【助けて】呼吸使えるけど、オサレが使えない【転生】   作:ぬー(旧名:菊の花の様に)

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塞翁が馬って信じる?

「お前らの中にやけに感知が上手いやつがいるからなぁ。

 俺とやりあってもらえねぇかと思ったから、少し頭を使わせてもらったぁ」

 

 何だこいつは。

 

 それが最初の感想だった。

 源氏に偵察と雑魚を任せて進んでいたら、変なやつに出会った。

 

 最初は、ガタイのいいヤツ。

 次に、殺気。

 

 何だこの殺気。

 

 まるで、波。

 大きな殺気の塊が、こちらに向かって流れているような、そんな感覚。

 

 そいつは、両目に不思議な眼帯をしていたのを外す。

 

 するとあふれる霊圧。

 

 まるで、全てを圧倒して押しつぶしたいと言わんばかりの霊圧。

 こんな霊圧、あるのかよ……。

 

「少しは三番隊隊長さんにも感謝しねぇとなぁ。

 その御蔭でこうして、遊べそうだ」

 

 俺の反応を見てか、眼帯を外した男は、嬉しそうに刀を抜いた。

 それはボロボロの刀だった。

 

 そんなもんで切れるのか、そう思いたく成るような刀だった。

 

「花太郎ッ?!」

 

 気づけば、後ろで岩鷲が声を上げていた。

 後ろを確認すると、花太郎が倒れている。

 

 わけもねぇ。

 こんな霊圧と殺気に当てられちまえば、そうなるのも分かる。

 

「っ! 岩鷲! 花太郎連れて先行ってろ! 後で追いつく!」

「おまッ! こんなやつ倒せるとでも……」

「行け」

「……死ぬんじゃねぇぞ」

「すぐ追いつく」

 

 せっかく生きるために、勝つために回復させてもらったんだ。

 ここで目的を忘れるほど馬鹿じゃねぇ。

 

 岩鷲は能力的に障害があってもなんとかできる。

 それに花太郎のサポートがあればまずルキアのところに行ける。

 

「てめぇだな、オレンジ頭」

「……んだよ」

「オメェが一角を倒したやつか」

 

 目を離せない。

 目を離せば、死ぬ。

 

 それが理解できる。

 

「あぁ……あんたんとこの隊員だったか」

「礼を言うぜ。

 一角を無傷でやれるってことは、俺とはそこそこいい勝負ができるんだろ?」

 

 一角……あいつも強かった。

 それこそ、丈さんのシゴキがなかったら、ただじゃすまなかったな……。

 

 多分、源氏は俺とこいつのことを見ていると思う。

 こんな化け物面前にして源氏が俺を放って追いて逃げるようなやつではない……と思いたい。

 

 いや、あいつのことだから逃げてもおかしくないな……。

 

「ふぅ」

 

 源氏のことは気にしない。

 あいつが参戦してくれるなら、俺の邪魔にならないようにしてくれる。

 そもそも、あいつは俺の持っていない速度っていう武器を持っているからこそ、それが可能だ。

 

「準備はできたか?

 気を抜くな。

 注意しろ。

 すぐ終わらないようにな」

 

 その言葉とともに、男は駆け出した。

 溢れ出る殺気と霊圧に夢中になるあまり、反応できなかった。

 

 しかも、走り出す瞬間の殺気で、脚がすくんだ。

 

「へぇ」

 

 男は唐竹を俺に叩き込んでくる。

 

 ぼさっとしていれば、体が二つに別れていてもおかしくないだろう。

 だけど、大丈夫だ。

 

「すまねぇな」

 

 これくらいなら、

 

「すぐ終わらせるぜ」

「楽しもうやぁ!」

 

 丈さんのほうが強ぇ。

 

「オラ!オラ!オラ!オラ!」

 

 嵐のような連撃。

 技もクソも無い、力の暴力。

 

 受けて受けて受けて受けて、見る。

 

 丈さんのシゴキに耐えて身につけたのは、生きる能力。

 それこそ俺は源氏みたいな素早さはない。

 

 あるのは斬月だけ。

 これだけで闘うには、まずは斬月の強さを知ることが大事。

 それが、シゴキで最初にやらなきゃ死ぬと思ったことだ。

 

 斬月の強みは、シンプルかつ強力。

 硬い、重い。

 

 それだけ。

 それだけだからこそ、こうやって使える。

 

「おいおいその程度かよ!!!」

「うるせぇ!」

 

 怒号が聞こえるが、気にしない。

 こいつの刀は技はない。

 

 けど、どの攻撃もしっかりと重い。

 丈さんの攻撃を思い出す。

 

「はぁ!」

 

 でも、丈さんと比べれば、隙だらけ。

 

 これならば、行ける。

 

 黒崎一護は、そのときは知らない。

 今相手にしている更木剣八の『剣八』という名前の由来を。

 

 それは、『斬られても倒れないもの』

 

 つまりは、

 

「良いぜぇ、期待したとおりだ!」

「なっ!?」

 

 一護の斬撃は、更木剣八の皮を切り、血を流させるだけに留まった。

 

「クッ!」

「おいおい、そんなデケェ刀持ってる癖にちまちました戦い方だな、おい」

「ッ!」

 

 俺の斬撃は、あいつの皮を切っただけに終わった。

 

「すごいじゃんイッチー!」

 

 そのタイミングで、あいつの背中からひょっこりと誰かが出てきた。

 桃色髪のショートヘア。

 奇抜な髪色はさることながら、その小さな体躯は小学生と言われても遜色ないほどの大きさ。

 

 そんな子供が、男の背中から出てきた。

 

 二対一。

 

 頭の中でそんな構図が浮かび上がる。

 

「あ、別に私は戦いに参戦しないよ~。

 それこそ剣ちゃんに怒られちゃうしね」

「あぁ、やちるには邪魔させねぇよ」

 

 男は笑いながら刀を担ぐ。

 

「うんうん、でもまだまだイッチーの刀はだめだねぇ。

 それだと剣ちゃんを切れないよ?」

「んだと?」

 

 斬月だとこいつを切れない?

 

 何を言っているのかと思っていると、

 

「少しは頑張ってるけど、このくらいの霊圧じゃ剣ちゃんに負けちゃうよ」

「負ける……?」

「簡単なことだ。

 霊圧ってのは押し負ければ弾かれちまう。

 それこそ、これくらいしか斬れない程度には、俺の垂れ流しの霊圧に負けちまってるんだよ、オメェの剣は」

 

 男の言葉に俺は斬月を見つめる。

 

 名前を聞き出して、シゴキに耐えて、いろんなやつと戦って。

 それでも足りない。

 

 何が足りないんだ?

 

「そろそろ休憩は終わりだ。

 お前らの仲間は横取りされちまったからなぁ」

 

 男の言葉で、俺はハッと顔を上げる。

 後ろに感じるのは、源氏の気配。

 

 それと、

 

「仲間か」

「いいや、あのチビがお前らの仲間の一人を殺したいって言うから協力しただけだよ」

 

 それならば、むしろ俺のほうが早く片付けて行くべきだ。

 

 霊圧で負けてる?

 よくわからないけど、全力で振ればどうにかなるだろ。

 それこそ、同じとこ攻撃してりゃなんとかなる。

 

「お、やる気になったか。

 そろそろ再戦と行こうか」

 

 首を鳴らす男に、俺は警戒心を上げる。

 

「久しぶりの手応えある相手だ。

 そりゃ、あいつから教わってるってことは、そうだよなぁ」

「あいつ?」

「我妻丈。

 あの勝ち逃げ野郎だよ」

「丈さんは、あんたに勝ったのか?」

「あぁ? それこそお前らを半殺しにしておびき出せば来るだろうから、それも楽しみにしてるんだよ」

 

 ここでも出るのか、丈さん。

 すごいな。

 

「よかった」

「どういうことだよ」

「丈さんなら勝てるのか。

 なら大丈夫だ」

「舐めた口聞いてくれるなぁ」

 

 男は怒りからか、霊圧が上がる。

 

 男の話が正しければ、これでまた俺の刀は通りづらくなった、ってことらしいけど。

 やべぇな、墓穴ほっちまった。

 

「ふぅ」

「行くぜ」

 

 詰め寄られる。

 速い。

 でも、丈さんよりは遅い。

 

 唐竹。

 さっきよりも速い。

 斬月で受け止める。

 おもっ?!

 

「だぁ!」

「ハハハッ!」

 

 食いしばって弾き飛ばすと、すでに目の前に男の姿は無い。

 

 

 チリン

 

 

「ッ?!?!」

 

 振り返って反応。

 また重いっ!!

 

 脚が埋まる。

 

 返さないと押し切られる。

 

「だらぁっ!!」

 

 返しの刃。

 皮一枚でまた切れる。

 

 まだこれくらい。

 いや、これだけ振り絞ってもこれだけ。

 

 この瞬間でそれを判断できはしなかった。

 

「ハッ!」

 

 一呼吸。

 そんな鼻で笑うような音とともに、俺の体に刀が降り注ぐ。

 

「あぁ!」

 

 それは奇しくも源氏との勝負の時に使った回避方法。

 自分の体を掴んで動かす。

 

 恐怖で、攻撃で、すくんだ体を無理矢理にでも生きる道に引き戻す。

 髪を引っ張り、紙一重で避ける。

 

 途中で体を斬られたが、皮一枚。

 

「おもしれぇ!」

 

 更に一歩、前に詰めてくる。

 足がすくむ。

 恐怖が脚を絡め取る。

 

 なら、

 

「アァァああぁ!」

 

 刀だけじゃねぇ!

 

 脚に力入れて、前に思い切り、頭を突き出す。

 

 狙いは顔面っ!!

 

 鈍い音。

 視界に散る火花。

 

 くっそ硬すぎないかあいつの顔面ッ?!

 

「良いねぇ!」

 

 多少は食らったのか、少しのけぞりながらも男はこちらを見て微笑んでいる。

 なんでだよっ、多少はダメージ入った素振りしろよ!!!

 

 でも、これで防御が間に合う!

 

 男が振り上げた刀がこちらに衝突してくる。

 しょ……うげきを! 後ろに流す!

 

 後ろに死ぬほど飛ぶ。

 

 かなりの速さで俺は飛んでいき、脚を地面に擦り付けてようやく減速。

 顔を上げる。

 目の前には、

 

「死ぬなよぉ!」

 

 男の姿。

 刀を躱す。

 

 返す刃。

 皮一枚。

 

 反撃。

 躱す。

 

 返す。

 皮一枚。

 

「いいねぇ! いいねぇ!」

 

 男は皮一枚斬られながら、血を体から滴らせながら、こちらに微笑んでくる。

 くっそ強い人ってなんでこう戦ってる最中に笑顔になるんだよ?!

 

 そしてとある一つの攻撃。

 

 油断しているわけでもなかった。

 

 ただ、一つ。

 

 俺は、考えてなかった。

 

 数々の連戦。

 強敵との戦い。

 

 斬月そのもののことを。

 

 ブンッ!!

 

 何度も斬撃をもらい、振るい続けてきた刃の先には、刀がなかった。

 

「ちっ、詰まんねぇ」

 

 次の瞬間、俺の体には、刀が貫通していた。


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