魔法少女リリカルなのは -Dark of Hero- 作:白狼天狗
次元と次元の狭間の空間に浮遊する小惑星。
それをくり抜いて建造された大型の要塞とも言うべき物。
時の庭園。
今、現在。俺達はフェイト達の拠点であるそれに招かれていた。
ジュエルシード回収に当たっての打ち合わせの為だ。
「ようこそ、我が家兼研究所に」
俺達を大広間で迎え入れてくれたのは魔法使いのローブの様な紫と紺のドレスを着た女性だった。
妖艶な雰囲気を感じさせながら強い母性も感じる、それに類なる美貌も持ち合わせている。
さらに、一時期はミッドチルダの有名なの研究機関に所属しており、今でも名を馳せる博士でもある。
正に、才色兼備を体現した女性だ。
「私がプレシア・テスタロッサです。皆さん、よろしくね」
プレシア・テスタロッサ。
大魔導師にして管理世界随一の科学者。
とても60近いとは思えない。
「ねぇ? そこの坊や。何か失礼な事考えなかったかしら?」
「いえ! 何でもありません!」
鋭い眼光で見据えられ思わず姿勢を正し、強張った口調で返事をしてしまった。
なんで俺の考えてる事が分かった!?
「ははは! 女は鋭い生き物なんだよ? 少年。特に、うちのお母さんはね」
そう言って、プレシアの背後から現れた金髪の女性。
上は淡いピンクのブラウスに下は灰色のタイトスカート、白衣を纏っている。
肩口で切り揃えられた金髪は眼を引き、造形も整っており、プレシアと良く似ている。眼鏡をかけたこの女性からも強い知性を感じ取らせる。
……誰だ?
「初めまして、皆さん。お母さんの助手をしているアリシア・テスタロッサです」
……。
「はぁっ!?」
思わず口から驚きの声が出てしまった。
どういうことだってばよ!?
「ん? どうかしたのかな、君。まるで幽霊でも見ている様な反応ですね?」
「え、いえ、何でもありません。さっきの事は、何か、そう何か勘違いしたみたいです。気に障りましたよね、申し訳ありませんでした」
俺はすぐに平静と取り繕い謝罪した。
「んー? そうですか。私は気にしませんから大丈夫ですよ?」
「そう言って頂けるならあり難いです」
なんとか、場を取り繋げたか。
だが、どういう事だ? アリシアが生存している?
見た目は20代前半に見えるが、あの事件から換算すると……。
「少年?」
「いえ、何でもありません」
アリシアに睨まれる俺。即座に誤魔化す。
ともかく、どういった軌跡を辿って現在に至るか分からない。
しかし、はっきりと言える事が1つ。これはもう原作知識は当てにならんね。
まあ、磨耗して大まかな流れや主要人物ぐらいしか覚えてい無いんだけどさ。
所は応接間に移り各自、自己紹介。
「僕はユーノ・スクライア。名前の通り、スクライアの人間です」
「高町 なのはです! ユーノくんの手伝いをしています。えっと、なりゆきだったけど、自分の意思で魔導師になりました!」
「今回の件の臨時で指揮を執っている、東堂 賢志です」
自己紹介が終わった所で誰かがカートにお茶を乗せて運んできた。
「お待たせしました。お茶をお持ちしました」
「ありがとう、リニス」
リニスと呼ばれた女性。
茶色とクリーム色を基調にした法衣の様なデザインの服を来た優しそうな女性だった。
彼女にも見覚えが無い。
雰囲気から察するにプレシアの使い魔だろうか。
お茶が配われ、現状確認と情報交換と相成った。
ジュエルシードの回収に関しては現状のまま。
サーチャーを飛ばしジュエルシードを捜索。発動を感知したら即座に鎮圧して封印。
そこまでは良い。
「問題は輸送船を襲撃した存在がいる、と言う事だな」
「ええ、そうね」
俺の言葉にプレシアが同意した。
「強奪目的だったのでしょうけど、目的のジュエルシードは管理外世界に散らばってしまった」
「今の所のその相手が動きを見せないのは単に何処に落ちたのか分からないのか。それとも……」
「後で纏めて横取りって魂胆、って感じなのかしら?」
プレシア、俺、アリシアの順で相手側の考察を行う。
「そう言えば、その襲撃者の映像があるんでしたよね?」
「ええ、映像は荒い上、小さかったのだけれども、引き伸ばしてけど辛うじて見れる状態になったわ」
ユーノの質問にプレシアが答え、すぐさまその映像が投射される。
時空間航行輸送船を単身で襲撃とは恐れいった。
そういう装置があるとは言え、それだけの度胸と力量があるという事だな。
そうして、映像を見ていると問題の襲撃者が映し出される。
黒いローブを纏いフードを被っている為に顔は分からない。
しかし、胸にあるエンブレムには見覚えがあった。
二等辺三角形を10個、一点を頂点にぐるりと並べた正十角形。
カラーリングは黒と赤を交互にした物。その形はまるで開いた傘を真上から見た形。
「アンブラルっ……!!!」
知らずと、喉の奥から吼える様に低い声で呟いていた。
「賢志さん、なんだか声が恐いよ……?」
「……すまない」
なのはに心配の声をかけて貰って初めて自分が怨叉の呟きを漏らしていた事に気づく。
「心当たりがある様ね」
「……ええ。このエンブレムはアンブラルの物です」
「アンブラル、これまた大きいのが出てきたわね」
俺とプレシアの会話。
アンブラル。
『遍く全ての世界を傘下に』を掲げる世界犯罪組織。
あらゆる非合法な方法を持って組織の力を上げる活動をしている集団だ。
いずれ来るであろう決起の時まで。
ロストロギアの強奪及び不正使用。魔導師の誘拐と洗脳。民間施設への破壊行動。
どれも頭にくるが、一番肝に据えかねたのが、人工魔導師製造実験。
───「名前で呼んで?」
───「レ……ア?」
───「うん」
───「レア」
───「うん、うん」
───「レア!」
段々と呼吸が浅くなって行く少女を、ただ抱きしめる事しかできなかった。
───「あなたに出会えて、わたしは、本当に、よかったよ……」
───「レア……? レアっ!?」
そして儚く散る、命。
───「レェェェェェェアァァァァァァっ!!!」
思わず彼女の死に際を思い出してしまった。
やつらが存在しなければ彼女らが生まれる事も無かったが、死ぬ事も無かったんだ……!!
「因縁浅からぬ、って感じね。ケンジ君」
アリシアから声をかけられる。
「ええ。あいつら、アンブラルの連中は叩き潰します。出てくるなら、この俺が……!!」
俺の怒気に飲まれたのか、一瞬で場の雰囲気が重くなった。
「やっぱりそれって、『賢者の石事件』に関係があるのかしら?」
「……お察しの通りです」
更に重くなる空気を、手を叩く音が切り払った。
アリシアだった。
「まあ、とりあえず。現状じゃあ、その場の状況で臨機応変意に対応、ってのが上策かしら?」
「そうね。それと輸送船の襲撃者がいつ来るとも分からないから、それに備えておく事が重要かしら。来るなら無力化して捕らえて、洗いざらい吐いて貰おうかしら」
アリシアが打ち合わせを纏めて、そこにプレシアが補足を入れた形で今回の打ち合わせは終わりとなった。
気が付けば、当事者のユーノを始めなのはやフェイトを置いてけぼりで話が進んでしまった。
「えっと、私はいつも通りでいいんだよね?」
「うん、大丈夫だよなのはちゃん。そうだ、なのはちゃんの魔法の指導をプレシアさんにお願いできませんかね?」
結界魔導師のユーノは攻撃魔法は苦手だし基本はサポート。
俺は出来損ないの魔導師もどき。
なら、大魔導師たるプレシアさんに支持を仰ぐほうがなのはちゃんには良い筈だ。
「残念だけれども、私は色々と忙しいのよ。今回の件はフェイトとアルフが実働を担当して貰うから、戦力的には問題ないでしょう?」
「そうですね、ただ、なのはちゃんにしっかりとした魔法訓練を受けさせてあげたいんです」
「分かったわ。その件に関してはリニスに任せるわ」
プレシアさんが言うには、リニスはフェイトの魔法指南役だったそうだ。
フェイトの実力を垣間見た俺が判断するならば、なのはちゃんの指導に適任だと思う。
「分かりました、プレシア。よろしくね、なのはちゃん」
「はい! よろしくお願いします!」
その後は持ち合わせた情報を照らし合わせて情報共有がなされた。
今までの情報はスクライアの部族長とこちらに向かっている今回の事件を担当する船、アースラに向けて報告される事になる。
これで、ジュエルシード回収が楽になるな。
アンブラル。奴等さえ出てこなければ。
◇ ◇ ◇
「ねえ、トウドウ君」
「何でしょう、プレシアさん」
リニスになのはと言う少女の指導を任せ、随伴の者はそれについていった。
フェイトとアルフも彼女らに付いていった。
同じ年頃の魔導師は初めてだったから、興味が沸いたのでしょう。
本来ならミッドチルダのスクールに通わせても良かったのだけれども、フェイトの生まれは自然では無かったのだから要らぬトラブルは避けたかった。
過保護なのかしらね?
まるで傷つかない様に宝石箱に大切にしまって置くみたいな育て方。
それは置いておいて、今は聞かなければならない事がある。
「貴方の持っているロストロギア、ダークカブトゼクターだったかしら?」
「ええ、そうですけど」
アルフから送られてきたパワードスーツを着たトウドウ君の姿。
その姿の一部分。
ベルトの部分に見覚えがあった。
忘れやしない、だって恩人の物だもの。
「それを扱えるのは貴方だけなのね?」
「ええ、そうですよ。ゼクターは主を選びます。資格ある者を」
30年近く前の話。同一人物とは到底思えないけど、何か理由がありそうね。
「管理局が黙ってないわよ?」
「ええ、こいつの危険性は重々承知です。特務民間魔導師の特権とアレンさんとマーカスさんに頼みます。それでもダメならダオスさんに頼みます」
「あらあら、随分とビッグネームが出てくるわね」
アレン・ヴァイシュオン一佐。
マーカス・バーンガーン少将。
ダオス・ケレンベルク大将。
3人とも管理局の英雄だ。ミッドチルダの人々に厚い信頼を寄せられている。
おいそれと接触すら出来ないはずなんのだけど、『賢者の石事件』の関係者なら納得のいく話。
アレン・ヴァイシュオン一佐は管理局執務官にしてエースオブエース。
空戦魔導師の中で彼に敵う者は居ないと言われる程。
マーカス・バーンガーン少将はアレン一佐の上司にしてテラナイトの艦長。
今でこそ艦長職で指揮に従事しているが、かつて陸戦魔導師では最強の座に君臨していた猛者だ。
ダオス・ケレンベルク大将は管理局穏健派のトップであり人格者、更にレアスキル『4属性変換資質(テトラエレメント)』の所持者。魔導師としても超一流。
炎熱、疾風、流水、大地の4属性魔法を使いこなす彼を打倒するのは凄腕の魔導師1000人を連れてこなければならない程と噂される実力。
全て『賢者の石事件』の主要人物ね。
『賢者の石事件』
4年ほど前に起きた管理局内での内乱事件。表向きには公表されていないが、全ては管理局を貶めるためアンブラルが仕組んだ事になっている。
もっとも全くの無関係では無く、真実では事件の首謀者である管理局中将、バーザム・リムとそれに連なる管理局員がアンブラルと結託して起こした事件なのだけれども。
何で知ってるかって?
管理局のセキュリティなんて私にとっては穴だらけなのよね。
「保険は必要じゃないかしら?」
「と、言いますと?」
「私も管理局に顔がきくのよ。私がそのダークカブトゼクターを調査し報告するから管理局には手出しをさせない、何て事もできない事じゃないわ」
管理局には色々と貸しが有るからこれぐらいの無理は通せるわ。
「……確かに。プレシアさんが責任者となって調査すれば管理局は出張って来ないでしょう。ですが、何故、貴方は俺にそこまでしてくれるんですか?」
彼の疑問はもっとも。
本来なら私がここまで協力する道理は無い。
けれど恩人である彼からの頼みだ。
───「また会う時が来ます。その時の俺は貴方達を知らないでしょう」
───「お礼はその時の俺にお願いします」
彼とトウドウ君が同一人物なら、とんでもない事が発覚する。
それは、時間跳躍。
管理世界の最先端を行くミッドチルダですら成し得ない超技術。
それこそ、失われた超魔法科学の都アルハザードの技術力でも可能かどうか怪しいシロモノ。
だからこそ、調べる必要が有る。ダークカブトゼクターを。
「それはね、トウドウ君。恩人からの頼みだからよ」
「恩人、ですか?」
「そう、娘と私を助けてくれた、恩人の頼み。それを無碍には出来ないでしょう?」
「そう、なんですか。分かりました。なら、頼らせて貰います」
これから先、きっとトウドウ君と関わっていく事になる。
これは、必要な事。
そう。……彼と再び出会う為に。
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