【助けて】呼吸使えるけど、オサレが使えない【転生】   作:ぬー(旧名:菊の花の様に)

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評価ありがとうございます。
励みです。


生理現象って結構我慢できる

「強くなる:とは」

「知らぬ」

 

 時間が経つのは早い。

 そうは言うが、だからといって現在の一秒が長くなるわけはなく、つまり俺の死は目の前まで来ていた。

 

「慣れたものじゃな」

「ナレルワケ・ナカロウテ(1999~)」

「ハハハ」

「笑いながら殺してくるのこわ」

 

 一護とのちょっとしたじゃれ合いから、2日が経過した。

 いや、正確には2日と半日、か。

 

 ここにいると時間経過とか分からなくなるのだが、流石は森の中で生きていたこともあり、腹がしっかり減る。

 あとは浦原さんから適当に聞いて、時間の感覚はズレていない。

 

 一護はなにやら穴の中に落とされているようで、俺は様子を見ていない。

 

 浦原さんが言うには、上がってくる頃にはなんとかなっている、そうなので信用はならない。

 

「反撃したいんだけど」

「すればよかろう」

「全部誘い隙なの無理すぎるんだけど」

「そうか」

「しかも分かりづらいから本当に隙かと思うしっ」

 

 俺とジジイは一護が穴の中で健やかに? 暮らしているときも、ラブラブ二人で殺し合っていた。

 いや、殺し合い、ではないわ。

 

 虐殺、だわ。

 

「前に出ないのか?」

「隙も作ってくれてるのは理解してるから、出たい」

「ならば出ればよかろう」

「流石に遺言を書き記しておきたい」

 

 初日に比べれば、戦闘の勘が戻ってきた。

 刀を受ける回数は減り、俺の余裕も出てきた。

 

「ぐべえぇっ!」

「ぼはぁっ!」

「がっ!」

 

 だからといって、俺の怪我が減るわけではない。

 

 刀を受ける回数は減ったが、その代わりに増えた死なない攻撃……当て身に当たるようになった。

 

 骨が折れているが、筋肉でなんとか持ち直してる(きつい)

 反撃しようにも、それに反撃するとやばい、という隙しかない(つらい)

 というか避けに専念してるとフェイントに引掛かる。

 

「いくぞ」

 

 大事なのは、呼吸を合わせること。

 

 相手を知り、相手の呼吸を則れば、それは相手を乗っ取ることになる。

 

シィィィィィィィィ

 

 呼吸の音が、かすかに聞こえる。

 

 もちろん、俺は息抜き状態。

 常に最低限の力と状態で受けに徹している。

 その状態に対して放つ、ジジイの呼吸。

 

「よっs

 

 意識を集中させた瞬間、俺の意識は暗転する。

 

 気づく。

 

 気を失っていた。

 

 目を開けると、そこは空中。

 背中には空の壁。

 

 なんとか受けきって上空に飛ばされた。

 体がダメージに気づく前に結論を導き、どうするかを考える。

 

「くぅっ……」

 

 そして気づく、ダメージと衝撃。

 

 現実が雷の呼吸に追いついていない。

 

 現実が気づくとき、またそれは俺の体が気づくとき。

 

 背後での轟音。

 背中での衝撃。

 体が地面に吸い寄せられるように落ちていく。

 

 空中に打ち上げられ、天井にぶつかった俺はその衝撃を殺せずに、衝突。

 反作用と重力により、地面落下。

 

 おそらくこれが答え。

 俺がその事実にたどり着くのは、終わってから。

 

「やばいっ」

 

 このときの脳内にあるのは、ひたすらな危険信号。

 地面が向かってくるその光景は何度目か。

 

 14回(数えてた)

 

 だから、これも死なない。

 

 息抜きは継続。

 

 脱力。

 

 地面。

 

 眼前。

 

 スタ。

 

 大きな音はしない。

 

 まるで、軽くジャンプして地面に足をついたかのような、静かな音。

 

「ふむ」

 

 背後からの声。

 

 いや、なんで強者ってこう、背後からの登場好きなの???

 

 流れるように構え、後ろにいるジジイを見る。

 

「やはりというか、生きるためとなると飲み込みが早いの」

「飲み込み早くしないと死ぬから」

「ここ数日で全く戦闘技術は向上せんのに、以前できなかった上空からの着地はすぐできた」

「だからできないと死ぬから」

「しかも、息抜き脱力付きで。

 これを戦闘に活かすことができればのぉ……」

「だから死ぬからやっ」

 

 10センチ後ろ。

 

 携帯一つ分くらい頭を後ろに引く。

 

 目の前には、刀が通り過ぎる。

 

「回避も息抜きありでもかなりやれる様になって……」

「息抜きありでできないと死ぬので」

「……そうじゃな」

 

 人を殺しかけておいてよくのうのうと孫の成長を実感できるこのクソジジイ。

 

 でもまぁ、心が折れずにここまで生きるための技術を身につけられたのは、素直に意識の違いであったと思う。

 

 強くなるために、やらなきゃいけないこと。

 やったほうが良いこと。

 

 それを自分の意志で、生きる意志に打ち勝たせられたこと。

 

「でもまぁ……なぜ戦闘に応用できないんじゃのぉ……」

「それはごめん」

 

 ジジイの攻撃が止むことはない。

 

 俺はひたすらに最低限の動きで避けていく。

 

 ジジイ曰く、脱力ができるのなら、呼吸がもう一段階レベルアップするらしいのだが、どうしても回避以外で脱力ができない。

 マジで、冗談抜きで。

 

 生きるために必死になりすぎて、自分でもどうやっているのか理解できていないからこうなっている。

 

「まぁ、生きれるならそれでよいか」

 

 なんか褒められているんだかよくわからない言葉を聞きながら、回避を続けていると、

 足場が消えた。

 

「へ?」

「少し休憩じゃ。

 穴の下の寝坊助を叩き起こしてこい」

「へ?」

 

 15回目だ(数えてた)

 

☆☆☆☆☆

 

 

 穴の中に落ちてから、2日と半日が経過した。

 一向に穴を登れる気配はない。

 

 穴の上からはクソガキたちが話しかけてくれたり、浦原さんが様子を見に来てくれたりしている。

 

「あいつ、生きてるかなぁ」

 

 他人の心配する前に、自分が虚にならない様に心配するべきなのだが、それでも気になる。

 

 穴の上から話しかけてくれる、ということは音が聞こえるのだ。

 この穴から聞こえるのは、悲鳴と、轟音と、剣戟。

 

 どれもこれもあいつを想起させる音。

 

「黒崎殿」

「わかってるって」

 

 一応、自分が命の危険にあるのはしっかりと理解している。

 

 最初に因果の鎖を斬られた時は焦ったりもした。

 

 それにタイムリミットが近づいてきていることにも。

 

「……っし」

 

 穴を登ろう。

 今できるのは、それだけ。

 

 後ろに封じられた両手を器用に使い、立ち上がり、上を見て、

 

「は?」

 

 何かが落ちてきた。


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