【助けて】呼吸使えるけど、オサレが使えない【転生】 作:ぬー(旧名:菊の花の様に)
まどろみの中から目覚める感覚は、水から上がる感覚に近い。
唐突に音が変わり、瞳は空気に触れ、触覚は鋭敏に成る。
そんな感覚を味わいながら、俺はゆったりと目覚める。
「まじか」
珍しくガッツリ寝たな。
ここんところ警戒しながら寝るのが普通だったから、こんなに寝れたのは久しぶりだな……。
ん? なんで俺って久しぶりにガッツリ寝たんだ……あっ
「戦ってた……」
記憶にあるのは、最後にはなった見様見真似の月牙天衝。
ってか、俺の体終わったよな? あの時。
呼吸使いすぎて魂魄崩壊したと思ったんだけど……。
起き上がり、自身の両手を見る。
「普通や……」
「何をしておるのじゃ、お主は」
「あ、夜一さん……ってここ、勉強部屋ですか」
至って何も変わらない普通の両手を見つめると、夜一さんから声をかけられる。
それに伴って周囲を見渡すと、ここが勉強部屋であることも理解できた。
夜一さんは、いつも通りの黒装束に着替えていて、こちらを興味深そうに見ている。
「何見てるんですか」
「いや、怪我一つ無いな、と思っての」
「別に怪我一つ無いのはいいことじゃないですか」
「霊圧とお主の様子と、そいふぉ……相手の様子を見る限り、怪我では済まないほどのものだと思ったがの」
「……まぁ、確かに」
あの戦いは、それこそ守るもののために、逃げられない、逃げたくない戦いだった。
それこそ、あそこで死んだとして、いつもよりは後悔が少ないくらいには頑張った。
……まぁそれでも死にたくなかったけど。
「なのに傷一つなく生きている。
挙句の果てに少し風変わりしたお主の霊圧。
何を取り上げれば良いのやら」
「傷一つないのは知りませんて。
……ってか、霊圧が変質している?」
「そうじゃ。
先刻戦う前のお主……いや、今までのお主の霊圧は、人間の霊圧そのものだった。
しかし、今では少し違う……。
例えるのに同類を使うのは申し訳ないが、我妻丈のものとよく似ている」
怪我がないことは良いことだ。
それこそ、もしかしたら土壇場で何らかの俺の秘めたる力、的なのが出たのかもしれない。
というのはすでに分からないものだとして、それとは別の霊圧の変質ってなんだ?
それこそ怪我一つ無いのが関係しているのか?
だとしても、
「ジジイに近いってなんですか。
何もピンとこないですよ」
霊圧は、人によって様々だ。
それこそ、強いものは霊圧の近くが何か他の感覚器官と結びついてしまうこともある。
ジジイので言えば、視覚に影響して、目が見えなくなったりする。
これを技に組み込んでいるときとかは、めちゃくちゃ厄介だったりする。
それはそれとして、
「まぁまぁ、お主ら滅却士はそもそも数が少ないから、滅却士として似てきたのか、血筋として似てきたのかは皆目検討はつかないんじゃよ」
「……だけど、明らかに変質したのは確か、ってことですよね?」
「まぁ、傍から見て分かる程度には違うかの」
「……どれくらい違うのか、俺から理解できないんですけど」
「魚だけどマグロから鰹になった、くらいかの」
「赤身だけど変わった、みたいな感じですかね」
「……そんなもんかの」
「なんか自信なさそうですけど」
夜一さんの回答は端切れが悪い。
何か、小骨が喉に刺さったかのような話しぶりだ。
「まぁ良い。
お主が助かって何も異常がないのならば、後で喜助にでも確認してもらえばよかろう」
「正直怖いですけど」
「まぁお主に異常がなければよかろう」
「……そういうもんですか?」
「そういうもんじゃろ」
夜一さんに懐疑の視線を向けるが、当の本人は何もわからないのか、知らんぷりを貫いている。
まぁ知らんぷりというより知らない、というのが正解なのだろうが、なんで知らないならそんな不吉なこと言ったんだこの人……
「一応話しておくと、お主が寝ていたのは四半日。
朝日が今登ろうとしておるところじゃ」
「……結構寝たな」
多分、四半日ってのは一日の四分の一だから……6時間か。
意識閉じて寝たのは久しぶりだったから、少しの間でもかなりの睡眠効果を得られたように感じる。
「ちなみに一護も拾ってきた」
「一護も? ってことはあいつ負けたんですか?」
「相打ち……いや、怪我の状態を見るに一護の勝利、と言っても過言ではない。
それこそ、相手があの更木剣八だったからこそ、傷を負っていてもなお倒れなかったようなものだが……」
ホッと息を着く。
とりあえず死んでないなら大丈夫だ。
「それで、一護はまだ寝てます?」
「あぁ。
最低限の治療はしたが、それこそお主と比べれば傷の治りは遅い。
後四半日はかかるじゃろう」
「……結構な怪我ですね」
「あれだけの実力を兼ね備えたと成るとは……厄介なやつじゃの」
「そこは心強い、って言うところですよ夜一さん」
俺の言葉に夜一さんはおどけた様子でこちらを見る。
俺の話はもう少し聞きたかったが、別に今すぐでなくても大丈夫そうだ。
それこそ、知っていたとしてもこの人は教えてくれるとは限らないから、面倒くさいのだが。
「じゃ、俺は温泉にでも入って、動きます」
「待て」
「はい?」
「そういえば、お主、自分と黒崎一護がどうなったかを知らぬようじゃな?」
「どうなったか? あ、確かに。
チャドはともかく、井上さんと石田くんはどうなったんだろう」
きっとあの二人のことだ、秀才コンビでなんとかするだろう。
と、思っていたが、
「あやつらなら、捕まった」
「……?」
「捕まった、と言っておる」
「ツカマッタ?」
言っている意味が理解できない。
だってあの人達が動きやすいように俺は動いて、それで……
「お主が最初に市丸ギンに傷をつけ、懺罪宮ではもう一人の隊長を相手に大立ち回り。
すでに副隊長以上には斬魄刀の始解開放は許可されておったが、副隊長が破れたことで状況は一変。
一級戦闘警戒態勢じゃぞ、今は」
「……ん? ん? 待ってください?
いつもって斬魄刀開放できないんですか?」
「そうじゃ。
尸魂界と言えど、その世界は狭い。
隊長格が本気を出したとなれば、それこそこの尸魂界が崩壊することが考えられる」
待ってそれってつまりは……
「俺が荒らしたせいで警戒心爆上がりイエェ?」
「なんじゃその言葉遣いは……。
まぁ、そんな感じじゃ」
額を押さえる。
自分が何をしたのかを理解できた。
つまりは俺は、いらぬことをしたのか。
「まぁ、市丸ギンを退けた時点でこの結果は見えておったし、遅かれ早かれ斬魄刀の開放許可は出ていた。
それを見ればお主の撹乱は悪くなかったかの様に思えるぞ」
「何も言わないでください。
なんか惨めになります」
「別に良いではないか。
無駄なことをしていないと言っておるからの」
「……ん? じゃあ、市丸ギンが俺らに対して最初に始解を使用したのって、ブラフ?」
夜一さんは顎に手を当て、
「確かに、今考えるとお主が生きていることを知ったからこそ、斬魄刀を開放した、と言えなくもないのぉ」
「そうなのか……」
「いや、これはあくまで結果論であるんじゃから、そんなに落ち込むことはないぞ」
なんか夜一さんに励まされているけど、正直心のダメージはでかい。
だって俺が余計なことをしただけって……それって……。
「はぁ」
「そ、そんなため息を吐くでない。
それほどまでに騒ぎを起こしたからこそ生まれた時間や行動があったということよ」
「……そう思っておきます」
頭を強めに掻く。
頭を巡る過去の光景。
何も後悔した行動をしたつもりは無いが、それらが逆効果だったと思うと、結構来る。
でも、
「っし、切り替える」
「……お主のその異様なタフさ、嫌いではないけどのぉ」
「失敗したけど、結局それは俺の知識不足。
なら今度はしっかりと勉強して動く。
それだけじゃないですか」
「簡単に言うのぉ。
まぁ、それが一番じゃがの」
立ち上がり、ストレッチ。
「それで、今度は何をすればいいですかね? 夜一さん」
「……儂に指示を仰ぐのかの?」
「そりゃ当然」
「ならば逆に問うてみるか。
今、お主の理解している範囲で次はどんな行動を起こすべきじゃ?」
夜一さんの方を向いて質問すると、夜一さんは嬉しそうにこちらに質問を投げかけてくる。
言葉の意味は理解できるが、俺はこの先の方法なんて、朽木さんを攫うこと……。
「待つ?」
「ほう」
「……だよな。
だって俺2回襲撃してるし、これ以上行っても警備厳しくなるだけ……。
だから夜一さんは内通者を作る動きを……。
でも、それが朽木さんを救うのに……。
なにかのタイミング?」
思考を働かせるが、今わかるのは『今攫いに行くのは尚早』ということ。
それこそ夜一さんと一緒に居たからこそ、何かのタイミングを見計らっているのは理解できる。
だけど、なんのタイミングを図っているんだ?
それこそ、内通者に時間をかけて開放してもらう……。
「スパイ?」
「……まぁ、妥当な判断じゃの」
内通者をもとに俺らが死神になりきり、警備の一人として紛れる。
その過程で下調べと消える算段をつける。
こんなもんだろうか。
「って、感じですかね?」
「まぁ、60点、といったところかの」
「平均点」
「本来ならば、今の段階で攻め入るのが実は効率が良い。
それこそ、お主たちが倒した隊士たちの回復を待たずに済むからの」
「確かに」
相手に回復のタイミングを与えては本末転倒か。
時間をかけて兵を補充されるより、このタイミングで攫うほうが良い。
「じゃが、そんな中儂は不穏な話を聞いた」
「不穏な話?」
「護廷十三隊で殺人が発生した」
「……殺人?」
「そうじゃ。
しかも、その相手は隊長」
「隊長……が?」
「そうじゃ」
「それって……どこの隊……」
「五番隊隊長、藍染惣右介」