魔法少女リリカルなのは -Dark of Hero- 作:白狼天狗
「よし、ここだ」
俺達は海鳴神社の参道に来ている。
目の前には神社へ向かう石階段がある。
石階段を上ったその先に、発動したジュエルシードがある。
急がなければ暴走を始めて周りを破壊して回るだろう。
「来い」
一言、呟く。
それにすぐに応え空間を割って現れるダークカブトゼクター。
「本当に次元の壁を越えられるんだね」
ユーノが感心した様に言った。
これであの世界の超科学の一端を理解して貰えたと思う。
「ごめん~! 遅れちゃったの?」
と、こちらに駆けつけたなのは。
念話での誘導で合流する事になったのだが。
かなり無理をして走って来た様で、随分と息を切らせている。
元々、運動が得意な子じゃないからな。
「大丈夫だ。戦闘は俺に任せて、なのはは封印に集中してくれれば良い。それまでに息を整えてくれるかい?」
「わ、分かったの」
さて、行きますか。
俺の周りで旋回をしていたゼクターを右手に呼び寄せて掴む。
腰には既にベルトを巻いてある。
後は告げるのみ。
「変身・・・!!」
【Henshin】
ベルトのバックルにゼクターがはめ込まれると同時に発せられる機械音声。
間髪置かずに特殊超鋼金属ヒヒイロカネで出来た小さな六角形のパネルが全身を覆いながらパワードスーツが形成されていく。
上半身を重点に装甲を持たせたマスクドフォーム。
身長は190センチ。シルエットはアメリカンフットボールの選手の様。
「そ、その姿は?」
ユーノが驚き、質問した。
「マスクドフォーム、パワーと装甲を重視したモノだ。この装甲を脱ぐとライダーフォーム、この前見たカブトになる。それよりもなのはにデバイスを!」
「うん、そうだね」
俺に促されたユーノはなのはに小さい赤い宝玉を手渡す。
「え、えっと、だれ、なのかな?」
「あ、この姿で会うのは初めてだよね。ユーノだよ、なのは」
「ええっ!? ユーノくんって人間だったの!?」
かなり、戸惑っている様子のなのは。
まあ、俺の変身シーンと見知らぬ少年のダブルパンチだ。
混乱もする。
とりあえず、手短にユーノの事を説明し、なのはにセットアップを促す。
「どうすればいいの?」
「この前と同じで、呪文を唱えて。そうしたらデバイスが起動するから」
「にゃあっ!? お、覚えてないよー!?」
まあ、慣れない内はそうやって起動するんだが。
「なのは、その宝玉を握って意識を集中して。そうすれば起動呪文無しでもセットアップできる」
「う、うん。やってみるの!」
おろおろしながらも赤い丸い宝玉、レイジングハートを握りしめたが、すぐにキッと意識を集中して唱えた。
「レイジングハート! セットアップ!」
【Stand by.Ready.set up.】
桃色の光に包まれたなのは。そしてその光が消えた時、聖祥大付属小学校の制服をモデルにした白と青のバリアジャケット身に纏い金の三日月に赤い宝玉の付いた杖を持った魔法少女へと変身を遂げていた。
「できた!」
「・・・・・・うん、できたね」
やはり、なのはの素質は本物だな。
と感心しつつ次の段階へ。
「俺が先行して行くから、なのはとユーノは空から付いてきて」
「えぇええ!? 空!?」
「大丈夫、なのはちゃんのデバイスはインテリジェントデバイスと言って魔法のプログラム構成をサポートしてくれるし、状況に合わせて自動発動もするから。
今は、空を飛びたいとレイジングハートに念じてみて」
驚くなのはにアドバイス。飲み込みが早いってレベルじゃないよこの子。
「う、うん。やってみるの!」
と、レイジングハートを掲げ集中するなのは。
「レイジングハート、お願い!」
【Flier Fin.】
なのはの靴から彼女の魔力光と同じ桃色の羽が伸びる。
「わわっ!」
「うん、そんな感じ。なのはちゃんはレイジングハートと相性が良いみたいだね、これならだいたいの魔法は念じるだけで発動するよ」
「そ、そうなの?」
「問題なのはイメージさ。急ぐから付いてきて!」
俺は全速力で石階段を駆け上って行く。
ライダーフォームより遅いがそれでも100メートルを8.8秒で走破できる走力はある。
なのはも戸惑いながら付いてきている。
「わーっ! 本当に飛んでるー!」
うん、俺も最初はそんな感じだったよ。初めて飛んだ時の感想は。
なんか、なのはの魔法の才能の事で驚くの疲れてきちゃったな。
そんなことは置いといて、今は急ぐ時。
「なのなちゃん、ユーノ、行くよ!」
「うん!」
「はい!」
疾走する俺を追々して飛翔するなのはとユーノ。
魔力の反応が強くなった。暴走し始めたか!
「なのはちゃん、もうすぐ神社だ。ジュエルシードは暴走を始めたみたいだ!」
「わかったの!」
辿り着いた神社で俺達を待っていたのは強大な四足の獣。
突き出た角、鋭利な牙、赤い四つの目。
かなり変容しているが、どうやら、ジュエルシードは野犬を取り込んだ様だ。
「なのはちゃん、今回は見学だ。戦いがどういったモノか良く見て置くんだ。ユーノ、結界魔法を!」
「分かったよ!」
ユーノが結界魔法を行使する。
ユーノから広がった境界が色鮮やかな世界を一瞬だけ暗系色に変えた。
「今のはなんの魔法なの?」
「今のは結界魔法さ。これでどんなに暴れても現実の世界に影響は無いよ」
「ふえー! そんな魔法もあるんだ!」
と、なのはとユーノの会話。
緊張感の無い事で、大変危険ではあるんだが。
「さて、と」
俺はジュエルシード暴走体と対峙する。
向こうも俺を獲物と認識し、すぐさま飛びかかってきた。
「まずは、受け止める!」
まるで自動車の衝突事故が起きたかの様な音が響く。
が・・・・・・。
「・・・・・・こんなものか」
正直、落胆する。
すぐさまに反撃、右拳を暴走体に叩き付ける。
「ギャワンッ!!??」
マスクドフォームのスペックは次の通り。
パンチ力、8トン。
キック力、10トン。
ジャンプ力、20メートル。
この力をまともに生物にぶつければ、肉は飛び散り、骨は砕ける。
これからのジュエルシードは何らかの生物を取り込んで暴走体になる。
むやみな殺生は好まないしするつもりも無い。
故に手加減をして戦わなければならない。
特に、ゼクトクナイガンは殺傷力が有り過ぎる。
「たぁ!」
「ギャルルウ!?」
今度はこちらから駆け寄って浴びせ蹴りを叩き込む。
これでも5割減で攻撃してると言うのに、相手は既に死に体だ。
「グルルァアアアッ!!」
暴走体が吼える。
決死の覚悟なのか持てる力を搾り出しての咆哮。
そしてそのまま、一気に駆け出し飛び掛ってくる。
「はっ!!」
襲い来る暴走体の右前足を掴み、体を捻る。
相手の突進力を殺さず、その勢いのまま暴走体を投げ飛ばす。
重低音と共に土ぼこりが舞い、視界が悪くなるが俺にははっきりと見えているので問題ない。
「すごい! ケンジさんって強いんだね!」
「うん! 賢志さんはすごい武術を習ってるんだよ!」
東堂活人流格闘術。
江戸終期から明治頃に確立した武術で、空手に柔術、合気道などを盛り込み、自分より大きい相手や武器を持った相手を無力化する事に長けた流派だ。
俺の祖父が師範をしており、かれこれ3年以上鍛えている。
「これで暴走体は無力化した」
土ぼこりが晴れ、痙攣して動かなくなっている暴走体が地面に少し埋まっていた。
「すごいよ、ケンジさん! 今だ、なのは。封印を!」
「封印っ!? えっと、えっと・・・・・・!」
やはり、緊張しているな。
「落ち着いて、なのはちゃん。意識を集中して、レイジングハートに呼びかけて!」
「分かったの!」
深呼吸して落ち着いたなのはが意を決した様に言葉を発する。
「レイジングハート!!」
【Sealig Mode. Stand by. ready. Set up】
「忌まわしき器、ジュエルシード。シリアルⅩⅥ、封印!」
【Sealig】
左手から放たれた光の帯が動けなくなった暴走体を捕え、包み封印する。
暴走体は苦しむように唸り声を上げるがそのまま光に消えた。
残ったのはその場に浮かぶジュエルシードと地面にうつ伏せに倒れている首輪をつけた子犬だけだ。
・・・・・・野犬じゃなくて飼い犬だったのか。
しかも、子犬。
アレだけの怪物に仕立て上げるジュエルシードの危険性を再確認だな。
「どう? こんな感じだけど」
兎にも角にもすぐさま駆け寄り、ジュエルシードを回収。
「うん、すごかったの! 特にあのドカーンって投げたの!」
その後、歩み寄ってきたなのはにジュエルシードを渡しながら感想を聞く。
ドカーン、って・・・・・・。
まあ、小学校低学年だし効果音で許されるよね。
だが、興奮気味ななのはに釘を刺しておかないと。
「これからどんな相手が出て来るか分からない。今回みたいに楽なら良いけど、そうはいかないだろうね。気を引き締めて確実に安全に回収して行こう」
「はい! 分かりました! なの」
なのははこの前のように封印したジュエルシードをレイジングハートに格納する。
これで今回は解決と見て良いな。
俺は変身を解き、ゼクターは異次元空間へ帰って行った。
で、だ。
近くで気絶していた女性とジュエルシードに取り込まれていた子犬を木陰に移させて、彼女らが目覚めるのを待つ。
さすがに放って置くことはできないから。
その間はユーノからなのはへの魔法講習となった。
今後はなのはも魔導師として戦力となって貰わなければならない。
まずは防御。
身を守る事の重要性を良く教える。攻撃するよりもまず身を守る事。
防御魔法であるプロテクションのバリエーションと用途。広域化や重複展開などの高等技術がある事を教える。
次に攻撃。
基本の砲撃魔法のディバインバスターとその応用。
牽制やフェイントなどの様々な汎用性が高い誘導制御射撃魔法であるアクセルシューターの実演など行った。
なのはは乾いたスポンジが水を吸い込むように魔法を覚えていった。
練習として複数のスフィアでお手玉みたいに操作するよう言ったら、最初こそ苦戦したがすぐにコツを掴んだ用ですでに8つのスフィアをそこそこに操作できるようになった。
末恐ろしい少女である。
「今回はこれにて一件落着かな?」
「そうだね♪」
目を覚ました女性を鳥居の影から見送りながらなのはへ言葉を投げかけると嬉しそうにそう返した。
日が暮れはじめ、夕日が海鳴市を染める頃になっている。
「じゃあ、戻ろうか?」
「うん!」
◇ ◇ ◇
「アリサちゃん」
「何? すずか」
なのはを送り出してから私はすずかを招いてお茶を飲んでいた。
途中、フェレットを預けた動物病院に寄ったけど、やっぱり立ち入り禁止だった。
「なのはちゃん、大丈夫かな?」
「信じる、って言ったのすずかでしょ?」
「そうだけど・・・・・・」
まあ、私も同意見ではあるんだけどね。
「寺島、居る?」
「此処に」
私は使用人の1人である寺島を呼んだ。
寺島は呼べばすぐ来る有能な人材ではあるんだけど、時間が早すぎるのよね。
今も間も置かず返事したじゃない。
寺島ってあれかしら? 忍者?
「今からあんたの部下総動員でこの街の監視を始めて」
「何故故?」
「この街で何か起きるわ」
「了解しました。直ちに任に就きます」
その言葉を最後に寺島はすっと姿を消した。
・・・・・・本当に忍者じゃないかしら? あいつ。
「アリサちゃん?」
「疑問は分かるわ。私だって何が起こるか分かってないもの」
すずかの疑問はもっともだし、私の言った事も本当だ。
だけど、今日のなのはの表情や態度を見ているとそう判断せざるえない。
「この街で何か起きる。だから、なのははあんなんだったんだし」
一拍置く。
「この街に何か起きるのであれば必ず動く人物が居る」
「・・・! そうか! “カブト”さん!」
そうだ。
必ずカブトが動く。
「“カブト”さんならきっとなのはちゃんを助けてくれますよね!」
「ええ、カブトはこの街のヒーローよ。動かないわけが無いわ」
この街を監視すれば、なのはの秘密を知ることができるかもしれない。
本当はこんな事したくは無いんだけど、親友の身に危険が及ぶかも知れないって時に手段なんて選んでらん無いわ。
それに・・・・・・。
「カブトの正体も分かるかも知れないし」
「ええっ!?」
私は決めたんだ。
もう1度、カブトに会って名前を聞くんだ。
助けてもらったお礼、しっかりしてやんなきゃ私の気がすまないわ!
「なのはの秘密とカブトの正体、両方暴いてやるんだから!!」
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