オリキャラモブがしゃべったり、戦ったりする。
アンチ・ヘイトは保険。ねつ造、独自設定ガンガン出てくる。
十二番隊一筋二十年、現世駐在歴五年。
「魔が差した」と思った瞬間は、正直数え上げたらキリがないが。
昼過ぎ。任地の街角をふらふら見回っていたら伝令神機が鳴った。近くに虚が出たらしい。
自分の霊圧知覚でも異変を察知し、(なるほど虚だなあ……)などとしみじみその霊圧を確かめていると、ほどなく十二番隊内だけで使用している独自回線に追加の指令が入った。
曰く、「捕獲優先度・三」。
虚の観測、データベースとの照合、指令の発信は、実質技術開発局が担っているので、こういう、虚の出現に合わせて十二番隊士にだけ独自の指令を出すなどということも出来るらしい。
他の隊の現世駐在員なら、虚の出現を感知したら即座に討伐に向かえばいいのだろうが、我らが十二番隊では違う。
この「捕獲優先度」が低い虚の場合は普通に討伐して問題ないが、「捕獲優先度」が高い場合は、下手に討伐してしまうと、代わりに自分自身が技術開発局に、というか涅隊長の前に、実験体として進み出なくてはならなくなる羽目になる。
今回、「捕獲優先度・三」は、「出来る限り生け捕りにせよ」ということ。まあ、さらに穿って言えば、「生け捕りにするのが最大限望ましいが、平隊士(の俺)程度の実力で瞬殺できてしまうほどのどうしようもない雑魚であれば、その限りでない」というくらいの意味だ。
――「四」でなくてよかったと心の底から思った。
「捕獲優先度・四」の意味は、「刺し違えても生け捕りにせよ」だ。力及ばす逃がしてしまっても、逆にうっかりやりすぎて倒してしまっても、もれなく涅隊長実験体コース行きとなる。
ともあれ俺はこの「捕獲優先度・三」を頭に重々叩き込みつつ、「虚出現」の最初の指令とともに送られてきた虚の基本情報の方に目を通した。
そして、すぐに後悔した。うっかり、何の心構えもなく情報を見てしまったことを。
伝令神機から吐き出されてきた紙切れにはこうあった。
「呼称:オルグシーレーン
特殊な音声を発して整、及び霊的濃度の高い魂を持った人間を誘引し、捕食する。但し、この音声は死神には聞こえない模様。死神1名を殺害」
きっと十三番隊や十番隊なんかに所属するまともな護廷隊士だったら、こういう時「死神1名を殺害」という部分に一番注目するんだろう。
だが、俺は違った。いや、情報を見る前に、頭を「十二番隊に二十年漬かったモード」から「護廷の死神モード」にちゃんと切り替えていれば話はまた違っただろうが、その時の俺は駄目だった。
『但し、この音声は死神には聞こえない模様』。
この一文が頭から離れない。
整、及びいわゆる『霊感の強い人間』に聞こえて、死神に聞こえない音声とは何なのか。
というか、そもそも整と『霊感の強い人間』にも存在に相当差があると思うが、この二つを等しく誘引できる音声とは何なのか。
というかさらに言えば、死神には感知できないのに、何故それが『音声』だと言えるのか。
……一度気になり出すと止まらない。
この時点ですでに俺には、虚オルグシーレーンに対する敵意も殺意もまるでなかった。
ただ、会いたい。実物に会って、あわよくばその出している音声を聞いてみたい。何故その音が整と人間には聞こえて、死神には聞こえないのか、それもわかったら知りたい。
俺はとりあえず全身を探った。
整と人間には聞こえて、死神には聞こえない音。というとそれは、霊圧がある一定以下の者にしか聞こえない音なのではないか、と思ったのだ。その仮説を検証すべく、一時的に霊圧をガクンと下げられるような薬か道具かを何か持ってなかったかと死覇装の中をくまなく探ってみたのだが、あいにくそんなに都合よく目的ぴったりのものは見つからなかった。
義骸、は二年前に自腹を切って技術開発局の皆さんに作ってもらったのを保管場所に置いてあるが、取りに行っている間にオルグシーレーンが逃げてしまうかもしれない。
斬魄刀を始解して自分自身に突き刺せば、霊圧は限りなくゴミにまで下げられるが、そうすると今度は、その後戦って捕獲することが出来なくなってしまう。
早くも手詰まり感を覚えて、俺は何となく手の中の伝令神機を見つめた。
この通信回線の向こうにいる技術開発局の皆さん。あの頭のいい人たちだったら、この状況で、今の俺よりもよっぽどいいアイデアを思いつくんじゃないかな、と思ったのが一つ。
あとは、今この伝令神機を技術開発局に繋いだら、何か都合よく阿近三席あたりが出てくれて、都合よく素敵なご都合道具を融通してくれたりしねえかな、と思ったのが一つ。
だが、そんな馬鹿なことを考えていたおかげで、ふいに思いついた。
虚の現在地を探り、急行する。
オルグシーレーンはひとけのない都市公園の小さな広場で、小学生くらいの女の子を自らの目の前までおびき寄せ、今にも捕食しようとしているところだった。
それを見て俺は、家々の屋根の上を走りながら悟魂手甲を右手にはめた。
そして、最後の屋根を蹴った勢いそのままに、ぼんやりと佇んでいる女の子に向かってダイブし、――その左頬を、手甲をはめた右手で思いっきりはたき飛ばした。
ドサッと、女の子の肉体が横ざまに倒れて地面の上を滑る。
俺の腕の中には、手甲の効果で肉体から離れた彼女の魂魄だけが残った。
順調に思惑通りに進行している状況に「――ッし!」と声をあげながら、俺は女の子(の魂魄)の背中にぴったりと頭を押し付ける。そうしてから、その肩越しに目の前にいる虚に叫んだ。
「そこまでだ、オルグシーレーン! この子は俺が確保した! ――さあ、鳴いてみろォ!!」
「……え、なに? 変態?」
竹で出来た横笛を蛇のようにグネグネ丸めて先端に仮面を付けたようなその虚、――オルグシーレーンは、突如現れた俺の奇行を見て、明らかに『ドン引き』と思われる表情をした。
整になっても、地縛霊になっても、虚になっても、死神になっても。人間どんな状態になっても、『ドン引き』という表情は出来る、というのはこの仕事をしていて学んだことの一つだ。
ただ、裏を返せば、そう学ぶ程度にはあらゆる存在に『ドン引かれ』慣れている俺は、今さらオルグシーレーンのこんな反応程度ではめげもしなかった。
「うるさい! 職務上の必要だ!」
と、さらりと嘘を言い返す。
そう嘘だった。テンションが上がり切っていてついそう答えてしまったが、技術開発局からの指令は「捕獲」のみ。ここまでのデータ採取は求められていない。
オルグシーレーンの音声を聞いてみたい、というのは、100%純粋に、ただの俺の好奇心だ。
そして、先ほど手詰まり感を覚えながら伝令神機を眺めていて思いついたのも、まさにこのことだった。
指令を見て色々考えてしまったが、「何故その虚の出す音が整と人間には聞こえて、死神には聞こえないのか」ということは、結局は技術開発局の頭のいい皆さんに解明を任せればいいことだと、ふいに思い至った。大体、そのための捕獲指令だ。
俺が、オルグシーレーンに会って知りたいことは一つだけ。
奴はどんな音声を出しているのか。死神には聞こえないという、その音が聞きたい。
そう目的がはっきりすると、その後俺が取るべき行動も自然と定まった。
現世には「骨伝導」及び「骨導超音波」という言葉がある。
「骨伝導」とは振動している物体を頭部や頸部に押し当て、鼓膜を通さず直接聴覚神経に振動を伝えて音を感知する方法のことだ。この方法のすごいところは、本来人間の可聴域にない超音波も、この方法であれば聴覚で知覚できる(骨導超音波)ということだ。
俺はこれと同じことが、霊子体でも可能なのではないかと考えた。
すなわち、オルグシーレーンの音声を聞ける整や霊感の強い人間の魂魄にぴったりと張りついてその音を聞けば、俺の肉体そのものを通じて奴の音声を感じ取ることが出来る。
ということで、傍から見れば実際、変態ロリコンド卑怯ヘタレ野郎にしか見えないであろう俺の現在の体勢は、俺自身にとっては大変大真面目な観測体勢なのだった。
とはいえ、それをオルグシーレーンに説明するのも面倒だったので、俺は別の言葉を続けた。
「俺は今、上からの指令でお前を生きたまま捕獲するために動いている。倒すつもりはない。ただ、その前に一度、お前の誘引音声を聞いてみたいんだ! だから、鳴いてくれ!」
「いきなり死神にそんなこと言われて、『はいそうですか』って言うこと聞くヤツいる?」
「怪しいのは重々承知だ。だけど聞きたいんだ! ――頼む。鳴いてくれたら、出来る限りで何でもする。捕まえる時痛くしないし、この子だってお前の前に素直に放すよ!」
「へえ。そういうこと言っちゃうんだ……?」
俺の言葉にオルグシーレーンは仮面の口もとをグニャリと歪ませて笑い。
俺の腕の中にいる女の子は「……ッ」と短く息を飲んで言葉もなく体を強張らせた。
恐怖のためか、女の子の体はガタガタと小刻みに震えはじめている。それをぴったりと背中に張り付いて体全体で感じながら、俺は(まあ、「素直に放す」とは言ったけど「捕食を許す」とは言ってないし)などと思っていた。ただ、今それを女の子に伝えてしまうと色々と段取りが狂ってしまうので、俺はただ黙ったままオルグシーレーンの様子を窺った。
「死神にも、あんたみたいのがいるんだね」と、オルグシーレーンは笑って言った。
「いいだろう。そこまで言うなら聞かせてやるよ。もっとも、死神のあんたにアタシの声が聞こえればの話だけど。――ほら、」
そう言ってオルグシーレーンは、その細長い体をユラリと意味ありげに揺さぶった。
(――やった!)と思った瞬間だった。
「ガッ……!? !? !? !?」
突然、左胸の中で何かが爆発したような衝撃が走った。と、ほとんど同時に喉から何かがせり上がって、ゴフリと口から溢れ出した。
――大量の血液だった。
そのまま、自分の体に一体何が起きたのか、とっさに何も把握が出来ないうちに、気がつくと俺は地面に横倒しに倒れていた。「――なーんて、歌ってやると思ったか!! バーカ!!」と、オルグシーレーンが高笑いしながら毒づく声が遠く聞こえる。
「てめえみたいなクズ野郎が一番信用できねえんだ、今も、昔もな! アタシャ知ってんだよ。このクソ死神が! アハハハハハ! バーカ、バーカ……」
段々暗く、狭くなり行く視界の中で、女の子の足がゆっくりと前に動き出すのが見えた。
オルグシーレーンはまだ何か言っているようだったが、徐々に意味が取れなくなってきている。
そんな諸々を感じるともなく感じながら、俺は瀕死の現状で可能な限りで必死でもがいていた。
……左手の爪。右の奥歯。尾てい骨。両くるぶし。
定期健康診断のついでに勝手に仕込まれたり、自分から頼んで入れてもらったりした痛覚抑制剤の隠し場所だ。意識が完全に途切れる前に、このどこかのカプセルを壊して薬剤を体内に投与出来れば、この状態からでも立ち上がれる。
成功したのは、右の奥歯だった。
「……あら、まだ立てるの。しぶといね」
「護廷のためにすべてを懸けよ、っていうのが俺たち死神の教えでね。で、それを最も言葉通りに、忠実に実行しているのが、俺のいる十二番隊なんだ……」
時折ふらつきながらもゆっくりとその場に立ち上がった俺を見て、オルグシーレーンが顔をしかめる。虚の傍らにはいつの間にか女の子の姿があった。俺が地面に倒れている間に、再び音声で誘引されてしまったらしい。
俺はオルグシーレーンの言葉に適当なことを答えて間を取りながら、それとなく右手を背中に回して左胸の裏を探った。左胸の、心臓の真裏を触って自分の推測がどうやらある程度は正しそうなのを確かめると、腕を戻してオルグシーレーンに言った。
「――『
「ん?」
「お前の誘引音声の仕組みだよ。音声を聞かせたい相手に端末を取り付けて、そこに伝令神機の通信に使うような特殊な霊子波を使って、音声を流してた。整とか、人間とか、死神とか、そういう存在の違いは関係なかった。……俺の心臓を破裂させたのも、その能力の応用だろ? まさか、そういうことまで出来るとは思っていなかったけど」
死神の俺が音声を聞かせろとねだった時。オルグシーレーンは実際に行動を起こす直前まで、「でも、あんたどうやって音を聞くつもりなの?」と、そんな当然の疑問をまったく口にしなかった。
俺が倒れている間、オルグシーレーンは声に出して俺を嘲笑い罵っていたのにも関わらず、女の子はオルグシーレーンのもとに誘引されていた。
今から思えば、そんなことも違和感として上げられるが。
俺の推論は結局、左胸の心臓が破裂する直前に背中にかすかな気配を感じたこと。さらに実際に触ってみたら、確かに何か貼り付けられた後があったこと。ただそれだけに依っていた。
そんなザル推論でも口に出したのは、決着を付ける前に、やっぱり答えが欲しかったからだ。
まあ、「ブッブー! 何言ってんの、あんたバカじゃね?」とかオルグシーレーンに返されたら、そのまま黙って斬魄刀抜いて斬りかかるつもりでいたが。
だが、果たして。オルグシーレーンは、
「へえ、ご名答。でもそれがなに?」
と言った。
「あんたさ、自分の今の状態わかってる? 今さらそんなこと知って何か意味あんの?」
「うん、まあ…… 俺のとこの隊長は怖い人でね。そろそろ気持ち切り替えて本気で任務に励まないと不味いかなあ、と、ちょっと今さらだけど思ったんだ。そもそもこんなに大怪我するつもりもなかったし……」
「いや、意味わかんねーし。あんたのそれはもう、『大怪我』とかそういうんじゃねえだろ」
「死にかけて頭湧いてんの?」と。オルグシーレーンはさらにそう冷たく吐き捨てたものの、同時にその長い体の先で女の子の体を絡めとって、俺への盾とするように頭の近くにそれを掲げた。
せっかく俺を瀕死と見て取って油断していたようだったのに、(いらんこと言ったかなあ……)と思う。しかし正直、俺もその時は相手の言葉に言葉を選んで返しているほどの余裕はなかったのだ。
状況が不味い。
何が不味いって、任務でも何でもない、ただただ純粋に俺自身の好奇心を満たすためだけに取った行動で、予想以上に負傷してしまったのが不味い。
これで任務まで失敗したら、涅隊長に、実験体にすらされないかもしれない。
……細切れにされて虚の餌か。ドロドロに溶かされて何かの試薬に混ぜられるか。
「――見るな、語るな、畏れよ。『
斬魄刀をおもむろに腰から引き抜き、正眼に構えて解号を口にした俺を、オルグシーレーンは冷めた目で見ていた。確かに解号を唱えたはずなのに形の変わらない斬魄刀を見て、「なんだ。やっぱり瀕死じゃん」とその口がつぶやくのが見えた。
だが、次の瞬間、オルグシーレーンは大きく目を見開いて身をよじらすことになった。
瀕死のはずの俺が、一瞬にしてその目の前に現れて刀を振り回したからだ。
「――バカなッ!! てめえ、何だその動き!?」
「心臓が潰れてんだぞ!?」と、崩れた体勢を立て直しながらオルグシーレーンが喚く。
ただ、俺はとりあえずその喚きは無視して、斬魄刀を思いつく限りに振り回し続けた。
何故こんなことをしたかと言えば、俺の斬魄刀の始解には殺傷能力がほとんどないからだった。
一応、刃が触れた範囲には、特殊能力を及ぼすことが出来る。が、それも通常は一度や二度斬りつけただけでは現実的な効果が出るものでもなかった。なので、戦闘の際には出来るだけ先手を取り、相手が俺の始解『逆罰』の能力に気がつく前に、散々に斬りつけて効果範囲を増やしておく、というのが今日に限らず俺の基本戦法なのだった。
初撃で斬りつけた『尾』の輪の中から女の子を救出し、ついでにその続きの胴体を叩き、さらに一度地面に降りてから飛び上がって胸元を斬って、その勢いですこし離れた場所に離脱する。
斬魄刀で虚の肉体に斬りつけるたびに、ポヘン、ポヘンと何だか情けない音がする。
俺の斬魄刀は始解しても形が変わらないのではない。
始解すると刃が潰れ、重さも竹光――つまり竹で作った模造刀同然となる。見た目は一応変化はしているが、遠目にはほとんど感じ取れない程度なのだ。そして、完全に「斬れない刀」となる。
代わりに特殊能力はある。
それが、斬りつけたものの霊子の構造を変え、『硬く・脆く』する能力。
「――ッ!! てめえ、アタシに何をした!!」
体勢を元に立て直したオルグシーレーンが、その長い『尾』をほどいて俺を攻撃しようとして、そこが女の子を捕まえていた状態のまま、硬く固まって戻らないのに気づく。
俺は奴が激高している隙に再びその胴体に向かって走り、ボヘン、とまた一回、情けない音を立てて胴の低い部分に斬りつけた。そうしてさらに、胴に沿って斬りつける場所を探しながら、頭上の虚の顔に向かって「塩の結晶って知ってるか!?」と叫んだ。
「現世の生まれなら、『イオン結晶』って言葉でも通じるのかもしらんけど。お前の体は今、ところどころその結晶と同じ状態になってる。――その部分はものすごく硬いが、特定の方向からの力にはものすごく脆い。下手に動くと自壊するぞ!」
「な……!?」
胴回りをちょろちょろ走り回る俺を攻撃するためか、或いはすでにあちこち固まってしまった体を何とかしようと思ってか、長い胴をグネグネと打ち振ってもがき回っていたオルグシレーンが、その俺の言葉に動きを止める。
頃合いだろうと思って、俺はそこで一旦胴から離れ、その顔面と真正面から向き合える位置に回り込んだ。死覇装のふところを探って、手のひらに収まるくらいの四角い紙包みを取り出す。
技術開発局謹製、虚捕獲用麻酔薬。
包装を解いて、中から出てきた楕円形の丸薬をオルグシレーンに投げつけながら、俺は言った。
「安心しろよ。今から行くところで、お前のその体は治してもらえる。……もっとも、その後のことは保証が出来ないけれど。もしかしたら生き残れるさ、俺みたいに」
ハッと目を見開いたオルグシレーンの顔の前で、丸薬がポンッと軽い音を立てて破裂した。
技術開発局特製の薬はさすがに効きが早く、オルグシーレーンの体はほどなく地面に完全に横倒しになった。その顔の前にかがんで、俺は最後に一つ種明かしをした。
俺の『答え合わせ』にこの虚はちゃんと答えてくれたから、何となくそのお返しみたいなものだ。
「……さっきも言ったけど、俺のとこの隊長は怖い人でね。何年か前に、お前よりもう少しだけ珍しい能力を持った虚の捕獲任務を失敗して、きつーいお仕置きをくらったことがあるんだ。その時から、――俺の体には、臓器がすべて二つずつ入ってるんだよ」
もう意識も無いだろうと思っていたが、オルグシレーンは俺のその言葉に、もう一度また目を大きく見開いた。仮面の口もとがぶるぶる震える。が、結局そこから、何か意味ある言葉が出て来ることはもうなかった。
そのまましばらくして、オルグシレーンは突然、糸が切れるように目を閉じて動かなくなった。
そうして、虚が完全に動きを止めたのを確認してから。
「あ――……」と声を出して息を吐いて、俺もその場にへたり込んだ。
これから、その怖い怖い涅隊長が統べる技術開発局に、「捕獲任務終了」の報告を入れなくてはならない。もちろん、負傷報告と治療要請も一緒に。
女の子の魂魄を肉体に戻し、記憶置換を施した。
その後、オルグシレーンを引き取りに来た技術開発局の局員に、事の経緯を簡単に話すと、「何だ。じゃあそれだけやって、結局こいつの誘引音声は聞けず終いだったのか」と笑われた。
「ま、でも別にいいじゃねえか。これから実験室で隣同士になれば、特殊音声の一つや二つ、嫌でも毎日聞けるようになるだろうぜ」
その多分ジョークだろうが、もしかしたら若干本気かもしれない局員の言葉を聞いて、(軽率な好奇心に身を任せるのは今度こそやめよう)と、つくづく思った俺だった。
十二番隊に入って、二十回目くらいになる、同じ決意だった。