ありふれない魔法で炎竜王   作:目指せ焼豚

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プロローグ

暗闇の中、急速に小さくなっている光。無意識に手を伸ばすも掴めるはずもなく、とてつもない落下間に股間をキュッとさせながら、南雲ハジメは恐怖に歪んだ表情で、炎王竜騎(えんおうりゅうき)は怒りに顔を染めながら消えゆく光を凝視した。

 

 ハジメと竜騎は現在、奈落を思わせる深い崖を絶賛落下中である。目に見える光は地上の光だ。ダンジョンの探索中、巨大な大地の裂け目に堕ちたハジメと龍騎はついに光が届かない深部まで落下し続け、真っ暗闇となった中でゴゥゴゥという風の音を聞きながら走馬灯を見た。

 

 日本人である自分達が、ファンタジーという夢と希望が詰まった言葉では些かハードすぎる世界にやってきて味わった理不尽なあれこれと現在進行形で味わっている不幸までの経緯を。

 

 ♢♢♢

 

 月曜日。それは一週間のうちで最も憂鬱な始まりの日。きっと大多数の人が、これからの一週間にため息を吐き、前日までの天国を思ってしまう。

 

 そして、それは南雲ハジメも以外ではなかった。但し、ハジメの場合、単に面倒というだけではなく、学校の居心地がすこぶる悪いが故の憂鬱さが含まれていたが。

 

 ハジメは、いつものように始業チャイムが鳴るギリギリで登校し、徹夜でフラつく体でなんとか踏ん張り教室の扉を開けた。

 

 その瞬間、教室の男子生徒の大半から舌打ちや睨みやらを頂戴する。女子生徒も友好的な表情をするものはほとんどいない。無関心ならいい方で、あからさまに侮蔑の表情を向けるものもいる。

 

 極力意識しないように自席へ向かうハジメ。しかし、毎度のことながらちょっかいをかけてくる者がいる。

 「よぉ、キモオタ!また、徹夜でゲームか?どうせエロゲでもしてたんだろ?」

 「うぇ、きも。エロゲで徹夜とかまじきもいじゃん」

 

 一体何が面白いのかゲラゲラと笑い出す男子生徒達。声をかけてきたのは檜山大介といい、毎日飽きもせず日課のようにハジメに絡む男子の筆頭だ。近くでバカ笑いをしているのは斉藤良樹、近藤礼一、中野信治の三人で、大体この四人が頻繁にハジメに絡む。

 

 檜山の言う通り、ハジメはオタクだ。と言ってもキモオタと罵られるほどの身だしなみや言動が見苦しいと言うわけではない。髪は短めに切り揃えているし寝癖もない。コミュ障と言うわけでもないから積極性こそないものの受け答えは明瞭だ。おとなしくはあるが陰気さは感じさせない。単純に創作物ーー漫画や小説、ゲームや映画といった者が好きなだけだ。世間一般ではオタクに対する風当たりは確かに強くあるが、本来なら嘲笑程度はあれどここまで敵愾心を持たれることはない。なぜ男子生徒全員が敵意や侮蔑を露にするのか。

 

 その答えが彼女だ。

 「南雲くん、おはよう!今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」

 

 ニコニコ微笑みながら一人の女子生徒がハジメのもとへ歩み寄った。このクラス、いや学校でもハジメにフレンドリーに接してくれる数少ない例外であり、この事態の原因でもある。

 名を白崎香織という。学校では二大女神と称される男女問わず絶大な人気を誇る美少女だ。

 彼女はかなり面倒見が良く責任感も強いため学年問わずよく頼られる。しかもそれを彼女は嫌な顔しない。

 そんな香織はハジメをなぜかよく構う。徹夜のせいで居眠りの多いハジメは不真面目な生徒として思われており、その面倒見の良さからよくハジメを気にかけていると推測される。

 

 これでハジメが改善したり、イケメンならば構われるのが許容されるのかもしれないが、ハジメの顔は平々凡々のモブ顔であり「趣味の合間に人生」を座右の銘にしていることから、普段の態度の改善が見られないハジメが香織に構われることは同じ平々凡々の顔立ちをしている男子生徒には我慢ならないのだ。

 

 「あ、ああ、おはよう白崎さん」

 香織の挨拶に返事をするハジメだが、いきなり周りからの視線の殺気が強くなるのを感じる。

 ハジメに挨拶を返されたのが嬉しいのか、嬉しそうな表情をする香織。『なんでそんな表情をするの!』と、ハジメは、さらに突き刺さる視線に冷や汗を流す。

 

 (なんで、そんなに構うんだよ……)

 

 ハジメは不思議でならなかった。 

 なぜ、学校一の美少女はこんなにも自分に構うのか。

 しかし、自分に恋愛感情を持っているとは露程にも思ってない。ハジメは自分が趣味のために色々切り捨てている自覚がある。顔も成績も運動神経も平凡だ。自分などよりいい男が彼女の周りにはいる。故に、なんで自分に構うのか不思議でならなかった。

 

 というか、この殺気を孕んだ視線にいい加減気づいてほしいと内心思っているのだが、口には出さない。そんなことを口に出した瞬間確実に体育館裏に強制連行だからだ。

 ハジメが、会話を切り上げるタイミングを計っていると、三人の男女が近寄ってきた。

 

 香織の親友である少女と幼馴染の人気者、そしてその人気者の親友達だった。

 八重樫雫、天之河光輝、坂上龍太郎である。三人はハジメに近寄った後、それぞれに言葉を口にする。

 「南雲くん、おはよう。今日も大変ね」

 「香織、また彼の世話を焼いているのか?全く、本当に香りは優しいな」

 「全くだぜ、そんなやる気ないやつに何言っても無駄だと思うんだけどなあ」

 

 上から雫、光輝、龍太郎である。

 唯一雫だけはハジメに挨拶をしているが、他二人はハジメに対して辛辣だ。だがハジメはそんなことは気にしないで三人に返事をする。

 「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。まあ、自業自得とも言えるから仕方ないよ」

 

 ハジメが三人に返事をすると、周りからの殺気がさらに増す。三人は周りからも評価が高く、人気があるからだ。

 内心『もうどないせいっちゅうねん……』と周りに思うがそれを言うことは決してしない。決して。

 

 「それが分かっているのなら直すべ「セーフ!!」...」

 

 ハジメの返事に光輝が忠告をしようと言葉を発していると、閉められていた教室の扉が大きな音を立てながら開き、一人の男子生徒が入ってきた。

 その姿は大きく崩した制服に桜色の髪、そして鱗柄のマフラーを首に巻いた170いかないくらいの身長の男子生徒だ。容姿はどちらかというと強面の部類に入る顔つきだが、まだ成長しきっていない幼い感じがある。男子生徒の名前は炎王竜騎、ハジメの少ない普通に話してくれる生徒兼友人にして、よく光輝とも対立をしている生徒でもある。

 

 「いやー、間に合った間に合った。あ、ハジメ!おはよーす!!」

 「おはよう、竜騎。また小さい子達の世話をしてたの?」

 「ああ、チビ達の世話してたら時間食っちまってよー」

 

 それから竜騎はハジメと会話を始める。竜騎は孤児で施設暮らしをしており、基本的に施設の環境を良くするためにバイトと施設の仕事を手伝いよく遅刻をしている。そのことは教師も理解をしているようであまり竜騎が遅刻しても何も言わない。だが、その会話にまったをかける存在がいた。光輝である。

 

 「竜騎、君は一体何回遅刻するんだ。毎回施設の手伝いをしていると教師に説明しているが「別にお前の意見は聞いてねえよ。なんでいちいちお前に注意させなきゃらないんだ?」な、なんだって?」

 

 「だーかーらー、俺の遅刻する理由はちゃんと学校側にも説明をしているし、先生方も納得してんだよ。なのになんで毎回毎回遅刻しかけてくると文句言ってくるんだ?お前には俺のことなんて関係ないだろ?」

 

 光輝の言葉を遮るように竜騎は反論する。

 竜騎の住んでいる施設は小規模だが、かなりの人数の孤児を預かっており、常に人手不足だ。だからその負担を少しでも減らそうと施設の子供達は施設の仕事を手伝うようにしているが、年齢が低いチビ達はまだ世話が必要。そこで年長組筆頭である竜騎が、進んでその世話を買って出る。だから他の職員や手伝う施設の子供は他の仕事に集中できるし、比較的早く仕事を終えることができる。

 

 そのせいで自分が遅刻するのは竜騎は納得してるし、そもそも自分のことより「家族」と思っている竜騎からしたら、そっちの方を優先することは当たり前だ。でも、そんな竜騎に遅刻するたびに説教をしようと突っかかるのが光輝である。

 

 「な、なんでそんなことを言うんだ!俺は毎回君のことを思って言っているんだぞ!」

 

 竜騎の反論に光輝はさらに激しく反応するが、竜騎からすればどこ吹く風。さっさと自分の自席であるハジメの隣の席に座るとハジメと話し始める。ハジメも光輝や香織達を気にしながらも気軽に話しかけてくれる竜騎の話はちゃんと聞き、返事をしたいために会話に集中する。

 

 その行動に無視された光輝がまた話しかけようとするが、そこにちょうど担任の教師が教室にやってきた。光輝達は自分たち各々の席に移動した。教師は教室の空気のおかしさには慣れてしまったのか何事もないように朝の連絡事項を伝える。そして、いつものようにハジメは軽く龍騎と会話をした後に夢の世界に旅立ち、竜騎もそれに合わせて会話を切り上げて授業の準備をする。そして当然のように授業が開始された。

 

 そんな二人を見て、香織は竜騎がハジメに気軽に話しかけることに羨ましそうな表情をしており、雫は最も人間関係や各人の把握しているのでその姿を見てハジメと竜騎に大物だと呆れた表情をし、男子達はハジメに舌打ちを、女子の大半は光輝に反抗する竜騎に敵意を向けるのだった。

 

 

 

 しばらくの後、にわかに教室が騒ぎ始める。居眠りの常習犯であるハジメは起きるタイミングを体で覚えている。感覚から言えば昼休憩に入ったようだ。

 

 ハジメは、突っ伏していた体を起こすとちょうどそのタイミングで机の前に弁当が置かれる。置いた相手は竜騎だった。竜騎はハジメと話すようになってから昼休憩を共にするようになっており、その時昼に10秒チャージを謳い文句にしているものしか摂取していないのを知ってハジメの分の弁当を用意している。ハジメも最初は遠慮したが、竜騎から「一人分追加するぐらいなら施設でも余ってる分を使えば問題ない」、「もう持ってきたんだから食ってくれ」と言われて遠慮するのを諦めた。

 

 「今日の分の飯な」

 

 「いつもごめん、竜騎」

 

 「いいっていいって。こっちも毎朝のご飯が弁当の残りにならなくて済んでるからな!」

 

 ハジメの言葉に竜騎は笑って返す。そしてそのまま教室を出て行こうとハジメが席を立つと、今日こそは逃がさないと言わんばかりに学校の女神が、ハジメにとっては悪魔が寄ってきた。ハジメと竜騎は内心「しまった」と呻いた。月曜日で、昨日も両親の手伝いをして疲労が残っていたハジメは普段起きる時間より遅かったようだ。流石に二日の徹夜が地味に効いていたらしい。

 

 「南雲くん、炎王くん。珍しいね、まだ教室にいるの。お弁当、よかったら一緒にどうかな?」

 

 朝の不穏な風紀が教室を満たし始める中、ハジメは内心悲鳴をあげる。本当に、なんでわっちに構うん?と謎の方言みたいな考えをしているハジメを察して竜騎が断ろうとしたが、すぐにある男子達がやってくる。光輝と龍太郎だ。よく見ると後ろには雫もいる。

 

 「香織、こっちで一緒に食べよう。南雲達は移動するみたいだし、そもそも不真面目と遅刻魔の二人が香織と昼食を食べるなんて俺が許さないよ?」

 

 爽やかに笑いながらちゃっかりハジメや竜騎に毒を吐く光輝のセリフに香織はキョトンとした顔をする。少々鈍感、いや天然である彼女には光輝の言葉は全く効果がないようだ。

 

 「え?何で、光輝くんの許しがいるの?」

 

 素で聞き返す香織に思わず雫と竜騎が「ブフッ」と吹き出した。竜騎に関してはその後に大笑いしている。光輝は一瞬竜騎の方を見た後に困った表情をしながらあれこれ話して香織を自分たちの方へ来させようとしているが、ハジメからしたら有名人に引き止められていることで朝のような視線が周りから向けられている。

 ハジメは深いため息を吐きながら内心で愚痴った。

 

 (もういっそ、こいつら異世界に召喚とかされないかな〜)

 

 そんなことを考えて、いまだに笑っている竜騎を落ち着かせ、話をしている四人組に気づかれないように教室を出ようとしたところで二人とも凍りついた。

 ハジメ達のいる教室の床の一箇所…光輝の足元にゲームなどで『魔法陣』と呼ばれるものが現れたのだ。

 それは教室にいたもの達はすぐに気がつき、全員が金縛りにでもあったようにその輝く魔法陣に注視する。

 

 「ハジメ!急いで出るぞ!!」

 

 竜騎の大きな声で我に帰ったハジメ。だが、すでに魔法陣は輝きを増し始めていて教室の床一面に大きさに拡大していた。

 そのことでようやく硬直が解けて悲鳴を上げる生徒達、いまだに教室にいた教師、「畑山愛子」が咄嗟に部屋から出るように促し生徒達が移動し始める。それより先に移動し始めていた竜騎とハジメが後少しで教室の外へ出れるといった瞬間、光が爆発したように教室内を満たした。

 

 数秒か、数分か、光によって真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻す頃、そこにはすでに誰もいなかった。蹴倒された椅子に食べかけの弁当、散乱する箸やペットボトル、教室の備品はそのままにしてそこにいただけの人間だけが姿を消していた。

 この事件は、白昼の高校で起きた集団神隠し事件として大いに世間を騒がせるのだが、それは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

滅竜奥義、最初にオリ主に使わせるのは何がいい?

  • ラクサス編で見た『紅蓮火竜拳』
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