口悪召喚術士の異世界冒険譚   作:millseross

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10カ月も何しとったんじゃ我ぇ…とお思いの読者様。
はい、そうです。私が作者です。(知ってる)
いやはや、誠に申し訳ございませぬ。
言い訳はしない(; ・`д・´)キリッ
存分に叩くが良い!フハハハハハハハ!!


あっごめんなさい嘘です石は投げないで、、、(汗)


思い繋ぐは白き虹霓

場所は第2のセーフティゾーン、ボス部屋直前。顔を上げると、あのフィールドへと繋がる扉が見える。くぐり抜けた先には死が悠然と佇んでいるのだろう。しかしここは安全なフィールドであり、どれだけ時間が経とうともモンスターかポップすることは無い。

 

現在ラグランダの霊界山脈攻略一行は、地べたに座って思い思いにくつろぎながら頭を突っつき合わせていた。ピクニックでもしているような光景ではあるが、話の内容と表情はどこまでも真剣である。

 

「や〜負けた負けた。最後首切られたんだけど。強すぎだってあれ、なんなの?戦闘中ずっと震え止まらなかったし。こわー。」

 

「そりゃ大げさ祭り。でも確かに強いことに違いはねぇな。どう攻略するか。」

 

「回復魔法でHPが減ってるのは確認できたからねぇ。アンデット系であることは間違いないさね。」

 

「ミル先輩の魔法、直撃した時は思わずガッツポーズしちゃったんですけど。すぐに反撃されましたもんね。」

 

「スケルトンもぎょーさんおるやん。叶わんわぁ。」

 

「そうですにゃあ。戦力が分断されるのは頂けにゃいのですにゃあ。」

 

どうやってあの敵を攻略するか、弱点や何か気づいたことはないか。話題はそれに尽きる。

 

そういえば、と。ミルは自身の記憶を思い出しながら、あの戦闘での山の翁を振り返る。

 

「探し物は見つかったみたいだったよ。それが後の戦闘でどう影響するのかは分からないけど、まぁ良かったと言うべきなのかな。」

 

「「「探し物?」」」

 

なんの事だと5人は首をかしげる。その反応にミルも疑問を抱く。

 

「え?ずっと何かを探してたでしょ。」

 

ミルの言葉を聞いた5人は一様に黙り込む。訝しげというか、分からないとでも言いたげだ。

 

「低い唸り声は聴こえてましたよ?ぉぉお〜って。でも声なんて聴こえなかったです。」

 

ソウジロウに同意するように4人は頷く。

 

「...はーん、なるほど。召喚術士にしか聴こえないとかそう言う感じなのかな。誰かを探していたんだよ。その時は誰を探しているのか、何を探しているのか分からなかったけど。何処だ、何処に居る〜ってずっと言ってた。"我が名はハサン・サッバーハ。ハサンの中のハサンなり。"とも言ってたね。だから彼は剣士じゃなくって、他のハサンと同じ暗殺者なんだと思う。」

 

自分以外には山の翁の声が聴こえていなかったと知ったミルは、自分なりの予想と山の翁が何を喋っていたのかを伝えた。

 

ミルの言葉がきっかけとなり、また新たなシミュレートが始まる。

 

「やっぱ暗殺者なのかよっ!全く気配感じなかったもんな〜。一つひとつがギリギリの攻防過ぎだって。」

 

「せや、気づいたら目の前に居ったやんね。うち思ったもん。あ、これ死んだかもって。あん時の奴さんの目ぇ怖かったなぁ、ボーッと青く光っとるんやもん。あんなんお化けや妖怪や。」

 

「気配遮断に加えてあの瞬間移動も厄介ですにゃあ。どうにか足止めしてこちらの攻撃を当てる必要がありますにゃ。」

 

「あの速さですからねぇ。ミル先輩の拘束魔法だと射出まで少し溜めがあるから多分捕まらないと思います。前衛が引き付けて後方から魔法攻撃を当てるっていうさっきのパターン、あれは一種の理想形かなぁ。」

 

真剣且つどこかワクワクしたような表情で、はっきりと自分の意見を言うソウジロウ。未知の敵、未知のダンジョン、未知の冒険。まるで茶会時代のあの頃に戻ったようで、懐かしさと嬉しさ、そして少しの寂しさを感じているようだ。

 

そんなソウジロウの発言はナズナの膝の上からだったため、若干空気が緩んだ感は否めない。ちなみにナズナの表情筋はずっと緩んでいた。

 

直継の発言とそれに対する皆の反応に対して、ミルはまたも違和感を抱く。

 

気づいたら目の前に居た。それは分かる。山の翁は瞬間移動とも呼べるほどのスピードで移動していたからだ。身体が蒼い炎で包まれた瞬間、別の場所へと移っていた。だが。

 

「え、気配感じなかったの?あんなに存在感があったのに。」

 

「は?いや、居るのか居ないのかも分からないレベルだっただろ。殺される直前になって急に圧迫感というか、寒気が走った感じはあったけどよ。」

 

「薄暗い中で青く光る目を頼りに何とか、って感じだったねぇ。そうそう、何でかアンタには敵がどこにいるのか分かってるみたいだったから、不思議に思ったくらいだよ。」

 

「確かに、姫ちゃんには見えとったみたいやったなぁ。うちに向かって叫んでくれたん、あのせいで攻撃くろて申し訳なかったわぁ。ごめんな?」

 

「いや、それは全然良いんだけど。」

 

自分以外にはヒシヒシと伝わってくる怖気のような、身体の芯が凍ってしまうようなあの恐怖を感じ無かったと知ったミル。直継が冗談だと受け取った、ずっと震えていたという言葉は決っして誇張表現などでは無かった。戦闘中ミルはずっと意識して震えを止めていたのだ。そうでなければ、あの一撃で殺られていただろう。

 

「んー、なんかこのダンジョン変。」

 

「ミルには敵の気配が分かっていたということですにゃあ。同時にあの敵に言いようもない恐怖を抱いていたと、そういうことですかにゃ。」

 

にゃん太の言葉にミルはこくりと頷く。

 

なぜ自分には山の翁の声が聴こえていたのだろう。なぜ自分にだけ、あの本能が直接揺さぶられるような根源的恐怖を感じたのだろう。そしてなぜ、死そのものとも呼べるようなあの存在に心の底から暖かな気持ちが湧いてきたのだろう。

 

分からない。分からないが、やることは変わらない。

 

「とりあえず、スケルトンはペガサスの回復魔法と雷獣で対処する。さすがにあの数の雷獣を召喚することは出来ないけど、単体ならこっちの方が戦闘力は上だから、足止めは出来るはず。」

 

「ってことは、6人全員でボスに挑むってことか!燃えてきた祭りっ。」

 

「ちょお待って!それやったら姫ちゃんがキツいんちゃう?2種の従者を召喚しながら自分も戦うなんて、そんな無茶なこと...。」

 

「なめんな、3種同時召喚でも余裕だっての。だいたい、僕に負担がかかるなんて分かっていた上で、それでも尚このメンバーでダンジョン攻略したいって思ったから今ここにいるんだろ。勝つために全力を尽くす。やることなんてみんな一緒。」

 

「〜〜っ、さっすがミル先輩!かっこいいなぁっ。」

 

元茶会のメンバーは、頼もしいセリフを吐くミルに眩しそうな視線を向ける。

 

この少年には、皆何度も助けられてきたのだ。小さな背中を見るだけで安心できる。きっとやれる、まだいけるとそう思わせてくれる。勇気を与える才能、とでも言えば良いのだろうか。もし茶会に彼女がいなければ、あの個性溢れるメンバーを引っ張っていたのはこの子だったかもしれない。そう思えるほどの、リーダーとしての器を持っていた。

 

マリエールは茶会のメンバーでは無かったが、それでもミルの戦闘の強さと心の強さと言うものが分かっていた。ソウジロウが憧れるのも分かる気がする。なぜならマリエール自身も、ギルドマスターとしてこんな風に在りたいと思ってしまったから。

 

「さっきの戦闘と同じ布陣で行くのかい?」

 

「いや、もう僕は前に出ないよ。出る理由が無いからね。次の戦闘では僕にヘイトが集まってるなんて事ないと思うから、一般的なポジショニングでいこう。前衛は直継とソウジロウ、遊撃ににゃん太とナズナ、最後尾にマリエール。僕は戦況に応じて全体のサポートで。」

 

「いちばん最初の布陣ですにゃあ。」

 

「なんでミルにヘイト集まってないって分かるんだ?さっきあれだけ狙われてたのに。」

 

「山の翁のあの行動には理由があったんだ。って言うのも、さっき言った探し物の事なんだけど。彼が探していたのは僕の首なんだって。」

 

「「「...はい?」」」

 

ミルが言った言葉が理解できなかったようだ。それもそうだろう、何がどうしてミルの首をあの暗殺者が欲しがるのだろうか。意味がわからないのは当然だ。最も、ミル自身も理解出来てはいないのだが。

 

「えーっとね。たしか、"汝の首がこの霊界を鎮めよう。その首、その魂をもって哀れなる脆弱な者共の鎮魂と成さん。許せ、清き者よ。"って言ってたかな。詳しくは分からないけれど、あの場所にとって僕の首若しくは魂?が必要だったんだって。僕のって言うか、清き者の?よく分からないけど。」

 

「ホンマに許したんっ!?そんなん嘘かもしれへんやんかっ。首だせお化けやったらどないするんっ。姫ちゃんお化けに目付けられたんとちゃう!?あかんっ!」

 

1人騒がしく顔を青くして、ミルの頭から足までくまなく撫でて居るマリエール。きっと肝試しは大好きだが怖いのは苦手なタイプだろう、とどうでも良いことを考えるミル。

 

「身体がピクリとも動かせなかったんだよね。まぁ最終的には許したんだけど。負けちゃったから、勝者の言うことくらい聞くさ。それに、やっぱり何だか寂しそうにしてたみたいだったから。出来ることならあげたいなーって思って。成仏してくれたら御の字だよね。」

 

「それで潔く差し出したってわけかぃ。自分の首を。甘ちゃんだねぇ、相変わらず。」

 

やれやれと言わんばかりに首を振るナズナ。生き物(あれを生き物と呼んで良いのかは定かではないが)に対して甘いミルにほとほと呆れているようだ。

 

「流石は獣狂いってか。」

 

「アレは獣ではないのですにゃあ。」

 

(...なんかちょっと怒ってる?)

 

若干にゃん太の機嫌が降下したことに気づいたのは誰だったか。その理由まではわからずじまいである。

 

「ま、そんなわけで。さっき言ったポジションでいくからね。ちゃんと自分の役割り確認してね。もう少ししたら行くから。」

 

「「「「「了解。」」」」」

 

指示と承諾は早いのであった。

 

 

&&&

 

 

扉を開けて6人が最初に気づいたのは、あの大量のスケルトンが居なくなっているということだった。そして天にたくさん漂っていた人魂(直継とマリエールは星だと思っていたらしい)が、ひとつ残らず無くなっていることにも。

 

敵の姿にも変化が見られた。闇夜の如き、重黒いくたびれたボロの外套は見当たらず、薄暗いフィールドにひっそりと佇む巨体の骸骨が見える。その手には黒く錆びれた大剣と、前回は無かったはずの大盾を持っていた。身に纏う鎧と大盾には痛々しい棘が突き出ている。そして、相も変わらずこちらを見据えているのは眼球ではなく、生気を感じさせない青白い光だった。

 

あれ絶対剣で斬るより盾で殴った方が痛いでしょ、などとまた余計なことを考えるベテラン冒険者が若干1名ほど居たのだった。

 

また来たか、清き者よ(オオォォオオ)。」

 

棘付きの盾とはなんとも斬新なものだと感じていたミルは、山の翁の声に反応し視線を合わせる。

 

既に彷徨える魂は鎮まった(おぉぉおおおおお)もうここには何も無い(ぉぉおオオォォオオ)。」

 

ミルはその言葉に、先程と同じような感情があることを感じ取っていた。

 

何故だ?探しものは見つかっただろう。彼の言う通りに自らの首を差し出した筈だ。にも関わらず先程と同じ、否、もしかしたらより深く暗い感情が漂っているようにも思えた。だがこれは死の気配ではない。あれ程の根源的恐怖を感じていない。もっと人情的な、すぐ身近にあるようなものだとミルは感じていた。

 

それは悲しみや寂しさといったもの。それから、虚無感。

 

チラりと5人を見やる。その視線に気づいたメンバーは、首を左右に振る仕草を行った。やはりあの声はミルにしか聞こえて居ないようだ。

 

「君が鎮魂しようが何しようが知ったこっちゃない。ここには何も無い?いいや、君が居る。僕は君に勝つ!何度だって挑んでやる!」

 

「従者召喚ー天馬(ペガサス)。いつも通りだよペガサス、頼りにしてる。」

 

美しくいななきの声を上げるペガサスは、純白の翼をはためかせ、その背に小さな主を乗せ天へ翔ける。そしてフィールド全体に回復魔法を展開する。

 

ミルの従者召喚を皮切りに、役目を果たさんと5人は散開する。

 

山の翁の目の光が強く点灯した時には、既にソウジロウが斬りかかっていた。

 

「一気駆け!」

 

見え透いた真正面からの攻撃。いくら速さが有ろうとも、カウンターを決めるのはそう難しくはない。少なくとも、この山の翁にとっては。その瞬間、山の翁の目の前に輝く障壁が生成された。関係無いとばかりに、諸共斬り捨てる。

 

破壊された障壁、その向こうに鬼神の如き武士の姿は無く。山の翁の肩に鋭い痛みが走る。

 

やりおる(おぉおぉ)。」

 

意味は通じていない筈なのに、その唸りを聞いたソウジロウはニッと不敵な笑みを向ける。

 

ナズナが魔法を使用し、山の翁とソウジロウの間に障壁を作った。この時、通常であれば地面と垂直に生成される障壁を、意図的に斜めに作り出したのだ。禊の障壁には物理的に触れることが出来るため、角度を変えることで相手の斬撃を受け流せる可能性を考えた。その可能性は一瞬で砕かれたがしかし、ソウジロウの空中での足場としての役割りはきっちりと果たした。

 

ソウジロウは障壁が破壊される直前、障壁を足場に空中へ跳び、すれ違いざまに山の翁の肩口を切り裂いた。

 

まさに阿吽の呼吸とも呼べる、正確無比の一瞬の連携。

 

まだまだ攻撃は終わらない。山の翁がソウジロウに大剣を振り下ろそうとした瞬間、直継がアンカー・ハウルを使用し迎え撃つ。

 

蒼く燃ゆる死の炎が直継を襲う。しかしそれは先も見たとばかりに大盾でしっかり防御する。瞬時に背後から漂う冷たい気配。蒼炎と赤錆びた大剣の挟撃が直継に差し迫るが、ナズナの障壁が背後をカバー。すかさずにゃん太が鋭い刺突連撃を叩き込む。

 

山の翁は距離をとるが、そこはミルの射程圏内だ。予想通りの回避行動だと言わんばかりに、悪戯が成功したような笑みを浮かべる。

 

ウロボロスを巻き付けた両腕を前へ突き出し、回復魔法と破壊魔法を発動することで、山の翁にダメージと破壊効果を付与することに成功した。

 

「聖なる願いは大地へと注がれる。これは天へ続く導きの光道。彼の者に癒しを与え、彼の者に降りかかる禍いを禊ぎ払わんことをここにーー”星々の導き(シエルエトワール)”。」

 

詠唱に呼応するように天帝の軌跡が淡く白く輝いていき、魔法陣が描かれる。天と地を繋ぐ門のようだ。

 

2つの魔法陣に挟まれた山の翁は危険を察知し回避を試みるも、違和感に気づく。身体が重い。片手で振り回していたはずの大剣と刺々しい大盾が、酷く重たく感じる。思い違いではない。

 

山の翁は視界の端で天秤を持った女を捉えていた。

あれはー。

 

直後、煌々と輝く星々の光に飲み込まれる。

 

先程の戦闘とは打って変わって善戦していることに、対策の効果を実感するメンバーたち。

 

「ぃよっしゃあっ!少しは効いただろっ。」

 

「みんなええ調子やんっ。」

 

「順調ですにゃ〜。」

 

ソウジロウとナズナも油断なく構えているが、口元には喜びの感情が浮き出ている。

 

だが1人だけ、全く笑みを浮かべていない者がいた。ミルだ。立ち込める土煙の中から圧倒的な存在感を知覚していたミルには、喜ぶ余裕もないようだ。

 

まだまだ、これからだろう。こんなもんじゃない。

 

瞬時に煙が吹き飛び、姿を現した山の翁はミルに向かって突進する。

 

またも自身の身体が重く感じた山の翁であったが、構うものかとばかりにミルに斬りかかる。ミル自身よりも大きいであろう赤錆びた大剣を振り下ろされてしまえば、致命傷に到ることは想像にかたくない。絹糸のような白く輝くその髪は、瞬く間に赤黒く染まってしまうことだろう。

 

だがミルは避ける素振りを見せなかった。

 

蒼く眼を光らせ、山の翁は目にも留まらぬ速さで腕を振り下ろす。蒼い炎を迸らせた死の大剣が、細く白いミルの首を切断

 

ーーしなかった。

 

大きな音をたてて吹き飛び、壁に激突する巨躯の死神。

この好機を逃すベテラン冒険者たちではない。畳み掛けるように精錬されたフォーメーションで連撃を仕掛ける。

 

だが煙をスクリーンに蒼い炎が全方位に放出され、思うように攻めることが出来なかった。

 

6人は腰を低く構え、煙の中の敵の動きを注視する。

 

煙が晴れたそこにあったのは髑髏の敵の姿ではなく、刺々しい大盾のみ。

 

「避けてソウジっ!」

 

「ぐっ!?」

 

ミルの叫びに咄嗟に反応したソウジロウであったが、肩口に一太刀を浴び血飛沫がまう。

 

先程のお返しだと言わんばかりの挑発的攻撃に、ソウジロウは冷や汗を滴らせながら口角を上げる。

 

マリエールがすかさずヒールをかける。

 

追撃を警戒し後方へ下がるソウジロウとにゃん太がスイッチし、直継もそれに続く。

 

山の翁は剣を振りかざし向かってくる2人の冒険者目掛けて大剣をぶん投げる。高速回転しながら2人の首を断たんとばかりに一直線に向かっていく。

 

間一髪。持ち前の反射神経で身を翻し大剣を躱すにゃん太と直継。冷や汗をかきながら、丸腰であろう山の翁へ突撃を再開を試みるも目の前に山の翁の姿はなかった。

 

2人は、はっと後方を振り返る。そして己の失策に気づいた。特に直継は、守護戦士としてその大盾で飛んでくる大剣を弾くべきだったと後悔した。例えそれで自分が吹き飛んだとしても、この状況に陥ることはなかったのだから。

 

2人が避けた大剣はそのままの速度で、後衛でソウジロウを回復していたマリエールへと飛来する。マリエールもベテラン冒険者の1人だ。常に敵を警戒し、視界の端に捉えていた。しかし同時に、パーティメンバーを信頼もしていた。特に直継には、その存在感に大きな安心を寄せていた。

 

それが回避行動を遅らせる。そもそも大剣を投げ飛ばすなど、予想する方が不可能というもの。想定外の出来事と、メンバーへの信頼が仇となる。

 

「マリエさんっ!!!」

 

直継は届かないとわかっていても、手を伸ばさずにはいられなかった。

 

回復を受けていたソウジロウが大剣を弾こうとするも、腕が上がらない。まだ回復ができていない。ならば自分の身体を盾とし受け止めるとマリエールの前に駆け出すが、間に合わない。

 

ナズナはもともとマリエールに仕掛けていた禊の障壁にプラスして再度障壁をかける。だがこんなものであの攻撃は防げないとわかっていた。わかっていたが、これしかできることがなかった。

 

にゃん太は山の翁に接近する。マリエールを見ることはしなかった。今、自分にできることは祈ることでも嘆くことでもない。敵を倒すことだった。その勇ましい背中からは、仲間からの信頼を背負っていた。そして同時に、にゃん太もまた仲間を信頼していた。

 

マリエールには、目の前に迫る大剣がスローモーションのように見えていた。今自分が立っているこのフィールドが、まるで断頭台であるかのように錯覚する。禊の障壁が砕け散った。死が迫る。自身の首を断つまで、残り数メートル、数センチ、数ミリ。

 

 

 

 

ーーガキィッン!!

 

 

 

 

何かに弾かれるように、大剣は見当違いの方向へ飛んでいく。図らずも大盾の近くへ落ちる。

 

つぅ、とマリエールの首筋から赤い血が滴り落ちる。僅かに減ったHPは、ペガサスが展開する範囲指定回復魔法により直ぐに回復した。

 

マリエールは自分が助かったと気づくのに数秒の時間を要した。そして気づいた瞬間、冷や汗が吹き出て、ゾッと肝が冷えた。

 

確実に死んだと思った。走馬灯が見えた。死が迫る恐怖、あの瞬間を思い返し足が震える。

 

ソウジロウはマリエールを護るように前に立ち警戒する。

 

山の翁は瞬時に移動し、盾と剣を拾い上げる。そしてフィールドを見渡し、ある一点を見やる。

 

視線の先には秤を持った美しい女性が佇んでいた。妖艶に微笑みながら、しかして一切の隙を見逃さないとばかりにこちらを見ている。

 

ペガサスに跨り空から台地を見下ろしているミルへと目を向ける。

 

召喚獣の同時召喚(おおおおぉぉ)黄道十二門の精霊とは恐れ入った(おおおおぉぉオオオオォォオ)召喚術士の申し子(オォォオォォオ)麒麟児と言ったところか(オォォオぉぉおおおお)。」

 

ミルは驚きつつも警戒を怠らない。

 

「へぇ、やっぱりただのフィールドボスじゃないね。黄道十二門まで知ってるんだ。」

 

天秤座の精霊(リブラ)ーー黄道十二門の精霊における天秤座を冠する精霊。アラブの女性を連想させる天上の美しさを誇る。その手に持つ秤で重力を操作する。また、その秤は相対する魂の罪の重さをはかることができ、清らかな魂に祝福を、罪深き魂に罰を与えるとも言われている。

 

山の翁の眼孔が青い光を発し、またも一瞬で移動する。

 

敵はひとり。にもかかわらず、この広いフィールドのどこにいようとも剣が届く。

 

「彼の地に太陽の恩恵を。"麗らかな陽射し(プラタ・ソレイユ)"。」

 

視界の悪さを軽減するため、ミルは魔法を使用する。近距離戦闘に特化している直継とにゃん太、ソウジロウにとってこの魔法はありがたかった。

 

山の翁は鬱陶しそうに空を見上げつつ、勢いづく剣士たちを迎え撃つ。

 

大剣を地面に突き刺し咆哮を上げると、台地がひび割れる。そこから蒼炎が巻き起こり、広範囲を飲み込まんとする。

 

機動力に乏しい直継はたまったもんじゃないとばかりに大きく後ろへ飛ぶ。遊撃であるにゃん太はせき立った地面や岩を足場として軽やかに舞い、刺突連撃を叩き込む。

 

さらにナズナが多数の障壁をドーム状に発動する。障壁の檻と言っても過言ではないだろう。空中での足場を利用して、にゃん太が怒涛の攻めを見せる。

 

「火車の太刀!!」

 

地面から湧き出る蒼炎を巻き込みながら、ソウジロウが突撃する。火車の太刀の効果により、炎を操ることができていた。自分の攻撃手段でダメージを受ける。なんと皮肉なことだろう。カウンター攻撃となったソウジロウの一撃だったが、山の翁の大盾により防がれてしまう。

 

武器の重さを感じさせない体捌きで、山の翁は攻撃を行う。大剣を振るい、大盾で殴り、蒼炎で焼き払う。

 

一刀がギリギリの攻防。炎に晒されているというのに冷や汗がでる。

 

前衛組はヒット&アウェイを基本としているため、自身の攻撃が防がれたらまず距離をとることを第一とする。時間をかけても、少しずつ確実に敵のHPを削る作戦であった。

 

壁と錯覚するほどの炎がミルへと伸びる。地面から空へと昇る蒼炎の柱は、シチュエーションによっては綺麗に思えるはずである。しかしこれが自分を屠ろうとしてくるのなら話は別だ。以心伝心と言えるコンビネーションでペガサスと共に炎を避ける。そして炎によって自分の姿が隠されたこのチャンスを逃すミルではない。

 

紡いだ言葉に導かれるように、天帝の軌跡のページが捲られ、淡い輝きを発する。

 

 

赤ーー日は落ちて、又昇る(トラモント・アルバ)

 

青ーー降り注ぐは凍てつく牙(グランディーネ)

 

藍ーー極夜(ノクティス)

 

水ーー星屑の涙(メルクーア)

 

空ーー超新星(アトモスフィア・ノヴァ)

 

 

空に浮かぶ五色の陣は光で結ばれ、ひとつの巨大な魔法陣となる。

 

「”五芒星魔法(ペンタグラム)”」

 

 

五芒星魔法(ペンタグラム)。五つの魔法を束ねることで作り上げる巨大魔法。合体魔法(ユニゾンレイド)が2~4種の魔法をかけ合わせる技術であるならば、五芒星魔法(ペンタグラム)は5種の魔法をかけ合わせる超高等技術であるといえる。その難易度は推して知るべし。

 

 

蒼炎のカーテンを目くらましに放たれた巨大魔法は、そのまま山の翁を飲み込んだ。

 

巨躯を守ったのだろうその大盾は、棘が削れボロボロとなっている。

 

命のやり取りの最中にミルが魅せた高等技術は、メンバー5人全員の心を刺激した。勢いづく冒険者たちは、畳みかけるように攻撃を仕掛ける。

 

「オオオオオォォオオオォォ!!!」 

 

対する山の翁はまだまだこれからだと言わんばかりに咆哮する。

 

蒼い炎が燃えていた。

 

 

 

&&&

 

 

 

何時間、何十時間経っただろう。わからなかった。

 

しかしわかっていることがあった。

 

声が聞こえる。

 

ラグランダの霊界山脈。このフィールドに足を踏み入れた時から、近く、遠く、聞こえていた。

 

何を探していたのだろう。何を諦めているのだろう。

 

まだ何も、何ひとつたりとも始まっていないのに。

 

剣戟、魔法、獣、声、感情、希望、そして仲間。

 

ミルには聞こえていた。ミルだけには聞こえていた。

 

そしてミルの思いは、気持ちは、心は。仲間(・・)に届いている。

 

金属がぶつかり合い、甲高い音が響く。蒼白い炎が地面を舐めるように広がる。障壁が砕け、美しく煌めくエフェクトが舞う。

 

ミルは地面に降り立つ。天馬(ペガサス)が、破壊と再生の双龍(ウロボロス)が、天秤座の精霊(リブラ)が心得たとばかりに頷き、送還される。

 

 

山の翁は立っていた。ただそこに佇んでいた。欠けた大剣を持ち、罅割れた大盾を構えて。

 

相対(あいたい)する()()

 

「約束は覚えてるかな。僕が勝ったらってやつ。」

 

「…何を望むかはもう知っている(オオオオォォォォオオ)。」

 

山の翁から黒い輝きを放つ蒼い炎がメラメラと吹き荒れる。威圧感が風圧となってミルを襲う。

 

山の翁は感じていた。

 

ミルは感じていた。

 

ーーこれで最後だ(これから始まる)

 

 

ミルの淀みない詠唱に呼応して、傍らに浮かぶ天帝の軌跡が淡い輝きを発する。展開された七色の魔法陣が戦場を彩る。誰もがその輝きに見とれていた。

 

「繋げ。此れこそが思いを紡ぐ天の架け橋、七色に輝く希望の光。焦がれるは天の果て。さぁ、創世を始めよう。ーー思い繋ぐは白き虹霓(イーリス・レイ)

 

 

山の翁が放った冷たい蒼炎とミルが放った虹色の魔法が激突する。

 

空間が白く染まった。

 

 

 

&&&

 

 

辺りは静寂で満ちていた。先ほどまであんなに喧騒的であったのにもかかわらず、誰も言葉を発しようとしなかった。5人は心配そうに。いや、信じていると希望に満ちた目を向けていた。

 

土煙が晴れる。

 

白い影が立っていた。そしてその影は静かに目の前の存在を見つめていた。

 

黒い影は片膝をついていた。自身の誇りであろう赤錆びた大剣は半ばから折れ、大盾は朽ち果てた。しかし、それでも決して目は逸らすことはしない。

 

血と錆と怨念に塗れたその姿は、しかし不思議なほどに悪と思えず。

 

まるで、そう。

 

ーー騎士の誓いようだ、と。

 

「■■■。ーーーー?」

 

その言葉を聞いたひとりの男は、心得たとばかりに頷いた。そして、ガラスが割れるような音と共に砕け散り、白く輝きながら空へと消える。

 

光を失った薄暗い部屋の中で、ミルの傍らに浮かぶ書物だけが淡く輝いていた。

 

 




遂に完結しましたラグランダの霊界山脈編。

呪腕のハサンとかキングハサンとか。ハサン好きな僕にとってはウハウハでしたわ。
(ほんとは百貌とか静謐とかも出したかった。。)

完全オリジナル(クロスオーバーなのでちょっと違うけど)の話はこれが初めてでしたので、無事に終わってよかったです。
※10カ月停滞してたけど。

なぜまた書き始めたのか。それは先日のこと。”次の更新はいつでしょうか”とのお達しを頂きまして。

いやぁ、やっぱり感想とかお気に入りとか、そういう目に見える形で評価されると、あぁ読んで頂けているんだなぁ(嬉)という実感が湧きますよね(現金)

というわけで、次回の更新は全くの未定ではございますが、気が向いたら書きますので!!
気長にお待ち頂けますと幸いです(o^―^o)ニコ

それではさらばっ!!!
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