【助けて】呼吸使えるけど、オサレが使えない【転生】 作:ぬー(旧名:菊の花の様に)
「オギャァァーーーーーー?!」
一護の体は地面に倒れ込んだ。
すくんだ足とて反射に逆らうことはできない。
前に出した足は、コケる速度に間に合わず、盛大に転ぶ姿を演出した。
「い、いきなり何しやがんだてめぇ?!」
一護は後ろを振り向き、自分を転ばせた張本人……浦原喜助を睨む。
「お?」
しかし、そんな視線を固定することは敵わない。
一護の体は傾き、足を地につけた。
まるで酔っ払ったようなその足取りと表情に、浦原は話を始める。
「初めてでしょう?
”死神”じゃない状態で肉体から出るのは」
少しこの状態に慣れた一護は、だるい体を動かし、浦原の方に視線を向ける。
汗が滲んで見えるくらいに、一護の体調は悪いことは分かる。
「息苦しくありませんか?
意外と動きにくいもんでしょう? 魂魄の体ってのは」
「っ?!」
一護はようやく、自分が自分の体から出ていることを理解する。
自分の胸の真ん中にある鎖の存在が、一護にその事実を如実に教えてくれる。
「今のあなたは、朽木白哉に霊力の発生源である『魄睡』と、ブースターである『鎖結』を破壊されている。
つまり、現在霊力を持たない”普通の人間”の”ただの魂魄”なんスよ。
死神と戦うには、その失った霊力をもとに戻すところから始めなくちゃ、お話にならない」
一護からすれば、話を理解するだけでも一苦労。
でも、こういうときにこそ変なものに意識が向く、というもので、浦原の持つステッキがゆっくり動く姿に、意識を少し取られていた。
「まずはその”魂魄の体”を自在に動かせるようになりましょう。
霊力とは、霊なるものに働きかける力。
霊力が高まれば、それだけ魂魄の体は鋭い動きが可能になる」
浦原はゆっくり動かしていた杖の先端を一護に向ける。
なんだか目が惹きつけられるその杖に意識を向けながらも、話を聞く。
少しは一護も慣れたが、それでも辛いものは辛い。
どうにかなるのならば早くしたい、というのが本音だった。
「逆に言えば、その魂魄の体で実の肉体以上の動きができるようになれば、それは『霊力の回復』を意味するんスよ」
「なんかよくわからねーけど、じゃあラジオ体操でもやればいいのか?」
「まさか」
立ち上がり、何をするのかと尋ねる一護に対して、浦原は少しおどけた様子で返しながら、
「教えるよりも実践したほうがいいっスね。
お願いしまーす!」
浦原の少し調子のいい言葉とともに、一護の背後に向けてそのセリフは放たれる。
自分の後ろに何が? という純粋な疑問で振り向いた一護だったが、そこにはなにもない。
RPGでなにもない空間を調べたときのような空虚感。
それに一護は疑問を思っていると、
ドゴォォォン!
何かが降ってきた。
大砲が着弾したかのような音に、思わず一護は驚き後ずさる。
一護のおよそ正面二メートル前。
そこに着弾した何かは、その衝撃で土煙を上げる。
何かいるのは分かるが、何がいるのか分からない一護は、目を凝らしてそこを見る。
すると現れたのは、
「KUSOZIZII!!!」
一護の友人の、我妻源氏だった。
「源氏?!」
「一護?! なんでここに?!」
「いやさっきから来てたけど分からなかったのか?!」
「いやそんなの……」
いつもの調子で話す源氏。
ボロボロの様子の源氏に戸惑いながらも、いつもの調子で話す源氏に、一護の調子は狂う。
体には無数の切り傷があり、血まみれ、とまでは行かなくても血に塗れた、というにはふさわしい格好。
本人としては何も気にしていない様子だが、その様子はまさに映画でしか見たことのないような傷の付き様。
そんな源氏は、一護と話している最中に、急に目つきを変えて刀を構えた。
まるで敵が迫ってきているというようなその表情に、一護も源氏と同じ方向を向く。
「もっとよく感知するんじゃ」
そして次の瞬間には、二人は背後を取られていた。
振り向く源氏と一護。
そこにいるのは、源氏よりも背の小さい老人。
しわがれた、という表現が非常に似合っているその姿。
和服を身に着け、その立派な白髪は、仙人を思わせる風貌。
片手には刀を持っている。
源氏はもちろんのこと、一護にもこの刀は見覚えがある。
源氏の持っている刀と同じ刀。
そこから導き出されたのが、
「源氏の……じいちゃん?」
「あぁ。
いかにも」
背後を取られた一護。
一護とおじいさんの距離はおおよそ4メートル。
何歩か歩かないと届かない距離。
しかし、一護の気づかないうちに、おじいさんは目の前に現れた。
まばたきはしてない。
警戒も解いてない。
なのに、まるでさっきからそこにいたかのように、おじいさんは一護の目の前に立っていた。
「儂は我妻丈。
あそこの愚孫の、祖父をしておる」
差し出された手。
ひきつる頬を必死に隠しながら、手のひらを差し出す。
手を差し出している間に思うのは、珍しく家族のことを話したある日の源氏のこと。
『源氏の家族って?』
『俺んちは両親がいなくて、父方の爺さんに育てられてるよ』
『へぇ。
それじゃあ結構甘やかされてきたり?』
『水色。
世の中の甘いジジイを大切にしろ。
そうじゃないと俺が泣く』
『全く意味が分からないんだけど』
おじいさんは、両親代わりとして厳しく育てているのかな、とその時の一護は考えた。
けど、そういうことじゃない。
「ふむ。
流石に現状では力を測るもなにもない、ということか」
源氏の言っていたことは、何も精神面に限った話ではない。
肉体的に、甘くない、ということ。
それを理解した頃には、一護の体は宙に舞っていた。
「ガハッ」
一護の肺の中の空気が抜ける。
地面に背中から落ちる。
前にも一護は巨体を相手にして、投げ飛ばされたことはあった。
だが、その時は流石に持ち上げられて、投げ飛ばされる、というアクションがあった。
それに比べ、今のはなんだ。
いきなり落ちていた。
まるでワープしたかのような体験に、一護は頭の整理が追いつかなかった。
「それじゃあ、黒崎さんにはこれをつけてもらって、源氏さんと戦ってもらいます」
「……源氏と?」
息が苦しい中、一護を見下ろす影が一つ。
目深に被ったハットの中が少しだけ見えながらも、浦原の素顔に一護はサラサラ興味などないので、話の内容を理解し直す。
「はい。
彼にとってのしっかりとした訓練になるし、それに黒崎さんも力を取り戻すってことでラッキー」
「……俺は源氏を斬ることはできないぞ」
「いやいや、刀なんて持っていたら危ないじゃないですか」
浦原は、一護を見下ろしながら、両手の拳同士をぶつけ、
「昔から、男同士と言ったらこれじゃないですか」
「は?」
「す・て・ご・ろ♡」
浦原が言うと気色悪いな、と正直に一護は思いながらも、
「したこと……ないなぁ」
ちょっとだけ、興味は湧いた。