【助けて】呼吸使えるけど、オサレが使えない【転生】   作:ぬー(旧名:菊の花の様に)

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熊には死んだふりが通用しないらしい

 夜は暗いが闇ではない。

 月明かりの照らされた、自然あふれるそこに、独りの男は倒れていた。

 

 顔を地につけ、膝を地につけ、その姿は物言わぬ人そのもの。

 

 そこに、夜よりも黒い猫が現れる。

 

 どこから現れたのだろうその猫は、男を見つめ、眉を潜めた。

 まるで、人間がなにかに疑問を持つときのようなその表情は、猫とは言い難い。

 

「……生きておるのか」

「っはぁ!!!!」

 

 猫は語りかける。

 

 それと同時に、倒れていた男は起き上がった。

 

 まるで長らく水面に潜っていたかのような様子の男に、猫はまたも語りかける。

 

「お主……どうして……」

「へ? あー、夜一さんか」

「何をしておったのじゃ、貴様」

「……何って、死んだふりですけど」

 

 猫の表情は豊かに変わる。

 バカを見るかのような表情。

 男は黒いがゆえに見えないその表情に目を凝らしながらも、

 

「いやだって、あんなの敵わないですって」

「あんなの、というのは貴様と戦った男のことか?」

「え、見てたんですか?」

「いや何、成り行きを聞いただけだ」

「それならいいですけど」

 

 少し怪しげな表情をする男。

 黒猫はその男の様子を見ながら、どこ吹く風で話を進める。

 

「その血は?」

「俺のです」

 

 黒猫の視線の先は、男の足元。

 そこには血の跡ができている。

 少しの怪我をしたときくらいの、血。

 

「して、傷は?」

「塞いでます」

「どうやって」

「筋肉で」

 

 だが、男からは血が出ている様子も、怪我をした様子もない。

 服の胸元についている血を見なければ、彼が怪我をしたとは到底思えない。

 

「筋肉とは……バカか?」

「いやいや、別にそんな筋肉バカ的なものじゃありませんよ」

「自分が言いだしたことではないか」

「これは筋肉だけで止めてるわけじゃないんですよ」

「……どういうことじゃ?」

 

 男は座り込む。

 胡座をかいて、上を見上げる。

 

 シィィ、という微かな音が聞こえる。

 

「胸元の傷は刺し傷です。

 つまりは刀による刺突の傷。

 刀の厚みなんて、早々大きいものじゃありません。

 だから、最後に一番傷つかない場所を切らせた」

「なぜ、そんなことを?」

 

 黒猫の言葉には、様々な意味が込められている。

 男の実力を持ってすれば、こんな回りくどいことをしなくとも、逃げ切れるはずだった。

 

 なのに、黒猫が来てみれば死に体で倒れている。

 

 少し、ちぐはぐなの光景に、黒猫は疑問を抱いた。

 

「真っ向から戦っても勝機がないのはすぐに気づきました。

 なので、あの連中にも通用した潜伏の技術を利用して、後ろから仕留めます」

「そのための、死んだふりだと?」

「俺の潜伏が通用する、ってことは死んだふりをしてもバレない確率のほうが高いってことじゃないですか」

「無謀のように思えるが?」

「……世の中には、死んだふりを極めないと死んじゃうシーンってあるんですよ」

 

 男は、足元に落ちた刃のない刀を拾い上げる。

 途端、刀の柄から刃が出現する。

 

「じゃ、追います」

 

 男はそれを片手に、準備体操を行い、

 

「やめい。

 すでに黒崎一護ならば敗北しておる」

「……は?」

 

 黒猫の方を向く。

 表情で『何言っているのかわからないんですけど』と言っていた。

 

 そんな分かりやすい様子に、

 

「黒崎一護は、残った二人に敗北した。

 普通に考えて手も足も出ない相手じゃ。

 当然の結果と言えるであろう」

「いやいや、あの一護が敗北するとか、ありえないって」

 

 黒猫の淡々とした言葉遣いに、男は信じられないと言わんばかりに言葉を返す。

 持っているの刀が揺れる。

 

「事実じゃ。

 あやつは三人のうちの黒髪の人間に敗れた」

「……見に行って」

「ならぬ」

「なんでですか」

 

 男は膝を曲げ、今にも走り出すと言わんばかりの体勢で、止められる。

 後は膝を伸ばすだけ。

 

「黒崎一護は、死神としての力を失った」

「は?」

「あやつは、死神における重要な器官を失った」

「……いやいや、それがないと無理なんですか?

 復活とかしないんですか?」

「魂魄の損傷、それも霊力の発生を司る器官に関しては、替えがきかない。

 あやつは、死神としての能力を失ったのだ」

 

 男はその場から消える。

 飛び出した。

 

 伸ばした膝。

 脚部から生まれる大きな移動エネルギー。

 男の体は加速し、森を、山を抜けていく。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 数分経たずして、男は市街地の、とある場所に訪れる。

 

 それは、男が友人に叱咤激励した場所。

 男が、友人とともに戦おうとした場所。

 

 そこには、何も残されていない。

 

「瞬歩を使わずしてここまで速いとは、感心じゃな」

「……一護はどこにいるんですか」

「……あやつならば今、救出している」

「浦原さんですか」

 

 男は震える声を出しながら、拳を握りしめた。

 黒猫は、そんな様子の男を見て、ふわりと飛ぶ。

 

 そして着地したのは、男の頭の上。

 

 玉乗りをするかのように自然に登った黒猫は、

 

「少し頭を冷やせ。

 黒崎一護に関しては、助かる」

「本当ですか?」

「儂がこの期に及んで嘘をつくように見えるか?」

 

 男は胸を撫で下ろす。

 黒猫はそんな様子の男を見て、

 

「一つの提案があるのじゃが」

「……聞くだけ聞きます」

「お主、黒崎一護を特訓してみないか?」

「……は?」

 

 唐突に意味不明な提案をしてきた。

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