【助けて】呼吸使えるけど、オサレが使えない【転生】   作:ぬー(旧名:菊の花の様に)

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 まず、ギンの刀が伸びる。

 文字通り、刀の柄から先が伸びた。

 

 そして同時に、兕丹坊の背後から源氏が飛び出す。

 その速度は、死神の誇る高速移動術、瞬歩に勝る速度。

 

 戦いとは、勝るものが勝利するとは限らない。

 様々な要因が絡み、結果としての勝利が残るだけ。

 

 そしてそれが今、我妻源氏に微笑む。

 

 我妻源氏は相手を知っていた。

 覚えていた。

 

 市丸ギンは相手を知らなかった。

 忘れていた。

 

 ギンとの距離が残り半分を切ったところで、源氏は知覚される。

 護廷十三隊三番隊隊長市丸ギンだからこそ、理解できた相手の正体。

 

 そこで一つの思考が市丸ギンの中に飛び込んでくる。

 

 なぜ?

 

 疑問、怒り、惑い、喜び、悲しみ。

 それらの感情は、人を鈍らせる。

 戦闘という合理性の戦いで、それは大半が弱さとなる。

 

 一方、我妻源氏の心には迷いがない。

 ただまっすぐに、最短最速で向かう。

 

 訪れる、市丸ギンに対する選択肢。

 

 目の前の敵か、後ろの敵か。

 

 しかし、いくら強きものであろうとも選択ができるほどの時間は今はない。

 

 これが重なり、起きうる事象は、

 

 一護がギンの刀によって門の外に弾き飛ばされ、

 源氏がギンの胸元に一閃を刻み込んだ。

 

「浅……」

 

 源氏は気づく。

 あの一瞬でギンは半歩下がることにより、致命傷を避けたことに。

 

「源氏!!」

 

 一護の声。

 門の外にいた皆も、同様に叫ぶ。

 

 それは、一護が兕丹坊と共に弾き飛ばされたことによる、門の閉鎖。

 源氏は落ちる門に視線を向けながら、

 

「じゃ、また」

 

 そんな呑気なことを話す。

 もちろん、そんな言葉で納得できるものでは無い。

 

 扉の先は敵地。

 そんなものに1人だけ置いていけるわけがない。

 一護含め門の外にいたみんなは扉に駆けつけようとする。

 だが、兕丹坊が吹き飛んでくるのに対応しないといけない。

 

 そんな迷いの思考を嘲笑うかのように、一瞬にして門は閉じる。

 

「ええんか?」

 

 そんな門の閉まる様を見届けた源氏。

 目の前には、敵。

 

 ギンは、胸元に刻まれた横一閃の傷を押さえながら、問いかける。

 

「良いも何も、こっち入るのが目的だから、俺が正しくてあっちが失敗してるでしょ」

「ここに侵入するのが目的、ねぇ」

「ま、俺としてはあんたを半殺しにするのが目的でもあるけど」

「ボクを?」

「殺されかけたから」

 

 ギンは、キョトンとした表情をする。

 そして、笑った。

 

「半殺しってっ……おもろいなぁ、キミ」

「え、なんかまずい?」

「まずくないわ、ホンマ。

 けどまぁ…………」

 

 ギンは押さえていた傷から手を離す。

 未だ流れる血が、浅いながらも無視できない傷だと主張する。

 

 それでも、市丸ギンは嗤う。

 

「相手が悪いわ」

 

 源氏を襲う力の本流。

 隊長。

 それは護廷十三隊という、死の世界を司る神の名を背負った集団の、頂点に近いもの。

 

「前に戦った時は限定されとったからアレやけど、今は違う。

 全開や」

「知ってる」

「なんや、知ってるんか」

 

 その力の本流を受けてなお、我妻源氏は折れない。

 戦う事に恐れがない。

 

 源氏は事前に聞いていた。

 浦原喜助から現世での死神に対する制限を。

 

 それを知った上で、我妻源氏は目指している。

 

「それ踏まえた上で、半殺す」

「おー、こわ」

 

 源氏は構える。

 何も以前と変わらない構え。

 

 ギンは警戒する。

 

 一体何をするのか。

 自分の限定を理解した上で用意してきたのだ。

 何か、考えているはず。

 

 源氏から漂う、霊子の収束、霊圧の増大。

 なにか来る。

 

 そう思った瞬間に、源氏は後ろにいる。

 

「シッ!」

 

 一呼吸で幾度も放たれる剣戟。

 並の死神ならこの速さについて行くことは難しい。

 

 けれど、

 

 ガガガガガガガッ!!

 

 細かい連撃はその悉くが弾かれる。

 

 連撃を終えた瞬間、源氏は一歩踏み出す。

 速さは先程の比ではない。

 

 だが、踏み込んだのはギンの背後から。

 死角、攻撃不能、タイミングの遅れ。

 

 戦闘における定石。

 

「なんや、ガッカリやな」

 

 そんな立ち回りに、ギンはため息を着く。

 

「なーんも変わっとらんやん、キミ」

 

 10日。

 

 ギンと戦ってから経過した時間。

 それだけあれば、ギンは何らかの成長をしてくるのかと考えていた。

 しかしまぁ、最初に驚いて食らっただけで、別になにか変わっている点はない。

 

 黙々と、淡々と、刀を振るえばいいだけ……

 

 振り返りざまに首に薙ぎ。

 ギンの頭の中の彼は、これを躱せない。

 

 一瞬の終わり。

 そう、思っていた。

 

 ガンッ

 

「ん?」

 

シィィィィィィィ

 

 音が聞こえた

 自分の刀が止められたことに気づいたその時には、

 

 ギンの体は後ろに飛んでいた。

 背中に感じる痛み。

 

 斬られた。

 

 そう理解したとともに感じる疑問。

 今の攻撃は完全に彼の意識の死角をついた。

 しかし結果としてギンの斬撃はまるでそこに来る反撃だとわかっていたかの様に対処され、反撃をされた。

 

「っし」

 

 ギンの中の警戒度が上がる。

 

「真面目にやらんとあかんみたいやねぇ」

「……それは困る」

「なんや、意気揚々としとったのに消極的やなぁ」

「別に本気で戦いたい訳では無いから……」

「なのにそんなバリバリ来るん?」

「いや、前に刺された恨み、晴らさでおくべきかと」

 

 同時に、本気度も上がる。

 この少年相手に手を抜いたら、こちらが食われる。

 

 ギンは目の前の相手の対処を必死に考え、

 

「そうやな」

 

 顎に手を当て、

 

「じゃ、他のやつに任せるわ」

「は?」

 

ダダダダダダダダ

 

 源氏の惚けた言葉と共に聞こえる、足音。

 それは1人や2人などという些細なものでは無い。

 

 数十のではないかと言うほどの、軍勢。

 

 源氏の目に入る、ギンの後ろにいる大量の死覇装を纏った人間たち。

 

「君が狙ってるのは僕。

 でも、他にもなにか目的はある。

 こんなもんやろ。

 後は他のやつで……」

「市丸隊長!」

 

 たどり着いた死神の1人が、ギンに声をかける。

 

「そ、そのお怪我は?!」

「あー、油断しとってね。

 ついつい」

 

 死神たちがざわめく。

 それはそうだ。

 

 死神たちが目指す最高戦力。

 それが隊長。

 

 その隊長に一太刀だけでなく、いくつもの傷を残した。

 

 そんな相手が……と死神たちが源氏のいた方向を見ると、

 

「なんや、変な奴やなぁ」

 

 そこに源氏の姿はない。

 やけに霊圧を隠すのが上手い彼は、恐らく今の動揺に生じて逃げたのであろう。

 

 普通で、臆病。

 

 普通で、隠れる。

 

 普通で、強いものに傷を付ける。

 

 少しだけ、普通じゃない普通の敵。

 

「市丸隊長! 我々は旅禍の探索と捕獲を行います!

 よろしいでしょうか!」

「ええよー。

 ボクはちょっと調べたいことがあるし」

 

 斬魄刀を使わない、刀を使う男。

 そして死神と同等の戦力を持つ男。

 

 殺したと思っていたらどんな手品か生きてここにいる。

 

 知っておかねば面倒になる。

 ギンはその読めない表情で、隊士達とは逆方向に歩き出す。

 

 その頭の中に過ぎるのは、あの一瞬だけ異常に研ぎ澄まされる剣筋。

 

「あ」

 

 そこでギンは、少し的はずれなことに思いつく。

 

「普通で、やなくて。

 普通だから、やんか」

 

 普通だから、臆病。

 

 普通だから、隠れる。

 

 普通だから、強いものを対策する。

 

 普通だからこそ、強く在るのではなく、強くなる

 

「これはこれは……怒られるやろなぁ……」

 

 もしかしたら案外簡単に捕まってしまうのかもしれない。

 ギンの頭の中に、総隊長が怒る様子がありありと浮かぶ。

 

 まぁ、その時は彼がどうにかしてくれるだろう。

 

「それにしても、久しぶりに斬られたなぁ」




黒崎一護
尸魂界闘争編
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尸魂界逃走編

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