【助けて】呼吸使えるけど、オサレが使えない【転生】   作:ぬー(旧名:菊の花の様に)

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期待とかされても困る

 雷の呼吸における型の遍歴は、基本的に繋がっている傾向がある。

 

 壱の型と弐の型を基礎とし、そこに足りないものを補うのが雷の呼吸。

 

 特に参の型は顕著で、これは壱の型と弐の型の複合の典型例である。

 

 霹靂一閃の足捌き。

 稲魂の剣筋。

 

 この2つが組み合わさることで、生まれるのが聚蚊成雷。

 

 本来、雷の呼吸では戦いでの対応が2つ存在し、その2つで基本なんとかなる。

 

 遠距離には、壱の型。

 近距離には、弐の型。

 

 単純だが、強力な戦法。

 遠距離から、高速移動の居合抜き。

 近距離では、高速乱切り。

 

 だから、本当はそれ以降の型は、ある特定の状況でしか使わないのが基本だ。

 

「……何をするのかと思えば、思い切りがええなぁ」

 

 上段切りに対して、受け止める選択をした後、聚蚊成雷で一瞬にして太刀筋から逃れた。

 その後、細かいステップとともに、フェイントを織り交ぜながら銀髪の男に接近した。

 

 そして行われる、複数の斬撃。

 

 参の型は、巨大な相手や、一刀のもとに屠れない相手に対して、手傷を追わせるのが通常だ。

 しかし、このような速さに対して対応できる相手に対しても有効である。

 

 聚蚊成雷はかなり融通の効く型で、行動する前にある程度のルートを構築すれば、そのとおりに動ける。

 

 壱の型にはない強さ。

 

「……ははは」

 

 乾いた笑い。

 もちろん俺の。

 

 俺の乾いた笑いとともに、銀髪の男の髪の毛が、少し切れる。

 それは俺から見ても以前と全く変わった様子はなく、逆にイケメンさに磨きをかけてしまったくらいだ。

 

 それが、俺の決死の行動の結果。

 

 心が折れそう。

 

「ほんま、気が抜けない……なぁ!」

 

 銀髪の男は、なんてことない会話をしながらも、刀を振るう。

 横薙ぎ、俺の足首を渫うように。

 

 間合いは離れている。

 

 相手の刀のことを考えれば、近距離がいいに決まっているのだが、無理。

 

 最初の刺突を見ているせいで、突っ込んで生きていける予感がしない。

 

 今も詰めれる限界。

 対応できる限界の間合いまで詰めている。

 

 なのに、俺の足はこれ以上進むと死ぬかも、という警鐘を鳴らしている。

 そういう予感には、素直に従う。

 

 けど、だからといって安全なわけではない。

 

「ほらほら、伸びるかどうか、判断しいな!」

 

 足元への斬撃は、無視。

 

 伸びない。

 

「ちゃんとわかってるのが気持ち悪いなぁ」

 

 右腕を切るように振るう斬撃。

 

 避ける。

 

 伸びた。

 

「ほれ!」

 

 しかし、初回ほどと比べれば、俺との最低限の間合い分しか伸ばしていないので、途中で太刀筋が変化する。

 

 首元を狙う斬撃。

 

 これは伸びる。

 

 首元で鍔迫り合う。

 

「これも躱すか」

 

 俺の対応を見て、感心する男。

 

 俺はそれに対して、決定打のない現状に対して、打開策を求める。

 あるにはあるが、準備が無理。

 

 それを作れるか思考を回し、死なないように体を動かす。

 

 何回もやってきた光景、状態だ。

 今更失敗などするもの……

 

「なら、これはどうや」

 

 背後から聞こえる銀髪の男の声。

 

 頭が考える前に、呼吸すら使わない一振り。

 ノールックで振るう刀。

 あちらも予想外だろうこの攻撃。

 

「おぉ怖い」

 

 高速移動?

 

 俺が気づかないほどの?

 

 夜一さんと似たような?

 

 どうやって?

 

 頭の中は疑問で埋まる。

 だが、今はそんなこと必要ない。

 

 銀髪の男は、俺の斬撃を体を後ろに倒すことで避けた。

 惜しい。

 しかし、先程の隙で俺が攻撃されなかったことが上々。

 

「……あの」

「なんや?」

 

 距離を詰め、接近状態になる。

 今しかないと振るう刀。

 呼吸を使う必要はない。

 

 呼吸はあくまで必殺。

 雷の呼吸は特にその節は多い。

 だからこそ、少しの溜めが必要で、そんな溜めを作ったら死ぬことも理解できる。

 

 だからこそ声をかけてみた。

 

 正直、殺す気がないのでは、と思ってる。

 先程の一瞬の移動もそうだけど、この人から殺意を読み取るのがめちゃくちゃ難しい。

 

 だけど、先程のやり取りや、初見での攻撃には、明らかに……いや、あからさまに殺意を向けて刀を振るっていた。

 まるで、気づいてほしいかのように。

 

 まるで、気づいてもらわなきゃ困ると言うように。

 

「なんで、本気でやらないんですか?」

 

 こいつは俺を生かしている。

 そう捉えても問題はないはず。

 

 確かに俺が避けているから仕留めきれない、というように見えなくもないが、俺からすれば数回死んでいてもおかしくないほどに、銀髪の男とも実力は離れていると見ている。

 

「本気? ボクはいつでも本気やけどなぁ」

「……そうですか」

 

 しかも、この人のえげつないところは、こうやって話している最中にも、まるでいつもの散歩のように刀を振るって、殺しにかかるという点だ。

 

 避けて受けてを繰り返している。

 だが、銀髪の男は、俺の回避に慣れてきている。

 

 俺の回避は半ば本能に従う形で回避をしている。

 

 暑いものに手を触れてしまったときに、手を引っ込めるように、俺の回避にはパターンが存在してしまう。

 本来なら、一瞬のうちに終わらせる雷の呼吸において、それは特段デメリットにはならない。

 

 というか、自分でも気づいているくらいにはワンパターンだから、長期戦は本来したくない。

 

「そうそう。

 本気に、真摯に取り組んでるよぉ」

 

 首元を狙う斬撃。

 

 先程と同じ太刀筋、それより洗練された速さ。

 それに対して、俺は首元に刀を添える形で、鍔迫合おうと刀に力を込める。

 

「真摯に」

 

 次の瞬間。

 

 男の刀は視界から消えていた。

 当然、それが意味するものとは、

 

 銀髪の男は刀を縮め、自分の胸元に添える。

 切っ先をこちらに向けて。

 理解するよりも早く、未来を見た。

 

 俺の心臓が貫かれる未来。

 

 鍔迫り合いを待っていたために力を込め、すくんでしまった足。

 ここから動くためには、ワンテンポの遅れが生じる。

 

 何をするにも間に合わない。

 

 死ぬ。

 

「誠実に」

 

 できることは、ない。

 

 ならば、俺は……

 

 

 俺の体に刀が突き刺さる。

 

 胸元を貫いた刀は、血を一滴もつけず、俺の体を貫く。

 銀髪の男は、表情を変えない。

 

 俺の体が膝をつこうとする。

 

 胸元に刀はない。

 膝をつくのに支えはない。

 

 俺の体は、地面に倒れ伏す。

 

「……なんや、期待させおって」

 

 倒れ際、そんな声が聞こえた。


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