エンティティ様といく!   作:あれなん

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遅くなってごめーーん!


〖26〗エンティティ様といく!(上)

 

 

伏黒が闇金から金を10日で3割の利息がつく方式(トサン )・複利で借り、完全に忘れ去っていたことが発覚したのは数か月前のことだ。

 

伏黒の勤務先である高専には闇金から取り立ての電話が掛かっていたが、職員たちは呪詛混じりのクレーム(主に五条のせい)に慣れていたためいつものように受け流していたし、注文してない大量のピザや寿司が寮に届いたときにはいつものように五条のカードで決済をし、教職員や生徒たち、たまたま高専を訪れていた呪術師の胃に収まった。

 

ちなみに伏黒は携帯を支給されていたが、扱いが雑で任務のたびにバキバキにしていた。そのたびに新しい携帯を手配させていたが、15度目にもなるとついに高専の総務部からレッドカードが出た。

闇金が高専宛に嫌がらせの郵送物を送りまくっても無反応(大抵五条のせい)で、高専の門や壁に落書きをしようにも監視カメラが至る所に設置されていた(総じて五条のせい)ため断念するしかない。

 

ここまでくると闇金業者も打つ手なしで困り果てた。金を貸す際に伏黒が非常勤ではあるが高校に勤めているということもあり金の回収は容易だと踏んでいたのだ。闇金は頭を抱え、利子分はともかく元金だけでも回収したい。その回収を任されたのは闇金に入社してまだ半年のチンピラだった。

 

高専の門の前で誹謗中傷のビラを抱え、たそがれていたチンピラから警備中の職員が話を聞き、職員から恵に状況が伝えられたときには返済金額が元金の5万円から約150万円に膨れ上がっていた。恵はひそかに貯めていた500円玉貯金箱を切り崩して元本+迷惑料として10万円を捻出し、チンピラはその金を握りしめ意気揚々と帰って行った。

 

全ての元凶である伏黒は慌てる息子を見て反省するどころか「10日で5割(トゴ )じゃなくてよかったじゃねェか」と言い放ち、その言葉に恵は全身を怒らせる。血眼で関係者に聞き取りを進めると恵が知らなかった(伏黒が故意に隠していた)悪行の数々が芋づる式に明るみとなった。

 

高専の3年で停学中の秤と共にパチンコ店の開店待ちの列に並んでいた、虎杖を連れて東京競馬場に行っていたなどは序の口だ。

当たり屋紛いのことをしてチンピラから大金をせしめていた、カツアゲの現場に居合わせた時には加害者を殴り飛ばした挙句仲裁料として加害者被害者双方から金を巻き上げ、またある時は難癖をつけてきた呪術師の身ぐるみを剥いでリサイクルショップに持ち込み換金していたことが発覚する。

恵が父親の武器庫呪霊を調べたところ、術師から強奪したと思しき呪具や宝飾具さらには誰かの金歯まで出てきた。

 

また喧嘩になるだろうとごく一部の者はその様子を離れたところから心配そうに眺め、それ以外の大半の者はどちらが勝つか賭けている。

息子に怒られることなど日常茶飯事の伏黒はどうせ血走った目で説教してくるだけだろうと平然とした様子だ。

 

恵が遠くから歩いてくる。

恵が近づくにつれその表情におやっと眉を上げた。

いつものように青筋を額に浮かべているわけでも目の瞳孔が開いているわけでもない。厳かな仏のような表情だ。恵は全ての貴重品と武器庫呪霊の没収に成功した。

 

 

 

 

 

 

その日は奇しくもハロウィンだった。

談話室のテーブルにはジャック・オー・ランタンが鎮座している。先ほどまでパンプキンパイにかぼちゃプリン、かぼちゃのクリームシチュー、かぼちゃのコロッケと冬至かと見紛うほどのかぼちゃづくしの料理に舌鼓を打っていた。

しかし食後特有の和やかな雰囲気は既になく、その場にいる者たちは伏黒に向け野次を飛ばす。当の本人は苦々しい表情で床の上で粉々になっているアンパンマンフラッシュフィーバーパチンコDXを睨んでいた。

 

アンパンマンフラッシュフィーバーパチンコDXというのはパチンコのシステムを忠実に再現した子ども用のおもちゃだ。おもちゃと言ってもその仕様は本格的で、パチンコを嗜む大人から「3万負けました」「英才教育」などと絶賛されている代物だ。高専の談話室には些か不釣り合いなそれを設置したのは伏黒家の良心とまで言われている津美紀だった。

 

伏黒甚爾はここ数か月非常に厳しい、本人曰く“修行僧さながらの”生活を送っていた。外出するにも5W1Hを伝えないと恵から1円たりとも渡してもらえず、Suicaの履歴も2週間に1度は必ず確認される。ここまでくると気晴らしに五条や夏油に喧嘩を売るか談話室の三人掛けのソファに寝っ転がり競馬新聞や雑誌を見るしかない。そんな伏黒を津美紀は不憫に思っていた。

 

父の日に欲しい物を津美紀に訊ねられた伏黒は案の定「ギャンブル」と答えた。その言葉に散々頭を悩ませた津美紀はアンパンマンフラッシュフィーバーパチンコDXに辿り着く。

「アンパンマンなら教育にもいいはず。だってアンパンマンだもの」というアンパンマンに全幅の信頼を寄せた津美紀の意見を誰も否定することはできない。もちろん設置するにあたり津美紀は事前に夏油に相談を持ち掛け、夏油は笑みを浮かべ許可を出した。

 

 

 

 

 

 

 

談話室に飛び交うブーイングを高専の緊急放送が掻き消す。

何者かによって渋谷に帳が降り非術師が帳の中に閉じ込められている。また帳の中に複数の上級呪霊がいる可能性が高い、という内容の放送に生徒たちは慌しく談話室から飛び出した。

 

「だっっっっる」

「唾飛ばすな。汚い」

 

土鍋かぼちゃプリンをひとりで抱え込み、おたまで掬って食べていた五条はひたすら文句を言いながらも夏油と共に談話室を出て行く。それを見送ると談話室に残されたのは夜蛾と伏黒の2名だけとなった。

アンパンマンフラッシュフィーバーパチンコDXに精神的にボッコボコにされ、思わず台パンで反撃し破壊してしまった伏黒はソファにひっくり返ったまま動こうともしない。火が消えたようにひっそりとしている談話室では夜蛾の声はよく響いた。

 

「……要求はなんだ」

「―――報酬の現金前払い。ついでに追加報酬分も先にくれたらやる気が出る……かもしれねェな」

「報告に虚偽があった場合は即刻全額返してもらう」

 

夜蛾の返答に伏黒は口角を上げ、金を受け取るべく談話室を後にした。

 

 

1時間も経たないうちに渋谷には呪術師が集まり作戦が練られた。何者かによる特殊な帳が降りていたが呪術界側は通常通り五条をメインに据える。

渋谷駅の地下は人で溢れかえっていた。地下と地上では異なる帳が複数降り、一般人は地上へと出ることができず鮨詰めになっている。あるところでは怒号が飛び交い、またあるところでは将棋倒しになった人々が悲鳴を上げた。

 

「人口密度ヤバ」

 

術式で上からその様子を観察していた五条はそう溢す。しかし次の瞬間には駅の帳が上がり人が勢いよく流れだした。

五条と同じ特級術師である夏油には帳の基を破壊するよう指示が出ていたはずだ。容易に破壊できる場所にあったのか。地上に降り、気配を探る。

 

罠の可能性も高いなと考えていると、夏油と伏黒が人の流れに逆らいながら五条の方に向かってきた。

 

「やけに早くない?」

「私が戦ってた呪霊と帳の基、こいつが全部横から掻っ攫っていったんだけど……」

 

そう言って夏油は嫌そうな顔をしながら伏黒に視線を遣った。

 

「チンタラしてる奴が悪い」

「ってかなんでここにいんの?待機指示出てたじゃん」

 

伏黒は高専の体術講師に着任して早々五条の頭をカチ割り、今現在においても生徒はもちろん五条や夏油、偶然高専を訪れた灰原や猪野にも「なんかそのツラ気にくわねェな」と絡んでは元気に投げ飛ばしている。しかし今回のような場合においては天与呪縛で呪力を一切持っていないことが考慮され待機指示や帳外での警備にあたることが常だった。

 

待機中や警備中は補助監督から与えられる雑誌や漫画を読むか、勝手に周囲をぷらぷら散歩しているかの2択で、今日のように能動的に動くことは初めてのことだ。

報酬は祓った呪霊の数に応じて追加で支払われるが、待機や警備でも基本報酬は支給される。楽して稼げるに越したことはない、と以前伏黒が言っていたのを五条は思い出していた。

 

「学長に交渉して追加報酬分も含めて前払いしてもらったらしいよ。しかも現金で」

「あー、貰った金を絶対返したくないってこと……なんで現ナマ?」

「ほら、口座とか全部恵に管理されてるから」

「後でバレるパターンじゃん」

「それまでに使いきればいいじゃねェか」

 

 

そんなことを話していると駅のホームに着く。さすがに平和ボケしていてもこの状況の異様さに気付いたらしく、非術師たちがいなくなった駅は閑散としている。飲みかけの缶が踏みつけられ地面に水たまりを作った。

 

ホームのベンチに着物を纏った老婆が深く腰かけていた。ゆるく結われた白髪交じりの髪が一筋二筋流れ落ち、俯いた顔に掛かる。

 

老婆は五条たちに気が付いたのかゆっくりと立ち上がった。重力を感じさせない動きだ。はずみで膝の上にあった箱が転がり落ちる。髪の間から白濁した目が覗く。

頬に張りはないがまろやかで、薄い笑いが口角にある。薄く唇が開き微かに動くも床に箱が転がる音がそれを掻き消す。不思議なことに殺意は感じられない。

 

「――――悟様」

ひどく掠れた声だ。

 

「僕?ってか誰?」

「昔関係を持ってた人とか」

「ストライクゾーンヤベェな」

「あーそれ、私のせいかも」

夏油と伏黒の会話をBGMに五条は考え込むが答えは出ない。

 

「マジで誰?」

「悟様、久でございます」

「…………あ?…あー、世話係だった微笑みクソババア……エッ」

五条が捕まる。

捕まってしまった本人は一瞬驚き固まった後、その顔を夏油に向けた。夏油も一驚したがすぐに立て直す。

 

「悟、とりあえず久さんに謝れ」

「ハァ?!なんで?!」

「どうせ悟がまた何かやらかしたんだろう。久さんの顔見な、遺影にしてもいいぐらい穏やかな顔をされてるじゃないか」

「穏やかならいいじゃん」

「女があの顔してるときはマジでヤベェぞ。さっさと謝っとけ」

「そもそも僕、実家じゃ高専にいるときよりも大人しくしてるし!」

「試しに最近実家で怒られたことを言ってみて」

「……えーっと、洗濯にだしたズボンにティッシュとセミの抜け殻入れてるのを忘れてたのと、客間の水槽にカエルの卵いれといたのと、後は…」

「すみません、悟には重々注意しておくので今日のところは勘弁してやってください」

謝る気がさらさらない五条に早々に見切りをつけ、夏油は今までに何万回と言ってきた言葉を口にした。

 

「ほら傑!もっと誠意見せろよ!僕がこのままでもいいの!?」

「遊んでないで早く出なよ」

「できたらとっくにしてるって。できないから恥を忍んで頼んでんでしょ」

「それが恥を忍んでる奴の態度か」

五条はうごうごと身を捩っていたがはたと動きを止めた。

 

「ちょっと待て、この状況……

―――――僕、ピーチ姫ポジじゃん………!!!」

 

最強であるが故にピーチ姫ポジになったことがない五条。ある意味夢見た役割が回ってきたためとはわわ…!となっている。

 

「パチ屋行ってきていいか?」

「私も皆の様子を見に戻ろうかな」

「スグオ!フシーグ!ヘルプ!」

「おかしいな、余計に助けたくなくなってきた」

「同感」

「助けてくれたら1ヶ月いたずらしないから!」

「半年ならいいよ」

「2週間!」

「なんで更に短くなるんだ」

 

このままでは埒が明かないと判断し夏油が使役呪霊で五条を確保しようと試みる。しかし呪霊は五条に届く前に真っ二つになり床に転がった。

透明な壁だ。それが呪霊を両断した。

その壁は夏油の使役呪霊を阻むだけでなく伏黒が咄嗟に放った攻撃をも弾く。老婆の術式だろう。伊達に五条の世話係を務めていたわけではないらしい。

 

単純な術式ではあるがその分応用が利く。夏油が様子見に出した呪霊は次々に祓われていった。壁は然程大きくないが呪霊を一瞬で肉片にするほどの強度と速さがある。

 

「あー、やっぱ10時からのドラマ録画しとけば……ッ!」

 

五条を捕らえていた箱が五条を完全に封印した。床に落ちる音が辺りに響く。硬質な音だ。それに手を伸ばす夏油を老婆の術式が襲う。迫りくる盾を身を引いて躱した。

老婆は光のような反射速度で伏黒たちの攻撃を往なす。

夏油の攻撃を防いだと思えば、次の瞬間には伏黒の身体を両断するべく迫る壁。伏黒はその高い身体能力で避けた。しかし夏油の呪霊たちは次々に祓われる。このままただ使役呪霊を消耗するのは得策ではない。一旦距離を取るか。しかし封印された五条を放置していくわけにもいかなかった。

 

伏黒の呪具が風を切る。壁と呪具がぶつかる度に甲高い音が鼓膜を貫いた。伏黒が思い切り呪具を盾に叩き込む。

その音が変化したことに気が付く。盾に小さな罅が入っている。伏黒の目的が夏油にも理解できた。即座に伏黒に倣う。

 

五条を封印した影響か、箱は床を割りコンクリートにクレーターを作っている。老婆が屈みこみ箱を拾い上げようとする。しかし箱は一向に持ち上がらない。何度も試すうち、老婆の爪は剥がれ指先から血が滴り落ちた。老婆は深い笑みを絶やさない。その姿に夏油は眉を顰めた。

 

伏黒の攻撃は絶えず続いている。絶え間ない攻撃に盾に入った小さな罅は蜘蛛の巣のように全体に広がった。伏黒がシッ!と鋭く息を吐き、巣の中心に呪具を叩き込む。

 

盾の破片が宙を舞う。伏黒の蹴りが老婆を捉える。

老婆の身体は弾かれ線路に落ちた。老婆は立ち上がろうとしているが動きはひどくぎこちない。折れた顎骨が皮膚を破り血でできた泡が口の端からぼたぼたと垂れる。顎の傷で絶えず張り付いていた笑みは更に深くなり、耳から耳まで裂けているようにも見えた。

 

「……気色悪りィババアだな」

 

伏黒がそう溢す。老婆が歩くたびどこからか鈍い音が聞こえてくる。

同時に纏う着物が悲鳴に似た音を立てて裂けた。腹が異様に膨れていることに気が付く。皮膚の下がもぞりと蠢いた。腹を抱えながら老婆は唸り声に似た声をあげる。遂に腹は老婆の膝まで届く。

 

よたりよたりと足を動かしていた老婆が突然止まる。先ほどの唸り声とは違う声をあげた。鶏が首を落とされたときにあげる断末魔に似ている。

次に聞こえたブツンという弾ける小さな音。その小さな音とともに老婆の腹が裂ける。濁った色の飛沫が飛ぶ。液体に触れた床や壁は瞬く間に溶けた。老婆の近くにいた伏黒は柱の陰に飛び込んだ。

 

爆発にも似た衝撃に老婆はその形をなくし、肉塊になった。腹から流れ出た液体は僅かに残った老婆の絹糸のような髪を溶かし、不快な臭いだけを残す。眼窩から飛び出た目玉と黄色い脂肪が液体の海を泳いでいたかと思うと跡形も残らず溶けていった。

 

夏油はじっと老婆の方向に視線を止めている。服の切れ端やこぼれた臓腑に埋もれるようにして何かが蠢く。ボコリ、ボコリと音を立て、細胞分裂を繰り返しているようにも見えた。雑魚とは一線を画す気配を感じ取る。

夏油は慎重に距離を測りつつじりじりと距離を詰める。それを横目に伏黒は平然と歩み寄ると呪具を叩き込んだ。

 

轟音と共に飛んでくる砂礫が夏油の頬を掠る。粉塵になったコンクリートが辺りに立ち込める。視界が晴れるとその場にはふてぶてしい表情を浮かべた伏黒と血だまりだけがあった。

 

文句の一つでも言おうかと夏油が口を開くが、伏黒が線路の奥を見据えているのに気が付く。

 

夏油もその方向に視線を遣ると電車が向かってくるのが見えた。ちらりと見えた車内には呪霊が詰まっている。腕をぐるんぐるん回している伏黒にこの場を任せ、夏油は離脱することに決める。

老婆の件も気にはなるが、五条の封印を解くことが最優先だ。夏油は床に転がっている箱を拾うと使役呪霊の上に乗り夜蛾のもとに急ぐ。

 

夏油が地上まで出ると同時に虎杖の声が耳に届いた。

 

「ナナミーーーーーン!!!五条先生が封印されたって!!!」

 

五条が封印されたことを虎杖が知っていることに疑問を持ちつつ、上空から周囲を見渡すと状況の変化に気付く。

帳の中に閉じ込められていた非術師たちはいない。そのかわりに至る所に呪霊と呪詛師の姿がある。術師がそれらの対応に当たっているようだ。

 

苦戦しているところには時折手助けし、夏油は夜蛾や家入が待機している場所に辿り着く。後方支援部隊が詰めているそこは緊張感に満ちていた。

虎杖の声で五条が封印されたことを皆知っているらしい。

 

「学長、悟がこの中に封印されたんです!」

夜蛾に五条が封印された箱を見せた。

 

「呪霊の討伐と悟の封印の解除を並行して行う」

 

「しかしどうやって封印を解くべきか…」

 

術式を乱す呪具は保管されていたが食中毒事件の際に他の呪物と共に盗まれていたはずだ。

 

「―――オレ知ってる」

 

そう言ったのは伏黒だ。電車に詰まっていた呪霊も伏黒にとっては大した敵ではなかったらしい。どこからか盗ってきた競馬雑誌を小脇に挟み、夜蛾たちの所まで戻ってきた。ちょっと休憩とばかりに地面に腰をおろし胡坐をかく。

 

「あるなら出せ」

 

夜蛾の催促に対し、伏黒が親指と人差し指で円を作る。夜蛾が渋々財布から一万円札を引き抜き、伏黒に押し付けた。

 

「知ってるが持ってねェ」

 

「どこにある」

 

「化け物連れた例のガキに奪われた」

 

全員が口篭もり、場が沈黙する。

 

「…………どうします?」

「……呼ぶしかないだろう」

「しかし、どうやって」

 

考えあぐねている夏油と夜蛾に補助監督の1人が叫ぶように言う。

 

「…しかし!それでは高専としてあれ(・・)の存在を正式に認めることになります!!」

「テメェが認めようが認めまいが既に存在してんじゃねェか」

 

伏黒が記事から視線をはなさず言う。再び静まり返った。

高専としては少女たちの位置づけをわざと避けてきた。呪術界ではまだあちらこちらに火種が燻っており表立って少女たちを認めると大延焼する可能性が高い。かといって敵と見做すと全面戦争待ったなしだからだ。

そのため夜蛾はコツコツと融和路線を展開し、生徒たちにもできるなら仲良くしておけよと言っていた。

 

このようなグレーな判断に前例がないというわけではない。

特に日本はこのような判断をすることが多々ある。疱瘡神のように畏怖の対象となっているものも、場所によっては祀られ守護神として信仰されていることもある。その上、日本には八百万の神がいる上に偉人や怨霊も信仰し更には外国から伝来してきた神もいる。

 

呼んで大丈夫なのか、呼ぶにしても機嫌を損ねると非常にまずい。皆四方八方に視線を彷徨わせる。失敗すれば対峙するどころか足並みそろえてこっちに向かってくる可能性もある。

 

夜蛾が両手を叩く。その乾いた音は彷徨っていた補助監督たちの視線を取り戻すのに十分だった。夜蛾が指示を出し終えると皆蜘蛛の子を散らすように動き始める。

 

虎屋の羊羹に福砂屋のカステラ、銀座ウエストのクッキーにゴディバのチョコレート。東京土産の定番である東京ばな奈やごまたまごもある。その他にも多くの食べ物を抱えて補助監督たちは戻ってきた。

 

夜蛾が考えたのは簡単に言うならば餌付け作戦だった。

 

それをベンチに置くが何も起こらない。誰かがまだ足りないのかもしれないと言い、コンビニやスーパーで菓子を買い足していく。いつしか小さな山ができた。

それでも依然として変化はない。皆しきりに周囲に視線を遣る。落胆に似た空気が漂ってきた。

 

そこに慌てた様子で菜々子がやってくる。その手にはスマホを握りしめ誰かを探している。夜蛾たちに気が付くとぱっと表情を明るくし駆け寄ってきた。

 

「夜蛾先生!パス!!これ!」

菜々子がスマホを差し出したことで状況をつかむ。

 

「いつの間に電話番号など交換して……」

「番号?LINE通話なんだけど」

 

デジタルネイティブの恐ろしさをひしひしと感じつつ夜蛾はスマホを受取った。画面には“進撃の小人”と表示されている。

スピーカーに切り替えると能天気な少女の声をかき消すようにエンジンのモーター音と悲鳴が聴こえてきた。少女はその音に負けないように声を張る。

 

『呼んでるの無視してごめーん!今鳥取だからちょっと待ってて!西から順番に周ってるから』

「なにをしている」

 

交換日記から窺うに、休日は兎も角平日には派手な行動は行っていない。そんなに精力的に行動するのは今までにない傾向だ。

 

『なんか今日全国的にお祭りしてるみたいだから手が空いてるキラーたちと一緒に参加中!』

「……祭り?」

 

夜蛾はすぐに補助監督に状況を確認するように指示を出した。もしかすると全国的に何かが起こっているかもしれない。

 

しかも少女は「西から順番に周っている」と言っていた。

夜蛾の額に汗が浮かんだ。

 

 

 

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