【助けて】呼吸使えるけど、オサレが使えない【転生】 作:ぬー(旧名:菊の花の様に)
ガラガラガラ
こんな軽い感じで表現していいのか、というくらいの音が鳴り響く。
鈍い倒壊音。
聞いたことがあるだろうか。
超間近で。
自分がその音の原因だと自覚しながら。
俺は現在進行形で地面と水切りごっこをして遊んでいる。
ちなみに俺は石。
「よっ! ほっ!」
大きな声で気合を入れながら、地面との対話を試みる。
地面くんは俺のスピードについていけないよと言わんばかりに俺の着地を拒否する。
しかし、それを許すと俺が死ぬので、力づくで対話を要求。
その結果、地面と足がガリガリと音を立てながら対話をする羽目になる。
すでに息抜きなんぞしている場合ではない。
呼吸しなければ死ぬ。
そういうことだ。
俺の体が持っていた慣性を押し殺し、その場に留まる。
結構広いはずなのに、もう後ろに壁あるのよくわからないんですけど。
「うむ」
「わっ、びっくりした」
後ろを振り向くと、そこには俺を突き飛ばしたはずのジジイの姿が。
俺は察知系が苦手で、敵意と殺意を隠されると探知できないのを知られているため、ジジイに背後を取られやすい。
そのため、自分の生存本能にも従って敵意も殺意もないけど死に至る攻撃を避けることができるのだが。
そんなジジイは、俺の背後に立ちながらも、少し感慨深いと言った表情で腕を組んでいる。
「自主練をしているようで安心したの」
「……はぁ」
「昔のお前ならば、全集中を使う場面だったが、今となっては常中のみでこれを生き残るとはな」
「使う暇なかったけど……」
「使う暇がなくとも、生きるために使うのが源氏じゃろ?」
「まぁ、うん」
イマイチわかりにくい説明だけど、言っている意味は理解できる。
今しがた吹き飛ばされてきた道(道というかは定かではない)を見返し、思う。
以前に銀髪男に投げ飛ばされたとき、俺は木々を全集中の呼吸を使うことによって生き残ったが、今はそれを使わずとも生きている。
「息抜きを継続することで、動きのムダが取れ、呼吸が効率化される。
重いものを持った後に物を軽く感じるのと同じやつじゃ」
「そんな一般的な感じで説明して大丈夫なの? それ」
「本質的に似ているのならば、問題はなかろうて」
体は岩に衝突して痛いけど、常中の呼吸によって常人より頑丈な肉体になったため、まだ助かっている。
だけど、今までだったら流石に怪我をしていた。
それが、今は打ち身程度。
改めて思い返してみると、結構すごい。
「本質的に似ている、という話はその後も含めて似ている、ということでの。
つまりはもう一度源氏を投げ飛ばすと、次は全集中の呼吸を使わないと死ぬ」
「?!」
「まぁ今度はしないけどの」
「ふぅ」
リアクションのみで会話していると思われがちだが、言葉を紡ぐ必要があるなら、警戒に集中力を割いたほうがまだマシだ。
会話なんてリアクションで十分。
「まぁ、また息抜きをしつつ、型の練習をするぞ」
「…………ふぅ。
型の練習? なんで?」
「浦原から聞いているかどうかは知らないが、お主らに残された時間は一月。
その中でも修行に使えるのは半月らしい」
「……はぁ」
「その中でできることが、自力を上げることと、型というものそのものへの理解度の向上じゃ」
昔から、ジジイは結構聞きやすく、理解しやすい口調で説明をする。
そのお陰で今日というこの日まで生きてこれた。
この分かる説明がなかったら俺は生きていない。
そう思ってはいるのだが、
「俺らに残された時間が一月ってのは?」
「なんじゃ? 聞いとらんのか?」
「いや、はい」
意味がわからないものはわからない。
「一月、というところが分からないと思っておったが……」
「俺はてっきりまた来る死神たちに対抗できる手段を身につける、位の気持ちでいたけど」
「そうなのか」
「事情……聞かせてもらったほうがいいよね」
「そうじゃな……」
ジジイの相槌に俺はマジレスしながら、息抜きの辛さを実感する。
息抜きは以前もやったのだが、最初が異様にきつい。
こうして一瞬解いた後にしてもきついのだから、もっと時間を空けていれば相当だろう。
辛いには辛いが、目の前にジジイが立っているという時点で弱さを見せることはできない。
気丈に振る舞う。
「それでは……説明は浦原のやつに任せるとして、訓練を続けるか」
「……はぁ」
「後から来たアヤツを問いただせばなんとかなる話だろうて。
それでは、行くぞ」
「いや、俺の、りょうしょry」
その後、俺が文字通り死ぬ気で生き残ったことは誰もが周知のことだろう。
☆☆☆☆☆
「ここは……」
「ここは勉強部屋といいますッス!」
「何をするための……」
「快適な修行ライフとそれをサポートする形の様々な癒やしをこの部屋は提供するッスよ!」
「いや、快適って源氏?!」
源氏の悲鳴が上がってから半刻。
勉強部屋と称する空間に現れたのは、二人の男。
一人は目深にハットをかぶった怪しげな高下駄の男。
この殺風景な部屋を快適、癒やしと話す段階でその人の性格は推して図ることができる。
もう一人は、オレンジ頭の男。
こちらは青年で、服装の雰囲気からも分かる通り、学生である。
オレンジ髪の男……黒崎一護は、勉強部屋を見渡して、ツッコミをしようとした段階で、目の前に突如どこからともなく飛び出してきた人物に声を掛ける。
「一護!」
「どうしたんだそのきずってうぉぉぉぉ?!」
源氏の体は、傍から見ても簡単にわかるくらいにはボロボロで、服は汚れ、至るところに擦過傷がある。
医者の息子であるため、怪我や病気には見慣れている一護だが、このタイプの傷が生まれるのは、とある状況下だけ。
それを理解する前に、源氏の目の前に影が現れた。
それの動きを一護は捉えることはできない。
それはまるで風の様に自然に、目につかないくらいに自然に、自然のように当たり前に、
クソ速かった。
源氏が黒い影がちらついた瞬間に刀を振るうと、源氏の体はどこかにすっ飛ばされてしまった。
その後に起きたのは、音。
金属の衝突音が、目の前の光景に遅れて来る。
「なんだ……ありゃ」
「よーく見てくださいね、黒崎サン。
あれが人間の最高峰っすから」
「……源氏と戦っていると思われる人が、だよな」
「……まぁ、見えないのは想定済みっす」
一護から見る源氏は、一護の知らない源氏だった。
黒崎一護の知る我妻源氏は、変なやつで、面白いやつだけど、こんな真面目に刀を振るう人間には見えなかった。
目の前で、常識が壊れる感覚。
そして同時に感じる、あの時と同じ足のすくみ。
「それでは、あたしたちも訓練を始めましょうか」
「……」
一護はハットの男……浦原喜助の話を聞かない。
いや、聞こえていない。
彼の瞳には、ただひたすら、友の姿が映っている。
「それでは~、遠慮なく~」
背後から忍び寄る杖を構えた男の姿にも気づかずに、