ありふれた覇気の使い手は世界最優 作:見た目は子供、素顔は厨二
割と難産だったわ。
それではどうぞ!
月曜日。それは一週間の内で最も憂鬱な始まりの日。きっと大多数の人が、これからの一週間に溜息を吐き、前日までの天国を想ってしまう。
「ロスティンペリダイ♪ ナイタンデイフィデンアウッ」
「ご機嫌ね、ハジメ?」
「そりゃあもう。どうせ放課後は
「それはそうね」
…ただし、この二人はその例外に該当する。ハジメはノリノリで鼻歌を歌いながら、雫は上機嫌に微笑みながら学校への道を登校する。
何故ならば二人にとっては学校での生活こそ、まともに日常を感じられる時間。表の世界の平和を噛み締めることのできる数少ない時間だ。
とはいえ万が一に備えて、二人は簡易的な武器は持っている。愛用している武器でこそないが、収納も便利で汎用性が高い【組織】共通の武器だ。表には無い様なオーバーテクノロジーが注ぎ込まれており、戦争に使われでもすれば、それこそ次元が一つや二つは変わるだろう。
そもそも二人が学校に通える理由自体も【組織】関連の任務だ。本来なら二人は中卒で、【組織】の仕事に専念しなければならない身。それを許されているのは護衛対象がこの高校に通っている事が理由だ。なお放課後は別の者が二人の任務を受け持つ形となっている。
ただそうであっても血に塗れた裏とは乖離して美しいこの景色は二人の心を安らがせる。同時に自分達の尽力が僅かにでもこの平和を守っているのだ、と誇りに思った。
と、二人とも青春の一ページをもれなく満喫し、歩いていると──ふと雫がその端正な顔を顰めた。ハジメはハジメで横の雫に憐憫の情を向けた。
何故不意に二人がそんな反応をしたのか。それは電柱から現れた陰が容易に示してくれた。
「ふっふっふっふっふっ、二日ぶりですねお姉様。そして我らが怨敵、南雲ハジメェ!!」
「…何してるのよ、貴女達」
「…ホント雫って変わり者に好かれるよね」
「五月蝿いわよ。あと自分はそうじゃないみたいに言うのはどうかと思うわよ、【悪魔たらし】」
「その異名、凄く嫌なんだけど…」
現れたのはハジメが後輩ちゃんと心の中で呼ぶ、雫のソウルシスターズを代表する突撃隊長だ。
そもソウルシスターズとは雫のカリスマとか美貌とかそんなのに惚れ込み、開かれた非公式ファンクラブの事である。主に雫にお世話になった後輩達がメンバーであり、その熱狂度は半端ではない。具体的に言えば溶岩水泳部になり得るくらい。
正直、漫画とかでしか見ない様な話であり、ハジメが初めてその事実を知った時は腹を抱えて笑った。なお雫から放たれた威圧により、すぐに土下座をすることになったが。
とはいえ本質は雫ファンクラブに違いなく、ハジメが目の敵にされる必要は一見無い。実際雫には男の友人も数人いるが、そちらはただ観察される程度に収まる。
では、何故ハジメはソウルシスターズに「憎しみで人が殺せたら…」と恨むのか。
「毎日一緒に登校! 距離感スレスレ! お姉様はなんだか晴れやかとしてるし…オノレェエエエ!!! この怨み、晴らさでおくべきか!!」
「何かもう悪霊化しそうなんだけど、君の妹」
「あの子を実妹にした覚えはないわよ」
「そういうのですよ! そういうの!」
彼女の言う通り二人の距離は手繋ぎや腕組みこそはしていないが相当に近い。また普段なら相手に遠慮したり、一歩距離を置く様に話す雫だが、ハジメに対しては全く気を置いていない。
学校では一見イチャイチャしていないが、心が通じ合っていそうな距離感であることから二人は熟年夫婦の様な感じのそれ、と言われている。
なお本人達的にはこれでもセーブしており、家でゆったりする際には雫がハジメを椅子にして座ったりしている。あと同じ家で暮らしているという事実はまだバレていない。本人等的にはそう言ったやましい事は特にない。しかしもしバレてしまえば、ハジメは毎日夜襲を受けることになる。
だがまあ、どちらにせよソウルシスターズの中でも特攻性に定評のある後輩ちゃんには関係ない。野獣の如き気迫でハジメとの間合いを詰め、鞄に腕を突っ込み──
「先輩、討ち取ったり!」
と、墨がベトベトに付着している筆をハジメに振るう。
それに対してハジメ、
「甘い!」
と鞄から折り畳み傘を取り出し、瞬時に開けた。パンッと勢いよく形を成した傘は後輩ちゃんの放った墨を余すことなく受け切ってみせた。
二人の陰が交差し、一瞬場の空気が静まった。毎度こんな感じなので雫は「何やってんだろう」と阿呆を見る目をしていたが。
「今日も僕の勝ちだ」
「くぅっ! 完璧な不意打ちだと思ったのにぃ」
「悪戯は登校一回、昼休み一回、帰り道一回だからね。なるべく僕以外に迷惑はかけない。これは約束だからね、忘れちゃダメだよ?」
「余裕ですね、先輩! ですが本日の昼休みこそ、ぎゃふん!と言わせてやりますよ! 覚えてろぉおおおおお!!」
なお後輩ちゃんは現在中等部だ。ハジメに捨て台詞だけ吐くと、すぐに己の校舎のある方へと走り去っていった。なおその校舎は高等学校からはかなり遠いはずなのだが、後輩ちゃんは皆勤賞である。凄まじい体力だ。
ハジメと雫はそんな彼女の背中を見ながら、
「平和だなぁ」
「というか、何であの娘は律儀に約束を守りながらイタズラしてるのよ…」
和んだり、呆れたりしていた。
兎も角、忙しくも平和な日常が始まりを告げたのだった。
◆◆◆◆◆
二人が教室に入ると多くの視線が出迎えて来た。ハジメに浴びせられるのは男子衆と一部女子からの嫉妬やら嫌悪。雫を迎えたのはちょっとだけソウルシスターズの魂を持っちゃってる女の子のハグだ。
「シズシズゥ〜! 休日会えなくて寂しかったよ〜!!」
「ええ。おはよう鈴」
雫に抱きつき、頭を雫の腹にぐりぐりと擦り付けているのはクラスメイトの谷口鈴だ。ちんまりとしていて可愛らしく活発な彼女は非常に人に好かれやすい。あと割とスケベオヤジの精神を持っており、雫以外にも沢山の女子が鈴のハグを喰らっている。
「おはよう、谷口さん」
「おー、南雲くーん! おはよー! 今日も二人で登校? イチャイチャしてんねー、羨ましいぞ〜!!」
「いや、付き合ってはいないよ?」
「嘘だー! 距離感バグってるもん! 恋愛ハンターの鈴を誤魔化せると思うたか〜!」
「鈴、その職業はいったい何なのよ…」
ハジメと鈴の会話に少し呆れながらも突っ込む雫。なおこの間も鈴にハグをされている。同級生女子の完全ソウルシスターズ達が羨ましそうにこちらを見ている。
ハジメがそんな二人を見て仲ええなぁと微笑んでいると、続いてハジメの方に近づく陰があった。
「おはようハジメくん。今日も雫ちゃんと登校なんだね…」
と、ちょっとだけ寂しそうにしながらもニコニコと現れた少女が。彼女の名は白崎香織。雫と同様、学校の【二大女神】とされている紛う事なき美少女だ。くりくりと丸い目と明るい笑顔がチャームポイントの彼女だが、今は少しばかり寂しそうな雰囲気がある。
ここで轟っと殺意がハジメに襲いかかる。何故か裏の界隈を良く知るハジメでも一瞬ビックリする程のものだ。敵が来たのかと勘違い仕掛け、静止する。思わずカバンの中にある非常用武器を取り出す所であった。
彼女は何かとハジメに構ってくる。最初は雫の幼馴染であるハジメの事を気にしているのか、と思ったがどうにも違う。雫は雫、ハジメはハジメ、と言った風に香織は両方にそれぞれ構っていく。
こうとなればハジメとしては本気で心当たりが無い。昔雫が自分の部屋に連れて来たことがある様な気がするだけだ。その際、ハジメは雫の父にしごかれていたので接点も特に無い。中等部から一緒だが、特に大したイベントも踏んでいないはずだ。
「おはよう、白崎さん。もしかして雫と一緒に帰りたかったとか? だとしたら申し訳ない」
「いやいや違うよ、南雲くん! …でも、いいなぁ」
上目遣い! 赤らめた頬! 悩む様な顔!
本人こそは天然だが、実にあざとい。クラスの男子がその攻撃力にぐぅっと胸を抑えた。女子ですら…というか鈴が「目がぁ! 目がぁ!」と某世界の王になっちゃっている。実にあざとい。
これには流石のハジメも…
「え? やっぱ雫と一緒に登校したい?」
何の意味もなかった。そもそもこの男がそんな楽に攻略できるならば【組織】は今頃頭を悩ませてはいない。何なのあいつ、何で無神経にこんな相関図形成してんの?とゲ○ドウポーズをしてはいない。
クラス全員+雫から呆れた視線を一身に受けるハジメ。その視線の嵐にハジメと香織は首を傾げた。何だこの視線は、と。
しかしまだまだ止まらない。それらの視線を全て掻っ攫うかの様にハジメ達の近くへと現れたイケメンがいたからだ。
「やあ、香織、雫、鈴、おはよう。そして南雲、お前はいい加減に一人で登校できる様になったらどうなんだ?」
「おはよう天之河くん。ところで前々から気になってたけど君の中で僕はどんだけポンコツなの? 僕、流石に登校路ぐらいは分かるよ?」
「なら明日からでもそうするべきだ。雫も自由な時間は欲しいだろうからね」
現れたのは茶髪のイケメン、天之河光輝だ。容姿端麗、文武両道、その上正義感も強い正しく完璧超人だ。雫の道場に通っているそうで、古くからの知り合いらしい。剣道では全国にその名を轟かせているそうだ。
ただまあ、ハジメとしてはそこまでいい印象は抱いていない。というのもハジメと光輝は中等部から一緒な訳だが、何から何まで目の敵にしてくるのだ。例えばテストの点数、例えば走りの速さ、例えば身長の高さ…他にも様々中ことで争い、己の優位性をアピールしてくる。
それが数回程度なら何とも思わないが、それが毎日どころか事あるごとに、だ。正直に言って非常に面倒くさい。というか身長で優劣を決めるのは流石に幼稚が過ぎると思う。
なおハジメと雫はそれ程授業に本気を出してはいない。二人とも成績は上から数えた方が早いが、実際には海外難関大学クラスの頭を持つ。また運動神経も本気を出せば、まあ一般人には出せない領域にある。身長に関してはどうにもならないが大まか高ステータスなのを誤魔化しているのが現状だ。
というわけでハジメからすれば己を誇示しまくるガキ大将を見ている気分になってくるのだ。きっかけも何が原因なのか分からないので余計に面倒くさい。
とはいえ気になったので、一応雫にアイコンタクトで「迷惑? もしそうなら時間ずらすけど?」と尋ねる。すると「別に問題ないわ」とこれまたアイコンタクトで直ぐに返ってきた。どうやら問題ないらしい。
他にも坂上龍太郎がハジメの背中を叩いてきたり、檜山大介がハジメを見て舌打ちしたり、中村恵里がオドオドしたり、遠藤浩介が何処かに消えたと騒がれたり、清水幸利がハジメに耳打ちしたり、畑山愛子がチャイムギリギリに転がってきたり、と兎も角も騒がしい学校生活がいつも通り流れる。
そんな面倒で騒がしいが、それでも限りなく平和な学校生活を謳歌しながら、ハジメは自分の肌にはやはり殺し殺されが常用化している裏の世界などではなく、こちらの方が合っていると確信した。
そして願うならばこの生活よ、永遠に続け、と天に祈りを捧げて──ー
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
──ーその神様にあっさりと裏切られることとなった。
教室を埋め尽くした幾何学模様の白い光。それが晴れた頃には見も知らぬまさかの異世界だ。まさか『旧世界』以外にも異世界があるとは思っていなかった。
兎も角だ。イシュタルとか言う好好爺の話では『旧世界』関連の話ではなさそうだが、どちらにせよ表の人間が何人も行方不明ともなれば大事件だ。必ず解決する必要がある。
そしてここは異世界。【組織】のメンバーでも流石に応援に駆け付けられるかとなれば、かなり難しいだろう。
すなわちこの事件は【組織】の上位ライセンス持ちのハジメと雫が解決の中心となる必要があり…
「ぐふぅ!」
「あ! こら、ハジメ! 胃痛で倒れない!」
とんでもなく面倒くさそうな案件の発生にハジメは胃を痛め、吐血するのであった。
ハジメの時間軸
小4…家族で旅行の帰りの飛行機で特位指名手配犯【豪鬼】に襲われる。他の者達が『旧世界』へと連れて行かれ、ハジメが抵抗する中、雫に助けられる。んで、連れ去られた家族を取り戻すため裏の界隈に入る。
中一前半まで…兎に角雫の親父さんに訓練(裏)をつけられる。光輝は表だし、基本ハジメは地下で訓練ばっかしてたので香織や光輝とは学校以外で接点が無い。
中一後半…【組織】の下位ライセンスメンバーとして加入。その後上位指名手配犯【騙し絵】や【人喰い】の討伐の功績者となる。
中二前半…特位指名手配犯【遊戯女帝】と初めての遭遇。下位ライセンスメンバー196人が『旧世界』に連れて行かれた中、数少ない生き残りとなった。また上位指名手配犯【空牙】の単独討伐を完了する。
中二後半…特位指名手配犯【紫電】の単独討伐を完了する。また現“緋”の弟子、上位ライセンスメンバーの【
中三…特位指名手配犯【豪鬼】の単独討伐及びその被害者の救出。また特位指名手配犯【遊戯女帝】の捕縛における最大の功績者となる。また上位ライセンスメンバーの地位を獲得、及び正式な二つ名【無能】が与えられた。
高一…『旧世界』の犯罪組織【朧月】の情報獲得。その幹部の一人とされた上位指名手配犯【狂笑する屍】の撃退。異世界召喚←イマココ
【組織】のシステムとか過去話の詳細とかは後々やると思う。