景色が変わると広い部屋だった。
どことなく見覚えがあるのだが、ここは何ターヌ研究所だろうか?
ご丁寧に長机が長方形を描くように並べられており、椅子も結構な量でセッティングされている。
ザ・会議室って感じだな。
で、こんな部屋に直接飛ばされたということは、今回はこの部屋で何かがあるのだろう。
「いやー、まさかソニアさんまで来るなんて、思いもしませんでしたよ」
「わたしも来ることになるなんて思ってもなかったよ。というか、ここにコマチちゃんがいることの方が驚きだからね?」
「まあ、ここはコマチたちの拠点みたいになってますからねー」
おっと、この声はマイシスター、コマチの声ではないか?
で、もう一人はソニアだと?
何故に?
「ささ、この部屋ですよー。一番乗りですから、他の人が来るまでゆっくりしてて下さいな」
「案内ありがとー」
部屋の前でコマチは去って行ったようで、ソニアだけが部屋の中に入ってきた。
「ふー…………何でわたしが来なきゃいけないんだよぅ………めっちゃ緊張するじゃん」
リュックをテーブルの上に置いて愚痴を言い始める。
「プラターヌ博士に挨拶へ行こうにも今回のホストだからって忙しいみたいだし…………」
どうやら変態博士に挨拶すら出来ていないらしい。
一体何してるんだか。
「ああ………これからオーキド博士たちも来るんだと思うと手が震え出してきた………」
あ、オーキドのじーさんたちも来るのか。
ということは例の会議ってことか?
ソニアが来てるってことは、ムーンも難なく来るんだろうな。
「ダンデを前にするのと今と、どっちが緊張するんだ?」
「うーん、今……かなぁ…………」
何気なく疑問をぶつけてみると、何の迷いもなく答えが返ってきた。
「うぇ!? は、ハチくん?! 痛ッ!?」
が、遅れて違和感を覚えたのか、俺を認識するとびくんと肩が跳ねて、ゴドンッ! とすごく痛そうな音が部屋に充満する。
「おいおい、大丈夫か? 今すごい音したぞ」
「だ、大丈夫じゃない………スネ打った………」
どうやらテーブルの脚にスネを打ったようで、すげぇ摩ってる。
「驚き過ぎだろ」
「いや、だって………わたしが一番乗りだって言われたら、誰もいないと思うじゃん」
「まあ、俺が今ここにいるのは誰も知らないからな」
コマチもまさか俺が部屋にいるなんて思いもしなかっただろうな。
だから部屋の中を確認もせず、ソニアだけを残して行ってしまったのだろう。
「ダメじゃん?! 不法侵入!?」
「俺は悪くない。セレビィが悪い」
心外だ。
俺が意図してセレビィに命令したみたいに言うが、俺だって毎回行き先は知らないんだから、不法侵入になったって俺は悪くない。
それに多分、この研究所は大丈夫だと思う。
部外者ってことにはならないし。
「ソニアさん、大丈夫ですか!? 今、すごい音しましたけど! 何かありました!?」
するとさっきの音で踵を返して来たであろうコマチが、慌てて部屋の中に入ってきた。
「だ、大丈夫………痛みは引いてきたから………」
未だにスネを摩りながら、大丈夫アピールをするソニア。
どうにもまだ俺の存在には気付いてないらしい。
お兄ちゃん、悲しいな。
「なら、いいですけど、何があったんです?」
「あれ」
ソニアがこちらに指差してくる。
「どうもあれです」
「うっわ、何かいるし。何でいるのさ。不法侵入?」
酷くない?
実の兄の一時帰還だってのにこの反応。
何ならドン引きされてるまである。
「ソニアと同じこと聞くなよ。セレビィに連れて来られたのがこの部屋で、取り敢えず部屋の様子を伺ってたらお前とソニアが来て、ソニアが全く俺に気付かずに独り言を言い始めたから、それに自然と加わってみたんだよ。そしたら異様に驚いて机の角にスネ打って、すごい音がしたってだけ」
取り敢えず、事のあらましを説明しておく。
「つまり、お兄ちゃんが悪いと」
……………それを言っちゃお終いよ。
「まあ、驚かせた俺が悪いんだろうけどさ。もう少しオブラートに包んでくれてもよくない?」
「だって、ただでさえ影の薄いお兄ちゃんが気配を消して、しれっと会話に加わってくるとか、ホラーでしかないからね?」
「それはこの目を揶揄してるだろ」
「うーん、それもだけど存在そのもの?」
「兄に対する発言じゃねぇ………」
存在ごとホラー扱いされてるんだけど、実の妹に。
まあ、でも。
帰って来た感はあるな。
このくだらないやりとりとか、平和だなーと思う。
「やっぱり兄妹なんだ………」
「えっ? なに? 今更? というか言ってなかったっけ?」
「ハチくんからは聞いてないよ! コマチちゃんから聞いて半信半疑だったの!」
あっれー?
ソニアには言ってなかったっけか?
カブさんとピオニーのおっさんは実際に立ち会ってるし、シャクヤとサイトウもコマチの兄だと認識してるっぽいけど、俺とコマチが兄妹だって知ってるガラル組はそれだけだっけ?
取り敢えず、ダンデだけには伝えてないのは確かではあるが。
アレに明かすのは最後にしたいからな。
「んで、お兄ちゃんは今日が何の日か分かってるの?」
「ソニアが来てて、その内オーキドのじーさんも来るらしいから、ここでポケモン研究の博士たちが集まって会議するんだろ?」
恐らくは二回目の会合だろう。
まあ、これに関しては俺がイロハに頼んでおいたことでもあるし、ムーンにも無理矢理にでも着いて来いって言ってあったから、しっかりとフラグが立ってたのだろうと思われる。
「………お兄ちゃん、そういうところの察しだけはいいんだから。なら、ここに集まって来るだろうから、博士たちの相手しておいてね」
「えー」
「返事は?」
「へい」
「よろしい。んじゃ、コマチはあっちの手伝いをしてくるから、こっちはよろしくねー」
そう言ってコマチはどこかへと行ってしまった。
うーん、相変わらず兄の扱いが雑である。
まあ、このままソニアを一人にしておいても、ガッチガチに緊張して、いざオーキドのじーさんとかが来た際には、震えて歯がカタカタ言い出しそうだもんな。
来るであろう今回の面子と面識がある俺が相手した方が、博士たちも暇つぶしにはなるだろう。
「………ねぇ、まだセレビィとの旅行中なの?」
「それはセレビィのことを理解しての発言でいいんだよな?」
「うん、時渡……だよね?」
「そうだな。今も時渡の最中だぞ。何ならついさっき、ローズ委員長を鎧島に置いて来たところだ」
「えっ?! 今のハチくんってあの直後ってこと!?」
「そう。多分、ソニアからすれば久しぶりの再会かもしれないが、俺としてはものの数分前まで会話していた相手なんだわ」
あれからどれだけ経ったのかは分からないが、ついさっきまで会話していた奴が、次に会ったら時間差が出来てるってのは、未だに慣れないものだわ。
「変な感覚にならない?」
「違和感はすごいな」
きっとこの違和感に慣れることはないだろう。
何なら慣れたら何かが終わりそうなまである。
「ていうかさ。オーキド博士と知り合いなの?」
「あー、まあ?」
「まあって。どっちなのさ」
「知り合いというか、腐れ縁?」
「いや、あのオーキド博士と腐れ縁って、何がどうなったらそうなるのよ」
「まあ、色々あったんだよ」
オーキドのじーさんとの関係なんて何なんだろうな。
爺と孫ってわけでもじーさんの研究を手伝ってるわけでもない。
単に実孫と声が似ていて、何やかんや気にかけてもらってるってだけだしな。
「失礼しまーす」
「ハチマン、来たぞー」
すると早速客人が現れた。
「二番手はククイ博士だったか。ムーンも無事潜り込めたみたいだな」
「言い方。普通にククイ博士にお願いして連れて来てもらっただけですー」
ソニアの次は半裸博士ーーもといククイ博士とムーンだった。
「怒んな怒んな」
プリプリと怒るムーンの頭を撫でてやると「えへへへへ」とニヤついてるいる。
普通に頭を差し出してくる辺り、慣れたもんだな。
「えっと………」
あー、ソニアが初対面の二人にどう接すればいいか困ってるわ。
こいつ、案外人見知りなのかもしれない。
まあ、俺はその上を行くけどな!
「アローラ地方の常時半裸姿のククイ博士な。それと図鑑所有者で研究者でもあるムーン。ククイ博士、こいつはソニア。ガラルのマグノリア博士の孫っす」
「ちゃんと博士になったから! おばあさまの研究も引き継ぎ中ではあるけど、これを機に主で切り盛りしろって言われてるんだからね!」
「あ、マジで? そりゃおめっとさん」
こいつ、いつの間に博士になったんだよ。
初耳なんだけど。
いや、まああの後だろうから聞く機会なんてなかったんだけどな。
「かっる………。もう少し褒めてよぅ………ガラルの英雄についての本まで出して、頑張ったんだからさー」
「お前、本まで書いたのかよ」
よくやるわー。
「あ、それって『ガラルの歴史』ってやつですか!?」
「そう、それ!」
そして、その読者ここにいるという。
世間って狭いなー。
「わたし読みました! かつてのガラル地方に存在した英雄が実は一人と二体のポケモンだったって。すごい発見ですよね!」
「そうなのよ。しかもその二体のポケモン、何故かハチくんのことを拉致して二週間も遊んでたらしいんだよ」
「ハチマン、お前………」
ククイ博士がまたかって顔で俺を見てくる。
心外だな。
「いや、俺は拉致された側だからね? 抵抗する暇もなく安全バーのないジェットコースターに乗ってる感じで連れてかれたんだからな? マジで怖かった」
「まあ、ヒキガヤさんですもんね」
「酷ぇ………」
俺だからで片付けるなよ。
こっちは一応被害者だからな?
「あれ? バーネット博士は?」
そこでふといない人を思い出した。
「イッシュ地方からも知り合いの博士を呼んだから、エントランスで待ってるって。ナリヤ博士もオーキド博士を待ってるってんで、オレとムーンが先に来たわけだ」
「そっすか」
なんか前回そんなこと言ってたような気がしなくもない。
ナリヤ博士もオーキドのじーさんは身内だから、それを待ってるってのも理解出来るし。
「あ、ヒキガヤさん。一応、月刊オーカルチャーに載ってるっていう変わったポケモンたちのことは調べてまとめて来ましたよ。と言っても読解した程度でしかないのと、似てそうなポケモンをまとめただけですけど」
「お、マジで?」
ダメ元で頼んでみたのに、ちゃんとまとめてくるとは。
「よくやった。ご褒美は何が欲しい?」
「んー、貸し一つってことで」
「え、こわ………それ一番ヤバいのやらされそうじゃん」
貸し一つとか一番俺にダメージが来そうな時に使われそうで凄く怖いんだけど。
何やらされるんだよ、未来の俺。
「いやー、だってまだセレビィと旅行中ですよね?」
「まあ、そうなんだけどさ。何で分かるんだよ」
「グラジオがホウエン地方のバトルフロンティアのオーナーのエニシダから話を聞いたみたいで、エニシダさんの予想としてはヒキガヤさんは新しいバトルフロンティアが完成した頃に帰ってくるだろうって言ってました。だからまだそのバトルフロンティアは完成してないので、まだ旅行中かなと」
「ってことはエーテル財団もスポンサーに加わったってことか」
なるほど、エニシダさんの予想の受け売りか。
それなら納得だわ。
エニシダさんも上手くエーテル財団を巻き込んだようだし、これでグラジオたちにも特別枠を使えるようになる。
「はい。資金援助の見返りが大きすぎるパイプばかりで金額に釣り合ってないんじゃないかって、グラジオが震えてましたよ」
「かわいそうに」
震えた両手を見ながらワナワナとしているグラジオが目に浮かぶようだ。
「原因はお前だろうに」
「俺はただエニシダさんに声をかけてみては? って提案しただけっすよ」
「やってんな………」
ククイ博士には呆れられてしまったが、どうしても金はかかるだろうからな。資金確保は多いに越したことはないし、それが俺の知ってるところなら尚良し。
「その大きすぎるパイプの御曹司も来たけど、お取り込み中かい?」
「自分でいいます?」
すると廊下で聞いていたのか、お高いスーツを纏ったデボンコーポレーションの御曹司が現れた。
「いやー、面白そうな話をしていたもんでね。あ、ホウエン組も到着したよ。まあ、ぼくとオダマキ博士だけなんだけど」
ダイゴさんの後ろで、オダマキ博士が汗を拭っている。
ちょっと歩いただけで暑くなってしまったのだろうか。
ホウエン地方に比べるとカロス地方は寒いくらいだと思うんだがな。
それにしてもあのバカップルは来てないのか。
「あのバカップルがいないだけで平和ですよ」
「いやー、ルビー君のおかげでサファイアも女の子らしい格好をしてくれるようになったから、すごく感謝してるんだよねー」
「えっ、ボーイッシュな格好してたんすか?」
「ううん、もっと野生児な感じ。ジャングルでサバイバルしてる姿って言った方がいいかな」
…………………。
「それ、服着てなくね?」
「そうなんだよ。だからそれを思うとすごーく成長したなーと」
「切実ですね」
「本当にね」
いや、オシャレに興味がなかったとか以前の問題過ぎるだろ。
なに? 葉っぱが服だった的な?
服装だけゲンシカイキし過ぎだろ。
「あ、そうそう。二人とも、こいつはソニア。ガラル地方の新人博士っすわ」
「ど、どうもソニアでしゅ!」
どうせこの二人にも自分から声をかけられなさそうだから、俺がソニアを紹介してやったら、今度は噛みやがった。
「………噛むなよ」
「だってぇ………」
いやまあ、気持ちは分かる。
急に話振られて驚いたんだよな。
悪かったよ。
もう少しその辺も配慮してやるよ。
「まあまあ。改めて、ぼくはダイゴ。ホウエン地方の元チャンピオンで、今は家業の手伝いをしているしがない石マニアだよ」
「は、はい! ホウエン地方に留学してたので、お話は伺ってます! 今日はよろしくお願いします!」
流石は御曹司。
社交が上手い。
ソニアも緊張してはいるようだが、今度は何とか自分の口から挨拶出来てるわ。
「あ、ホウエンに留学してたんだ。よろしくね」
そして、自然と手を差し出して握手を求める。
スマートだな。
流石はイケメン御曹司。
「オダマキだよ。机に向かっての研究より、フィールドワークの方が向いていてね。それでポケモンの分布をまとめるようになって、って感じの研究者だから、気軽に接してね」
「は、はい! よろしくお願いします!」
こっちもTシャツ短パンの上から白衣を着ているようなラフな格好していて、かつフランクな挨拶なため、ソニアも自然と手を出していた。
最初の方にこの二人が来てくれたのは、ソニアにとっては良かったのかもしれないな。
「というかハチマン君、本当に生きてたんだね」
「まあ、死にかけましたけどね?」
オダマキ博士が感心したように俺を上から下まで何度も見返してくる。
「オレもハチマンを拾った時は焦りましたよ。血中酸素濃度が異様に下がってて、生死を彷徨うところに立ち会うとか、勘弁してくれって思いましたね」
「そりゃ悪うございました」
拾ってくれた人にそう言われてしまっては、返す言葉もない。
あの時は本当に別の意味で死にかけだったし。
刺された部分の傷は塞がってなくても、まさか失血多量でウツロイドから解放されてすぐに生死を彷徨うことになるとか、誰が想像したよ。
「事の経緯はプラターヌ博士から聞いていたけど、暗殺未遂を利用して、本当に死んだことにするなんて、君もとうとうおかしくなったのかと思ったよ。それくらいインパクトがすごかったね」
とうとうってどういうことですかね、オダマキ。
頭のおかしい予兆はあったとでも言いたいのだろうか。
「ですよね。別れたばかりの君が殺された、なんて動画がネットに上がってた時には、すごい焦ったよ」
「いやもうほんとご迷惑おかけしました」
それは俺もダイゴさんの立場だったら、寝覚が悪いわ。
最悪何かに理由を付けて着いていけば良かったとか考えるだろう。
「悪いのは犯人たちなんだから、君が謝る必要はないよ。その犯人も君が捕まえたんでしょ?」
「ギラティナに食われましたけどね」
「らしいね」
この人はどこまで知ってるんだか。
「おばけ、じゃないわよね?」
すると扉の隙間から恐る恐る顔を覗かせる金髪が。
「シロナ、彼の脚は地についている。本物だよ」
その後ろからは落ち着いた良い声が聞こえてくる。
「やあ、シロナさん。ナナカマド博士もお久しぶりです」
「うむ、久しぶりだな、ダイゴ君」
一瞬、シロナさんを見つけたダイゴさんの顔が、悪い顔になっていたように見えたのは俺だけだろうか。
「ナナカマド博士、こんにちは」
パァッと満面の笑みを浮かべて、ムーンがトテトテと俺のところからナナカマド博士のところへと挨拶しに離れた。
「おお、ムーン。来ていたか」
「はい! ククイ博士にお願いして連れて来てもらいました」
「済まないね」
「いえ、お気になさらず。元はと言えばハチマンが誘ったみたいなので」
おい、俺に話を振るな。
ナナカマド博士にジロッと見られると肩がすくむだろうが。
特に俺の影に隠れてやり過ごそうとしている新米博士のソニアちゃんが、ライフゼロになりかけてるからな?
「生きているようで何より」
「うす、ご心配おかけしました」
流石にナナカマド博士にこう言われてしまっては、頭を下げておくしかない。
これがオーキドのじーさんだったら、軽口の一つでも言えるんだけどな。
ナナカマド博士相手に、それは流石に躊躇われた。
「あのハチマン君が謝ってる?! ねぇ、やっぱり幽霊なんじゃ………」
「何でだよ。プラターヌ博士から説明受けてるんでしょうに」
「だってぇ………」
シロナさんって、そんなに幽霊ってダメなんだったっけ?
そうなるとゴーストタイプのポケモンとかも実は苦手?
「プラターヌ博士やククイ博士から色々と情報は上がってきていたよ。ダークライやギラティナ、それにウルトラビーストであるウツロイドによって何とか生きながらえたと」
やっぱりこの人にも情報を共有してるよな。
プラターヌ博士経由じゃなくてもムーン繋がりでククイ博士ってルートもあるからな。もしかするとオーキドのじーさんに伝わるよりも早いのかもしれない。
「概ねそんな感じですね。どうにもポケモンたちが俺を死なせないようにしている節がありまして………」
「それだけポケモンたちにとっても君は重要人物だということだろう。オーキド博士は君を図鑑所有者になれなかった者と表現していたが、図鑑所有者よりも稀有な存在なのかもしれないな」
「………そうは言われましても、もう表舞台に戻る気はないし、戻れないようにしましたからね」
稀有な存在とか言われたところで、表舞台に戻れない以上、その価値は意味をなさないと思うんだわ。
「その割にはムーンを可愛がってくれているそうじゃないか」
「何となく放っておけないだけですよ。それとこの年でのこの理解度ですから、今後が楽しみでしてね」
「そうか、君にそう言ってもらえると私としても嬉しい限りだよ。これでも孫みたいなものでね。心配ではあったのだよ」
「まあ、大きすぎる存在が身近にいると無駄に重圧を感じて本領を発揮出来ない奴もいますからね。ムーンもククイ博士のところに預けたからこそ、距離が出来て花開いたんだと思いますよ」
「あ、あの………本人のいる前でそういうの、恥ずかしい……です」
俺とナナカマド博士に挟まれて、ムーンが顔を赤らませている。
「ああ、済まないね」
うん、ポンポンとムーンの頭を撫でるナナカマド博士は、確かに祖父って感じがあるわ。
「………なあ、大丈夫か?」
「大丈夫じゃない…………」
ナナカマド博士が登場してからというもの、ソニアが緊張しっぱなしで、めちゃくちゃ震えてるのが伝わってくる。
「…………ナナカマド博士に挨拶しとくか?」
「無理…………」
声まで震えてるもんな。
「あー、ナナカマド博士。俺の後ろにいるのがガラル地方の新米博士、ソニアなんすけど、今めちゃくちゃ緊張してるんでまた後でってことで」
「ガラルというとマグノリア博士の?」
「そうそう。その孫です。一人で来たみたいで、知り合いが俺しかいなくて、盾にされてます」
「一人で来たのか。それは心細かろう。遠慮なくハチマン君に頼るといい」
ナナカマド博士のお許しももらえたことだし、いい加減落ち着きなさいよ。
今からこんなんで会議を最後までやり切れるのだろうか。
「あ、ククイ君! 紹介するね。私の大学の同期のアララギとマコモ。それからアララギの助手のベルちゃん」
するといつの間にかバーネット博士たちも来ていたようで、ククイ博士に一緒にいる女性三人を紹介していた。
前回に比べて女性の比率が飛躍的に上がったな。
ご新規さんは全員女性っぽいし、これでむさ苦しさも少しは解消されそうだ。
「おー、これはこれは。初めまして。バーネットの夫のククイです」
「こちらこそ、初めまして。アララギです」
「マコモです」
「ベ、ベルです!」
それにしても………。
「知らない人だ」
「イッシュ地方にバーネット博士の同期がいるって話で、今回呼んでもらったんだよ」
「ほーん」
ナナカマド博士が彼女たちの説明をしてくれた。
そういえば、前回そんなことを言っていたような気がする。
「………ハチくんでも知らない人いたんだ」
「そりゃそうだろ。何なら今回も誰が来るのか知らないし。前回来てない人は知らない可能性が高い」
前回の参加者は来るだろうけど、新規なんて全く分からないからな?
俺が仕向けたのはソニアとムーンだけだし。
「………というか何でハチくんも会議に参加する前提なの?」
「あー、それはヒキガヤさんがお嫁さんたちを使って声をかけていたみたいですよ」
「ちょっとじーさんたちの意見も聞きたいことがあってな。それに関してもムーンに下調べしてもらったし、ついでに近況報告やらお前らのパイプ作りになればいいかなと」
「またハチくんの謎が増えた………」
何故か俺たちの説明に頭を押さえ始めるソニア。
謎が増えたって言うけど、ソニアは多分知ってる側の部類だと思うぞ。
ダンデやルリナなんて、国際警察までしか知らないだろうし…………あれ? ソニアって俺の本名知ってたっけ?
「おお、みんな集まっとるようじゃな」
そんな疑問を掻き消すように、聞き覚えのある声が部屋に入ってきた。
「…………相変わらず濁った目をしとるのう」
そして真っ先に俺のところに来て、この一言である。
酷くない?
「うるせーよ。それを言うなら常に睨んでるような目付きのアンタの孫にも言ってやれよ」
「うーむ、口の悪いグリーンを相手にしとるようじゃ」
「悪かったな。似た声で」
オーキドのじーさんの後ろで睨んでくるグリーンはさておき、なんか前より少なくね?
「あの三人は?」
「うるさいから置いて来た。イエローは自ら辞退」
「かわいそうに。レッドさんなんか絶対来たかっただろうに」
「いいんだよ、あいつは」
まあ、バトルが必ずしもあるわけでもないしな。
多分、話し合いだけなら、あの人にとっては退屈になるか。
「おお、ハチマン。久しぶりじゃのう」
「こっちも同じ声だったわ…………お久しぶりです、ナリヤ博士」
一瞬、オーキドのじーさんにまた声をかけられたのかと思ったが、目の前にいるため、もう一人いたことを思い出した。
従兄弟なだけあって、声だけでなく見た目もそっくりなもんだから紛らわしい。
相変わらずラフな恰好してるし。
アローラ組は寒くないんかね、そんな薄着で。
「ハチマン君、久しぶり」
さらにその後ろからはウツギ博士が。
俺に対してもあれこれいじってくることもないから、安心安全の博士である。
「お久しぶりです、ウツギ博士。オーキド博士たちと一緒に?」
「うん、そうなんだよ」
「その方が安かったんです!」
ジョウト組の図鑑所有者、クリスタルだったか?
「クリスがその辺手配してくれてね。ありがとね」
「いえいえ、着いていくからにはこれくらい当然ですよ」
団体割かセットパックでもあったのだろう。
経費削減は助手の勤めってな。
「あの二人は?」
「うるさいから置いて来たわ」
「こっちもか………」
かわいそうに。
あのヤンキーはうるさいからいいとして、サカキの息子の方は頭が切れるからいてくれてもよかったんだけどな。
「ねぇ、何でみんなハチくんに挨拶にくるの?」
後ろでソニアが信じられないものを見ているような顔で聞いてくる。
「さあ? いないだろうと思ってた奴がいるからじゃね?」
「そもそもほとんど知り合いみたいじゃん」
「そりゃ、前回の時に嵌められて強制参加だったからな」
だから今回はこっちが利用させてもらおうじゃないの。
折角、一同が介する機会に恵まれてるんだし、見届け人にされたことで、俺が召集しても問題ないわけだし、これから大いに俺の役に立ってくれ。
「ふぅ、ホスト側になるってのは大変だね」
「恨むなら先輩を恨んで下さいよ」
「別にハチマン君を恨む気はないよ。これも経験だしね。それにみんなが手伝ってくれてるおかげでスムーズに準備出来たしね」
「と言ってもほとんどユキノシタ姉妹のおかげですけどね。あの二人がいるのといないのでは全然違いますし。そこに先輩もいれば、事務処理なんかはあっという間ですからね」
「あら、今回はあなたが旗揚げしたんじゃない。ねぇ、イロハ?」
「うげぇ、ユキノ先輩」
「イロハ先輩に扱き使われたってお兄ちゃんに言いつけてやる」
「お米、アンタは私の手となり脚となり働け」
「もう、喧嘩しないの」
廊下からはプラターヌ博士の他にイロハ、ユキノ、コマチ、ユイの声が聞こえてくる。
どうやらイロハは俺が言ったように動いてくれたみたいだな。
「あ、本当にいたし」
「っていうかお兄ちゃんがみんなの中心にいるのが違和感しかないよ」
「これだけの大物に囲まれていると小物感が半端ないわね」
「先輩、私超頑張ったんですから、ご褒美期待してますよ?」
プラターヌ博士に続いて部屋に入ってきた四人は、俺を見つけると言いたい放題である。
一応、久しぶりの再会になるんじゃないの?
いつも通り過ぎてビビるんだけど。
「お前らな………」
「それじゃあ! 皆さん集まったことですし、そろそろ始めましょうか」
プラターヌ博士の号令でそれぞれ着席していく。
ようやく第二回が始まるのか。