ストライクウィッチーズ
情報部通信課はいつもさながら嵐のような忙しさだった。
連日連夜のネウロイの襲撃。
情報をまとめ、送信する。それだけでも大変なことだ。
ラジオ波に載ってくる情報をタイプライターで書き起こしていく。いつもの作業だ。
アフリカ内部の、それも軍指令本部という人類の砦とでも言うべき存在がいるからこそ、我々は安全に情報を取捨選択することができる。
耳を澄ませ、ライターと格闘していると鼻孔をくすぐる甘美な匂いが漂ってきた。
紅茶だ。
こんな忙しい中でもブリタニアの野郎は紅茶だけは欠かせないとかぬかして冷めた紅茶を口にしている。もちろん、そんなのは支給品にあるわけないから自腹だ。よくもまぁそんなバカ高いものを飲もうという気になる。
俺は手元にある――泥水のような匂いも味もしない――リベリオンから支給されている珈琲をすする。不味さしか際立っていないが、この場ではそれこそが求められる。現に俺なんかここに詰めて20時間になる。睡魔との戦いだ。
それでも、前線で、それもネウロイと戦っている奴らよりもマシだ。
俺はぶっ倒れたらそれで、次の日にはお日様をみることができるが。前線で戦っている者は、ネウロイと対峙して負けたものはそれすらもできない。
恵まれている、それはわかる。
だが、こんな忙しい日に限って、奴らはやってくる。
あまり話したことはない同期がいきなり立ち上がった。
「ミンデロ基地より入電!
ネウロイの大飛行艦隊がアフリカへ進行速度大! 大型艦多数!
殲滅は不可能!」
その言葉で課長は速やかに司令部へと電話をかけている。
その言葉を聞いて、手が止まってしまった。
そこはアフリカにあって西太平洋の要。抜けられれば、などということは考えられていない。
後方にあるダカールに駐在するのは殆どが陸戦魔女しかいなかったはず!
飛行型ネウロイに対して陸戦型ストライカーユニットであれば如何に魔女といえども危うい。
一体、予報科は何をしていたんだ! と叱責したくなる心を抑えて自分の仕事に徹する。
最も、ネウロイの侵攻はある程度の周期性が認められるだけなので、完全に把握しきれていないというのが現状だ。それに、抜けてくる可能性が限りなく高い。
課長から通達があり、近隣住民及び周辺基地への勧告が始まった。
2時間弱が経過し、課内が騒がしくなった。
少し耳を傾けると、どうやらネウロイは滅せられたようだった。
しかしだ。
それならばここで大々的に言ってもいいことなのではないか?
未だに、俺の担当基地ですらまだ厳戒態勢をとっているし、ウィッチも出払っている。
まずは確認、そういうことなのだろう。
だが、いたずらにウィッチを飛ばしておく、ということには賛同しかねる。上の考えはどうかわからないが、彼女らは訓練を受けたとはいえ、ほとんどが10代であり、心身の負担というものがいつ何時噴出するかわからないのだ。それに、歩兵よりも出撃回数は多い。だけども、我々は彼女らに頼らなくてはいけない。
俺は基地通信士に現状の報告を促した。
返ってきたのは、既にネウロイは殲滅されていること。
それと、それを成したと思しき人物が男の魔女であるという報告。
◇◇◇◇◇
晴れていて、というのはこの大陸この場所では不適切であった。
雨がふることのほうが少ない。そしてカンカン照り。
額にうっすら浮かんだ汗を拭った。
水筒を口にし、内容物を口内に胃に流し込む。
それにしても熱い。
アフリカの地におりたってすでに3ヶ月が経過していた。
しかし、この熱さは半端ではない。
気力も精神も持つ、しかして肉体は悲鳴をあげていた。
しかし太ももの上に乗っている白猫は涼し気な表情で目をつむっている。実際にひんやりとして気持ちい。
だが、局所的なものだ。
ため息を一つついて運転を再開した。
ネウロイに蹂躙された街、そこに軍用であるジープが比較いい状態で残っていたのが幸いした。何台かのスクラップを合わせてなんとか移動の手段を得た。
ガソリンなんてものは補給できないと考えて片足分のストライカーユニットをエンジン部への補助として用いた。ガソリンなんかあっという間に消費してしまい、頼りになるのは魔力のみということだ。
今日も沿岸沿いを運転していると通信機が喚きだした。
俺達のいるところにネウロイがやってくるらしい。といってもそこらへんというだけであって正確な位置はわからない。
地図を広げ、通信機から得られる情報に沿って侵攻地域へと車を走らせた。
後部座席に置いてあるストライカーユニットを持ち出し、それを履く。
空を自由に飛び回れるほどの魔力は俺にはなかったけど、このストライカーユニットを履くことでの利点は大いに存在した。その一つが魔力増幅。
使い魔の魔力を増進し、視線上の大気のゆらぎを極力軽減することで更なる遠見を得た。
青いキャンパスに浮かぶ白い絵の具。
それらに小さな虫が湧くように見た目はゆっくりとこちらへやってきていた。
経験上、小型種の方が足が速い。
実際に見えるものも小型である。
弓を投影し、剣を番え、引く。
その動作を都合で100を超えた頃には大中型以上ののネウロイしか見られなかった。
さすがに大型。魔力を込めなければ一撃で破壊することはできない。
相手も黙ってはいないわけで、大型ともなれば射程距離も大きく異る。
俺と同等の長距離から兵器でレーザーを放ってくるから質が悪い。とは言え、超長距離故に俺ほどの精密ではない。
余裕を持って避けるが、その間にも敵機は依然として迫ってきている。
剣を番え放った。
それは一撃で大型のネウロイを屠ったが、別の個体からのレーザーが差し迫っていた。
瞬間、そのレーザーは進行方向を変えた。
あたりは冷気に包まれている。
俺は目の前の巨大な氷の結晶を見た。
「ありがとう、助かった、レン」
そういうと、ちりん、と軽やかな音がなった。
両手を手に出し、こちらを見ずにそっぽを向くと、存在が薄くなった。
耳、そして尻尾が生える感覚は何時までたってもなれない。
遠くに見えるのは更に大型のネウロイ。
魔剣を生成し、矢として錬成し、放つ。
じんわりと魔力が欠乏していく感覚を覚える。
そして、何度目かの俺が剣を放つ前に彼女らは現れた。
ウィッチーズ。
この世界では魔法が一般的にも浸透している。
そして、その超常を持つ彼女らは魔女と言われている。
その中でも最高峰。
アフリカの星と呼ばれている彼女が音速に迫る速度で直上を通りぬけ、こちらを覗いていた。
切れ長の目がこちらを一瞥し、ネウロイの方向へと顔を向けた。
番えていた魔剣を特に大型のネウロイに向けてはなった後、この場を後にした。
ウソ予告です
エイプリルフールネタです
20140402 改訂