事前情報も準備も不足する中、エジョイへと派遣された自衛隊は地獄を見た。

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ハードモード

中央歴1639年、エジョイ市へと派遣された陸上自衛隊第11普通科連隊を出迎えたのは、地を埋め尽くす数百頭の機甲化地竜と、空を覆い尽くす数千頭のワイバーン・オーバーロードの群れだった。

 

 

中村宗一は、朦朧とする意識を無理やり覚醒させると、炎上する73式小型トラックの中からなんとか這い出した。持っていた装備品はほとんど何処かへ行ってしまったが、唯一9mm拳銃だけは、彼の手元に残っている。マガジンも2つ。最前線では全く意味がないように思えるが、部隊が散り散りになってしまった今では、それだけが唯一の頼りだった。

 

始まりはほんの数時間前である。その時、彼の所属する部隊はエジョイ前面に防御陣地を構築していた。

施設科が機関銃巣と地雷を設置するのを横目に、彼と彼の隊はぬかるんだ地面に壕を掘っている。

クワ・トイネ公国に派遣されてから、今日で1週間。未発達のインフラばかりの国内で、日本の支援でかろうじて完成した一本の未舗装道路をトラックで進むこと2日、第11普通科連隊はようやくこの要塞都市に到着した。第7師団の本隊に先んじて大急ぎで移動を開始したため多少の疲労が見えていた彼らも、エジョイで振舞われた食事を食べると元気を取り戻した。文明は遅れているのなぜこれほど美味い飯が作れるのか、やはり魔法が影響しているのだろうか。

そんなことを考えながら、彼は今日もスコップで壕を掘っていた。事前のブリーフィングでは、敵は少数の騎兵と中規模の歩兵部隊だという。

敵には砲兵も装甲兵力も存在しない。そう考えると、21世紀の先進国の軍隊が強固に構築した陣地に突撃させられる彼らが、少々哀れに思えてきた。

しかし、我々が彼らを殺さなければ、彼らは我々と、この街の市民を殺すだろう。戦時国際法などというものは存在しないのだ。殺すか殺されるか、それだけである。

 

...ふと、彼の耳に聞き慣れた、しかし聞こえるはずのない音が聞こえてきた。

高速の物体が空気抵抗を受けながら落下する風切り音。それは訓練で嫌という程聞いた、迫撃砲弾の落下音のようだった。

「迫撃砲だ!」そう誰かが叫ぶ。彼はとっさに、自分が掘っていた壕に飛び込んだ。直後、複数の爆発音が辺りに響く。生半可な数ではない。

相当大規模な砲撃を受けているようだった。十分程続いた猛砲撃の後、爆音が止んだ隙を見て壕の外を覗いた彼が見た光景は、想像を絶するものだった。

辺りには小口径砲弾の着弾痕が無数にでき、逃げ遅れた同僚達の死体が転がっている。血痕がそこかしこに飛び散り、動く者は彼以外にほとんどなにもなかった。全くの奇襲となった砲撃は、一瞬で中隊の全てを消し去ってしまったのだ。

この後何が起きるかわかっていた彼は、大急ぎで壕から飛び出し、エジョイにむけて走り出した。初めて経験する戦争の恐怖が、体を支配していた。

 

 

あの後、無我夢中で走りエジョイ市へと辿り着いた中村は、ちょうど出発しようとしていた73式小型トラックを見つけ、便乗して逃げ出すことに成功していた。車内で他の隊員から話を聞くに、郊外の駐屯地も猛砲撃を受け、連隊本管は吹き飛んだらしい。碌な事前情報も持たずにこの地へとやってきた自衛隊にとって、あの砲撃は完全な奇襲となった。本土の作戦司令部も大混乱だろうなと、彼はそう思った。

ふと気付くと、トラックは止まっていた。目的地に着いたのだろうかと外を見るが、変わらず平野のままである。どうしたことかと耳をすませると同時、凄まじい衝撃を受け、彼は意識を失った。


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