白兎が精霊に愛されているのは間違っているだろうか? 作:謎の人でなしZ
少し引っ越しなど私生活の中で色々な変化があり執筆作業が進みませんでした
これからまた再開していきたいと思います
それともう一つご報告です
記念の話ですが私の力不足で、無しにさせていただきました。番外編などはちょくちょく入れていく予定です
楽しみにしてくださった方々、本当に申し訳ありません
今回は遠征編の続きです
では、どうぞ!!
「おー!ここはすごい絶景だなあ。この階層を一望できるや」
後でユキたちにも教えよう、そう思いながら近くの岩に腰掛け景色を堪能する。あれから当てもなく森の中をぶらつき、いつの間にか階層を見渡すことのできるこの崖の上に来ていたのだ。しばらく景色を眺めていたが、あることに気づいた
それ程長く探索していたつもりは無かったが、気が付けば天井の結晶に光が灯り始め、朝が訪れようとしていた。そろそろ戻らなければユキたちやフィンさんたちに心配をかけてしまうだろう
「……よし、じゃあ戻ろう。ユキたちも起きてるだろうし」
それに、昨晩はあんなことがあったんだ。早く戻らないと次は一体何をされるか……うん、やめよう。なんかこれ以上は、ヤバい気がする
僕は立ち上がり、崖の上から野営地を探す。幸い今いる場所からそんなに離れてはいないみたいだ。丁度崖から見渡せる位置にあり、それを確認した僕は崖から飛びりた。もちろん着地の時は木を使って衝撃を和らげた。
そして、いざ野営地に向かって駆け出そうとした瞬間、誰かの視線を感じ、動きを止めた
辺りを見渡すが、僕以外には誰もいない
「確かこっちの方から……」
僕は視線を感じた方に向かい歩き出した。そして茂みを抜けると突然開けた場所に出た。その場所からは18階層の天井が見える。だがそれよりも注目すべきなのは……
「あれは……お墓?」
開けた場所の中心にはお墓のようなものがあった
墓の前には石碑があり、その周りには様々な武器や防具などの装備品が置かれていた。おそらくこの迷宮で死んだ冒険者の墓なのだろう。よく見ると誰かが訪れているのか綺麗に手入れされている
僕は墓の前に行き、手を合わせ祈りを捧げた。この人たちのことは知らないけど、きっと最後まで必死に生き抜いた『英雄』だから
――この人たちが少しでも安らかに眠れますように
僕はそう願い、祈りを捧げた
……のだが
『ねえ見てよ!久々にリオン以外が来たと思ったら、祈りを捧げてくれてるわよ!!フッフーン!!これも私のび・ぼ・うのおかげね!!』
『何言ってるんだオメーは。そもそも私たち死んでんだから姿がこいつに見えるわけねえだろ』
『それにしても、この少年は中々に礼儀正しいですね。そこらのクズとはどこか違うような…』
「へ?」
いきなりそんな話声が聞こえ、僕は目を開け顔を上げる。すると、そこには紅い長髪を後ろで纏めた軽装の少女とピンク髪の短髪でどこか男のような口調の小人族の少女、そして極東の着物という服を身に纏った黒髪長髪の美女が僕の前に立っていた。なぜか全員少し透けていたが……
突然のことに理解が追い付かず硬直していると、こちらをずっと見ていた黒髪の女性が僕の様子に気が付き首を傾げた
『ん?一体何を固まって……』
そう言いながら顔を僕に近づけてくる
「……ッ!?」
僕はいきなり近づいてきた女性に驚き、顔を背ける。そんな僕の行動に黒髪の女性は目を見開いた
『……まさかお前………』
『?どうしたのよ輝夜。そんなにその子を見つめて……ハッ!これは恋の予感!?』
『何を言ってるんだお前はよ』
僕を見つめたまま固まる黒髪の美女の後ろで、何やら紅髪の少女がそんなことを言っているが正直気に掛ける余裕はない。だってこの人僕をじっと見つめてるんだもん!しかも顔がすごく近いし!それにすごく美人だからなおさら……
『おい兎、お前私たちが見えてるな?』
そんなことを思っていると目の前の黒髪の美女がそう言ってきた。あれ?なんか口調が…、とも思ったが嫌な予感がしたので無視を決め込む
『ほう無視か、いい度胸だ。だが今すぐに本当のことを言わないと……』
黒髪の女性は立ち上がり、僕を見下ろす。冷や汗をダラダラと流しながらも僕は無視を決め込む。ここまで来たらやり通すしかない!
そう決意する僕だったが――
『ここで服を脱ぐ』
「はいはっきりと見えてますすいませんでした!!!」
黒髪の女性の発言により、僕の決意は粉々に打ち砕かれた。その後はまるで尋問のような取り調べを受けた。なぜか正座をさせられて。僕を尋問する黒髪の女性の後ろで紅髪の少女とピンク髪の少女は大笑いしていたが……
~~~
数十分後
『ふむ、つまりお前はロキ・ファミリアの遠征に参加していて、この階層を一人で探索していた帰りに偶然ここを見つけ私たちに出会ったと…。簡潔にまとめるとそういうことか?』
「は、はい……その通りですぅ」
黒髪の女性――輝夜さんは僕を見下ろしながら確認を取ってくる。僕が輝夜さんの罠に嵌まり口を割ってしまったがために、尋問のような取り調べを受けることになってしまった。しかもエイナさんの説教に匹敵するほどのものだった。少し前の僕をぶん殴りたい
僕が憔悴しきった顔で返事をすると、今度は紅髪の少女――アリーゼさんが僕に話しかけてきた
『ねえ確かベルって言ったわね。なんで貴方には私たちの姿が見えるのかしら?』
「…それは僕にも分かりません」
アリーゼさんの問いに僕は曖昧な言葉で返す。実はアリーゼさんや輝夜さん、ピンク髪の少女――ライラさんは数年前に亡くなっている。このことは僕も輝夜さんからの尋問の中で教えてもらったことだ。確かに三人の身体は透けていて普通ではないと思っていたのだが……
アリーゼさんには分からないと答えたが心当たりはあった。おそらく僕がユキたちと契約しているから、だと思う。けど今までアリーゼさんたち以外で死んだ人が見えたことは無かったし確証は持てないけど
ちなみにアリーゼさんたちにはユキ達のことは話していない。この前のアイズさんたちとの模擬戦での反省もあるがそのことを輝夜さんに知られたら尋m……取り調べが長引きそうだったからそこの所はうまく誤魔化したのだ
僕の返答を聞き、アリーゼさんは予想していたのかため息を漏らした
『やっぱりね……でもベル、貴方はとっても運がいいわ!だってこの完璧美少女である私の美貌を見ることが出来るんだから!!他の人に自慢してもいいわよ?』
「あ、あはは……あ、ありがとうございます?」
何やらポーズをとりながらアリーゼさんがそう言ってくる。僕が苦笑しているとライラさんが僕の方にやってきた
『おい兎』
「あ、ライラさん。どうしたんですか?」
『さっきの話を聞く限り、お前探索の帰りだったんだろ?誰にも伝えず一人で』
「そうですけど…」
『だったらお前、いつまでもここにいたらヤバくねぇか?』
「…………あっ!?」
ライラさんの言葉に僕は衝撃を受けた。どうして忘れていたのだろうか?自分は今野営地に帰る途中だったことを。少し余裕はあったとはいえ、それなりに急いでいたことを。そして、ユキたちに内緒で来ていることを
――ヤバいヤバいヤバいヤバい!!!早く戻らないと!!??
僕は直ぐに立ち上がりアリーゼさんたちに頭を下げる
「すいません!このままでは僕の人としての、いや男しての尊厳が大変な事になるのでこれで失礼します!!!!」
『は?いきなりどうしたお前?』
『ちょっと待てお前にはまだ聞きたいことが沢山あ……』
「ごめんなさ~~~~~~い!!!!!!!!」
お願いします!どうか間に合いますように!!そう願いながら僕は野営地に全速力で向かった
砂埃が巻き上がる中、残っていたのは茫然とするライラと輝夜、そしてポーズをとりながら体をくねらせるアリーゼだけだった
~~~
『……スゲー速さで行っちまいやがったな』
『チッ!まだ問い詰めたいことがあったというのに、あの兎!!』
『まーまー落ち着けって。それにあれは何かに怯えてる時の顔だ。余程怖いものがあるんだろうよ』
ベルが走り去った後を眺めながらライラと輝夜はそんな会話を交わす。ライラの言葉に輝夜はフンッと顔をそらす
『……次来たときは逃がさんぞ、兎』
『その時もアタシたちの姿が見えてればだけどなー』
そう言って二人は未だにポーズを決めているアリーゼのもとに向かった
『いつまでやってるんだお前は』
『あたッ!』
ポーズをとるアリーゼの頭を輝夜が殴る。かなり強めに
『ちょっと!何するのよ輝夜!まさか死んだのに痛みを感じるとは思わなかったわ!!』
『安心しろ。私も内心驚いてる』
アリーゼは殴られた箇所を撫でながら辺りを見渡す
『あれ?ベルは?』
『お前が変なポーズをとってる間に何か焦って走ってったぞ』
『な、なんですって!?……ハッ!私の美貌に見惚れて恥ずかしくなったのね!!』
『あーうんそうなんじゃねー?』
フフン!とふんぞり返るアリーゼにライラは適当に答える。するとふんぞり返るアリーゼに輝夜が話しかける
『…それにしても良かったのか?アリーゼ。兎にアイツのことを聞かなくて』
『ん?リオンのこと?』
『確かにお前なら真っ先にアイツのこと聞きそうだけどな』
『まあ、私も聞こうかなとは思ったわよ?でも……』
『『でも?』』
『久々に生きている人と話したから、つい嬉しくなっちゃって忘れちゃってた♪』
『『馬鹿か』』
『なんですって!?私は完璧なのよ!!』
呆れるライラと輝夜、そんな二人に抗議するアリーゼ
墓の前ではそんな愉快なやり取りが行われていた
今日も彼女たちは平常運転である
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ロキ・ファミリア野営地
アリーゼさんたちに別れて全速力で野営地のユキ達テント前まで帰ってきた僕。どうやらまだ朝がきてそんなに時間も経っていないのか起きている人も少ない
「ハッ、ハアッ、ハアッ……フゥ~~~……ま、間に合った……」
テントの前で座り込みながら息を整える。全速力できたおかげでほとんどの人がまだ寝てるみたいだ。それにユキ達もまだ夢の中だろう。テントの中からも寝息が聞こえてくる
「…‥‥やったああああああ!!!!!!」
やった!やったんだ!!これで僕の男としての尊厳は守られたんだ!!!!!
「よし、後はユキ達が起きるまでに……」
「私たちが起きるまでに……何かしら?」
「わたくし達に教えてくださいませんか?ベル様」
瞬間時が止まった。ゆっくりと背後を振り返る。そこにはニッコリと僕を見下ろすリディヤとリンネがいた。二人とも笑顔だが纏っている雰囲気が普通のそれではない。僕は内心の絶望を表情に出さないように努力し、自然を装って二人に話しかける
「お、おはよう二人とも……随分と早起きだね……」
「ええ、おはよう。朝起きたら誰かさんが居なくなっててね。びっくりしたわ」
「おはようございます、ベル様。わたくしも目を覚ましたらベル様がおられなくて不安になりましたわ」
そう言いながら二人はそれぞれ僕の肩に手を置く
「さあ」
「ベル様?」
「「何やってたか吐きなさい(てください)」」
「アッハイ」
そこからは再びの尋問が開始された。さすがにアリーゼさん達のことは今話すのは不味いと思い話さなかったが、僕は二人に今朝のことを話した。その結果リディヤとリンネのお願いを聞くことになった。更にしばらくは一人での行動も禁止にされた。二人からの尋問が終わるころにはロキ・ファミリアの団員たちもほぼ全員が起きていて、朝食や装備の点検をしていた
尋問が終わった後、僕は目を覚ましたユキ、ティナ、ルナとリディヤ、リンネと共に朝食をとり、集合場所に向かった
集合場所にいたフィンさんたちに顔色が悪いと言われたが、自業自得なので笑って誤魔化した。フィンさんたちは苦笑しながら了承してくれたが、今はその心遣いが身に染みる
その後は、これからの流れを確認し18階層を出発した
――さて、これからは僕にとって全くの未知。頑張らないと、ね
いかがでしたか?
アリーゼたちは遠征の帰りにも登場させる予定です
出来るだけ早めに更新したいと思います