【助けて】呼吸使えるけど、オサレが使えない【転生】 作:ぬー(旧名:菊の花の様に)
「で、おめだつのうちのどっちが最初なんだべ?」
威勢のいい発言だな、なんて思っていたが出鼻を挫かれる。
「この状況で一対一を望むんかい」
「んだおめだつ田舎もんだな。
決闘は一人ずつってルールが都会にはあるんでだぞ」
「別に俺は良いけどな」
コラ一護、はしゃいでるからって有利を捨てるんじゃありませんの。
有利捨てたくらいで負けないのは理解できるけど、だからといって楽に勝てるかどうかってのは違うんだぞ。
「……じゃ、よろ」
「ん? なんか今言おうとしたか?」
「心の声心の声」
一護の指摘に笑いながら返す。
てか俺の今の一瞬の間で何を感じ取ったんだよこいつ。
こわ。
「今の顔は絶対俺のことディスったなこの」
「なぁんの話でしょうか」
一護は俺の白々しい瞳(自覚あり)を見て、ため息を吐き、
「いいぜ、俺から相手してやるよ」
「こんぺいとから相手が」
「ぷっ。こんぺいと」
「笑うな、下がってろよ」
少し一護を嘲笑ってやると、微妙な表情をしていた。
流石に金平糖は初めて例えられたか。
俺は踵を返し一護から距離を取ろうとすると、織姫さんとチャドがこちらに向かってきた。
「おうおうウォウウォウどうしたんだGUY」
「源氏くん! 私も!」
「源氏、加勢する」
二人は何やら力を開放しようとしているのか、不思議な力の流れを出している。
チャドは左腕から。
織姫さんは髪飾りから。
俺はそんな二人を止める。
「ちょっと待ってって」
二人は俺の顔を見る。
どうやら俺と一護が平然としているのが気になっているのか、疑問の表情を浮かべている。
「加勢する必要ある?」
「ヤツの名は兕丹坊。
尸魂界全土から選びぬかれた豪傑の一人。
この四大精霊門西門……通称『白道門』の番人じゃ」
俺の言葉に返したのは、夜一さん。
夜一さんは恐らく一護が別に大丈夫だということを理解している筈……
「奴がこの任に就いてから300年。
奴の守る白道門は一度たりとも破られていない」
ん?
「その斧の一振りで30体もの虚を討ち殺したという伝説を持つ」
「そんなやつなんですか……」
あ、そういう話の流れ?
てか石田くんも霊圧でわからないもんかな?
一護勝てるよ? 普通に。
「一度引くことが正解のように思えるが……」
そこで夜一さんがこちらを見る。
なんの視線だと思いながらも、目は逸らさない。
「なぜ一人で戦わせた」
「いくらなんでも無謀すぎるんじゃ……」
「いやいや」
俺の言葉と同時に、みんなが後ろを見た。
え、何見上げてんの?
別に危なくないよね? まだ生存本能反応してないし。
「負けるわけな……」
ガギィィィィィィィン!!!
俺の言葉を遮るように鳴る金属音。
一見甲高い音のようで、しかし低く思い衝突音の交じるこの音。
「ほら」
俺は後ろを見て指し示す。
恐らく巨人……兕丹坊がしたのは、単純な振り下ろし。
その一撃は巨体だからこそ生まれる最大の威力の攻撃であり、普通であればひとたまりもない一撃だ。
まぁ、普通であれば。
衝撃とともに見えるのは、一護の姿。
兕丹坊の一撃を片手で刀を持って受け止めている。
まるでこんなもの、と言いたげな視線の一護に、みんなは俺の方を一斉に見る。
「黒崎は何をしたんだ?」
「え? 死ぬ気で頑張った?」
「ふざけて聞いているわけじゃないんだよ。
真面目に答えてくれ」
「いや、真面目に答えてこれなんだけど」
「……喜助のやつ、何をしたんじゃ?」
石田くんの言葉に俺はどう話そうもんかと考える。
真面目も何も、ひたすらにそれだったんだけど……。
というところで、夜一さんの言葉が聞こえる。
え? 夜一さん俺らの訓練内容知らないの?
「浦原さんは俺らのことを特別鍛えたわけじゃないですよ?」
「ん? 小僧は喜助の奴が担当していたのではないのか?」
「あ、はい」
「ならどうやって……」
「ジジイ……我妻丈に訓練をしてもらいました」
瞬間、夜一さんの体が硬直する。
明らかに俺のジジイのことを知っていての反応。
というか夜一さんジジイの事知っているのか。
「我妻丈、というのはお主の祖父に当たる、あの我妻丈か?」
「はい」
「……我妻くんのおじいさんはすごい人、というのは知っているけど、そんな人から教えを受けていたのかい?」
「いや、教えも何も、殺されかけただけだけど……」
俺の言葉に、夜一さん以外の人は理解できないという表情になる。
まぁ、分からなくもない。
一般人のおじいさんに殺されかけるという謎の言葉。
俺だって信じられない。
そして、先程から一護に攻撃を受け止められて笑っていた兕丹坊が、真面目な表情で攻撃を行う。
次の攻撃は振り下ろしの連撃。
一見デタラメ……いや確実にでたらめな攻撃だけど、理にはかなっている。
体が大きいからこそ、小さな相手に当てるためには精密さを要求されるのを、数でカバーする。
一撃は受け止められる相手に慈悲を与えない攻撃。
良い攻撃だな、なんて思うが、
「我妻丈。
鬼人と恐れられ、死神とて触れてはならぬと言われた人間」
え、マジ? ジジイって死神の中で有名なの?
「その人と我妻くんのおじいさんは同一人物なのですか?」
「あぁ」
「そんな人の孫だったのか、源氏」
「ってことはその人に教えられて?」
石田くん、チャド、織姫さんは三人とも勘違いした目線……きらびやかな視線をこちらに向けるが、
「いやいや、さっきも言ったけど、教えるなんて大層なことじゃないっての」
あ、一護は当然受けきっていた。
そりゃ、ジジイの攻撃に比べれば、重りが降ってくるだけの攻撃なんて屁でもない。
ジジイの攻撃は常に死ぬかもしれない。
受けても、躱してもそこには確実に死がつきまとう。
攻撃受けて腕の骨折るなんてよくあるだろ(ない)
「俺も一護も、ひたすら死にかけて、殺しに行った。
真剣で、5日間、ずっと」
ちなみに昔と同じく睡眠休みなんてものはない。
俺らが襲えばジジイはすぐにでも起きて俺らを切りに来るし、ジジイが俺らの寝ている最中に襲ってくるなんてザラだ。
訓練最初にできて悲しくなる『寝てるのに警戒できる』ができるようになる。
「……それって訓練なのかい?」
「なわけ無いだろ実戦に限りなく近い虐殺だよ」
一護が心のなかで非常に同意してくれているのが理解できる。
「で、正直そんなジジイと比べると、コイツラなんて大丈夫なのよ」
兕丹坊は自身の攻撃が効かなかったことに対して焦っているのか、最後の両手にそれぞれ斧を装備した状態で攻撃をする。
それ強いのかどうかはわからんぞ?
「終わらせてくれ、一護」
「あぁ」
返事が、聞こえた。
驚いた。
こっちに意識向けてるんだ。
「わりぃ、潰すぜ、その斧」
一護の言葉に現実が追いつくように、振るった刀は2本の斧と衝突して、
ガン!
斧を折り伏せた。
☆☆☆☆☆
衝撃は巨体の兕丹坊を吹き飛ばし、兕丹坊は尻もちをつく。
そこからは怒涛だった。
兕丹坊が自分が負けたことを受け入れられず、号泣。
もちろん巨体から出る涙と声は絶好調。
まるでサイレンのようなその声に困惑しながらも、一護は謝罪を行った。
すると兕丹坊はその言葉に胸打たれ、敗北と門の通行許可を出す。
「ありがとな!」
一護はいきなりの展開に困惑しながらも、兕丹坊にお礼を言う。
「僕たちも通してもらって大丈夫なのか?」
「いいんだ。
おめだづのリーダーにまげだがら、おめだつ全員を通しても大丈夫だ」
「なっ、黒崎がリーダーではモゴモゴ……」
「そうそう、この金平糖がリーダーなんで、通してもらって……」
(何をするんだ我妻くん!)
(今は黙って従いなさい)
途中で少しひと悶着ありながらも、兕丹坊はその巨体の力を最大限に使用し、門に手をかける。
恐らく俺ら普通の人間が到底持ち上げることが困難な門を、
「ふんっ!」
兕丹坊は持ち上げて見せる。
夜一さん曰く、ここから通れるなら想定しているよりもかなり余裕を持って救出できると話している。
それは嬉しいことd……
「あ、あぁあぁ」
門を持ち上げた兕丹坊が、恐れを抱いている。
恐れを抱いている。
二度言わねばならぬほどに絶望に満ちたその顔、視線の先には、
「誰だ」
「三番隊隊長……市丸ギン……」
「あかんなぁ。
門番は門開けるためにいるんとちゃうやろ」
銀髪に白い羽織。
兕丹坊の言葉で名前を知る。
そしてその知覚と同時に、
兕丹坊の腕が切れた。
まるでフィギュアの腕をもぐように。
ぽろりと取れた腕。
あれは違う。
俺と戦ったときに利用していた伸びる刀ではない。
ただ刀を振るった結果起こった、斬撃という事象。
その過程で生まれたのが、兕丹坊の腕の切断。
「ふっ!」
片腕落ちれば門落ちる。
その門を背で受け止めた兕丹坊は、流れる血に苦しみながらも、門を支える。
「おー、サスガ尸魂界一の豪傑。
片腕でも門を支えることができるんやね」
兕丹坊は何も話さない。
それは苦しみによる沈黙か、これだけの人物を相手にしての沈黙かは分からない。
「でも、門番としては失格や」
「オラはっ! まげだんだ!
まげだ門番は門をあげるっ! あだりまえのごどだべ!」
「ーー何を言うてんねや?
門番が負けるいうんは門を開けるゆうことやない。
門番が負けるいうことは、”死ぬ”いう意味やぞ」
ゾッとするほどの威圧。
一歩も前に進めないほどの威圧。
だけど、そんな中、飛び出した。
ギィィィン!
衝突。
いきなり飛び出した一護。
そしてそれに対応する市丸ギン。
「俺らと兕丹坊の勝負はついたんだ。
それを後からちょっかい出すなキツネ野郎」
キツネ野郎、ね。
ちょっと分かる。
「井上、兕丹坊の治療頼む」
「あっ、は、はい!」
「そんなにやりたきゃ俺が相手してやる。
武器も持たないやつに斬りかかるクソ野郎は、俺が斬る」
「ハッ。
おもろい子やな、ボクが怖ないんか?」
「もう止せ一護! もう退くぞ!」
夜一さんの言葉に、市丸ギンの様子が変わる。
一護、というのが知れ渡っている……?
なら、俺のことも知れ渡っている、ってことか?
でも俺は完全に死んだことになっているはず。
だからこそ、こうして今兕丹坊の後ろに
「へぇ、キミが」
「知ってんのか? 俺のこと」
「なんや、やっぱりそうかぁ」
「おいっ! どこに行くんだよ!」
市丸ギンは踵を返し、後方へ歩いていく。
一護はその様子に退くのかと思っている。
しかし、俺には理解できる。
この後、アイツは振り向いて、
「ほんなら尚更、ここを通すわけにはいかんなぁ」
「その脇差で何するんだよ」
「ただの脇差やない」
そう、あれは、
「ボクの斬魄刀や」
シィィィィィィ
「射殺せ」
雷の呼吸 壱の型
「『神槍』」
霹靂一閃