三人称side
シュテルは、目を覚ましたというはやての元へといく。部屋に入ると、丁度はやては、深雪が作ってきたであろうおかゆを口にしていた。
「あ、あの時助けてくれた人。えぇっと・・・・・・・・」
「シュテル・シバ・スタークス。シュテルと呼んでいただいて結構ですよ、はやて嬢。それで、お体の方はどうですか?痛むところなどはありますか?」
「あ、いえ。特にはありません。わざわざありがとうございます」
どうやら特段異常があるわけでもないらしい。シュテルには達也のように情報を取り込む眼がないため、見た目でしか判断できないが、外傷もなく顔色も悪くないため大丈夫そうとシュテルは判断した。
「大事がなくてよかったです」
「面倒見てもらって感謝してます。それで、ここはどこです........か?先ほど深雪さんという方がこのおかゆを渡してくれたんですが・・・・・・・・」
「あぁ、ここは私の家です。いえ、正確に言うなら私たちの住んでいる家ですね。道端で倒れてるのを見つけてここまで運んできました」
「えっ!?そうだったんですか?うち、他の人の家に上がってたんか・・・・・・。わざわざありがとうございます」
「いえいえ、私はあくまで当然のことをしたまでですよ。・・・・・・・・それで、あなたはなんであそこで倒れていたか、覚えていませんか?」
シュテルは本題を切り出した。シュテルはある程度の見当はついているが念のため聞いたのである。
「うちもあんまり覚えてへんのですが・・・・・・、いきなり後ろからぐわっと掴まれて、口元に布を当てられたんです。そしたらいきなり眠くなってきて、気づいたらここにいました」
(突然眠くなった・・・・・・麻酔薬をしみこませたハンカチを当てられたのかもしれませんね。ということは間違いなくはやて嬢は狙われている)
半世紀前までは麻酔薬をしみこませたハンカチで人を一瞬のうちに気絶させるとは不可能と言われていたが、第三次世界大戦のさなかに開発された即効性の強力な麻酔薬はその常識を容易に覆した。
麻薬などで神経を常に興奮状態にされた兵士でも、体内にさえ入り込ませれば一瞬で意識を刈り取れるレベルの強さの麻酔薬は、そのあまりの危険さにWHOが戦争終結後即座に、禁止薬物に指定したほどである。
そもそも魔法という概念が生まれて薬品の見る影がどんどん薄れている現在では手に入れることさえ難しい。それこそ犯罪集団、それも巨大な財力と権力を持っていない限りは一目見るのすら困難である代物だ。
(やはりあの男たちの裏には強大な後ろ盾があるようですね。これは少し雲行きが怪しくなってきました)
「分かりました。話していただき、ありがとうございます」
「いえ、こんな話が役に立ったのであれば・・・・・・・・、って、うちはもうそろそろ帰らな」
「いえ、その心配はありませんよ。いま、深雪に頼んでそちらの方、アインスさんというあなたの傍付きの方にご連絡させています」
するとちょうど深雪が部屋に入ってきた。
「お姉様、先程あちらとは無事連絡が取れ、もう少し様子を見ると伝えておきました。恐らく明日の朝にはそちらにお連れできるとも伝えてあります」
「ありがとうございます深雪。本当にいつも助かってますよ」
「いいえ、これくらいはどうってことありません」
「ふふっ、そうですか。それは良かった。・・・・・・という訳ではやて嬢、もう少しここで休んでいってください。何かあるといけませんから」
「あぁ、ありがとうございます」
「では、何かあったら、私たちの誰かはリビングにいますので、気軽に声をかけてくださいね」
そう言ってシュテルと深雪は部屋を後にした。
シュテルはリビングへ着くと四葉本家、つまり深夜の元へとかけた。だが今回の目的は深夜ではない。
「おや、シュテル様。このような夜分に何の御用ですか?」
出たのは葉山だった。シュテルはこれ幸いと、葉山に言った。
「葉山さん。大至急呼んでほしい人物がいます、今からこの場に連れてこれますか?」
「えぇ、構いません。して、どなたをお呼びすればよろしいでしょうか?」
「そちらで現在保護している、高町なのは、フェイト・テスタロッサの二名です。少々聞きたいことがあるので」
「分かりました。すぐにお連れしましょう」
そう言うと葉山は画面を非表示にした。シュテルは一旦リビングのソファにかける。待つこと5分、画面に映ったのは葉山だった。
「お待たせしました。高町なのは、フェイト・テスタロッサの両名、お連れ致しました」
葉山は画面から消える。その後ろに待機していたのはなのはとフェイトだった。
「お久しぶりです、二人とも。こんな夜分遅くに呼び出してすいませんでした」
シュテルはまず謝罪から入る。
「い、いえ!そんなことは全くな......ありません!」
「私たちはあなたに救われた恩があります。これくらい全く問題ありません」
と、2人はあまり気にしていない様子だったのだが。
「そうですか、それは良かった。では本題に入りましょう。と、その前に。まずお二人には嫌なことを思い出させることになると思います。もしあの記憶を思い出したくない場合は
この話は聞かなくて大丈夫です。......準備はよろしいですか?」
2人は息をのむ。そして静かに、しかし力強く頷いた。
「あなた達二人は以前、エガリテの一派に誘拐されました。その時のことを思い出していただきたいのです。あの時、あなた方は“血”を抜かれませんでしたか?」
『血、ですか?うーん…あっ!』
『なのはも思い出した?捕まった直後に、確かに抜かれました。確かその時、「これで被検体のサンプルが入手できた」と、言っていた記憶があります』
どうやら二人には血を抜かれた記憶があるようだ。そしてこの答えこそが、シュテルの仮説を立証するピースとなった
「やはりですか…どうもありがとうございました。二人とも、こんな夜分に失礼しました」
「いえ!私たちがシュテルさんのお役に立ててよかったです!」
「なのはの言う通りです。少しでもお役に立てたのなら幸いです」
「それはよかった。では、おやすみなさい」
シュテルはそのまま通信を切る。そして、ソファに座り、リラックスしたように背中を背もたれに預ける。しかし、彼女の思考はまだ動き続けていた。
(これでホワイダニット、なぜ行ったかは仮説が付きました。今回は、対象の血液内のDNAを抽出し、それをもとに、細胞を人工的に生成することで対象のクローンを作成する。…ふふっ、まるでSF映画のようなやり方ですよ全く。問題は、フーダニット。誰がこのようなことを起こしたか、です。少なくともブランシュではない。もしブランシュだったら私があの時対峙した兵士全員がクローンかそれに準ずる何かのはず。しかし、ブランシュの構成員は普通の人間でいまだ獄中、殺害されたという報道もない。そもそも、彼らがなのはやフェイト、はやて嬢を誘拐してまでクローンを作るとは思えない…なんだかとてつもない裏がありそうですね)
シュテルはそこまで考え、疲労のせいかその意識を深い闇へと沈めた。
翌日、シュテルはリビングのソファで目が覚めた。
(どうやらそのまま寝てしまったようですね。…これは、深雪がかけてくれたんですね)
シュテルのその体には毛布が掛けられていた。シュテルは体を起こそうとする。
すると廊下側の扉が開き、達也が入ってきた。
「おはよう、シュテル。体の調子はどうだ?昨日は随分と考え事をしていたようじゃないか」
達也はすでに、黒い普段着に身を包んでいる。時計の針を見ると既に6時をまわっていた。
「おはようございます、達也。体調は問題ありません、少し疲れが出てしまっただけでしょう。それより、はやて嬢は?」
「問題ない。体調も元に戻ったようだ、ぐっすりと寝ていたよ。だが、つらい事実を突きつけられてしまうだろうな。シュテルの話が本当なら、恐らく八神夫妻はすでに......」
「えぇ、亡くなっているでしょう。恐らくニュースで取り上げられると思います」
達也もシュテルも何とも言えない表情になっている。まだ中学生になったばかりの少女に、両親が亡くなったという事実を突きつけるのは、いささか良心が痛むのだ。
「そうだシュテル。八神はやての”護送”はお前に任せてもいいか?」
「別にかまいませんが、恐らく学校を休まねばなりません。こんな時期ですから、もし九校戦のことで、会長達が何か言っていたら、あとで聞かせてください」
「勿論だ、何かあったら伝える。それと、例の部隊が日中襲ってくるとは思えんが、お前も十分気を付けてくれ」
「分かりました。十分に気を付けます」
「では、おれは師匠のところに行ってくる。八神はやてのことは頼んだぞ」
そう言うと達也は、リビングから出ていく。そして、それと入れ違いで今度は深雪がリビングに入ってきた。
「あらお姉様。おはようございます」
「深雪。おはようございます」
「昨日は随分と遅くまで何かをされていたご様子ですが、体調のほどは大丈夫ですか?もしよければコーヒーでも入れましょうか?」
「いえ、特に問題はありません。でもコーヒーはいただきましょう。深雪のいれるコーヒーは美味しいですからね」
「ふふふっ、では今から作りますね。お姉様は服を着替えて来てください」
「分かりました」
そう言うと深雪はキッチンの方へと行き、シュテルも自身の部屋へと向かった。
(達也はあのように言っていましたが、正直なところ、襲撃は起こるかもしれませんね)
シュテルは部屋に入ると、着ている服を脱ぎ捨て、クローゼットの中からライダージャケットとフルフェイスヘルメットを取り出した。
(バイクを買ったあの日に、もしかしたらと思い本家の方にバイクを防弾仕様にしてほしいとお願いしたらまさか一日で、しかも防弾防刃仕様のライダースーツとヘルメットと一緒に送り返してくるとは思いませんでしたが、役に立つ日が来るとは。私は不運に巻き込まれる体質でもあるのでしょうか?)
そう考えながらシュテルはライダースーツを着込んでいく。黒色に赤の差し色が入ったライダースーツはさながらシュテルのルシフェリオン展開時の防護服に似ている。 スカートでない分、少しだけスリムに見えるが。シュテルは着替えた服を洗濯機に入れておき、ヘルメットを持ち、首にルシフェリオンを待機状態でかける。そして右足の太ももについている専用ホルスターにレイジングホーンを刺し、リビングへと戻る。既に深雪はリビングに出てきており、その手にはコーヒーが入ったマグカップが握られていた。
「もう行かれるのですか?」
「えぇ、なるべく早めにいかなければ何が起こるか分からないですから。でも、深雪の淹れたコーヒーを飲んでからでもいいかもしれませんね。では、飲んでる間にはやて嬢を起こしてもらっても構いませんか?」
「承知しました。では、起こしてきますね」
シュテルは深雪からコーヒーを受け取り、深雪は、はやてが寝ている部屋へと向かった。
シュテルはコーヒーを飲みながらテレビをつける。適当に番組を変えていると、あるニュースが目に止まった。
『次のニュースです。昨夜9時頃多摩川の河川敷で、車が燃えているとの119番通報がありました、火はおよそ1時間で消し止められましたが、焼け跡から1人の遺体が見つかりました。警察の調べによりますと、遺体は八神グループ社長、八神伸郎さんであることが分かりました。なお、遺体には目立った外傷はなく、警察は事故の線で捜査しています』
(警察をして外傷を見つけられないほどの隠ぺい力。........やはりただモノではありませんね、今回の黒幕は。もしかしたら、黒羽の叔父様に内偵か調査を依頼するほうがいいかもしれませんね)
シュテルがそんなことを考えていると、奥から深雪がはやてを連れてやってきた。
「おはようございます、はやて嬢。お加減はいかがでしょう?問題はありませんか?」
「全然大丈夫です。むしろ久々にゆっくり休めた気がします」
はやてはそう言って体を動かす。シュテルはそれを見て虚勢などではないと確認し、そっと胸を下ろした。
「ではこれからあなたを送ります。バイクで向かうのでヘルメットをつけてくださいね」
「よろしゅうお願いいたします」
シュテルははやてを連れて、バイクが保管されている車庫へと向かう。
「行ってらっしゃいませ。お気をつけて」
深雪はそっとその後ろ姿を見守るのだった。
「はやて嬢、体調は大丈夫ですか?」
『こちらは大丈夫です!風を切る音が心地いいくらい!』
現在シュテルたちは、大型バイクに乗り、公道を駆けている。まだ早朝故に車通りはそこまでなく、快適な旅となっている。
(今のところ怪しい動きや車両などは確認できていない。流石にこんな早朝に襲撃はしてこないか。でも、警戒はしておくべきですね)
シュテルはバイクのスロットルを回す。バイクは勢いを増し、公道を駆け抜ける。そうして走ること約20分、約束の場所まで残り1kmを切ったというところまできた。周りはビルが乱立しているが、見通しが悪いという訳ではない。すでに日は登りつつあり、車通りもそれなりになって来るはずの時間帯だ。しかし、シュテルはある違和感を感じていた。
(やけに車通りが少ないですね。ここまでくるのに一台も見かけないなんて……まさか!?)
シュテルがそう考えたと同時に目の前に一台の車がやってきた。バンタイプの車であり、その車体は黒く塗られていた。すると後ろのドアが勢いよく開き、中から黒ずくめの人が数人出てきた。手には対魔法師用のハイパワーライフルが握られていた。
(不味い!?)
シュテルはスロットルレバーを手放し、はやてを背負う形で飛び降りた。その瞬間、シュテルのバイクはハイパワーライフルの大口径弾に貫かれ、爆発する。突然のことについていけずパニックになり悲鳴をあげるはやてを抱え、シュテルはルシフェリオンを遠隔展開して防壁を貼らせる。何発かが防壁に被弾するも無視し、その場を走りながら後にする。が、黒ずくめの集団は車から降り、シュテルたちのことを追いかける。全員一気に撃つのではなく、数人撃って弾が切れたら、切れていないメンバーと交代し、リロードする。このサイクルで終わりのない弾幕を張り続けていたのだ。シュテルははやてを抱きかかえ、防壁を貼りつつ、ビルが乱立してできた路地裏に隠れる。そのまま身を潜めようとするが、敵はお構いなしにハイパワーライフルを撃ってくる。その威力でコンクリート製のビルの外壁が瞬く間に削られていく。
(どうする?このままではじり貧。かと言って上空に逃げようとすれば、ヘリでもなんでも仕掛けてくるかもしれない........かと言ってあまり時間もかけていられない!このまま被害が拡大すれば、はやて嬢を引き渡すどころか我々が無事に帰ることすらできない!そもそも、反撃しようにもルシフェリオンを展開する時間もない、レイジングホーンを出すにしても敵の位置が把握できないし、仮に把握してもこちらから攻めればハチの巣にされるのは必至!どうする!考えろ、考えろ!)
もはや意識的に口調を取り繕う暇もないほどに、シュテルは追い詰められていた。すでに日は完全に上り切り、通勤通学をするものが出始めるころだ。そのような状態で被害が拡大すれば、一般人への被害は免れない。最悪シュテルたちは、様々な罪で指名手配され、極悪人となってしまう可能性がある。そもそも無事で帰れる保証もないのだ。今はビルの陰に隠れているがそれもいつまで持つか分からない。そんな中、彼女たちにさらなる不幸が訪れた。
(この音は........ローターの音!まさかヘリ!?)
シュテルは急いでルシフェリオンを起動し、サーチャーを上空へ展開する。すると上空には光学迷彩で周囲の景色と同化した(ルシフェリオンのサーチャーは光学迷彩などの影響を受けずに対象を観測することができる)戦闘ヘリが向かってきていた。パイロット席の下部にはバルカン砲、後部の搭乗スペースには、四連装ミサイルランチャーが片方ずつついており、後部のスペースにはライフルを持った数人が乗っているのが見えた。見つかったらまず逃げられないし周りへの被害も甚大だ。しかし、極限状態でむしろ冷静になったシュテルは取り乱しもせず、ある一つの疑問を浮かべた。
(そもそも相手は、どうやってどうやってこちらを捉えた?あれから追手は撒いたはず。その後、外への警戒は怠らなかったし、それらしき人影も見えなかった。今日だって家族間でしか出発日時は確認していない。盗聴器も達也が調べて、無かったと言っていた。だったらどうしてこちらを相手は捉えられる?........なるほど、そういうことか)
「はやて嬢。少し、降りてください。両腕の袖をまくって、こちらに見せてください」
「へ?あっ........はい。どうぞ」
はやては両腕の袖をまくり、その腕を見せる。すると右腕の部分に黒いリストバンドのようなものがまかれていた。
「はやて嬢、これはいつから?」
「そう言えば、いつの間にかついてたんです。昨日目が覚めてから、記憶がないんですけど........」
「外せますか?」
「いいえ、お風呂に入ろうとした時に取ろう思ったんですけど、何か、全然取れなくて........」
シュテルはそれを聞くと、すぐにライダージャケットの左太ももに巻かれている小型のポーチを開ける。中に入っていたのは折り畳み式のポケットナイフだった。何やら柄の部分に刻印がされている。シュテルは、はやての柔肌を傷つけないように慎重に、しかし素早くそのリストバンドを切り、そこら辺にポイッと投げた。
「いいですか、落ち着いて聞いてください。先ほどのリストバンドは、恐らく小型の発信器です。はやて嬢をどこに行ってもすぐに攫えるように、昨日シュテルさんを襲ったやつらが付けたのでしょう。だからこちらの位置を正確にトレースできた。しかし今、発信器を切り離したことで、こちらの位置を補足されることはないでしょう。最も、切られたことに気づかない間抜けな奴らではないとは思いますが、ね」
一方その頃、どこかの施設。薄暗い部屋の中に数人の人影が見える。片手で足りる程だろう。よく見ればその服装は、先ほどシュテルたちを襲った人間と同じだった。その部屋を見渡すとパソコン系の機械があったり、何かのレーダーらしきものがあったりと、まるでイージス艦のCICのような部屋だった。
「隊長。対象αにつけていた発信器の反応が消えました。恐らく気づかれたかと」
パソコンをじっと見つめていた1人が、その奥で腕を組んでいる一人にそう言った。それを聞いた1人は口に笑みを浮かべた。擬音で表すならニチャァとでもつきそうな獰猛な笑みだ
「目聡い奴め。各隊に通達、対象αをターゲットαに変更する。最悪殺しても構わん、ターゲットを必ず回収しろと伝えろ」
「了解。CPより各隊へ、これより対象αをターゲットαに変更する。繰り返す、ターゲットαに変更する。各員、オールウェポンズフリー、ターゲットの生死は問わない。必ずターゲットを”回収”せよ」
暗い部屋の中で、周りはあわただしくなる。そのモニターの中に写っているのは、シュテルたちが隠れているビル街周辺をヘリに搭載しているだろうカメラで撮っているリアルタイムの航空映像だった。
(ん?敵の攻撃が止んだ?諦めたのか........いや違う。こちらが発信器に気づいたことに気づかれましたか)
「はやて嬢。先ほど取り外した発信器のことが敵にバレました。急いでここを離れましょう。ここにいては危険だ」
シュテルははやてに声をかける。が、はやては目を閉じたままその場を動こうとしない。
「どうしました?はやて嬢。........はやて嬢?はやて嬢!」
シュテルは声を荒げる。しかしはやては動かない。そして、シュテルに向かい、口を開いた。
「右奥の壁の向こう側、人が三人こっちに来ます」
はやてがそう言った。シュテルは急いでサーチャーを飛ばす。するとはやての言う通りそこには、ハイパワーライフルに、携行式のロケットランチャーを持った人物が三人、シュテルたちの方に向かってきた。
「はやて嬢、凄いですね。どうやってそれを?」
「昔から、怖いものを感じると、こうやってなんとなくで”視る”事ができるんです。何でかはうちも知りませんけど」
はやては苦笑いを浮かべる。恐らく、あまり使い道がない能力だと思っているのだろう。しかし、はやてのその力は今この時、大いに役に立つ。
「ルシフェリオン、vision correction system(視覚補正機能)、オン。サーチャーの視界をはやて嬢と同期、marker system(目印設定機能)をアクティベート。はやて嬢が見ている視覚情報とこちらのサーチャーの視界をリンク。........はやて嬢、今あなたが使っている力はこの状況を打開する力になります。どうか、協力をお願いします」
シュテルは、はやての方を向き、はやてに頭を下げる。はやては少し困った顔をする。その後、笑みを浮かべ、口を開く
「勿論です。この力がお役に立てるのであれば、使ってください」
「ありがとうございます。では、この場を突破します、私の手をしっかり握って、離さないでください」
「はい!」
シュテルははやての手を握り、もう片方の手でレイジングホーンを抜くと、先ほど数人の人物がいたほうに向け、引き金を引く
(サーチャーからの情報をフィードバック、対象を確認。ターゲット、マルチロック。流星散弾、発動)
その場に、想子の光が三条、迸る。すると、先ほどまで歩兵がいたところに何かが崩れるような音がする。シュテルがそちらに行くと、きっちり三人とも気絶して横たわっていた。
「次が来ます。先の通路右側!四人!」
はやてがそう言い、シュテルはサーチャーにつけられたマーカーを頼りに、CADの銃口を向け、再度引き金を引く。そして、先ほどマーカーがついたあたりで、崩れ落ちる音がする。数的不利の状態で、敵が瞬く間に無力化されていく。シュテルのもはや神業レベルの精密さとはやての感知能力がうまくかみ合った結果である。シュテルはそのまま、はやてを連れて進み、先ほどの歩兵たちが乗ってきたであろうバンの前までたどり着いた。車は路地裏の入り口に後部のドアが向くように止められていたため、簡単に乗り込むことができた
「シュテルさん。この後はどうするんですか?」
はやてがそう聞く。
「勿論このまま、この車に乗って逃げるんですよ」
シュテルはさも当然のごとく、そう答えた。旧式を通り越し、もはや骨董品レベルのガソリン車のエンジンを、シュテルは回す。エンジンは簡単につき、AT車であると思われるバンのシフトレバーをDの位置(シフトレバーのDはドライブ、走行するときに入れるギア)に持っていきサイドレバーを下ろす。そのままアクセルペダルを踏み、急発進させていく。
外に出ていた歩兵は全く気付いた様子がない。理由は単純、シュテルがルシフェリオンを使い、音波を遮断し、音を聞こえなくしたからである。相手からすれば、気づいたら対象どころか自分たちの乗ってきたはずの車すら突然消えたように感じるだろう。しかし、音と映像で確認しているヘリだけは、シュテルたちのことをしっかりととらえ続けていた。
「シュテルさん!上から見られてます。うちらのことずっと追いかけて来てる!」
「やっぱりヘリはそう簡単に巻き込めませんね........仕方ない。はやて嬢、何かに掴まっていてください。少し荒っぽい運転になります」
「わ、分かりました」
はやては、後部座席にしっかり捕まり、シートベルトをしめる。シュテルはアクセルをさらに踏み込む。そして、そのままどんどんと街中を外れ、ついたのは郊外の港湾地帯だった。
(サーチャー、ソナー起動。簡易人物スキャン実行、一般人のいないエリアを算出...完了。対象の墜落予測範囲を算出...完了。これで、終わりです!)
シュテルはブレーキを踏み、車を急停止させる。
「はやて嬢。絶対に車から降りないでくださいね」
「は、はい。分かりました。でも、シュテルさんはどうするんですか?」
「このくだらないチェイスにケリを付けてきます」
そう言うとシュテルはシートベルトを外して車から降り、自身の得物たるレイジングホーンをホルスターから抜き、上空の戦闘ヘリへと向ける。そして、実銃で言う引き金に当たるスイッチを押し込み、魔法式を起動する。
(ミーティア・バレッド、起動式ロード。威力制限修正、ニュートラルからエリミネートへ変更。対象補足)
「ミーティア・バレッド、発動!」
シュテルはヘリのパイロットに照準を合わせ、魔法を発動する。威力が通常の弾丸レベルにまで引き上げられた不可視の弾丸は、一撃で脳を破壊し、その息の根を停止させた。そうして乗り手を失った鉄の鳥は湾岸地帯の廃棄物処分スペースへと落ち、その体を炎と瓦礫に変えた。
「これで追手は全員撒いたはず。でも念のため別の移動手段を使いますか」
シュテルは乗ってきた扉に手をかけ、中にいるはやてを車から降ろした。
「さて、残る目的ははやて嬢を送り届けるだけですね」
「あの...さっきのヘリはどうしたんですか?それにあの爆発は一体?」
「先ほどのヘリなら”巣に帰り”ましたよ。派手な音と光をばらまいて、ですがね。さて、それじゃ行きましょうか」
「一体どこへ?」
「決まっているではありませんか。あなたを送り届けるんですよ」
シュテルはそういうと、首に下げていた待機状態のルシフェリオンにさわる。
「ルシフェリオン、起動」
そう言うとルシフェリオンはペンダントから外れひとりでに空中に浮遊し、本来の姿たる外装パーツを展開していく。まもなくそれは、深紅が目立つ大きな杖に変わった。それを見たはやては、まるで自分の好きなものを見た子供のように目を輝かせていた。
「さて、行きましょうかはやて嬢。こちらにどうぞ」
「はい!」
はやてはシュテルの方に向かう。シュテルははやてを自身の方に寄せ、ホールドする。
「しっかり捕まっていてくださいね。ルシフェリオン、ブレイズフィン、展開。光学迷彩機能、起動」
すると彼女たちの周りを光が覆い、次の瞬間にはその姿はなかった。
「うわぁぁぁ!?飛んでる!うち、空飛んでるよ!」
「どうやら満足してもらえたようですね」
それもそのはず、シュテルたちは光学迷彩機能で周囲と同化し、ブレイズフィンの高速飛行能力で空を飛んでいたのだ。バイクどころか航空機に匹敵する速度で空を飛翔していたシュテルたちは、あっという間に集合場所へと到着した。シュテルは地上に降り立つと、ルシフェリオンを待機状態へと戻し、はやてを待つ従者のアインスのいるところへ向かうよう促した。無事に再会できた二人は、泣きながらも笑顔で抱き合っていた。
「あなたがアインスさんですね?申し訳ありません。集合時刻に遅れてしまいました」
「いえ、構いません。我が主が無事で何よりです」
銀色の髪を持つ若い女性、アインスははやてとしっかり手を握り、シュテルに近づいてくる
「それよりもアインスさん。はやて嬢の警備を厳重にしておいたほうが良いかもしれません。先ほども謎の武装組織に襲撃されました。あれほどの武力をバレることなく保有できる組織となると、かなり厄介な手合いかもしれません」
「分かりました。我が主の警護は厳重にします。ご助言感謝します」
「では、私はこれで」
「今回は本当にありがとうございました。またご縁があれば、どこかで会いましょう」
そう言ってアインスたちとシュテルはそれぞれの帰路につく。すでに日は、上がり切っていた。
次回は本格的に九校戦編へとシフトしていきます。(多分きっとメイビー)大変投稿が遅くなって申し訳ありません。次回は早めに出せるように頑張ります。ではまた次回お会いいたしましょう。