【助けて】呼吸使えるけど、オサレが使えない【転生】 作:ぬー(旧名:菊の花の様に)
「えっと、何を言っているんでしょうか、夜一さん」
「だから、お主の腕を見込んで、黒崎一護を鍛えてみないかといっておるのじゃ」
「俺の腕を見込んでって……一護は死神の力を失ったんじゃ?」
「そんなもん、喜助のやつがどうにかするに決まっておるじゃろう」
「なんてやっつけ感……」
銀髪頭に勝てないことを悟り、咄嗟に死んだふりを強行した。
よくよく観察されたらバレる、とかが一番怖かったが、特にバレることはなかった。
死んだふりで利用したのは、『息抜き』という技術だ。
常中を身につける過程で、肺活量の増加と常時の呼吸を行えるようにするのだが、才能がない人はまずこの呼吸をするという感覚を掴めない。
これは常中ができていない状態を理解するのに必要なのだが、これが感覚でできないと、この『息抜き』はやることになる。
簡単に言うと、死ぬほど息を吐く。
それだけ。
酸欠状態、意識朦朧、体の衰弱。
それらの現象が一気に襲ってくるこの状態を経験することによって、常中は身につく。
「でも、俺なんかが一護の相手が務まるんですか?」
「……そんなことを気にしておるのか?」
「いや、あんな気配出している人間と正面切って戦えって言う方が難しいですって」
これを利用した気配の隠匿方法を、雷の呼吸では学ぶ。
雷の呼吸は最速の技。
そのための準備を怠ることはない。
だからこそ、俺の気配を消す技術も、割と高いレベルで存在している。
「ならばちょうどよいではないか」
「へ?」
「お主は黒崎一護と戦って強くなる。
黒崎一護は強くなったお主と戦って強くなる」
「無茶苦茶すぎませんか? その理論」
そのお陰でこうして現状の生きている状況は作れている。
しかし、一護が負けたと聞いたときは理解ができなかった。
俺はBLEACHという物語に関しての知識をほぼ持っていない。
それはもうすでに割り切っていることなので、別にいい。
それなら、俺が介入しないことを優先するつもりだった。
「何を言っておる。
黒崎一護はその速さに敗北したのじゃよ」
「……速さで?」
「そうじゃ。
敵さんの方も少しは速く、気を抜いた瞬間に一撃じゃ」
介入しなければ、変わることはない。
BLEACHにおいて死亡するキャラはいなかったと記憶しているので、自分の身に危険が訪れた場合に限り、俺の持つ力を振るえば済む話だと思っていた。
けれど、今ではこの有様だ。
俺が一人を引きつけることによって、一護が勝てる可能性をあげようと考えていた。
三人来るのが史実なら、二人にすれば勝てるのだと。
「あの」
「なんじゃ」
「俺より、そいつ速かったですかね」
「そうじゃの、あれより貴様は遅い」
「……そうですか」
甘えた考えだ。
俺がいるからなんとかなるかも。
いや、違う。
俺がいるからなんともならなかった。
もしこれが既定路線なのだとしても、
「夜一さん、一護の件、少し考えさせてください」
「リミットはおそらく……3日じゃの」
「そうですか。
……多分、明日までに結論は出せます」
「そうかの」
「それじゃあ、少しやることがあるので」
「そうかの」
夜一さんは、俺の様子を察してなのかはわからないが、多くを聞いてこない。
嬉しい反面、見透かされている気分だ。
頭の上から消えた夜一さん。
少し物寂しい感じがしながらも、俺は自分の持ち物を置いてきた場所に戻る。
夜遅くというのもあって、誰にも盗られてはいなかった。
ホッと胸を撫で下ろしつつも、持ち物の中から、携帯を取り出す。
prrrrr
2コール目、通話が繋がる。
『なんじゃ』
「よっ」
『なんじゃ、こんな夜遅くに』
しわがれた声が、電話越しにも聞こえる。
我妻丈。
俺の祖父であり、この世界における滅却師の一人。
浦原さんの話によれば、死神に淘汰された中を生き延び、現代に残る数少ない虚を倒すことのできる人間。
「今大丈夫?」
『聞いてやろう』
「どんだけ上から目線なのさ……」
『ほう。
おそらく頼み事をする前なのに、そんな口を聞いても大丈夫なのか?』
「……別に大丈夫だよ」
俺の声色から察したのか、会話のトーンを落とすジジイ。
こういうところがムカつくけど、悪くないと思えるところだから、嫌だ。
俺は少し言葉を選びながらも、ゆっくりと話す。
「負けた」
『そうか』
「戦ってる最中にわかったくらいには、負けた」
『そうじゃの。
源氏は弱いからの』
「わかってるっての。
それでもさ、そこそこにはやれると思っていた」
『そうか』
ここで変に茶化さないあたりもムカつく。
こういうときは察しがいい。
嫌いだ。
「多分、この先ものうのうと生きていこうとすれば、きっとこの力は強いし、わりかしどんな状況でも死ぬことはないと思う」
『そうじゃな。
源氏だって今も敗北したはずなのに、生きておる』
「そ。
でも、少しムカつくことがあって、負けて、思った」
浦原さんに俺のことを理解された上で、何も話されなかったこと。
夜一さんになすすべ無かったこと。
銀髪頭のやつに勝てなかったこと。
一護が負けたこと。
これら全部をひっくるめて、俺の感想は、
「強くなりたい」
BLEACHの世界?
関係ない。
物語の世界?
関係ない。
俺はこの世界で生きて、思った。
ここは俺にとって、現実だ。
前にも同じことを思った。
だけど、その時は自分のできる範囲で、なんて考えていた。
「できること全部やって、ムカつくやつぶっ飛ばせるくらいの力がほしい」
でも今は、できないことが多いことに気がついたから、もっと強くなりたい。
動機は不純。
志に高尚さはない。
覚悟はそこそこ。
信念もそこそこ。
子供みたいな原動力。
俺にはオサレの欠片もない。
そんなことは理解してるけど、強くなりたいと強く想った。
そんな言葉を聞いて、愛すべきクソジジイは、
『なれば良し』
愛すべきクソジジイだった。