初めて仕えた神様は   作:メイドさん大好き

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第四十五話

目が覚めると慣れ親しんだ天井が目に入る。

たったの数日だったとはいえ、久しぶりに感じるものだ。

ベルくんは、まだ寝ている。

ヘスティア様もまだ寝ている。

2人とも初めてのことが多かったからね、仕方ないね。

ヘスティア様のバイトの時間には早いし、ベルくんも今日はさすがに休みだ。

ヴェルフやリリルカとどこかに行くらしいのでそれまでには起こそう。

 

ということでヘスティア様とベルくんの間をすり抜けてベッドから這い出る。

そしていつも通りのご機嫌な朝食作りだ。

あとお弁当作り。

 

「どうしようかな…」

 

朝だし、色々あったあとだしであまり重いものはやめておいた方がいいだろう。

とはいえそろそろネタ切れである。

 

「よし」

 

漬物とご飯と、もう一つは野菜炒めにでもしようか。

いやぁ味濃いやつ食べたいな。

よし回鍋肉だ回鍋肉。

ご飯に合うから大丈夫だろ。

 

 

「おはよう…」

 

「おはよ」

 

「何作ってるの?」

 

「回鍋肉」

 

「ほいこーろー?うわ鍋でっか」

 

「中華鍋振り回すの楽しいよね」

 

「その楽しさは知らないかなぁ」

 

どうやら中華鍋は初見のようだ。

これまで使ってなかったっけ。

使ってなかったんだろうな。

正直言うと私もあんまりよく知らないんですけどね。

私は勢いで料理をしている。

 

「うおっ凄いね」

 

「でしょー。楽しいんだよこれ」

 

中華鍋といえばでよく見ることをしてみた。

中華鍋を振るアレである。

あんまり使ったことがなかったので少し不安だったが上手くいくものだ。

すごくたのしい。

鍋の中で踊る肉や野菜たちのなんとも鮮やかなことだ。

回鍋肉だから鮮やかさはあまりないだろって?知るかそんなもの。

こういうのは心の問題なんだよ。

 

「そろそろできるからヘスティア様起こしてきて。今日もバイトだから」

 

「はーい」

 

なんか寂しいので汁物も作った。

中華スープと回鍋肉とご飯とお漬物。

以上が朝食のメニューである。

夕食みたいなメニューだと思われるかもしれないがベルくんという育ち盛りな少年がいるのだ。

ご機嫌な朝食だろう。

夕食は何かって?カツ丼の予定である。

 

「おはよぉ…」

 

「おはようございます神様」

 

「おはよぉこざいますヘスティア様」

 

大皿にドカッと回鍋肉を盛り付けて。

ご飯と中華スープをお茶碗に、小皿にお漬物を盛りつける。

今日は菜の花のぬか漬けである。

ベルくんと一緒に料理の皿を机に持っていくもぽわぽわした雰囲気のヘスティア様が見える。

まだ夢の中なのだろう。

 

「んおっ!いい匂い」

 

「でしょうでしょう。食べて」

 

「食べよう」

 

いただきます、と手を合わせて箸を持って。

回鍋肉をご飯に乗っけて、一緒にいただく。

 

「おいしい」

 

「ご飯に合うね。おいしい」

 

「今日も絶品だねぇ」

 

朝に食べるものではない気はするが、ヘスティア様もベルくんも私も仕事で体を使う。

重かろうがなんだろうが食べられる時に食べておくものだ。

と言い訳を頭の中で連ねて私は大皿を突っつく。

ヘスティア様もベルくんも普通に食べてるから問題ないよね。

 

「ふぅ、美味しかった」

 

すぐに大皿の中の回鍋肉は消えた。

すごいね成長期。

すごいね神様。

すぐに食べきってしまった。

作り手としてはこんなに嬉しいことはない。

 

「「ご馳走様でした」」

 

「お粗末さまでした」

 

見事に空になった食器を片付ける。

そしていつも通りベルくんと皿洗いを始める。

 

「いってくるね」

 

「行ってらっしゃい」

 

「お弁当です」

 

「ありがと。ベル君はしっかり休むんだよ。いってきまーす!」

 

「行ってらっしゃい」

 

いつも通りヘスティア様を見送って。

次にベルくんが出かける時間まで二人で本拠を掃除して、洗濯して。

 

「ローズ」

 

「なぁに?」

 

「今日さ。リリとヴェルフと」

 

「知ってるよ?」

 

「いや、一緒に行けないかなって」

 

「んー、やめとく」

 

少し悩んだ後に断りを入れる。

今日は少し都合が悪いし、何かある気がする。

ベルくんのことだ。

何かやらかすか何かされるか……まあなるようになるだろう。

ベルくんには成長してもらわなければならないからね。

 

「3人で楽しんできてよ」

 

「…うん。分かったよ」

 

「ごめんね。今度は行くから」

 

ベルくんは素直だ。

分かりやすく落ち込むので少し心が痛む。

まあ今度美味しいところに連れていくから勘弁してくれ。

私は色々と知っているのだ。

ちなみに【豊饒の女主人】ではない。

 

「うん。絶対ね」

 

「うん。絶対」

 

そう、微笑んで返す。

確実にそんな機会はこれから何度もある。

何となくわかるがこれは外れないだろう、きっと。

 

「そろそろ時間じゃない?」

 

「んえ?あ、ホントだ!いってきます!」

 

「いってらっしゃい」

 

ベルくんが出口に走っていてパタンと音がする。

少し、ソファで黄昏れる。

 

「…」

 

自分の財布の中身はしっかりとある。

そして本日のご飯はカツであると私の中で決まっている。

となれば、だ。

少し暇つぶしをした後に外食をする、それで決まりだ。

 

ということで。

 

場面は変わってギルドに向かう。

柔らかな朝日に、疎らな人並みのメインストリートは精神が落ち着く。

肺にいっぱいの空気を吸い込むと、思い切り吐く。

生きている、という実感とともにギルド前に到着した。

 

大きな扉を開けると、慣れ親しんだギルドの内装が私を出迎えてくれる。

エイナさんの姿を探すとすぐに受付カウンターに見つけた。

 

「おはようございます。エイナさん」

 

ニッコリと笑ってエイナさんに挨拶をする。

 

「ローズちゃん。おはよう」

 

エイナさんも笑顔で応じてくれる。

朝日が窓から差し込むギルドの中、いつも通りのエイナさんだ。

 

「ベル君は今日休みだよね?ローズちゃんは何か用…」

 

「エイナさんに差し入れです」

 

カウンターにお弁当を置く。

可愛らしい布に包まれた、小さいお弁当。

前に聞いたエイナさんの好みのものを入れた、エイナさん用のものだ。

 

「いいの?」

 

エイナさんは目を見開いて私に聞く。

私は、それに笑顔で頷いた。

 

「はい。前に食べてみたいと仰ってたので」

 

「覚えててくれたんだ…。ありがとね」

 

エイナさんも笑顔になってくれた。

それを見ると私も思わず嬉しくなってしまう。

作ったかいがあるというものだ。

 

「もっちろん!エイナさんの好きなもの調査したんですから」

 

「嬉しいこと言ってくれるね。大切に食べるよ」

 

「はい!感想聞かせてくださいね!」

 

目的は達した。

エイナさんにお弁当を受け取ってもらい、ギルドを出る。

数分の滞在によって特になにか変わるわけもなく。

入る前とおなじような風景が目の前に広がった。

 

「さっきご飯食べたけど…」

 

腹が減った。

某孤独のグルメのように、上を向きながら今から食べるであろうご飯を空想する。

何を食べようか、今私はなんの気分なのか。

まだ分からないため、街を練り歩くとしよう。

ということで、ご飯を探そう。

 

「何食べようかな……」

 

本日作るのはカツ。

ロースかヒレか…なんとも想像が膨らむものだ。

ならば食べるのはカツか?

 

「どうせ夜食べるしな…」

 

久々の1人でのご飯である。

であれば何も気にする必要は無い。

たまの贅沢に良いものは、と考える。

普段は食べないもの、食べるとしても仕込みに時間がかかるもの。

 

と、ここまで考えれば答えは明確であった。

ベル君はリリやヴェルフと一緒にご飯に、ヘスティア様は今はバイト。

と考えていれば自然と足は路地裏にある店に向かう。

軒先にはメニューが書かれた黒板が置かれ、ガラス張りの戸の入口には暖簾がかかっている。

暖簾には【ラーメン】の文字が。

オラリオ唯一のラーメン屋、私が一人の時にしか来ない場所。

それが、この店である。

 

「…いらっしゃい」

 

戸を開くと無愛想な店主が厨房から限りなく機嫌が悪そうに出迎えてくれる。

店内は適度に汚く、適度に綺麗。

椅子で足を組み、新聞を読んでいる店主が掃除をしていると思うとなんとも、捗るものだ。

 

「なんだ、嬢ちゃんか」

 

「いつものをお願いします」

 

そう言って私はカウンターに座る。

ただの丸椅子だが、これくらいがちょうどいいのだ。

 

「あいよ」

 

店主が厨房に戻り、調理を始める。

慣れた手さばきに、油が弾ける音。

見ているだけでも楽しい時間である。

 

「はい。いつもの」

 

待っていて数十分、目の前に半チャーハンとラーメンが置かれる。

どちらも出来たてでなんとも良い香りである。

たまの贅沢なのだ、テンション爆あがりである。

 

「ありがとうございます!いただきまーす!」

 

ニッコニコである。

パラパラのチャーハン、いや焼飯か。

いつもと変わらない味わい、すごく美味しい。

たまにあるエビはプリプリ、米の1粒1粒に味が染みてやはりため息が出るほどにいい。

次は主役のラーメンだ。

 

「うっま…」

 

まずはスーブ…。

醤油ベースのスタンダードなものだ。

いやぁ、こういうものが良いのだ。

安心感が出てくる。

次に麺も、コシがしっかりある。

 

「幸せ…」

 

こうやってゆっくりと楽しめる。

家族と共にご飯を食べる時は賑やかに、交流を楽しんで。

一人の時は味を噛み締め、ゆっくりと。

楽しみ方がすごく違うのだ。

こういうのが人生を豊かにさせるのだ。

おそらく、多分、きっと。

 

「…ぷはー!ご馳走様でした!」

 

スープまで飲んで完食。

無口な店主に勘定を払って店を出る。

 

「食べた食べた…」

 

腹をさすりながら路地裏を歩いていく。

満腹になって多幸感に包まれながら廃教会に向けて足を動かす。

帰ったら家事だ。

洗濯に掃除に夕飯の仕込みに……。

やることは山ほどある。

終わらせたらお昼寝でもしよう。

 

そう思ってルンルン気分のまま、地下室への扉を開く。

すると、私は目を見開く。

いると思ってなかった人物が、そこにいた。

 

 




クーポン券

ただのクーポン券。
店で使うと割引ができる便利な券。
これがあれば日々をより便利に、賢く暮らせることだろう。
ただ流れに身を任せるようでは獣に同じ。
日々を頭を使って暮らしをより良いものにすることが人間である証だと、誰かが言っただろうか。
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