ない)
・時系列の変更と物語の変更

があります。
しかし、極力本家の設定、雰囲気を変えないように努めていきますので、よろしくお願いします。


オサレとか気にしてる場合ではない

 血まみれの少女。

 普通に考えれば救急車ものだけど、俺らはそんなことを気にしていない。

 

「これ……誰がやったんだ?」

「お嬢ちゃん、これ誰がやったの?」

 

 一護は今いない花瓶を倒した犯人に対して。

 俺は座り込んだ少女に対して。

 

「ヒック……さっきまでここにいた……お兄ちゃんたちくらいの男の人……」

 

 血まみれの少女は、言葉を発する。

 普通に考えれば声を出せるような状態でないのは明らかである。

 しかし、少女ははっきりと言葉を紡ぐ。

 

 この子は幽霊である。

 

 ……いや、別に俺の頭がおかしくなっただけでなく、俺がただの『視える人』だったのだ。

 

 だった、というのも、俺が霊媒体質だというのは高校生になってから気づいたことで、今だって理解はしているが普通に幽霊は怖い。

 だけど、目の前の少女は少しだけ交友のある幽霊で、別に怖いものではない。

 それが理解できているから、こうして普通に話している。

 

 ……というかなんで今まで気づいてなかったかって話だけど、おそらくは山ごもりのせいだろう。

 中学校の頃三年間を俺は山でジジイと過ごしていたのだ。

 幽霊でさえいない山奥でやっていたので、仕方がないといえば仕方がないのだ。

 

「一護」

「源氏」

「「殺るか」」

 

 そんでもって、この隣の黒崎さん家の一護くんも霊媒体質。

 視える聞こえるはもちろんのこと、触れる憑かれると超A級の霊媒体質らしく、少し不憫ではある。

 

 ……というか最初そんな設定だったのね、知らんかったわ。

 俺だって知っていたら警戒していた。

 

 けれど俺が見えてしまうもんだから、それであれよあれよと黒崎と引き合ってしまい、こうして二人きりで幽霊関係の面倒事を片付けている、という算段だ。

 まぁ、なんか化け物が出たら俺は速攻で逃げればいい。

 多分人が死ぬことはない……漫画だったはずだから、俺が関わらなければ一護がなんとかしてくれるだろう。

 

 だが、それまでは普通に友達としてこいつとつるんでいる。

 一護自身も家族以外で霊媒体質のやつを見るのが初めてだったらしく、最初はめちゃくちゃ珍しがられた。

 

 俺も一護の霊媒体質を不憫に思うし、普通にこういう輩とかを懲らしめたいと思う気持ちはあるので、少々手伝いをしている、程度のものだ。

 

「待って、お兄ちゃんたち」

 

 俺らが指を鳴らしながら、突撃の準備をしていると、少女から声がかかる。

 

「お願いがあるの……」

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「いやぁ、あれはスカッとしたなぁ!」

「ま、あれくらいお灸を据えてやれば今度はやらなくなるだろうな」

 

 一護と幽霊の少女と俺で、花瓶を倒した連中を少し懲らしめて(少女を使ってビビらせた)やり、花瓶と花を明日手向ける約束をした帰り道。

 

「それにしても、幽霊って姿を見せれるもんなんだな」

「まぁテレビのだって本物いるし」

「マジ?」

「源氏、お前視えるんじゃないのか?」

 

 俺の山ごもり生活に関しては伏せてある。

 まだ可能性として鬼が出るというのは考えられるため、不要な戦いに一護を巻き込みたくはない。

 それに俺の血筋は何か面倒らしい。

 

 詳しくはジジイから一本取れたら話してやるって話だったからまだ聞けてはいないが。

 

 だから俺に関しては遠くの中学から越してきたやつ、という設定だ。

 

「いやぁ……俺はテレビ越しだとわからないんだよねぇ……」

「そうなのか」

 

 人それぞれなんだな、と一護は納得してくれる。

 

 その瞬間。

 

 

 キャァアァァァァァアアァ!

 

 

 悲鳴。

 幼い少女の悲鳴。

 

「ッ?! 源氏?!」

「聞こえた! これってっ!」

 

 俺と一護は二人で顔を見合わせる。

 俺らの周囲には、住宅街ということもあって人がまばらにいる。

 だけど、その誰もがこの悲鳴に気づいていないのか、関心を示していない。

 

 それに、この悲鳴は。

 

「あの子の悲鳴かっ?!」

 

 一護の言葉に俺も自分の中の予想が確信に変わっていくのが分かる。

 

 走る。

 

 一護のほうが身体能力は高いだろうが、こちとら高校生になってからも全集中常中を鍛えているせいで、持続的に全力を出すのには慣れている。

 息の切れる一護と、一切息を切らさない俺。

 

 たどり着いたのは、先程の電柱。

 

 あの少女は……

 

「オイッ?!」

 

 思わず一護が声を上げる。

 周囲には人がいない。

 良かった。

 

 そんなことを確認しながら、俺は目の前の状況を整理する。

 

 場所は住宅街から少し離れた道路。

 人通りの少ないここは、先程の男どもの様に子供が遊びに来るような場所だ。

 

 そこにいるのは、俺、一護、幽霊の少女、そして、

 

「化け物……」

 

 思い出した。

 虚(ホロウ)

 BLEACH世界における敵の名称。

 でも俺の記憶にあるのは仮面をかぶった人だったはず。

 

 こんな化け物だったか?

 

 目の前にいるのは異様に長い腕と短い足をもった、白を基調とした人のようなフォルムの化け物。

 明らかにおかしいその形態に似合わぬ仮面と、胸に空いた穴。

 

 BLEACHに関する記憶が結構ごっちゃだからか、目の前のが虚だと断定ができない。

 

 けれど、これだけは分かる。

 

「てめぇ! その子を離せ!」

 

 一護は即座に殴りかかりに行く。

 

 そりゃそうだ。

 目の前の化け物は、仮面をしているにも関わらず、大きな口を開けて、その長い腕で捉えた少女を食おうとしている。

 

 状況整理のせいでワンテンポ遅れた俺と、即座に飛び出した一護。

 

 全く知らないシチュエーションに、俺は困惑する。

 

 今の一護は死神なのか。

 物語はこんな始まりだったのか。

 一護はなんで死神の姿をしないのか。

 

 巡る思考が動きを止める。

 

 それに付随する、恐れ。

 

 化け物を目の前にして分かる、恐れ。

 

 死の気配を纏うそれは、到底普通の人間が叶うものではない。

 一護は死神だから大丈夫……

 

 ドガッ

 

 あまりにも鈍い音。

 音の後に一護が吹き飛ばされた後だと気づく。

 

 近くの広場に飛ばされた一護は、砂煙を上げながら地面に叩きつけられる。

 化け物を見ると、少女を持っていない方の手を振るっていた。

 あの一護の体長ほどある手で殴られたのだ。

 

「一護……っ?」

「源氏……お前は逃げろっ……。

 こいつは俺が食い止める……っ」

 

 一護は砂煙の中から立ち上がり、俺に声をかける。

 こんなときでも俺のことを心配している……。

 

 いや、今は俺がいるから死神になれない?

 

 物語的な都合を考える。

 

「キャァァァアァァア!」

 

 

 そこで、思考の糸が切れた。

 

 

「やめだ」

 

 考えるのは、やめだ。

 

 BLEACH? 漫画の世界?

 

 ふざけんな。

 

「友達が傷つけられて、へらへらしているやつがあるか?」

 

 こういう時のために鍛えてきたんだ。

 こんな化け物と戦うために鍛えてきたんだ。

 

 今使わずして何に使う。

 

 生きてる死んでいる関係ない。

 

 友達だから、救う。

 

 シィィィィ

 

 口から音が漏れる。

 

「オイッ! 何やってん……だ…………源氏?」

 

 一護の声が聞こえるが、気にしない。

 

 決着は一瞬だ。

 腰を落とし、まるで居合の姿勢の様な形を取る。

 

 呼吸。

 それは人体の身体能力を飛躍的に上昇させる方法の一つであり、それを利用した型と呼ばれる技は幾重も存在する。

 俺は三年で全ての型を使えるようになり、常中もそれなりの練度まで身につけている。

 

 そして、この型というのは鬼滅世界では基本的に刀を使用して行われる。

 当然だ。

 鬼の頸を斬るには特殊な刀でないと行けないのだから。

 

 だけど、現代に置いて刀をおいそれと持ち歩ける環境ではないのは事実。

 それを汲み取ってか、俺の知っている鬼滅の型とは少し違うものが存在している。

 

 それが、

 

 無手:雷の呼吸:壱の型

 

 霹靂一閃

 

 俺の体は消える。

 

 次に現れるのは、化け物の背後。

 

 手を空に払う。

 

 そして、

 

「は?」

 

 化け物の頸が切れ、頭が地に落ちる。


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