俺、山田太郎には幼馴染がいる。しかし、彼女は全然俺と目を合わせてくれない。
だから無理矢理顔面を掴んで目、合わせてみたwww(犯罪)

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今年の終わりになんか出したかった。急造品だからおかしい所あるかも。


幼馴染が目を合わせてくれないから顔面掴んで力技でお目目を合わせる強硬手段に出た。

 

 

 

 

 俺には、幼馴染がいる。

 そいつは俺ん家の隣の豪邸に住んでいて、小さい頃からよく近くの公園で遊んでいた。

 小中高ずっと一緒の学校、俺より五億倍頭はいいはずだが。そいつ曰くお家の影響で将来の安泰は確約されているらしい。殴りたくなった。何なのお前の家。

 そしてなんとそいつと俺は、不思議なことにずっと同じクラスなのだ。レボリューションってる。

 

 そいつ──いや彼女は、とても特徴的な人間だ。

 まず第一にちっちゃい。身長百二十センチちょい。俺の腰上辺りだ。

 まだ幼さが抜けきっていない顔立ちは、しかし異常なほど整っていて、毎日のように靴箱にはラブレターが数枚。

 これを本人は心底嫌がってるようで、毎朝顔を顰めたあと小さく舌打ち付きでゴミ箱に直行される。可哀想に。

 

 そして二つ目、輝くような金髪。

 全然地毛じゃない。バリバリに染めてやがるこいつ。

 最初に金髪になったのは小学校低学年。狂ってんのか。

 しかも一回も注意されているところを見たことがない。

 小学校時代俺が憧れて一回金髪にして登校したらゴリゴリに担任に絞られた。解せぬ。・・・・・・あ、でも彼女は褒めてくれた。そらもう大絶賛だった。よくわからんけどお礼と共に三十万円を裸で渡された。いやこええよ。

 

 最後三つ目、何故か俺と全く目を合わせてくれない。

 話していてもずっと視線が泳いでる。絶対に合わない。

 そのくせ俺以外の奴と話してる時はちゃんとアイコンタクトしているのだ。泣ける。いやまあ、彼女が俺意外と話してることなんて事務的内容の時ぐらいだな。後は基本無視してる。コミュ障め。

 

 俺の顔は至って平凡顔だ。おかしな所は無いはず。特別いい所もないけどなッ!ハハッ!!・・・・・・はぁ。

 しかし彼女が意識していない時、例えば、下校中に俺が前彼女が後ろで歩いている場合、全速力で振り返れば、首を犠牲に一瞬だけ目が合う瞬間が作れることがある。だがそれでも一瞬だ。

 彼女のおよそ人間を超越したとしか考えられない運動神経は、目が合ったと思ったら既にそっぽを向いている。

 

 ちなみに目が合った後の彼女は真っ赤。湯気すら出てる。それでも尚彼女の顔を凝視し続けていると、徐々に小刻みに震えだし、「あぅ、あぅ」と呻き始める。そしてしまいには、何故か三十万を裸で差し出してくるのだ。・・・・・・え?なんで?

 

 

 そんな頭のネジ捜索願中の彼女とミスター平凡顔こと俺は、高校二年に上がったわけだ。かれこれ十年を超える付き合い。

 それでも彼女は目を合わせない。

 ・・・・・・このままでは、いつまでも状況変わらなく無いか?

 そうだ。そうだ。変わらない。それはダメだ。アイコンタクトができないなど、幼なじみとしてあるまじき失態だ。

 

 ならば変えてみせようと、俺は固く決意を結ぶ。

 これから始まるのは戦。彼女と俺の、アイコンタクト戦争なのだ。

 

 

 

「・・・・・・ミユ」

 

 オレンジ色の夕暮れ時。登下校のバッグを片手に、俺は彼女──西条寺(さいじょうじ)ミユに向き直る。

 俺の真後ろ。鼻先が触れてるんじゃないかの距離。ミユの定位置だ。

 相変わらずキューティクルなお顔。百人に聞けば百人が可愛いと答え今のご時世SNSで可愛すぎるロリ校生と広まってお祭り騒ぎだわっしょいわっしょい。

 

「なにかな?太郎君」

 

 山田太郎、俺の名だ。

 名前まで平凡。百人に聞けば百人が平凡と答え今のご時世SNSで平凡すぎる男子高校生と特に話題にならずネットの海に埋もれていく。泣きそう。

 

 目から噴射した塩水を拭いながら相変わらずあらぬ方向を眺めるミユに、俺は一歩近ずく。

 

「ど、どうしたの?」

「何故、俺と目を合わせてくれないんだ?」

 

 秘技〈タントウチョクニューウ〉。もうなんか色々考えた結果めんどくさくなっちゃった時に繰り出される一撃だ!

 

「そんなこと、ないと思うな〜」

 

 ミユがじりじりと後ずさる。逃がすまいとにじり寄る俺。

 ・・・・・・あれ?これ傍から見たら小学生を襲う変質者じゃね?・・・・・・まあいいや!

 

「もしかして、俺の顔って、そんなに酷いのか?」

 

 奥義〈ジョウニ・ウッタエマス〉。そして胸に抱く一抹の不安!え、そこまで酷くないよね?俺の顔。

 

「そんなことないよ!!!!」

 

 うわあ、こうかはばつぐんだ!

 驚く程に過剰に反応してみせるミユは止まらない。

 

「太郎君は素晴らしい容姿をしてるんだよ?この世の価値があるって言われている物を全てかき集めても太郎君の前ではゴミクズ同然なの!」

 

 俺の前に立ちはだかりまくし立てるミユさん。

 そういう言葉には騙されないぞ!

 なんたって中学の頃、同じようなことを言われて調子づいた俺は、

「最近さ、自分のカッコよすぎる見た目に困ってるんだ」

 などと異次元な発言をクラス中に響かせたことがあった。そらもう大声で。そして巻き起こる爆笑爆笑大爆笑。思い出したら死にたくなってきた。

 

 ひとり気分を沈める。前に意識を向けると、未だいかに俺の容姿が優れているいるのか熱弁している。しかも宇宙やら銀河やらの単語を織り交ぜながら。

 真面目な顔で時折あいずちを混ぜながら、右から左へ聞き流す。

 

 ちっちゃい体でめいっぱい腕を広げたりして語る彼女をボケっと眺めていると、名案が一つ降りてきた。

 

 目を逸らしてくるなら、顔面手で抑えて無理やり合わせちゃえばよくね?

 名案(力技)。

 思い立ったら即行動。というのが別に信条な訳でもないが、面白そうなことは直ぐやりたいタチだ。ケーキのいちごから食べるタイプ。これをミユに言ったら可愛いねと三十万渡された(恐怖)。

 

「だから太郎君の存在は宇宙の成り立ちに関係していると言っても過言ではひゃあっ!」

 

 むにっ。

 

 柔らかいほっぺを挟む。

 

「にゃにゃにゃにゃにかな太郎君!?」

 

 フニフニと遊ぶのは存外楽しいものだ。

 ひとしきりほっぺをいじり終え、本題に移る。

 先程のようなソフトタッチではなく、がっしりと彼女の両頬をロックする。

 まだ優しく顔を上げるよう促し、

 

 目線が交差する。

 

 

 決戦の火蓋が、切って落とされた。

 

 真っ赤になった彼女が顔を下げる。

 しかし腕に力を入れて先手を打った。

 上、横、後ろ、あらゆる方向に頭を振るが、全て俺の両手に抑えられる。

 攻防の間も決して視線は逃がさない。

 みるみる内により赤くなる彼女は必死だ。

 声にならない声を撒き散らしている。

 

 ミユは次の手に打って出た。

 視線を全力で横にずらしたのだ。

 だがこの手は予想していた。

 俺は彼女の瞳を追って自分の顔を持ってくる。

 ミユがお目目を下に逸らす。

 下から覗き込んで目を合わせる。

 上に逸らす。

 身長差を利用して覆い被さるように上から視線を落とす。

 横に。

 サイドステップで体ごとその瞳の正面に。

 

 幾重のパターン、全てにおいて完璧な勝利を収める。

 

 片や顔面を抑えられ赤く震える見た目小学生。

 片や女子小学生の顔面を鷲掴みながら上下左右にステップを決める男子高校生。

 

 なに!?幼女に手を出すやつはぶん殴ってやる!

 山田は激怒した。必ずじゃちじゃっちじゃちの王を除かねばならぬとジャッチしたのだ。ジャッチメントですのだったのだ。

 

 後ほど自分の頬を力いっぱい殴る決意を山田が固めている間にも、頭から湯気を立ち昇らせるミユは、遂に最終手段、瞼を閉じるを決行した。

 目を閉じた彼女は息を切らしている。

 この状況。流石の俺も打つ手なし──

 

 と言うとでも?

 

 両の親指と人差し指を、瞼の前に置く。

 彼女の体が跳ねた。これからやることに気づいたらしい。

 しかし止めてやるものか。

 俺は、渾身の力を以(もっ)て、

 

「ふぬぁああああああああぁぁぁ!!!!」

 

 彼女の瞼をこじ開けた。

 

 顕になる双眸。

 これぞ力技の真骨頂。

 

「──ッ!?──ッ!────ぁっ──ぅぁ」

 

 ミユも遂に降参した。抑えている両手に体重がかかる。完全に体を預けてきた。

 瞳はとろんと溶け、口もだらしなく空いている。

 

「──ひゃっ。──んん。────んぁっ♡」

 

 ・・・・・・違う。何もしていない。俺は無実。彼女が勝手に変な声出してるだけ。

 ・・・・・・まあ、何はともあれ、目を合わせてくれない幼馴染代表西条寺ミユと長時間目を合わせることができた。素晴らしい成果だ。これから徐々に慣れていってほしい。

 それでこそ、普通の幼馴染というものだろう。

 

「ぁぁぁ♡見られるの、気持ちいぃ。お目目合わすの、気持ちいいよぅ♡」

 

 ・・・・・・あれ?

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 どうも皆さんごきげんよう。山田太郎です。

 昨日、私は目を合わせてくれない幼馴染と、無事目を合わせることができたのですが、実はもう一人、俺と露骨に視線を逸らす人がいるのです。

 

 俺は静かに足を止める。

 目の前のドアには図書室というプレート。

 スライドさせてドアを開ける。

 現在時刻は朝学活が始まる前。当然人の姿はなく電気も消された薄暗い大部屋。

 それでも俺は進む。

 

 

 陳列された本棚を幾つか超えた時、俺の背中が何かに押される。

 

「え、えへ。来てたんだね、山田君」

 

 俺の胸に腕が回される。

 しかし見ると袖から手が出ていない。

 それもそのはず、〝この人〟の制服は特注品で、何故か異様に袖が長く作られているのだ。

 背中に広がる柔らかい熱。

 その中でも特に主張している二つのクッション。

 

 いっぱいなおっぱい。いえあ。

 

「え、えへへ。暖かい。朝からこんな・・・・・・えへ、えへへ」

 

 そうですね、僕もいい日です。ドゥフww

 

 袖に包まれた腕に一層力が篭もる。

 それに合わせておっぱいもおっぱいする。

 

 ひとしきり感触を堪能した後、俺はやっと振り返る。

 先輩の腕を優しく解いて対面した。

 

 

 まず最初に目に入るのが、制服を押し上げるいかにも窮屈そうな二つのお山。

 そして垂れた袖。

 その次と言えば顔だろう。

 目前の少女は、一言で言えば〝陰〟だ。

 無造作に伸ばされた紫髪に、眠たげに垂れた双眸の下には深い隈、病的な程白い肌。

 どれをとっても、〝陰〟のオーラをこれでもかと垂れ流している。

 百人に聞けば百人が陰キャと思うけれどそれを口に出すのは人としてやってはいけないとしっかり自覚して静かに立ち去っていく。

 

「おはようございます、カクレ先輩」

 

 彼女こそ、俺と目を合わせてくれない人パート2、宗久院(そうきゅういん)カクレ先輩である。

 

「え、えへ。・・・・・・お、おはよぅ」

 

 視線を地面に固定したまま、まばたき過多でモニョモニョと喋る。

 

「カクレ先輩、ちょっと相談なんですが・・・・・・ふんぁッ!!」

「山田君!?」

 

 唐突に、それはそれは唐突に俺は自分の右頬を全力でぶん殴った。

 そういえば昨日自分の顔面を打つ覚悟を決めたのだった。危うく忘れるところだった。危ない危ない。

 

「すみません。私はこうせねば先輩と抱擁を交わせぬ立場でした・・・・・・さて、俺の顔は殴りました。次は先輩の番ですね」

「山田君!!??」

 

 拳を固めてにじり寄る。それぞれ一発ずつ殴らねば抱擁してはいけないとセリヌンティウスも言っていた。

 

「大丈夫です。一瞬で終わらせまふんぁッ!!」

「山田くぅぅぅん!!!???」

 

 そして俺は全力で自分の左頬にフックをかます。

 

「そういえば右頬を打たれれば左頬も差し出せという言葉を危うく忘れるところでした。危ない危ない」

「え、えぇ・・・・・・」

 

 まず紳士の俺が女性に手を上げる訳が無いだろう馬鹿め。

 

「で、でも私、山田君になら乱暴されても、い、いいよ。えへ、う、ううん、寧ろ・・・・・・」

 

 やだこの人殴られる気満々。そんな信頼の目向けてくることある?なんで自分が殴られるのか疑問を持った方がいいよ。

 本気で心配になってきた。

 

「・・・・・・疑うと言えば、先輩って俺が来る時いつもいますけど、俺が朝図書室に来るかどうか疑ったことってあります?」

 

 因みに俺は時々来ない。寝坊で。毎朝起こしてくれるミユが、たまに俺の顔を凝視し続けて学校に間に合わなくなることはちょいちょいある。鼻毛出たりしてたのかな恥ずかしいね。

 

「う、ううん。1回もないよ。えへ、や、山田君は毎朝来てくれるから」

「・・・・・・?でも俺偶に来ませんよ?」

「な、何を言ってるの?山田君は、い、一度も欠かさずに来てくれてるじゃない」

 

 えへへと笑うカクレ先輩。記憶の齟齬がヤヴァイ。

 

「あ、で、でも、時々携帯の日付がおかしくなることはあるね。えへ、なんか、山田君が来てないのに一日進んでるんだ。え、えへ、壊れちゃってるんだろうね。だ、だって山田君が来てくれないわけがないのにね。おかしいよね。えへ、えへへ」

 

 おかしいね。世にも奇妙だね。てかそれって俺が来るまでずっと図書室にいんの?もしかして来ない日って一夜明かしちゃってる感じ?ヤバ。

 

 これからは毎日来ようと思いました。

 

「ところでカクレ先輩、なんで俺と目を合わせてくれないんですか?」

 

 秘技・改〈トウトツニ・タントウチョクニューウ〉。

 

「え!?ぃ、ぃゃ、それはぁ・・・・・・」

「俺の顔ってそんなに酷いですか?」

 

 お決まりのコンボを決めていく。

 

「う、ううん!ぜ、全然これっぽっちそんなことないよ!山田君は素晴らしい容姿をしてるんだよ?この世の(以下同文」

 

 お前ら打ち合わせしてきたの?

 

「えい」

「宇宙のなりたひゃっ!」

 

 二回目なのでスムーズな出だし。

 顔を両手で挟み込む。

 

「え、あ、ああああの?ちょっと、やま、え?」

 

 面白いぐらいの同様っぷりだが、頬はガッチリ掴んだまま先輩の目をじっと見つめる。

 

「あ、そんな見つめられたら・・・・・・え?あれ、な、なにこれぇ。目ぇ、離せないぃ・・・・・・ん、あぁ・・・・・・きれい・・・・・・だ、だめ!ダメになっちゃうこれ、見つめられるの幸せすぎて・・・・・・今まで必死に我慢してきたのに、強引にされたら、逆らえなくなっちゃう♡・・・・・・だめ、ダメなのにぃ・・・・・・目ぇ、離せないよぉ♡♡」

 

 即落ちしたんだが。

 力を抜いてしなだれかかってくるカクレ先輩。

 崩れ落ちないように身体を支えると、自然と抱き締める形になってしまった。

 

「あ、あああああ!しゅごい!抱き締められながら見つめられるのしゅごい!逃げられない!捕まっちゃってる!山田君に全部支配されちゃってる!・・・・・・あぁ、なのにぃ、暖かくて、幸せでぇ、溶けちゃう!身体溶けちゃうよぉぉ♡・・・・・・山田くぅん♡山田君、山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君山田君♡♡♡♡」

 

 えぇ・・・・・・。どういう状況だろこれ。

 でもまあ、おっぱい当たってるしいいや。

 

 身体を頻りにビクつかせるカクレ先輩の蕩けきっただらしない顔を眺めながら、フニフニの感触を楽しんだ。

 

 

 ちなみにホームルームには遅刻した。そしてミユに死ぬほど心配された。

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

「・・・・・・いや、キミ馬鹿だろ」

「は?知ってるが?」

 

 お昼時。俺は数少ない、本当に数少ない友人と弁当を食べていた。

 俺の知り合いはなんと学園で三人しかいない。ミユとカクレ先輩と目の前のコイツ。逆にすごいと思う。

 

 改めて友人を見つめる。

 

 銀髪のボブカット。大きな碧眼はやれやれと呆れたように下がっている。

 そう、コイツは女だ。

 落ち着いた笑みから聡明さが感じられる。

 知り合い(少数精鋭)の中で、唯一俺から目を逸らさない存在だ。

 

 そして彼女を語る上で外せないのがやっぱりおっぺえだ。

 制服を押し上げるバストはカクレ先輩に勝るとも劣らない。

 カクレ先輩は胸よりも〝陰〟という印象の方が先に来るが、彼女は違う。最初におっぱいだ。そう、つまり彼女はおっぱいなのだ。

 これは最早おっぱいと会話していると言っても過言ではない。

 こんにちはおっぱい。今日もナイスなおっぱい日和だね。

 

 おっぱいの名は白貴頭(シロキガシラ)シロ。

 

「断りもなく女の子の顔を掴むとか犯罪だよ」

 

 シロは俺の後ろの席に座っているミユを見た。

 つられて俺もミユを見た。

 

「あっ、太郎君♡め、目ぇ、合っちゃてる♡♡」

 

 ほらもうこんなに目を合わせてくれるようになった。

 

「気持ちぃぃ♡」

 

 目尻が下がって情欲の色が宿るがまあいいんじゃね。

 無視しよう。

 

 前に視線を戻すとシロが溜息混じり背後のミユを眺めていた。

 

「あー、あー、あんなに盛っちゃって、まるで犬みたいだね」

 

 やけに棘の生えた言葉。トゲトゲ過ぎて危うくハリセンボンを吐き出したのかと勘違いしそうになった。これからは注意しなくては。

 

「あんまり勘違いさせちゃダメだよ?そういう女の子に触れるとかはボクだけにするように」

「いやお前目逸らさないじゃん」

「フフ、やっぱりキミは意地悪だ。まあそこもキミの美点なんだけどね・・・・・・・・・・・・そもそも、キミに美点じゃないトコロなんて、髪の毛一本ほども無いけどね」

 

 え?最後小声で喋ってたけど全然聞こえたよ?俺の聴覚侮りすぎじゃない?

 しかし、友人からの評価がこんなにもいいとは、漏れそう。

 

「ちょっと嬉ションしてくるわ」

 

 ただでさえ三人しか居ない友人にこんなことを言われちゃあ膀胱も諸手を挙げちまうってもんよ。

 

「うん、行ってらっしゃい」

 

 席を立って軽く手を振ってくるシロに振り返してから教室を出る。

 いやあしかし、良い()()を持ったなあ。

 

 

 

 

「・・・・・・ふふ、ボクも分かってるんだけどね、キミが愛しているのはこのボクただ一人だってことは。──だって、ボクたち()()だものね。でもダメだよ?あんまりコイツらに構ってあげるのは。勘違いさせちゃ可哀想だろう?雌犬達はすぐキミに尻尾振って来るんだから・・・・・・・・・・・・それに、ボクも嫉妬で狂いそうになっちゃうからね・・・・・・」

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 この国はある三つの超巨大財閥が牛耳っていると言っても過言ではないだろう。

 西条寺グループ。

 宗久院グループ。

 そして白貴頭グループだ。

 

 私西条寺ミユは西条寺グループの次期後継者。

 そんな私が何故こんな中の下の高校に通っているかと言えば、一重に彼の存在ゆえだ。

 

 山田太郎。太郎君。

 この世全ての美を凝縮しても彼の爪一欠片にも到底及ばないだろう。それ程の魅力を持ちながら、尚私を捨てないでいてくれる素晴らしい人。

 

 私と彼の出会いは20XX年6月12日9時34分54秒。

 幼少期から始まる西条寺家の洗脳にも似た教育に嫌気がさして、私は家を飛び出した。

 当時幼稚園にも通わず家で教育されていた私に行く宛などなく、短い足では遠くまでも行けず、ただ近くの公園のベンチに腰を下ろした。

 

「──どうしたの?」

 

 目の前に、太郎君が現れたのだ。

 

 ・・・・・・しかし、しかしあろうことかまだ未熟だった私は、彼の溢れ出る魅力にさえ気付けず、ただ平凡な顔つきだと感じてしまったのだ!!

 そして・・・・・・私の口は、

 

「・・・・・・喋りかけないで」

 

 と動いた。

 

 なんという事だなんという事だなんという事だなんという事だなんという事だなんという事だなんという事だなんという事だなんという事だ!今すぐ未熟な私を引きちぎり嬲り焼きねじ切り押し潰し可能な限り惨いやり方で醜い最期を迎えたい!

 しかし、そんなことをしても彼の役には立たない。

 それに彼はあの時、愚かな私の発言もその寛大な心で許してくれたのだ。

 

「え?あ、うん」※その時の山田太郎の発言

 

 思い出したら濡れてきた。

 

 その後も根気よく話しかけ続けてくれた太郎君に、若かれし頃の愚かな私もようやく彼に心を開いた。

 

 あの頃の私は愛に飢えていたんだと思う。親の目に写るのは私の利用価値。使用人たちが向けてくるのは、およそ子供とは思えぬ成熟しきった精神を持つ幼児への畏怖。

 私の真の心など誰も気にしてはくれなかった。

 そんな中、太郎君だけは、西条寺では無い唯のミユを見てくれた。

 それだけが本当に嬉しくて嬉しくて救われたのだ。

 喜びに比例して彼への愛情、感謝、崇拝心が止めどなく溢れ出す。

 

 この人は、神様なんだ。

 

 私は気づいた。太郎君こそが、全てを統べるべき唯一神なのだと。

 

 なら、全部・・・・・・全部捧げなきゃダメだよね。

 

 私の身体も、私の命も、私のお金も、私の地位も、私の全てを貢ぐ。それこそが私があのクソッタレの家系に産まれてきた意味。

 通う必要が無いと言われた小学校に、親を脅して入った。

 今まで表向きは従順だった私の豹変っぷりに心底驚いていたが、最早その顔に何も感じなかった。そんなことより、太郎君との学校生活に期待が膨らんで膨らんで仕方がなかったのだ。

 

 こんなに、幸せを貰ってしまった。

 

 だから、全然足りないけれどせめて、

 

 私が当主となった暁には、全部捧げますね・・・・・・太郎君(かみさま)

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 薄暗く、紙の匂いが漂う図書室。

 その一角で私は今日も彼を待つ。

 

 影と同化するように、無意識に息を殺して佇んでいる。

 

 私は宗久院カクレ。

 宗久院家の秘密兵器などと呼ばれている。

 

 宗久院家はその昔、日本一の暗殺家業を生業とする者達、所謂忍者の家系だった。

 しかし、歴史が流れるに連れ外部の血を取り込み過ぎて、やがては人間を超越した身体能力も、生涯を主に捧ぐ忠義心も枯れていった。

 そして新たに芽生えた野心。個々の人間の戦闘力は大幅に低下したものの、裏社会の絶対的権力は未だ磐石だったのを利用して、裏工作を重ねかつて絶対の忠誠を誓った家を喰らい、日本を牛耳る三大グループに数えられる迄に勢力を伸ばしてしまった。

 

 しかし大きな忠誠を捨てた反動か、宗久院家の野心はそこで収まるようなものではなかったらしい。

 名実ともに日本一へと輝く。

 闇に走る忍の姿など最早無く、ただ貪欲で醜悪な獣。それが現在の宗久院家の本質だ。

 

 さて、その家の秘密兵器と持て囃される私、宗久院カクレとは。

 見た目は完全な〝陰キャ〟。

 それもその筈だろう。私は生まれながらの影に生きるもの。

 超常の身体能力。人を殺めてさえ動じないであろう心構え。周囲を完全把握する観察眼にずば抜けた頭脳。

 身体ひとつで最終兵器と言わせ占める。

 私は、先祖返り。

 生粋の忍。

 

 

 ・・・・・・それはつまり、忠義心も只人では考えられない大きさで。

 仕えることを喜びとし。

 使われることを至上とし。

 捧げることを生き甲斐とし。

 主人と決めたお方に嬉嬉として生死与奪の権を明け渡す。

 

 俗世風にいえば、極まったドMと言って差し支えないものなのだ。

 

「え、えへへ・・・・・・ご、山田君(ご主人様)♡好き♡好き♡♡もっと支配して♡♡♡私が壊れるまで使い潰して♡♡♡ご、山田君(ご主人様)♡♡山田君(ご主人様)♡♡♡♡」

 

 そうだ。彼に宗久院家を捧げよう。

 

「え、えへへ・・・・・・よ、喜んでくれるかな?」

 

 宗久院家はもう根まで腐り果てている。このまま存続させるより、山田君(ご主人様)に捧げた方が余っ程有効的だ。

 

 そして、彼がこの国の王として君臨したら、私は彼の〝椅子〟か〝靴舐め機〟として働かせて貰うのだ。

 

 ・・・・・・あぁ、でも、〝ストレス発散用のサンドバック〟も捨て難いなぁ♡♡え、えへ、えへへへへ♡♡♡♡

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 白磁の髪が風に揺れる。

 教師が黒板をチョークで打つ中、ボクは隣の彼をただ見つめていた。

 ボクは白貴頭シロ。隣の山田太郎、たー君とは恋仲にある。

 幼い頃から共に育ち、同じ時を歩んできた。

 ボクたちが付き合い始めたのは数年前のクリスマス。

 場所はデートスポットと名高い高台。街の光が夜に浮かんでいて、たー君をよく引き立たせていたな。

 

 そこでたー君から、結婚を前提にお付き合いを申し込まれたのだ。

 

 ・・・・・・思い出したら火照ってきちゃった。

 だ、ダメだダメだよ。ボクはふしだらな女じゃないんだ。アイツらみたいに万年発情期だと思われたらたー君に失望されてしまう。それはダメだ。しっかりしなくては。

 

 

 ──高校を卒業して結婚できる年になれば直ぐに結婚式を挙げるんだ。

 スーツ姿のたー君。

 ・・・・・・思い描いたら火照ってきちゃった。

 だ、ダメっ!幾らたー君がかっこいいからって、愛想つかれては元も子もないじゃないか!

 ・・・・・・でもスーツ姿のたー君って凄くない?流石にコレは興奮するなって方が無理な気がするなぁ・・・・・・。

 

 ふふふ、実物が楽しみだなあ。

 親も認めてくれたし。

 

 まあ、認めさせたんだけど。

 ふふ、それにしてもあの時父さんも母さんも(アイツら)、やけに怯えてたっけ。

 心配しなくても、何もしないのに。

 たー君とボクの邪魔をしない限りは、ね。

 

 ふふふふふ──。

 

 

 (※因みに彼女が今しがた語った山田太郎とのエピソードは全て妄想である。勝手に思い描き、こうだったらいいのにと四六時中想いを巡らせ、何時しか本当にあったこととして認識してしまった。

 しかし実際は、彼女と山田太郎の出会いは本当に偶然。道を歩く山田太郎を、高級車の窓越しに目撃しただけなのだ。

 正確に語ると出会ってすらなかった。ただ遠目から見ただけ。しかしそれだけで、彼女は山田太郎の情報を洗いざらい調べさせ、在籍高校に転校、接していくうちに空想が勢いに乗って虚構の事実を捉えてしまった。

 

 まあ、なんというか、彼女はすっごい妄想ガールだったという話だ。

 

 納得いかないまとめ方だろうが、これで納得するしかない。ネジの外れた人間を理解するには、このくらい突飛な理論を弄する他にないのだった。)

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 山田太郎が去った教室。そこは今、異常な程に殺気立っていた。

 

「ねえ、いい加減太郎君に色目使うの辞めてくれる?迷惑なんだよね」

「あーあ、まったくたーくんったら、やっぱり勘違いさせちゃってるじゃないか。甘えさせすぎるのも問題だよ?」

 

 山田太郎が一種の枷として機能していたため、彼がいる場での戦闘はなかったが、一度彼が席を外せば別である。

 白貴頭シロ、西条寺ミユという、首輪の離された猛獣が牙を向いて睨み合う。

教室にいる生徒は必死に息を殺して体を震わせている。

 山田太郎以外をゴミとしてしか認識しない二人だ。もし彼女らの気に触れてしまったら、社会的に抹殺されること間違いなしだ。いや、もしかしたら物理的にも・・・・・・全然ある。この二人、なんも躊躇いもなくやりそう。

 

「太郎君の隣はあたしのなのに。邪魔なんだよね妄想女。太郎君が汚れちゃうからさっさと消えて」

「それはボクのセリフだよ。白貴頭家の権力でたーくんに羽虫が群れないようにしてもしつこくこびりついてきて。正直醜いよキミ」

 

 息をするのも苦しいぐらい空気が張り詰めている。

 その原因である二人に背を向けて、教室の生徒たちが心の中で絶叫した。

 

 ──山田ぁあああああ!!!!!早く帰ってきてぇえええええええええええ!!!!!!!!

 

 

 

 

 因みにその頃の山田太郎はと言うと、

 

「ご、ごしゅ──山田君。こんなところで会うなんて奇遇だね。本当に奇遇だ。べ、別に、尾行とかは、してない、よ?え、えへへ」

「おお、カクレ先輩。こんにちは・・・・・・えい」

「ひゃう!?ちょ、きゅ、急に顔を掴んで──」

「ちゃんと目合わせてください」

「あ、ぁぁぁ♡♡そんな、らんぼうに♡♡♡♡あぅぁああ♡♡ご、ごめんなしゃぃ、ご主人さまぁぁ♡♡♡♡」

「・・・・・・ちょっと待っておしっこ漏れそう」

「私が♡私がご主人様専用トイレになりますぅ♡♡♡♡」

「・・・・・・・・・・・・ゑ?」

 

 これが、現在進行形で日本三大財閥全ての権力が集結しようとしている男の姿である。

 日本はもう終わりかもしれない。

 

 完ッッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 




今年はハーメルン進出の年です。
あるヤンデレ作品で日間一位も取れました。
今も楽しく書けているのは全て読者様方のおかげです!
2020年、本当にありがとうございました!
来年もよろしくお願いいたします!


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