ソニア魔改造計画の三日目。
案の定、昨晩はユキノとユイにご褒美と称して搾り取られた。
というかあの二人がいじらしく可愛いのが悪い。
「……………………………」
さて、この状況はどうしたものか。
三人でフィールドに出てきたところで、何者かに肩を拘束され、現在両側から異様なプレッシャーを受けている。
一人はユキノみたいな顔の人。
もう一人はユイみたいな顔の人。
「……………………………」
どう考えても本人たちじゃないんだよなー。
俺の目の前であわあわしてるもん。
「そろそろ自分から顔を出すかと思っていたのだけれど」
「ひぃ!?」
「ヒッキーくん、ママたちとお話ししたくないのかな?」
「ひょ?!」
怖い怖い怖いいい匂い超怖い。
片や静かに淡々と。
もう片方はイロハみたくあざとさ全開で優しく耳元で囁いてくる。
これ、今日が俺の命日かもしれない。
「か、母さん、何しに来たのよ」
「ママも何しに来たし」
ちょっと落ち着いたのか、二人の方から聞いてくれた。
いや、うん。今両側から肩に手を置かれて逃げられないようにされてるから、怖くて聞けないの。
特に右側。
含みのある微笑みが超怖い。左のあざとさが可愛く思えるレベル。
ユキノは母親の血の方が濃さそうだわ。
「あら、中々顔を出さない義理の息子の様子を見に来てはいけないのかしら?」
「そんなことはないわ。ただ、ハチマンにはまだやることがあるのよ。彼の時間もこっちで把握出来るわけじゃないのだから、まずはハチマンのやることが終わってからでもいいじゃない」
えーっと、なんか一昨日の会議中に二人がカロスにいるだのいないだの、チラッと話題に出ていたような気がする。
パルデア地方に月刊オーカルチャーのポケモンを調査しに行く際に、留守番を頼めるとかそんな話だったんじゃなかったっけか?
……………何でいるのん?
「おはよー………えっ、何この………なに?」
「何だろうな、ほんと…………ははは………」
ソニアが欠伸をしながら、フィールドに出てくると、この異常な空気を目にして戸惑っている。
「そりゃママたちも構って欲しいなーって」
「ママ………?」
左の方からあざとい返答がされると、ソニアもそっちに目がいき………ユイを見る。
そして、もう一度あざといユイ擬きを見て固まった。
「ママ!?」
デスヨネー。
ちょっと歳の離れた姉と言われても違和感ないんだよなー。
右側の人も姉………にはちょっと無理があるが、母というにはかなり若々しく見える。一体、いつハルノやユキノを産んだんだ? って混乱するレベル。
「え、あ、え? お姉さん、じゃなく?」
「ユイの母でーす。イェイ」
「ユキノとハルノの母です。ソニア博士、ですよね?」
「え、ええ………初めまして…………若っ……」
母親であるという事実にソニアが慄いている。
その気持ちはよく分かるわ。
そして、ユイが実の母親の態度にドン引きしている。
うん、嫌だよな。実の母親のこんな姿。
俺も母ちゃんがこんなことしてたら、トイレに駆け込むと思うわ。
「えっと、何故お二人がその………ハチくんを拘束しているのか………聞いてもいいんですかね………」
それな。
俺もそれは聞きたいわ。
多分、力を入れて振り払えば解放されるんだろうけど、怖くて出来ない。
母親の圧というか、やったら数倍になって返って来そうなんだよなー。
「だからママも構って欲しいなーと」
「えっ!? それ、比喩とかじゃなく言葉のまんま?!」
左のあざとい人の言葉はあまり気にしない方がいいような気がする。
「ユイガハマさんだけよ。私は義理の息子と、娘二人が彼に迷惑をかけていないかチェックしに来たのよ」
あ、今なんてユキノ味を感じたわ。
特に「ユイガハマさん」ってところ。
カロスに来た頃のユキノの呼び方そっくりでやっぱり親子なんだなと実感させられる。
「あ、そうだ。はるさん、メタモンの様子はどうでした?」
「ん? 大丈夫だったよ。色んなポケモンの姿を覚えちゃってるから、このポケモンは誰でしょうクイズを仕掛けてきて、夜更かししたくらいだよ」
「あー、偶にしてますね。私も見せられましたよ」
「あ、メグリにもしてるんだ」
「はい、たまーにですけどね?」
「へぇ」
そこへそんな呑気な会話をしながら、ハルノとメグリ先輩がやって来た。
これは………母親がいることに気付いてないな。
そして、ソニアがめちゃくちゃ聞き耳を立てている。
今からハルノとバトルになるから、これまでのバトルからバトル前の会話すら情報として集めようとしているようだ。
それで痛い目に遭ってなかったっけ?
それでも情報はないよりあった方がいいってタイプなのだろうか。
「げっ!?」
ようやく母親の存在に気付いたハルノが珍しい声を上げた。
「げっ、とは何です、ハルノ」
「い、いやー…………ハハ……」
めちゃくちゃ目が泳いでやがる。
存在感だけでハルノをここまで乱す母親って…………最強過ぎじゃね?
「お、お母さん、何しに来たのかなー?」
「ヒキガヤ君が帰って来ているのに、いつまで経っても顔を見せに来ないから、こっちから見に来たのですよ」
ハルノに詰め寄るママのん。
顔が引き攣っている。
すごく嫌そう。
あと、俺を解放してから詰め寄ってくれませんかね。
何で俺までハルノの方にドナドナされなきゃならないんだ。
「それに貴女たちには伝えましたよね? 彼に一度顔を出すようにと」
おっと?
まさかの俺は伝えられてないパターンだったか?
そうなると俺って別に悪くね?
ママさんたちがいるのかどうかもよく知らない状態だったし、その上で自分から顔を出すのは、奇跡的な偶然が起きない限りは無理だと思う。
「そして、義理の息子をこれでもかってくらい可愛がりたいと?」
「あら、貴女たちが毎夜代わる代わる彼に可愛がられているのは想定の内よ? だから昼に寄越せと言っているの。なのに、あなたたちと来たら………」
「うっ………」
ハルノが挑発するものの、サラリとカウンターを受けて撃沈。
流石母親。
「ママはそんなこと言ってた?」
「わたしは言ってないわよ〜」
「だよね。聞いた覚えないもん」
一方、ユイガハマ家はのほほんとしている。
ガハママもある意味、空気をぶち壊すタイプだよな。
そういうところ、確かに親子だと思うわ。
「でも、どうやらユキノシタさんはヒッキーくんに娘さんたちが助けられているのに、まだお礼がしたりないらしいのよ。それに娘しか育てて来なかったから、息子というものを噛み締めたいんだとか」
「ちょっと、ユイガハマさん?! 何を言っているのかしら!?」
「いーえー、何でもありませーん」
うん、この爆弾投下魔的な発言。
ユイにイロハのあざとさと毒を付け足せば、ガハママになり得そうだわ。
まあ、本人にそれは難しいだろうけど。
ユイはユイのままでいいんだよ。
「へぇ、息子…………」
「よかっわね、姉さん。私たちの関係が母さん公認になったわよ」
「これがハヤトだったら、今頃ハヤトは締め殺されてるだろうね」
息子という単語に否定も肯定もしない辺り、認めてくれていないわけではないのだろう。
パパのんは肯定的だったし、何なら会社を引き継いで欲しそうなまであったが、こうなってしまってはそれも難しく、そこは申し訳ないと思っているのだが、ママのんは未だに掴めないんだよなー…………。
そこはやはりハルノの母ということなのだろうか。
分からん。
あと、しれっとハヤマが殺される未来が提示されてるし。
思わず聞き流すところだったぞ。
ハヤマに合掌。
「仕方ないじゃない。貴女たちには言っても聞かないのだし、彼の経歴を考えれば、二人ともをもらってくれるなんて贅沢な話でしかないわ」
ずっとハーレム否定派だと思っていた人からの、まさかのこの発言である。
ハーレムに肯定的どころか、相手次第では推奨しているまである。
「でも公には死人扱いだから、正式な結婚も出来なければ、うちの会社を引き継ぐことも出来ないよ?」
「あら、そんなのは些末な話よ。会社の株を五割保有で筆頭株主になるところを、ユキノシタ家で六割保有しておけば、社長があの人でなくなったとしてもまず間違いなくオーナーとしてやっていけるわ。それにヒキガヤ君には会社を引き継いでもらわなくても、既に莫大な恩恵をもらっているもの」
「恩恵………?」
おっと?
どうやら俺は会社を引き継がなくても良さそうな雰囲気だぞ?
「それは恐らくうちとの繋がりだろうね」
すっと音もなく現れるイケメン御曹司。
うち、というのはデボンコーポレーションのことだろう。
ああ、なるほど。
バトルフロンティアの件で繋がりが出来たから、そこから伸びる伝により、会社としてもやりやすくなって繁盛しそうってなわけね。
「あら、ツワブキさん。ご無沙汰ね」
「その節はどうも、マダム。こちらとしてもハチマン君の身内になる大企業とコネクションが出来て助かってますよ。まあ、それはうちだけでなく、エーテル財団やマクロコスモス社も一緒でしょうけどね」
「どうかしら。世界的有名企業となるデボンコーポレーションには敵わないわ」
ああ、そうだ。
エーテル財団とも繋がりが出来たってことだもんな。
いつの間にかマクロコスモスまで参画しちゃってるけども、それは特に問題ではない。
エニシダさんが暇を持て余してるであろうローズ元委員長を訪ねた結果だろう。
「恐らくそれ、ロケットカンパニーも参画してるらしいですよ?」
「「「はっ?」」」
ただ、そこへガハママから爆弾が落とされた。
ロケットカンパニーって言ったか?
「えっ? 何かまずいこと言った?」
俺とユキノとハルノが固まってしまったことで、ガハママがコテンと首を傾げる。
いやいやいや。
「ロケットカンパニー………? カントーの?」
「え、うん。うちの旦那が室長なんてものをやっているのよ。そこからの話だから、多分同じ案件だと思うのよね〜。エーテル財団やらマクロコスモスってのも聞き覚えがあるし」
「うっわ、マジか…………」
そう来たか………。
何でどこもかしこもどこかしらとでロケット団と繋がってんだよ。
ユキノシタ家はハルノが短期間だけロケット団にいたし、ユイガハマ家は父親がロケットカンパニーの室長で、イッシキ家も祖父がアレじゃん? スクールの元校長且つ元ロケット団の研究者であるイッシキ博士。
ヒキガヤ家なんて俺が被験者だし、ザイモクザは…………サカキも相手するのが面倒くさいのか、俺に対する人質くらいにしか利用してねぇな。
トツカは………ないよな? ないって言って?
「ダイゴさんはこのこと………」
「元々、ロケットカンパニーには宇宙開発事業部があって、そことトクサネ宇宙センターが共同で企画してるようなこともあったから、問題ないと思うけど…………何かあるのかい?」
なるほど。
ダイゴさんですら知らないのか。
ある意味、情報統制がされていると見ていいんだろうけども。
「ちょっとすみません。一本電話かけさせて下さい。大至急確認が必要なことが出来ました」
うん、取り敢えず聞こう。
ハッキリさせとかないと気持ち悪いし、危なそうなら釘を刺しておかないとだし。
「もしもーし」
『何だ? 朝から。大人しくしているだろうに』
いや、知らんよ。
何してるかなんて調べてすらないし。
すぐに耳に入って来ないってことは、大人しくしてるってことなんだろうけども。
というか一昨日会議中に電話かけたところじゃん。
「一つ確認したいことがあってな」
『ほう。面白そうな匂いがするから聞いてやろうではないか』
何で俺の声色だけで面白いと判断しちゃうんだよ。
そんなに暇なのかよ。
「…………アンタんとこのロケットカンパニーにユイガハマって人がどこかの室長やってたりしねぇか?」
『ユイガハマ………? いるな。確かバトルフロンティア案件に関わっているチームだったと思うが……………ああ、貴様のとこにもユイガハマって娘がいたな。フッ、フハハハハハハハッ』
「…………マジかー…………………」
電話の向こうで大爆笑している。
時折音が割れるため、相当声が出ているのだろう。
こっちは笑えないっつの。
「おい、サカキ。マジでロケットカンパニーとロケット団が結びつくようなことはするなよ。マジでやめろ下さい。嫁の父親が犯罪の片棒担ぐとかになったら、マジで暴れるからな? いや、ほんとマジで!」
『フハハハハハハハハハハハハハッッ!』
「おい、いつまでも笑ってんじゃねぇよ! マジでやめろよ! 義父を逮捕とか洒落にならねぇからな?」
『分かった、分かった。こっちもロケットカンパニーがなくなったら、動きようがなくなるんだ。その辺は抜かりなくやっている』
「いや、マジで頼むぞ。徹底しろよ」
『フハハハハハハハハハハハハハッッ!』
念押ししたが、サカキは爆笑しながら切りやがった。
「くそっ、あの愉快犯め………」
人の不安を笑いものにしやがって。
裏社会の大物のくせして、息子を二歳で誘拐されて十年近く会えなかったどころか、再会したら敵認定された話を本にしてやろうかな。
世間からの笑い者にされてしまえ。
「……………本当に稀有な子ね。裏社会の大物にこんなふざけた会話が出来る人なんて、貴方しかいないんじゃないかしら」
それは褒めてるんですかね………。
嬉しくないんですけど。
「サカキ………ロケット団………だからロケットカンパニー、ね」
ダイゴさんはようやく合点がいったようで、なるほどと頷いておる。
「ねぇ、ヒッキー。パパの立場って危ないの?」
「今のところは大丈夫だ。ロケットカンパニーが裏と繋がっていると知れ渡れば、困るのはサカキも同じらしいからな」
くいくいとユイが裾を引っ張ってくるため、不安を取り除くためにもサカキの意図を伝えることにした。
念押ししたものの、実際のところはサカキ自身が分かってるはずなんだよな。
ロケットカンパニーがあるからこそ、ロケット団として動けていると。
ただ、そこの繋がりが表立って証明されると色々と不味い。
だから、サカキもそこを徹底していると思いたい。
「………そんなにヤバい会社なの?」
「ええ、まあ。そうならないように徹底してはいるようですけど………」
ママさんはまだよく分かってないようだ。
それはそれでいいのかもしれない。
「その時は離婚ね。フリーになったら、その時は娘ともどもよろしくね?」
「よろしくしちゃうことになったら、まずいんだよなー………」
「流石にパパが不憫すぎるよ………」
ロケットカンパニー=ロケット団ってことになったら、ユイガハマ家は離婚になるのかー………。
パパさん可哀想に。
必死に仕事してたら、実は裏社会の組織の表向きの会社で、それが世間に公表されたら離婚の危機って………。
それで俺によろしくされてもただただ怖いんだけど。
「およ? 朝から修羅場?」
「えっ? マジ? 先輩が修羅場?」
野次馬シスターズまで来てしまったか。
というか、お前らほんと仲良いな。
ただ、コマチとイロハが好きそうなネタであるため、ここは話を切り替えてしまおう。
「あー、まあ取り敢えず聞いてなかったとはいえ、顔を出さなかったのは俺の不手際なので、そこはすみませんでした」
まずは謝罪しておかないとな。
知らなかったとはいえ、ママさんたちは俺がくるのを待ってたのだ。
それが中々来ないから痺れを切らして今に至るってわけだから、一応は謝っておかないと。
「あら、案外素直なのね。聞いていた話では、変に捻くれているらしいから、これでもかってくらいに屁理屈を並べてくると思っていたのだけれど」
どうやらママのんの中では、俺が屁理屈を並べて俺は悪くないアピールをしてくると思っていたようだ。
ただーーー。
「今回に限って言えば、屁理屈をこねくり回していたのは娘さんたちでは?」
「ちょ、ハチマン!?」
俺があっさりと自分たちを売ったと思ったユキノが止めようとしてくる。
「ただでさえ、俺がまだちゃんと戻ってきているわけではないから、一緒にいられる時間も限られますし、そりゃ誰だって親にまで時間を奪われたくないでしょうよ。俺だったら、そんなことを言われた記憶限定で黒いのに差し出して、即忘れることにしますよ、絶対」
「いや、それ出来るのハチマンだけだから!」
いやいや、それくらいしないとどこで綻びが出てくるか分かったもんじゃない。
ハルノも分かる側だと思うんだけどなー。
「いやー、一体誰に似たんでしょうね、娘さんたちは。あ、セレビィに二十年以上前まで遡って見てくればいいのか。その手があったか。いやー、流石セレビィ」
以前聞いたパパのんの話では、この人の方からのアプローチが凄かったらしいし、似た者親子なんだよなー。
「………よく分かったわ。貴方が素直な時は言葉通りに受け取っておかないと、裏では憎たらしいことを考えていると、よく分かりましたとも。ええ、ええ」
「「………………」」
勝った。
何故かユキノシタ姉妹が慄いているが、なんかこの人にいいように言われ続けるのは癪だったのだ。
「そりゃ良かった。俺は大事なものに対してはとことん甘くなりますからね。愛は重たいくらいが丁度いいんですよ」
「そうね。愛は重たいくらいが丁度いいと思うわ」
それにしても一体どんなアプローチをしていたのだろうか。
過去に遡ることを言い出したら、一気に攻勢が弱まったし。
そんなに知られたくないようなことをしてるのだろうか。
逆に気になるな………。
まあ、この親にしてこの二人の娘ありってことだろう。
何やかんやで二人ともこの人に似てるみたいだ。
「ん、んん。ハルノ、貴女ももうヒキガヤ君が何をしようとしているのか、見当くらいはついているんじゃないかしら?」
あ、ママのんの方から話を変えてきた。
これ以上は突かれたくないってことだな。
「まーねー。だから時渡でいなくなった後に今後もハチマンと関わり続けそうなのを集めて、全員で専門タイプを全タイプ網羅出来るようにって軽く話したくらいだし」
「えっ? あれってそういう理由だったんですか? てっきり先輩と同じタイプを持ちたいがためだと思ってました」
というかそんなことをしていたのか。
とはいえ、既に仲間にしていたポケモンのタイプの数から、今後増やしていくタイプをまとめて並べてみたってところだろうけど。
俺が全員を使って全タイプを網羅するってなるとそうするだろうし、俺が思いつくってことはこの姉妹も当然思いつくはずだ。
「まあ、姉さんだもの。そんなことだろうとは思っていたわ」
「だってー、私が表立って主導するとユキノちゃんが嫉妬しちゃうし」
「しないわよ、そんなことで」
「えー………?」
「ハルノ」
「はーい」
そんなことで嫉妬するのかね。
…………………うん、ないな。
逆にハルノの方が嫉妬するかもしれない。
偶にはお姉ちゃんをやりたい、とかって。
あるなー、そっちの方が有り得そうだわ。
ということは、ハルノの方がユキノに嫉妬して主導したのを、ユキノは上手く姉を立てたってところか?
まあ、二人とも能力は高く、結果はいつも俺以上だから文句なんて一つもないがな。
逆に俺が二人におんぶに抱っこな状態なまである。
「昨日の内にツワブキさんからソニア博士とユキノたち三人とのバトルの内容は伺っています。ユキノがヒキガヤ君の思惑を体現してみせたということも含めてよ。その上でハルノ。貴女もユキノ同様、ヒキガヤ君の思惑を体現して見せなさい。貴女たち姉妹がヒキガヤ君の両翼であることをソニア博士にも分からせてあげるのよ」
「いやいやいや、もう充分伝わってますから!」
あ、ソニアがようやく動いた。
ママのんの圧に押されて会話に加われてなかったもんなー。
しかもこっちの身内の話ばかりで、ソニアが加われるような話でもなかったし。
というか、映像なしでダイゴさんからの話だけで、バトルについて概ね理解したってどゆこと?
頭の中でバトルを逐一組み立てられちゃう系?
それともダイゴさんの解説が凄まじかった?
両方有り得そうだから怖いわー…………。
「はーい。というわけで、ソニア博士。覚悟してねんっ」
「ひぃ?!」
それなのに最後はソニアにこの仕打ちである。
ソニア、強く生きれよ。
というか今からさらに心を折られるだろうから、強く生きるのも難しいかもしれない。
仕方ない、骨は拾ってやろう。
「ハチくん………」
「大丈夫だ。細胞の一つまで研ぎ澄ませば何とかなる」
「無理じゃん?! というかそんなことどうやってやるのさ!」
「全集中」
多分、そんなんで出来るじゃね?
知らんけど。
「えっ、水の呼吸?」
「壱ノ型も参ノ型もないから」
「ヒノカミ神楽は?」
「ないない。ボルケニオンにでもやってもらえ」
イロハがポンポンと横槍を入れてくるが、そんなもんはみず・ほのおタイプのボルケニオンにでもやってもらいなさい。
「あ、なるほど。使えそうなら型を増やしてみるのも有りか………」
おっとー?
俺の求めてた返しじゃないんですけどー?
お前、変なところで真面目だな。
「なに? 水の呼吸って」
「ネタだ、ネタ」
「ソニア博士、諦めなさい。ハチマンはこういう人よ」
「いや、うん、それは知ってるけど…………」
ユキノ、その言い方だと妥協してるように聞こえるんだが?
そんなこんなしているとゾロゾロと人が集まり始めた。
何だかんだ居残り組は毎回観戦するのね。
いないのはザイモクザとトツカくらいか?
トツカも大変だな。コマチといたいだろうに。
「大丈夫よ、ソニア博士。多分、死にはしないわ」
「多分!?」
「ほら、行った行った」
いつまでもダイゴさんを待たせるわけにもいかないので、さっさと定位置に行くように促す。
ソニアはぶつぶつ言ってるが知らん。
「ソニアさんの扱いがみんな雑い………」
「ツッコミ役の悲しい性なんだよ、きっと」
野次馬シスターズがとぼとぼと歩くソニアの背中を見て、合掌している。
いや、君たちもその一人だからね?
イロハなんか玩具にしてただろうに。
「さて、まずはルール確認から行おうか。今日もフルバトルの技の使用制限はなし。交代も自由。どちらかのポケモン全員が戦闘不能になった時点でバトルは終了。これでいいよね?」
「はーい」
「はい………」
「それじゃ、バトル始め!」
ダイゴさんの合図でバトルの火蓋が切られた。
………………ねぇ、そろそろバトルが始まったんだし、二人とも俺を解放してくれてもよくない?
あ、ちょっ、さすさすしないで!
「エモンガ、いくよ!」
「バンギラス、遊んであげなさい」
「バンギャァァァアアアアアアアアアアアアッ!!」
「エモッ!?」
最初のポケモンはソニアがエモンガ、ハルノがバンギラスか。
出てきて早々雄叫びを上げるバンギラスにエモンガが怯んでいる。特性はいかくじゃないのにな。というかすなおこしだし。
………また天候操作なのか。
「まずはこうそくいどうで動き回って!」
「なら、こっちはステルスロックかなー」
エモンガが高速で動き回っている間に、バンギラスがソニアの方へと無数の尖った岩を撒き散らしていく。
「エモンガ、きりばらい!」
それをすかさずエモンガが風を起こして吹き飛ばしてしまった。
なるほど。
初手でいわタイプが出てきたってことで、高速で旋回しながら様子を見ていたってわけか。
判断としては上々である。
相手がハルノでなければ、であるが。
「いわなだれ」
今度はエモンガの頭上から次々と岩を落とし始めた。
「エモンガ、躱して!」
素早さが上がったエモンガには何のそのであるが、恐らくハルノはこの盤面自体を読み切っていることだろう。
「それならゆきなだれー」
今度は雪の塊を次々と落とし始めた。
ひこうタイプを持つエモンガには、いわなだれもゆきなだれも効果は抜群である。
「バトンタッチ!」
あ、早々に交代させてきたか。
「ニョロォォォオオオオオオオオオオオオッ!!」
エモンガとハイタッチして交代してきたのはニョロトノ。
バンギラスと同じように出てきて早々雄叫びを上げて雨雲を呼びつけ、雨を降らせてくる。
「ハイドロポンプ!」
そして、早速雨で威力を上げた水砲撃を撃ってきた。
「メガシンカ」
直撃の寸前、ハルノの右耳とバンギラスが共鳴し合い、虹色の光に包まれて姿を変えていく。
そのエネルギーの余波で水砲撃は掻き消されていった。
というかハルノのキーストーンってイヤリングなのね。そうなるとその左のイヤリングも……………?
「バンギャァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
「……………はっ?」
あーね。
バンギラスがメガシンカしたことで再び雄叫びを上げて砂を巻き上げ砂嵐を起こした。
おかげでソニアは思考が追いついていないようで、お口あんぐりである。
「シャドークロー」
そんな隙をハルノが見逃すはずもなく、バンギラスが地面に影で出来た爪を突き刺すとニョロトノの陰から影の爪が伸びて突き上げた。
「きあいだま!」
空中で身体を捻ってバンギラスの方へと向き直ったニョロトノがエネルギー弾を放ってくる。
「掴んで投げつけちゃって」
なんて雑な………。
いや、まあメガシンカしたことで握力も当然上がってるわけで、超効果抜群の技であろうとも掴んで投げ返すことくらい訳ないだろうけども。
技はなげつけるだろうか。
「躱してなみのり!」
そうは言ってもニョロトノもそんな単調なポケモンではない。
砂嵐のダメージを受けながらもひょいと躱すと大波を起こして襲いかかってきた。
「なら、こっちもなみのりよ」
いや、何でみずタイプのニョロトノよりも波がデカいんだよ。
………あ、ほらニョロトノの方の波を呑み込んじまったじゃねぇか。
みずタイプの威厳を奪ってやるなよ。
「10まんボルト」
そして、電撃と。
「娘さん、鬼畜過ぎません?」
「あら、貴方も大概でしょうに」
「………確かに」
うちの三巨頭なら、俺の指示なしでもこれくらいやり兼ねないか。
というか、俺のバトルも知ってるのね。
「ニョ、ニョロ………」
電撃を浴びて身体が麻痺してしまったようだ。
可哀想に。
「ニョロトノ、けたぐり!」
それでも無理に身体を動かしてバンギラスの懐へと飛び込むと、足払いでバンギラスを倒しにかかる。
「……………………」
「……………………」
びくともしないバンギラスにニョロトノが冷や汗をかいているように見えるのは俺だけだろうか。
砂嵐に曝される姿が余計に悲しく見えてしまう。
「そんなんじゃ力が足りないよ。やるならこれくらいしなきゃ。バンギラス、かみなりパンチ」
「ニョオ!?」
電気を纏ったボディブローがニョロトノの腹に入り、吹き飛ばされていった。
その勢いで砂嵐が止んだのかと思えるくらいのタイミングで天気が元に戻っていく。
「くぅ、やっぱり雨がないとキツいか。ニョロトノ、あまごい!」
きあいだまを投げれば、掴んで投げ返され、なみのりで襲い掛かれば、その波すらも呑み込む大波を起こされ、終いにはけたぐりでびくともしないため、火力を上げることにしたってとこだな。
まあ、ソニアの本来のプランなら、あめふらしによる雨でハイドロポンプもなみのりも効いてたはずなんだろうけども。
相手が悪かったとしか言いようがない。
「ハイドロポンプ!」
麻痺している身体で水砲撃を撃ってくるも、先程よりも明らかに精度が落ちている。雨が降ってきたところで、もうニョロトノは結構ギリギリといった感じだろうか。
「ストーンエッジ」
バンギラスが地面を叩いて地面から岩を次々と突き上げ、水砲撃をも押し返して、ニョロトノの再度突き上げる。
「きあいだま!」
その隙間からニョロトノがエネルギー弾を放ってくるもーーー。
「かみなり」
バンギラスへと届くことなく、逆に落雷がニョロトノを貫き意識を刈り取ってしまった。
雨にしちゃったからね。
自業自得というわけではないが、10まんボルトを使ってきてる時点で、かみなりも使えることを想定しておくべきだったな。
まあ、バンギラスのメガシンカで一気にペースが乱れて、そこまで考える余裕が無くなってるんだろうけど。
「ニョロトノ、戦闘不能!」
「うぅ………ニョロトノ、戻ってゆっくり休んでて」
うーん、これまでの傾向から考えるに、ソニアのパーティーの中でニョロトノは重要な位置にいたのではないだろうか。
そんなポケモンを初戦で失ってしまえば、ソニアのプランにかなり影響が出てくるはずだ。
はてさて、どうなることやら。
「ちょっと、ハチくん! あのバンギラスおかしくない?! けたぐりで倒れなかったんだけど!?」
「え? あ、うん、ハルノのポケモンだし、バンギラス強いし」
「えぇ………」
そんなこと言われてもねぇ。
バンギラスはバンギラスでも、ユイのバンギラスじゃなくてハルノのバンギラスだからな。
そこでも結構格の違いがあるんだわ。
ましてやハルノのバンギラスはメガシンカを習得している切り札ポジションだし。
その同格で言えば、カメックスやメタグロスだろう。
だから俺としても初手でバンギラスを出してきた上にメガシンカまでさせて来てるから、結構読めなくなっている。
「姉妹揃ってエグいね」
今日も今日とて胃が痛そうなダイゴさん。
昨日に引き続きこれだからな。
バトルを近くで見たいがために名乗り出た審判なのに、ここまで胃を痛めることになるとは思ってもみなかっただろう。
「だって、お母さんがやれって言うんだもん」
「ハルノ、聞こえてるわよ?」
「はい、さーせん」
ハルノが文句を言うと俺の右隣から、静圧のある声がして、途端にハルノが謝った。
「んー………やっぱりこういう時はこの子しかいないか。エレザード、バンギラスを倒すよ!」
「ふーん、今度はエレザードかー。バンギラス、ステルスロック」
「エレザード、でんじは!」
ソニアの三体目はエレザードか。
バンギラスが無数の尖った岩を撒き散らすと、その間にエレザードが電磁波を送り込んで麻痺させてきた。
「ありゃりゃ、麻痺しちゃったか。なら仕方ない。バンギラス、交代だよー」
何とも潔いな。
まあ、天候操作の上書きを出来て、尚且つソニアのプランを初手から崩したのだ。働きとしては充分だろう。
それに今ここで下がることで、ソニアにはまだメガバンギラスが残っているという、妙な緊張感を残すことにもなる。
ユキノとのバトルを経て、ソニアもこの交代をかなり意識することになるだろうし、本当に嫌な選択肢を増やしてくるわ。
「メタグロス、化かし合いの時間だよ」
「ゾォォォロォォォオオオオオオオオオッ!」
ん?
「メタグロス、こうそくいどう」
うん、メタグロスだな。
なんか一瞬違和感を覚えたのだが、今のは何だったんだ?
「来たわね、はがねタイプ。エレザード、10まんボルト!」
ソニアは特に違和感を覚えた感はなさそうなので、俺の気のせいかもしれない。
ただなー、ハルノだしなー。
「シャドーボールをぶつけちゃってー」
高速で動き出したメタグロスにエレザードが電撃を当てようとするも、影の弾丸をぶつけられて相殺されてしまう。
「くっ、ならこっちもこうそくいどう!」
「それで追いつけると思っちゃ困るなー。メタグロス、こうそくいどうでもっと加速してねー」
追いつかないとみるや、エレザードを走らせるも、メタグロスはさらに加速してエレザードを煽っている。
「ふふっ、くさむすび」
うっわ………。
加速し出したところにそれは鬼畜過ぎるだろ。
しかも拘束が目的ではない、本来の使い方である足下に草の輪を作って足を引っ掛けて転ばせる方っていうね。
「はい、拘束してー。サイコキネシスー」
盛大に転んだところをメタグロスに超念力で拘束されてしまった。
「エレザード!」
ソニアが呼びかけても身動ぎ一つ出来ないエレザード。
「動けないか。なら、すなあらし!」
ならばと拘束されたまま電気を走らせて磁力で砂を円を描くように巻き上げ、砂嵐を起こした。
「特性がすながくれだっけ? はーい、残念。にほんばれだよー」
「なっ!?」
うっわ…………。
立て直しのプランすら、悉く潰してくるとか鬼畜過ぎるだろ。
「でんじは!」
「させるわけないでしょ?」
バンギラス同様、メタグロスも麻痺させようとするも、先に超念力で振り回されて地面に叩きつけられてしまった。
「レザッ!?」
「ヘドロばくだん」
そこへ追い討ちをかけるかのように毒を吐きつけていく。
「ひかりのかべで受け止めて!」
エレザードは起き上がりながら、毒を見えない壁で受け止めた。
本当に器用だな。
「ありゃ、そんなことも出来るんだ。なら、かわらわりで壁を壊しちゃえー」
そして、ハルノの指示の下、メタグロスが一瞬にしてエレザードの前に現れた前足を振り下ろした。
するとパキンッ! という割れる音と共に、見えない壁が崩れ去っていく。
「ほのおのパンチ!」
「その速さならメタグロスには見えてるよん。くるっと回ってかわらわり」
それでも抗おうと炎を纏った拳で殴りかかるも、サッカーのルーレットのごとくくるりと回転し、逆にエレザードの背中を叩きつけた。
「はい、トドメのはかいこうせん」
前のめりに倒れ込むエレザードの背後から禍々しい光線が放たれ、そのままハルノの方へとバウンドしていく。
「…………エレザード、戦闘不能」
ダイゴさんの判定が下されるも、ドン引きしている。
ここ数日で、何回ドン引きしていることだろうか。
「エレザード、戻ってゆっくり休んでね」
「はーい、ご苦労さまー。一旦交代ねー」
ソニアがエレザードをボールに戻すと、ハルノもメタグロスを一旦引っ込めた。
ハルノの切り札ポジションのバンギラスとメタグロスを最初から連続で出してくる辺り、最初からソニアに圧をかけにいっていると見て間違いないだろう。
で、一旦下げることでまだこいつらが残ってるぞ、という継続的なプレッシャーを与えるってわけね。
イロハやユキノよりも交代の仕方が精神攻撃過ぎて恐ろしい。
「さーて、ワルビアル。狩りの時間だよー」
「エモンガ、引っ掻き回すよ!」
ハルノの三体目はワルビアルか。
んで、ソニアはエモンガの再登板と。
「ビァァァルッ!」
ワルビアルが威嚇し、エモンガが怯んでいる。
そこへ無数の尖った岩も突き刺さり、それだけでエモンガには結構なダメージだろう。
「ワルビアル………なら、ソーラービーム!」
「わーお、あなをほるで躱して」
日差しがまだ強いのを活かして太陽光を凝縮させて撃ち出すも、ワルビアルが穴を掘って地面に潜って躱す。
「今のうちにきりばらいだよ!」
それならばと風を起こして無数の尖った岩を吹き飛ばしていく。
その風が止むとワルビアルが地面から飛び出してきた。
「バークアウト」
「ビァァァァッ!」
高々とジャンプしたワルビアルはエモンガの背後から捲し立てるように怒鳴りつけ、エモンガは怯んで落ちていき、遠距離能力も下げた。
「エモンガ、こうそくいどう!」
「がんせきふうじで追い込んじゃってー」
気を取り直したエモンガが加速し、ワルビアルから距離を取っていく。
そこへ頭上から岩石を落として動きを封じ込めようとするも、落下速度がエモンガの速さに追いつかず躱されてしまった。
「とんぼがえり!」
そして、そのままワルビアルに体当たりするとその反動でソニアの方へ戻っていく。
恐らく、バトンタッチで引き継ぐつもりだったが、いかくやバークアウトを受けて攻撃面の能力が軒並み下げられてしまっているため、素早さを上げたところで引き継いだら後々響くとの判断で、とんぼがえりに変更したのだろう。
「ストリンダー、盤面を整えるよ!」
その交代として出てきたのはストリンダー。
どくびしかな。
「どくびし!」
どくびしだったわ。
「へぇ。ワルビアル、じならしね」
ストリンダーが無数の紫色の撒菱を散らすと、ワルビアルが地面を揺らしてストリンダーのバランスを崩した。
「すなじごく」
そこへ足下が沈み始め、ストリンダーを地面に呑み込んでいく。
「ストリンダー、エレキネットを張って!」
完全に囚われると出られなくなるのが、実際にどういうものかまで分かっているのだろう。
ソニアは即座に電気網を砂地獄に張らせ、ストリンダーは網を掴んで上に避難した。
「スケイルショットで邪魔しちゃってねー」
そこへワルビアルの鱗が飛んできて、網を断ち切ろうとしてくる。
「そのままジャンプ!」
完全に断ち切られる前に、電気網をトランポリン代わりにしてジャンプし脱出。
うん、判断が早かったおかげで難を逃れたってところだな。
「どくびし!」
さらに大ジャンプ中にハルノの方へ再度、無数の紫色の撒菱を散らしていく。
これで猛毒確定か。
「あくのはどうで落としちゃって」
ハルノがそう言うとワルビアルから巨大な黒い右手が伸びて、ストリンダーを掌で叩き落とした。
いや、何をどうしたらそんな使い方になるんだよ。
確かに俺もまともな使い方をしてるとは思っちゃいないけど、ハルノのそれもどうなんだよ…………。
「ストリンダー!?」
「くさむすびで拘束ね」
そして、地面から伸びた草に四肢を拘束されるストリンダー。
ハルノがずっと楽しそうなため、余計に恐ろしさがある。
「ハイパーボイス!」
「ふふっ、じわれ♡」
ストリンダーが叫ぼうとした瞬間。
地割れが起きてストリンダーを呑み込み、挟み込んだ。
だから笑顔が怖いって。
可愛く言っても怖いもんは怖いっつの。
「………………はぁ……ストリンダー、戦闘不能」
ああ、ダイゴさんの胃が心配だわ。
ソニアなんか呆然としてるし。
「ソニアー、生きてるかー?」
「い、生きてる………生きてるよね?」
「うん、生きてるな。チビったか?」
「チビってないし!」
あ、復活した。
まあ、チビっててもおかしくはない。
ユキノがぜったいれいどを使ってくるのは、ユイのドーブルのこともあって警戒していただろうけど、ハルノのじわれはノーマークだったろうからな。
あと、終始笑顔なのが余計にソニアを恐怖に落とし込んでいる。これでも全然ハルノは本気を出していないということだろう。
………………どうして俺はカントー大会の時にリザードン一体でハルノに勝てたのか謎だわ。
ある意味、あの時の俺はトランス状態やゾーンに入っていたとも考えられるが、それだけで勝てるものなのかね。
記憶を取り戻しても、記憶なんてそもそも更新され続けるもので、古い記憶なんて鮮明に思い出せるもんでもないし、最早あの時のことなんてバトルの映像を見たから思い出せるんであって、感覚まではどうだったか怪しいレベルである。
「ストリンダー、戻ってゆっくり休んで」
パンパンと自分の頬を叩いて気合いを入れ直したソニアは、ストリンダーをボールへと戻した。
「娘さん、やっぱり鬼畜過ぎません?」
「あら、貴方もアレくらいやるんじゃないの?」
「流石にあんなやり方は…………もっとこう……じわれを使うならリザードンが直接相手を掴んで落とす感じになるんで、見栄え的には大技って感じになるかと」
だからこんな精神攻撃までにはならないと思うんだわ。
「そう。けれど、相手を確実に仕留めるには周りから固めないと確実性が薄れるわよ。貴方も娘二人に周りを固められたように」
え?
「あ、そういう感じなんすね…………」
なに?
俺ってユキノとハルノという地割れに挟まれたってこと?
その前にユイやイロハで拘束されて?
「そうよー。既成事実は大事なんだから」
「……………」
左隣が何か言っている。
まさかユイも母親に何か仕込まれてたのか?
イロハは素でやってそうだけど。
えー、こわぁ………。
うちの嫁さんたち超怖い。
「さーて、ワルビアルも交代だよー」
やっぱりワルビアルも下げるのか。
もしかしたらハルノのポケモンは一体倒したら交代って感じなのか?
「エモンガ、今度こそやるよ!」
「エモ!」
「あはっ、いいねぇ、その感じ。ベトベトンの好みだよ、そういうの。ね?」
そう言って出されたのは、カラフルなベトベトンだった。
あー、アローラのベトベトンね。
というかアローラ行ったのん?
いつの間に?
「なっ!?」
あ、そうじゃん。
どくびしってどくタイプだったら吸収しちゃえるんだったわ。
うっわ、ソニアの苦労が一瞬にしてお掃除されちゃったよ。
気の毒過ぎる………。
「ベトベトン、いわなだれ」
「ッ?! エモンガ、こうそくいどうで躱して!」
エモンガの頭上から岩が次々と落とされていくも高速で動き回り、これを回避。
「んじゃ、とけるでリラックスねー」
「そのままこうそくいどうで素早さを上げてくよ!」
ベトベトンのどろんとしたら身体がさらにどろーんと溶けていく。
その間にエモンガは素早くなっていくが、ハルノは一体何をするつもりなのだろうか。
トリックルームということも考えられるが、ベトベトンって使えたっけ?
「もう一度、いわなだれねー」
「こうそくいどうで躱し続けて!」
再度、エモンガの頭上から岩を落とし続けるも、最早余裕の表情で躱されている。
それを見たソニアの表情もさっきよりは何か光が見えたように明るくなっているし。
でもハルノだぞ?
「じゃあ、ストーンエッジはどうかな」
それでも動じないハルノは、今度は地面から岩を次々と突き上げてエモンガに襲いかかった。
「エモンガ、バトンタッチ!」
それを好機と見て、エモンガがソニアの方へと帰り、出てきたパルスワンにタッチしてボールへと戻っていく。
「パルスワン、あなをほる!」
早速パルスワンは穴を掘って地面に潜っていった。
下からなら動きの遅いベトベトンには躱せないという判断からだろう。
見立てとしては悪くないし、バトンタッチによって確実性は増している。
「ありゃ、潜っちゃったか。なら、かげぶんしん」
ただ、そこはハルノも読んでいるようで、影を増やして撹乱することを選んだようだ。
「ワパ!」
地面から出てきたパルスワンがベトベトンを捉えるも、どうやら影だったようで霧散し、代わりに周りの影がパルスワンを取り囲んでいく。
「はい、捕まえたー。ベトベトン、くろいきり」
そして、一斉に黒い霧を出してパルスワンを閉じ込めてしまった。
「ッ!?」
「はーい、ご苦労さまー。ベトベトンも交代ねー」
エグい。
狙っていたことは理解したが、やり方がエグい。
絶対エモンガをどうにか出来てただろ。
それを敢えて泳がせた上でソニアに希望を持たせたところで、全能力をリセットさせるとか、精神攻撃が過ぎる!
そして、それが済んだらさっさと退散って………。
「さあ、メタグロス。もう一回化かし合いの時間だよ!」
「ゾォォォロォォォオオオオオオオオオッ!」
ん?
やっぱりおかしくね?
メタグロスってメタァァァじゃなかったっけ?
ゾォォォロォォォなんて……………いたな。
えっ、マジで?
さっき出てきた時は、全然違和感なくメタグロスしてたぞ?
「ナイトバースト」
黒い衝撃波がパルスワンを襲い、視界を黒く染め上げていく。
あ、あーね。
技が全部メタグロスが使えるのばっかだったからか。
だから違和感を覚える方が違和感に感じたってことね。
言われるとコメットパンチとかは使ってなかったもんな。
こっわ………。
「え、な、えっ…………?」
ソニアも混乱しているようだ。
やっぱりメタグロスの姿でナイトバーストは違和感しかないもんな。
しかも能力をリセットされた直後だし。
もう頭回ってないんじゃなかろうか。
「メタグロスがナイトバースト………? いや、ナイトバーストは…………まさかッ!?」
それでも思考し続けるソニアはようやく答えに辿り着いたようだ。
「パルスワン、相手はメタグロスの姿をしたゾロアークの技も使うメタモンかもしれないよ! だからどんな技が来るか分からないから気をつけて!」
違う!
そうじゃない!
やっぱりフラグを回収してるじゃねぇか!
だから言わんこっちゃない。本人に言ってないけど。
「ああ、そういうことね」
「エレキフィールド!」
ハルノが不敵な笑みを浮かべるのに対し、立ち上がったパルスワンがフィールドに電気を張り巡らせていく。
「こうそくいどう!」
真っ直ぐ走り出したパルスワンは、エレキフィールドの影響で毛が逆立ち、目の周りのモヤが取れ始めた。
「からのかみなりのキバ!」
そして、電気を纏った牙でゾロアークに噛み付いていく。
「ふふっ、カウンター」
だが、寸でのところで首を掴まれ、ゾロアークがくるっと反転すると、パルスワンは地面に叩きつけられてしまった。
うん、メタグロスの姿でその動きは違和感しかないわ。
「ソニア博士、メタモンって線は良かったよー。でもメグリとの会話まで拾っちゃって考え過ぎちゃったねー」
ハルノがそう言うとメタグロスの姿が徐々に変わっていく。
毛並みは黒く、二足歩行で、ハルノと同じように腕をクロスさせて………クロスさせて?
「いくよ、ゾロアーク」
おおおおぅ…………そう来ちゃったかー…………。
いや、まあアローラ行ったみたいだもんね。
そりゃ、習得してくるよな。
「それはハチくんの………っ!?」
ソニアも巨大な黒い塊に見覚えがあるのか、ハルノが何をやろうとしているのかようやく気がついたようだ。
だがもう遅い。
巨大な黒い塊は全てを呑み込まんと吸い込み始め、必死に耐えるパルスワンの身体が浮き始めた。
「ブラックホール・イクリプス」
ついにパルスワンが吸い込まれていき、爆発を起こして黒い塊は霧散し、残ったパルスワンが地面にドサッと落下した。
「パルスワン、戦闘不能!」
………………うん、ね。
Zワザまで使ってくるのね。
それまでに特性イリュージョンでメタグロスに化けて、敢えてメタグロスが使える技だけをチョイスして誤認させた上で、最後は正体を明かして即Zワザ。
これ、術中にハマったら俺も完敗する可能性があるわ。
そして、ゲッコウガが不貞腐れて、より変な戦術を編み出すまでがセットになると思う。オプションとしてジュカインがものまねでへんしんを習得しちゃう可能性だってないとは言えない。
それくらい今回のハルノの戦術は、トレーナー側もポケモン側も認識という点でハメられる危険がある。
これ、挑戦してくるようなトレーナーにはまず無理な戦術だろうし、ジムリーダーたちに取ってはかなり刺激的な視点になるのではないだろうか。
「メガシンカだけじゃなくてZワザもなんて………」
昨日はユキノが二度もメガシンカさせてきたため、ユキノの姉ということもあり、二度のメガシンカを警戒していたのだろう。
だが、一体目のバンギラスに早々にメガシンカされ、ペースを完全に明け渡してしまい、ゾロアークのイリュージョンで情報の誤認をされてかと思えば、Zワザ。そして俺の予想が正しければ、最後は本物のメタグロスがメガシンカしてくるのだろう。加えて、誤認情報と言えば専門タイプもそうで、はがねやむしタイプを専門にしたという話は事実だろうが、あくタイプもその一つというのをソニアは知らない。
今回の手持ちから見てもそれは明らかで、既にバンギラス、ゾロアーク、ワルビアル、アローラベトベトンと全員があくタイプを持っている。
一体、どれだけの情報を誤認させてるんだよ…………。
「ゾロアーク、交代だよー」
「………はっ、パルスワンも戻ってゆっくり休んで」
ハルノがゾロアークを引っ込めたことでようやく頭が回り出したのか、ソニアも続けてパルスワンをボールに戻した。
流石にショックがデカいか。
メタグロスだと思っていたら、違和感を覚えてゾロアークかと思ったけど、バトル前の会話からメタモンと予想したのに、その会話は全く関係なくてゾロアークだった、なんて。
「さて、仲間はずれもよくないし、サザンドラも遊びましょうねー」
「エモンガ、気をつけて」
それでも警戒を怠らないのはソニアの長所と言えよう。
というか、ここまでされて尚、バトルを続けられるなんて普通のトレーナーには無理だからな?
「サザンドラ、まずはリフレクターで捕まえて」
「こうそくいどう!」
ハルノの五体目として出てきたサザンドラは早速、エモンガをピンク色の壁で四方を取り囲んだ。
それもエモンガが加速した瞬間に。
「エモッ!?」
ゴチン! と。
当然、そうなるわな。
顔面からリフレクターに衝突してるもん。すげぇ痛そうな音だし。
「いわなだれ」
そこへ頭上から岩が次々と落とされ、エモンガはそれに巻き込まれていく。
「エモンガ、ほうでん!」
それでも何とか耐えたエモンガは放電で岩を弾き飛ばした。
「トドメだよ。もろはのずつき」
ただ、目の前には既にサザンドラが迫っており、エモンガが弾き飛ばした岩をも砕きながら頭突きでソニアの方へと吹っ飛ばした。
「エモンガ、戦闘不能!」
エグいわー。
ダメージ以上に精神に来るわ。
俺、しばらくハルノとはバトルしたくないぞ。
「ありがとう、エモンガ。ゆっくり休んでね」
「ちょっと短くなっちゃったけど、もう一体いるからサザンドラも交代ねー」
「……………」
サザンドラはやり足りないのか、ハルノをじっと見てボールに戻ろうとしない。
「美味しいの奢ってあげるから」
「サザァ」
ご褒美がもらえるということでサザンドラは戻っていった。
あいつ、さては食いしん坊だな?
「はーい、メタグロス。お楽しみの時間よ」
「メタァァァッ!」
うん、やっぱりこの声だよな。
「メタ、グロス………!」
ゾロアークのこともあって、ソニアが凄く警戒している。
「いくよ、ライボルト! メガシンカ!」
そして、最後のポケモンとして出てきたライボルトは、早速虹色の光に包まれて姿を変えていく。
「ラィィィィッ!」
「じしん」
より稲妻を連想させるようなトゲトゲした姿になったライボルトが、メタグロスを威嚇している。
ただ、その直後にメタグロスが地面を揺らして、ライボルトがたたらを踏んだ。
「いかくが効いていない………本物ってことで間違いなさそうね!」
「さあ、どうかなー」
いかくが発動してもメタグロスの特性であるクリアボディにより効果はなく、ただただ地面を揺らされバランスを崩し、ダメージを負っただけであるか、ソニアとしてはそうでもしないと目の前の姿が本物かどうか判断出来なくなっているのだろう。
「ライボルト、ライジングボルト!」
「メタグロス、こうそくいどうで突っ込んじゃえー」
未だフィールドに走る電気を活性化させて、メタグロスを全方位から電撃で襲いかかるも、当のメタグロスは一気に加速して一直線に突っ込んでいった。
「ほら、消えた」
そして、ライボルトの目の前に到達すると、フィールドに走っていた電気が消え失せ、メタグロスを取り囲んでいた電撃も霧散していく。
「ライボルト、かえんほうしゃ!」
ならばと目の前にいるメタグロスに炎を吐き出すライボルト。
「メタグロス、ジャイロボール」
それをメタグロスはジャイロ回転で掻き消してしまった。
「なっ!?」
「シャドークロー」
「ラィ!?」
驚くのも束の間、メタグロスが地面に突き刺した影の爪が、ライボルトの影から伸びて突き上げる。
「でんじふゆうで追いかけてねー」
それを力が反発する磁石の要領で身体を浮かせて、空中に舞うライボルトと並走していく。
「そこからかえんほんしゃ!」
高さが揃ったことでライボルトは身体を捻って向きを変えると、再度口から炎を吐き出した。
「ふふっ、メタグロス。メガシンカ」
うっわ、嫌がらせにも程があるだろ。
態々宙を舞うライボルトの目の前まで行ってメガシンカさせる必要あったか?
しかも今度は左耳の方が光ってるし。
やっぱりそのイヤリングは左右ともキーストーンだったのかよ。
「ここでまたメガシンカ!?」
虹色の光に包まれたメタグロスを見て、ハルノもキーストーンを二つ持っていることに驚いている。
まあ、Zワザもあったからな。
ライボルトみたいに初手でメガシンカさせて来なかったから、ちょっと警戒が溶けてしまっていたのかもしれない。
「サイコキネシス」
八本足になったメタグロスが超念力でライボルトを拘束。
そのまま地面に叩きつけた。
「みらいよち」
そして、未来に攻撃を仕掛けるとライボルトが起き上がった。
「ライボルト、ほうでん!」
「コメットパンチで突っ込んじゃえー」
メタグロスは前足四本をライボルトに向けて一気に駆け抜けていく。
放電とか麻痺するとか一切気にしてない様子。
メタグロスを止められなかったライボルトはドゴンッ! という音ともに弾き飛ばされていった。
「ニトロチャージ!」
だが、何とか身体を捻って着地したライボルトは、炎を纏って突っ込んでいく。
「くさむすび」
メタグロスが走るライボルトの足元に草を伸ばしてアーチを作るも、引っ掛かることなく、炎に焼き消されてしまった。
「ありゃ、焼けちゃった」
それでも特にハルノが狼狽えることはなくーーー空間が歪んでライボルトを撃ち抜いた。
今発動するのか。
ソニアが攻勢を仕掛けようとするタイミングで、ハルノの策が発動し、動きを封じ込めているな。
「でも、そういう未来だったんだから仕方ないよね。メタグロス、しねんのずつき」
仕方ないで済ませていいのだろうか。
ここまで流れが綺麗過ぎて、恐ろしさしかないぞ。
「ライボルト、オーバーヒート!」
走りながら炎を爆散させるライボルトにメタグロスがぶつかり、ソニアの方へと吹き飛ばしてしまった。
炎を全くモノともしてないんだけど。
あなた、その前にほうでんを受けて麻痺してなかった?
「ライボルト、戦闘不能! よって勝者、ハルノちゃん!」
もうヤケクソなダイゴさんの判定が下され、これにてバトル終了。
うん、エグかったわ。
四人の中で一番エグかったわ。
「…………ライボルト、お疲れ様。戻ってゆっくり休んでね」
そう言ってライボルトをボールに戻したソニアは、膝から崩れ落ちるように倒れると、膝を抱えて丸くなった。
「………うーん、むりー……、こんなのむりー」
ゴロゴロと転がっては「むりーむりー」と鳴いている。
「ソニアさんが壊れた………」
「壊されたの間違いでしょ」
「壊した一角がそれいいます?」
コマチとイロハがゴロゴロ転がるソニアを壊れた物を見る目で見ている。
というか近寄ってツンツンし始めた。
「姉さん、やり過ぎよ」
「えー? 手の込んだことしたのってゾロアークだけなのにー?」
「たはは………あたしも無理…………」
ユキノは懐かしいこめかみを抑えた姿をしてるし、ユイは若干ソニアっぽくなっている。
「僕はハルノちゃんとだけはバトルしたくないね」
「えー? ハチマーン、みんなが文句しか言わないんだけどー?」
審判をしていたダイゴさんまでバトル拒否を示すと、俺に話が飛んできた。
「いや、言いたくもなるわ。怖ぇよ、何もかもが」
「えー? 結構楽しかったよ?」
「そりゃ、やる方はな。やられる方は堪ったもんじゃない」
「だって、みんなと同じことしてもつまんないし? お母さんも力を示せって言うし?」
言いたいことは分かるが、発想がもう鬼畜なんだよ。
ソニアが壊れちまったぞ。
「それにソニア博士っていじめ甲斐があるでしょ?」
あかん! これはあかんやつやで!
という脳内マサキが警告を出してくる。
いや、何で急に出てくるよ、マサキ。
「ハルノ、心を折り過ぎてはヒキガヤ君の足枷になるわよ?」
「うーん、これでも結構手加減してたんだけどなー」
母親に指摘されても、当の本人はあれでも手加減していたらしい。
「あれで手加減してたのね………」
ユキノも呆れている。
いや、あれは手加減というより手抜き………うーん…………手加減になるのか?
「まあ、多分ワルビアルでエモンガを倒せてただろうし、サザンドラに交代しなくてもゾロアークでエモンガを倒せただろうし、何ならバンギラスで行けるとこまで行くって手もあっただろうしな。最悪、バンギラスとメタグロスだけで勝ててたかもしれない」
だから手加減と言えば、手加減なのかもしれない。
「ハチマン、流石に私にアレは無理よ?」
「いや、ユキノはあのままでいいから。ハルノみたいなのが他にもいたら、絶対荒むって」
ユキノまでハルノみたいなバトルをしなくていいから。
ユキノはユキノで明確なブレーン像が出来上がってるんだから、今のままでいてくれ。
さて、そろそろ壊れたソニアを回収するとするか。
「ほら、ソニア。そろそろ起き上がれ」
未だゴロゴロと転がるソニアに手を差し出してみるも反応がない。
「午後もバトルがあるのを忘れるなよ?」
「えっ………? まだやるの? あんなバトルされたのに?」
現実を叩けつけてやるとピタッと止まった。
ハルノのバトルで相当ダメージを受けたようだな。それでもまだ文句を言えるくらいなのだから、最後のザイモクザを相手しても何とかなるんじゃなかろうか。
「大丈夫だ。最後のは読みとか誤認とか、そんなの以前の問題だから」
「全然大丈夫じゃないんですけど!?」
「それにな。ハルノのポケモンにメタモンはいない」
「えっ?」
事実を告げると再びソニアが停止した。
「メタモンはメグリ先輩のポケモンなんだよ」
「えっ?」
さらにぶち込むと涙目になり。
「あとな、ハルノの専門タイプははがねやむしタイプも間違いではないだろうけど、一番はあくタイプだと思うぞ」
「えっ?」
「いやー、面白いバトルだったわ。あんなバトル初めて見たわよ」
「あら? 現役チャンピオンに褒められるなんて光栄ね」
その目でハルノを見ると、シロナさんに絡まれており、ソニアの方を一切気にしていない。
「コマチちゃーん!」
「おーよしよし、怖かったですねー」
遂に我慢の限界に達したのかコマチに泣きついた。
俺はまだ敵認定なのね。
別にいいんだけど。
もうソニアはコマチに任せておこう。
「………それでどうです、娘さんのバトルは?」
「あら、文句なんてあるはずがないわ」
「そりゃよかった」
ママのんから見てもハルノのバトルは合格だったらしい。
「ヒキガヤ君こそ、ハルノはお役に立てたかしら?」
「ええ、十二分に。ユキノとは違った像が見えてきましたよ。何ならああいうのの方が重宝されるかもしれないレベルですよ」
「それだけ褒めてもらえるのならば、母は何も言うことはありませんよ」
本当にユキノシタ姉妹は貴重な逸材である。
それを俺一人が、それも社会的には既に故人である俺が二人とももらってしまってもいいのだろうか、という悩みは尽きない。だが、それ以上に誰かにくれてやる気にならないんだから、その責任はちゃんと取るしかないだろう。
「ヒキガヤ君、改めて娘二人をよろしくお願いします」
「こちらこそ。こんな死人で申し訳ないですけど、その責任はちゃんと取るつもりです」
「ええ、お願いね」
「うちの子もよろしくねー、ヒッキーくん」
「うす」
これは義母二人に認められた、ということでいいんだろうか。
取り敢えず、ちゃんとバトルフロンティアを運営出来るようにしないとな。