【助けて】呼吸使えるけど、オサレが使えない【転生】 作:ぬー(旧名:菊の花の様に)
「ほれ、やるぞ」
「は?」
クソジジイに教えを請うたあの日から、数日。
ジジイはいきなりだと難しいから、修行について考える時間が欲しい、ということで俺に自主訓練を言い渡した。
俺は言われるがままにその自主練を行っていたら、ジジイから突然の連絡。
それは浦原商店に訪れよ、という唐突な話だった。
まぁ、浦原商店の地下には、訓練におあつらえ向きの施設が存在する。
そこを使うということなのだろう。
そう納得した。
「なんでジジイはここにいるんだ?」
「なんじゃ? 儂がいることに不満でもあるのか?」
「いや、別に不満はないけどいることが不思議というか……」
「ならばよかろう。
それにしても、儂が見ていないというのにしっかりと訓練はしていたようじゃのう」
「俺から言い出したことだし、しっかりやりはするけど……」
「ふむ。
それでは一つ質問をするが、辛かったか?」
「確かに息抜きは辛いけど、それでも辛かったのは最初だけだった」
「そうかそうか」
自主訓練で俺が言い渡されたのは、『息抜き』の継続。
休め、という一般的な言葉の受け取り方ではなく、呼吸使いとしての息抜きの継続。
つまりは死ぬほど気配を消して生きることの継続。
最初はもちろん辛かった。
それはそうだ。
限りなく呼吸を浅く、息を吐いて生活するのだから、辛い。
そう思っていたのだが、途中から認識が変わっていった。
いうほど辛くないのでは? これ。
確かに辛い。
息を吐き続けないとだめで、辛い状況であることは確実なのだが、それでも続けば所詮この程度、である。
辛さが変わったということはないのだが、超絶空腹とか一睡もせずに3日超えるとかよりかはよっぽどマシ。
「流石に気絶するほど息抜きをするようでもなかったんじゃな」
「自分で倒れる直前くらいは理解できるって」
「昔は倒れるまでやるバカがいたもんじゃよ」
「そんなやついるのか」
だから、これを訓練と言っていいのかは少し疑問だったが、ジジイがいうからにはそれなりの意味があると信じてやっていた。
ちなみに今も絶賛息抜き中だ。
「それじゃあ、息抜きを行ったまま訓練を行うぞ」
「ちょ、ちょっとまった」
ジジイは俺と似たような柄のみの刀を取り出し、構える。
もちろん同じだと言わんばかりに、柄だけの刀からは刃が飛び出す。
その行動に待ったをかけ、俺は後ろを見た。
先程も言ったように、ここは浦原商店の地下。
勉強部屋と呼ばれている場所だ。
そこは殺風景な場所で、生きとし生けるものが砂と化している場所。
思わず浦原さんがやんでいる可能性を疑うくらいには、不気味な場所。
そして俺の後ろ、少し遠目にあるものに、視線を向け、
「あれ、何」
そこにある真っ黒い穴を指した。
「何って、穴じゃが」
「ANAって、航空の?」
「……?」
「おいおい息子の精一杯のギャグだぞ突っ込めよジジイ」
「……?」
「え、待って本気で知らないやつ?」
とぼけるジジイにボケる俺。
何一つ意味のわからないこの対話に、一人の人物が割り込んでくる。
「あの~、親子ともども涙の再会はよろしいんですけど……」
「「なわけない」」
「息もピッタリっスね……」
ハットを目深にかぶった男。
浦原喜助。
ジジイと知り合いである彼は、俺がここに来てから少し姿勢を正しているように見える。
いつもはけだるげで、姿勢悪い感じなのに、今日は少しいつもより背が高く見える。
気の所為かと捨て置くこともできるくらいの違和感だが、俺は気になって仕方がなかった。
「あれは今ウルルが頑張って穴を掘ってくれていまス。
今後使う予定があるので」
「使う予定」
「あ、別に源氏さんに使う予定はありませんよ」
「え、いや、今更穴に落とされたところでなんとも思いませんよ?」
壁くらい走れなければ俺はすでに死んでいる(名言)。
「ちなみに、あたしの方は色々考えて行動をしているんでスけど、そちらの方は何をするんでしょうか」
「……ん?」
いやお前だよお前、と言わんばかりに俺と浦原さんはジジイの方を見る。
ジジイは何を考えているのかは知らないが、穴を見つめ、少し考えた素振りを見せていた。
「あぁ、儂の方は少し戦いの勘を取り戻させつつ、底上げをしようと思っての」
「戦いの勘?」
「まぁ、生きるための勘、という観点で言えば源氏は十分に生きていける程度のものを持っているんじゃが……」
「俺がそれだと足りないので、今回は修行をします」
「そうっスか」
浦原さんが俺に対して哀れみの目を向けてくる。
……ん? 違うな
どえむなんすか?
「ちゃうわい!」
「おぉ、中々のツッコミニストっすねぇ。
黒崎さんといい勝負じゃないっすか?」
「俺はどっちもできるんですよ」
あんな奴らと絡んでいれば、どちらもできるようになるに決まっている。
ちなみに、今日から夏休みが始まっている。
俺は学校が終わり次第ここに直行してきている。
「それじゃあ、あたしは黒崎さんを迎えに行きまス」
「あ、一護も来るんですね」
「丈さんとも話して、少し手伝ってもらうつもりっすから、それまでに死なないでくださいッスね~」
浦原さんはそう言って穴を掘っているウルルちゃんを呼び出し、勉強部屋を去っていく。
「じゃ、やるかジジイ」
昔にやらされたところに比べれば、多少はあるやる気を奮い立たせ、俺もジジイと同じ様に、刃のない刀を取り出す。
そして現れる刃。
いつ息抜きはやめればいいんだと思いながらも、ジジイの様子を見ると、何やら考え込んだ様子をしている。
何を考えているのかは知らないけど、一応隙は見せている。
今のうちに斬りかかるか?
そんな考えが頭をよぎるが、それで過去に何度失敗したことかを思い出す。
すでに数は数えていない。
とりあえず勝てないということは理解している。
だからこそ、息抜きをしっぱなしで勝てるなんて甘っちょろいことは考えない。
「おーい」
「……それでは、息抜きをしたままで、全力でこちらに来なさい。
儂はそれを捌く」
「は」
声を掛けて、不意打ち。
息抜きは継続している。
それはつまり全力ではないということ。
しかし、だからといってパフォーマンスを落とすようでは何回も俺は死んでいる。
それに、呼吸法における型は呼吸だけではない。
体の使い方、足法、刀法などにも型の真髄は詰まっている。
「い!」
常人ならば感じ取れないほどの速さ。
「そうかそうか」
……だったと思う。
ジジイの首元を刎ねるつもりで振るったその刃は、ジジイの肩辺りで止められていた。
ちなみに、俺の身長は高校生の平均くらいだが、ジジイの身長はそれより低い。
つまりは体格的な有利はこちらにあるということ。
力も、体重もこちらが勝っているというのに、
「サボってはおらぬようじゃが」
人差し指と親指で刀を挟んで止められるとか聞いてないんだけど……
「温くはなったようじゃな」
顔面。
避け……
「バカモン、フェイントじゃよ」
土手っ腹にトラクターが突っ込んできた。
……いや、これはジジイに失礼だわ。
土手っ腹に、新幹線が突っ込んできた。