一人の囚人は泥を見た。
一人の囚人は星を見た。

では、違った道筋を辿った星の末裔は――。

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スタンドって言うか、本人って言うか。


一人の囚人は呪いを見る。

「お前は何のために呪術師になる。戦う理由はハッキリさせておけ、“もしも”のときにお前がいいわけを考えられんように」 

 

 いつだったか、コワモテグラサンの夜蛾センセーの問いはおれの中に浴槽の汚れのようにこびりついて剥がれない。

 

 

                  おれには“悪霊”が憑いている。

 

 この世に生を受けた頃から見えている“ソイツ”はおれのご先祖様の宿敵で何故かおれがこの世に生まれてくる際についてきてしまったらしい。

 元々、そういった“不思議なもの”とは縁がある家だとは言うが、よもやおれがそんなものを連れているものだから、家族以外の人間とはなかなか顔を合わせることがなく育った。

 やがて小学校に上がる年となると、“ソイツ”はようやくおれに興味を持ち始めたようでおれの様子を観察し始めた。

 

「千丈。貴様は何故そんなにひ弱なのだ?この宿敵(ボディ)の血筋ともあろうものが情けない」

 

「放っておいてくれよ。成長期はこれからなんだ。アンタも悪さしないでくれよ」

 

 “ソイツ”は身体のことを宿敵と呼ぶ。

 

 じいちゃんも何故だかじいちゃんより若々しいひいばあちゃんもおれを見る目が怖い。

 

 じいちゃんは怒りの眼差しを、ひいばあちゃんは悲しみの眼差しを。

 

 ソイツ―――金髪の吸血鬼だというディオはじいちゃんのじいちゃん、おれの先祖の身体を奪ったという。

 ひいばあちゃんにとって、そのご先祖様は赤ん坊だった自分を助けてくれた恩人であり、じいちゃんにとってのご先祖様と言うのはじいちゃんのばあちゃんの大切な人だという。

 二人ともおれは大好きだけれど、おれを通して違う誰かに複雑な感情を向けているのは気分がいいとは言えない。

 

 吸血鬼だというディオがどうして、おれに憑いているのかは分からないけれど、人間は時として精神エネルギーのヴィジョンを扱う能力に目覚めるのだという。

 それがおれがディオを悪霊として憑かれている理由だというが、ディオはそれを“スタンド”と呼んでいた。

 

「かつては貴様の祖父とこのDIOはスタンドで鎬を削ったものだが……。どうも貴様の力によるものなのか、この私はスタンドを出すことができん。必ず原因を突き止め、お前のその息の根を止め、我が宿敵の血で以って再び世界をこの手に収めてやるぞッ!」

 

 小学生の頃、ふと昔話を始めた吸血鬼はそんな事を高らかに言って大声で笑っていた。

 

 じいちゃんとディオはエジプトで戦ったらしい。

 じいちゃんの友人のシーザーおじさんと占い師のアヴドゥル、愉快なフランス人のポルナレフの星屑十字軍(スターダストクルセイダース)はエジプトはアスワンにてディオと対決した。

 その結果がどうなったのか、どういった詳細なのか武勇伝を孫に語って聞かせたがるタイプのじいちゃんにしては珍しく、その詳細をあまり教えてくれることはなかった。

 

 ただ、その中で犠牲者が出たことでじいちゃんにも思うところがあり、苦労して倒したのにもかかわらず、自分のじいちゃんの身体を奪った相手が魂となって自分の孫にとりついているのであれば、複雑な気持ちになるだろう。

 たとえるならば、自分が苦労して倒したゲームのボスがまた復活してきてより強くなって帰ってきたような絶望感やイライラ感とでもいうのだろうか。

 

 おれが生まれたとき、悪霊のディオの影響で母さんが死んでしまったことでおれは母親の声を聞かず、腕に抱かれたことがないまま育った。

 だからなのか、娘の死がおれのせいではないと頭では分かっていても、じいちゃんが時々おれを見る目はとても鋭くなる。

 母さんの最期に間に合わなかったことで、父さんとも顔を合わせたことがなかった。

 

 じいちゃんやばあちゃんがいないときはじいちゃんの戦友のシーザーさんに預けられ、おれはシーザーさんが父親代わりと言っても良かった。

 

「JOJOも別にお前を愛していないわけじゃあないのさ、センジョウ。ただ、ちょっと距離をつかめないってだけなんだよ。JOJOも娘を――お前の母さんを亡くしてしまったし、JOJO自身も父親を知らないからね。どう接したらいいのか迷ってるんだ」

 

 シーザーさんは、シーザーおじさんはじいちゃんの習っていた波紋という技術を扱うという意味では兄弟子に当たり、色々と付き合いがあるようだった。

 おそるべき人ならざる柱の男との戦いの後、ディオとの戦いに臨んだじいちゃんに兄弟子として戦友としてエジプトに渡り、それからも交友が続いているのだから、この二人はとても仲が良い。ほとんど兄弟かもしれない。

 戦友の助けになれるようにと日本に居を構え、金髪のダンディなおれの尊敬できる人は奥さんが留守にしている間に中学生のおれを家に呼んでくれ、よく昔の話やおれに女の口説き方とかを教えてくれる。

 たぶん、シーザーおじさんがおれにじいちゃんや一族の使命とかを教えてくれなかったら、おれはたぶん何も知らないままでじいちゃんのことを嫌っていたことだろう。

 

 そういう意味でも、シーザーおじさんはおれの恩人で人生における師匠と言えるだろう。

 一度、波紋を教わりたいと行った時はこれ以上にハッキリとした鋭い眼差しで、

 

『吸血鬼の魂を悪霊―――スタンドとして目覚めさせているのだから、その状態で波紋を学んでセンジョウの身になにかあってはいけない。もう少し自分のことをしっかり考えるんだ、坊や(バンビーノ)

 

 と怒られてしまった。

 

『でも、君が波紋を学びたいということは、なにかしら理由があってのことなんだろう?何かを為す為に学ぶというのは大切なことだ。その気持ち、忘れないで欲しいな』

 

 と微笑んで頭をなでてくれた。

 シーザーおじさんは、おれのオヤジだった。

 

 なのに、その数週間後、亡くなってしまった。

 

「センジョウ!お前のスタンドとなっとる吸血鬼が!!その吸血鬼がシーザーを殺したんじゃあるまいな!?」

 

 葬儀の会場でかつてないほどに取り乱したじいちゃんは、焦燥の表情でおれの肩を掴む。

 戦友を、同門(あに)を亡くしたことで動揺するのは分かるが、その少しでも―――。

 

「……いや、スマンかった。ワシと同様にお前もシーザーとは仲が良かったからの」

 

 じいちゃんは、おれを抱きしめた。

 初めてのぬくもりだった、血の繋がった家族に抱きしめられるのは、エリザベスおばあちゃんを除けば、たぶんじいちゃんがスージーおばあちゃんを含めて三人目。

 優しいおれの親父のようだったシーザーおじさんも、母さんもいない。

 

「……ちょっと我儘言わせて欲しい」

 

「なんじゃ?」

 

 身長が190以上あるじいちゃんがおれと視線をあわせるように屈んでくれた。

 たぶん、こうしてもらうのは初めてだろう。

 シーザーおじさんはそういうことをお見通しだったのかもしれない、不肖の弟弟子(せんゆう)は孫の悲しみに寄り添うことができる祖父になれるのだと。

 

「また教えてくれよ。じいちゃんの昔話とかさ。おれ、自分の家族のことよく知らないんだ。別にそんな無理とは言わないけど……」

 

「それくらいどうってことないわい。これからはお前と過ごせる時間を増やそう」

 

 その大きな手でおれの頭をなでながら、じいちゃんはシーザーおじさんとエリザベスおばあちゃんと写っている若い頃の写真のようにニカッと歯を出して笑った。

 

                 ☆★☆

 

 じいちゃんはアレから、いっしょに過ごす時間を増やしてくれた。

 そして、エリザベスおばあちゃんの下でシーザーおじさんと波紋を学んだこと、人智を超えた存在との死闘のこと、エジプトでの戦いなど色んな事を教えてくれた。

 中学三年生となる頃にはおれもじいちゃんの遺伝子のおかげで身長がかなり伸び、180センチは軽く超えていた。

 高校受験を済ませ、あとは4月の高校生活に胸を躍らせる。

 このときまで全くディオの奴は出てこなかったのは、おれがじいちゃんやばあちゃんと過ごしている間に笑顔を取り戻していてつまらないと思っていたのかもしれない。

 

「なァ、ジョジョー!なんでそんなに乗り気じゃあないんだ?」

 

「悪霊が出るといわれている場所にノリ気で行くと思ってんじゃあないだろうな?明日はじいちゃんとばあちゃんの結婚記念日なんだよ。だからさっさと帰らせてくれないか」

 

「ンなこと言わないでくれよォ、ジョジョ。他クラスの女子はお前が来るって言うんだから来てくれたんだぜ?」

 

 夜に友人に呼び出されたかと思えば、それはクラスの打ち上げをしたいとのことだった。

 正直、明日にじいちゃんとばあちゃんの結婚記念日を控えているおれとしては、早く家に帰ってプレゼントを悩みたいところなのだが、この友人、押しが強くてとても面倒だ。

 とっとと終わらせて帰りたいところだが、いつも上手いいい方で帰るのを邪魔してくる。

 

 まぁ、おれがあまり口がそれほどじいちゃんと比べたら回る方ではないので友達が出来ているかどうかを心配されているのは事実だし、たまにはこいつに付き合ってやろうと思う。

 おれがちゃあんと学生らしく毎日を送ることがきっとオヤジ代わりのシーザーおじさんとじいちゃんたちに対する恩返しにもなるだろうから。

 

「はぁ。そんで、胆試しか」

 

「ヤになっちゃうな。ミシロもそのクチ?」

 

「お前は?」

 

 冬の墓場、それも薄暗く郊外に離れたところでお調子者の提案で「カップル誕生の為にも男女で班分けだ!」とのことであまり喋ったことのない女子と組むこととなった。

 

家入硝子(いえいりしょうこ)。そういうあんたは御城千丈(みしろせんじょう)。有名だよ、不動産王の孫だって。さっきの話を聞いてたんだけど、意外と祖父母孝行なんだな?」

 

 泣き黒子が特徴的なその女子は陰ながら人気があるという女子だった。

 人の名前をあまり覚えるのが得意でないおれのことを知っているようだが、一体どんなことをお調子者に吹き込まれたのだろうか。

 

「そいつはどうも。だから、とっとと済ませて帰る」

 

「ふうん?意外と幽霊とか信じるんだ。かわいいところもあるんだね」

 

「そんなんじゃねえ」

 

 家入はどうやら人をからかう性質(タチ)のようだ。

 墓地の奥にあるお堂の札を懐中電灯を二人で一つ持ちながら奥へと進んでいくシンプルなものだが、冬空はコートにマフラーを着用していても顔に当たる風が冷たい。

 

 奥へと進む間にそれとない会話をしていたが、その間、ずっと“なにか”に見られている気がする。

 

「フン。あの男(ヤツ)の血筋らしく、最低限は鋭いところはあるか。でなければ、当の昔に殺しているところだがな」

 

 傲岸不遜でデカくて黄色いヤツの声が聞こえた気がした。

 お前がシーザーおじさんを殺したんじゃあないのか、という言葉をグッと押し殺し、おれと家入はお堂の中にあるお手製らしいお札を取ると――。

 

 世界が停まった

 

「今の状態では、長い間は時が停められん。かつては10秒は停められた。だが貴様の祖父に敗れた後は10秒も停められん。手短に言うぞ、千丈」

 

 傲岸不遜で黄色い装束の吸血鬼は、DIO――神を名乗る吸血鬼はつまらなそうにその拳を振るった。

 吸血鬼の拳の範囲は約2mほど、吸血鬼の拳が炸裂するとなにか(・・・)が弾けた。

 

「路傍の石にもなれんクソカスがこともあろう呪霊共がこのDIOに襲い掛からんとしている。我が宿敵の末裔とはいえ取るにたらん未熟な小僧や小娘が死のうとどうってこともないが……」

 

 ディオはおれの額を子供にそうするように指で弾いて笑った。

 

「呪霊?」

 

「このDIOを現すモノをそう言うらしい。どうする?星の末裔よ。貴様は何を見る?何をつかみ取る?応えてみせろ」

 

 ディオは、悪霊ではなかったらしい。

 しかし、呪霊というからにはそれに近しいものではないかと睨んでいる。

 

 ディオが見ている方向(・・・・・・)にあるものが見える(・・・)

 異形の怪物がおれとディオを見ているが、この停まった世界を動けるのはどうやらおれとディオだけらしい。

 

「どうせ見るなら、泥よりもおれは星を見たい。けど、おれは目の前のものを見て、呪霊(アレ)を知って。この時が停まった中で動けるのがおれとディオだけッてんならッ!残り時間で全部終わらせる!!」

 

 じいちゃん譲りの跳ねた前髪を整え、何かが弾ける。

 

「やっちまえ、ディオォォォォォォッ!」

 

「気安く名前を呼んでくれるじゃあないかッ!千丈!!」

 

 力が漲る。

 

 おれの中のものが噴出すと、おれはディオに並んで異形をブン殴る。

 

 そんなに喧嘩の経験があったわけじゃない。

 

 ディオが言うようにおれはひ弱な餓鬼だ。

 

 たぶん、これからも。

 

 でも、おれは――――。

 

 シーザーおじさんのように、おれは誰かを導けるようになりたい。

 

「やはり、ジョースターの爆発力には驚かされるッ!油断をするなよ、千丈!隙あらば、このDIOは寝首を掻いて貴様を殺し、復活するのだからなァーッ!」

 

「でも、アンタはおれを助けてくれたんだ。感謝してる」

 

 最後の一体が弾け、そして時が動き出す。

 ディオはおれからの感謝の言葉に眉を顰めた。

 

「……嫌な顔を思い出すな。なんだ、その表情は」

 

 まるであの男にそっくりではないか。

 

 そんな声が聞こえた気がした。

 

「……ミシロ。なんかあった?」

 

「さあ。ネズミでも出たんじゃないか?」

 

 こうして、無敵の悪霊(・・)のおかげで数秒間の間ですべてがおさまった。

 家入との会話ははぐらかしたものの、その後、家にやたらとガタイがいい男をじいちゃんが連れて来た。

 その人はどうやら、呪術高専東京校とやらの教師らしい。

 

 そこでおれはディオがとんでもないバケモノだと知ることになった。

 そして、そこでならシーザーおじさんの死因が分かるかもしれないという。

 

 それなら、行かない選択肢がなかった。

 

          ☆★☆

 

 

「ジョージョ。何してんの?」

 

「おれがお前のクラスの副担任になっている理由を考えろ、五条」

 

 銀髪にアイマスクの最強の男が顔を覗き込んで来ると、御城千丈は眉を顰めた。

 同じ学び舎で共に過ごし、いまはもう出奔した一人を併せると、仲良く三人でつるんだものだと五条悟は振り返ることが出来る。

 ただ、どうも自分達の担任だった夜蛾は信用してくれていないようで堅物真面目な御城を副担任に添えた。

 

 堅物真面目なようでなんだかんだで面倒見がよく、それでいて不動産王の孫であることから後輩にも食事をおごることがあるかつての級友は自分より後輩の信頼を集めているのが少し妬けてしまうが。

 

「まぁそれはわかるけどさ?そんな眉間にしわ寄せてるような顔をしてると、生徒達に怖がられるよ?」

 

「チンピラみてえな口調だった奴には言われたかねえんだが。とっとと行くぞ、五条先生(・・・・)

 

「はいはい、ジョジョ先生」

 

 さぁ、それではかわいい生徒達に会いに行こうとケラケラ笑う同僚についていき、千丈は呟いた。

 

「やれやれだ」




御城千丈(みしろセンジョウ)
縮めてジョジョ。
とある不動産王の孫だが、生まれたときに既に実母と死別しており、それもあって祖父との仲はあまり芳しくなかった。
祖父の旧友のシーザーを父親代わりに育ち、シーザーおじさんと呼ぶほどに慕っていた。容姿は祖父の若い頃によく似ており、現代の28歳時点では195cmを超えている。
生まれたときからどういうわけか、宿敵に憑かれている。
どちらかというとジョナサン似。

DIO
千丈の一族の宿敵。
千丈の祖父とその仲間によって倒されたはずだが、どういうわけか千丈に憑いて復活してしまう。スタンド:世界は失われているものの、吸血鬼の力と時を停める力を所有しているらしい。
ジョナサンの面影が強い千丈を苦手としているが、悪くない関係を築いてはいるようだ。

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