ありふれない魔法で炎竜王   作:目指せ焼豚

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少し前に竜騎が使う「焔」の表現を「炎」と入れ替えたりしました。
この作品では、竜騎が滅竜魔法を通常で使う時や灯りとして使う時の火を「炎」。感情が激しくなったり、全力で使っている時の火を「焔」と表現することにしました。





ホルアド、夜の語らい

 翌日、竜騎とハジメは七大迷宮の一つ、「オルクス大迷宮」にクラスメイト達とやってきていた。

 七大迷宮は世界有数の危険地帯と呼ばれる場所で、現在確認されている場所は今いる亜人族が住んでいる大陸東側に南北にわたって広がる「ハルツィナ樹海」と海人族と呼ばれる、王国が唯一保護している亜人が住む海上にある町「エリセン」に行くために通る必要があるグリューエン大砂漠にある「グリューエン火山」がある。

 

 なぜ現在三つしか無いのかというと、他の4つは古い文献でおおよその場所は把握できているが、詳しい場所がわかっていないのだ。大陸を南北に分断する「ライセン大峡谷」や、南大陸の「シュネー雪原」の奥地にある「氷雪洞窟」がそうではないかと言われており、最後の一つがわかっていない。

 

 今回やってきたオルクス大迷宮は比較的有名な大迷宮で全百層で構成されており、階層が深くなるにつれて強力な魔物が出現する。危険ではあるが魔物の強さで自分の強さを測りやすいということで冒険者や傭兵、新兵の訓練でよく使われる。そして地上の魔物に比べて、この大迷宮で出現する魔物からは良質な『魔石』を体内に抱えているからだ。

 

 魔石とは、魔物を魔物たらしめる力の核をいう。強力な魔物ほど良質で大きな魔石を備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。魔法陣はただ描くだけでも発動するが、魔石を粉末にして刻み込むなり染料として使うなりした場合と比較すると、その効果は三分の一程度にまで減退する。

 要するに魔石を使う方が魔力の通りがよく効率的ということだ。その他にも、日常生活ようの魔法具などには魔石が原動力としてよく使われる。魔石は軍関係だけでなく、日常生活にも必要な大変需要の高い品などである。

 ちなみに、良質な魔石を持つ魔物は強力な固有魔法を使う。固有魔法とは魔力があっても詠唱や魔法陣を使うことができないことから多彩な魔法を使うことができない魔物が使える唯一の魔法だ。一つしか使えない代わりに魔法陣と詠唱を必要としない魔法で魔物が油断ならない理由である。

 

 戦争参加組、後方支援でも参加組のものを修理するハジメや諜報部員達はメルド団長率いる騎士団員複数名とともに、「オルクス大迷宮」へ挑戦する冒険者達のための宿場町「ホルアド」に到着した。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる。

 

 竜騎とハジメは、久しぶりの普通の部屋に少しばかり感動しながらもベットにダイブする。

 

 「なんか安心するなー……」

 

 「そうだねー…」

 

 二人ともなれない王宮の部屋、メイドなど従者がいたりした生活を送っていたので案外気の抜けた生活ができていなかった二人はふやけるような感じで互いのベットに沈んでいく、その姿は吸収される水分のように。あとは明日に備えて寝るだけの二人はウトウトとしているといきなり部屋のドアがノックされる音が響いた。

 

 日本で徹夜が日常のハジメや、施設の仕事を終わらせてから学校の課題を終わらせる竜騎からしたらそこまで遅くないが、ここは異世界のトータスで、この世界では深夜の時間帯。この時間帯にいきなりの訪問者に二人は仲の悪いクラスメイトの可能性を考えて、お互いにいつでも戦闘を開始できるための準備をする。竜騎は魔力を循環させて魔法の発動態勢を整えて、ハジメは右手に開発した銃を持って体を半身にしながら、扉の相手が誰か名乗りをあげるのを待つ。だが、その警戒は続く声で杞憂に終わった。

 

 「南雲くん、起きてる?白崎です。ちょっと良いかな?」

 

 香織の声が聞こえてきて二人は顔を見合わせる。とりあえず、中に招こうと鍵を外し最低限警戒しながら扉をあげる。そこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの香織が立っていた。

 

 「なんでやねん」

 「えっ?」

 

 ある意味衝撃的な光景に関西弁でツッコミをしてしまうハジメ。よく聞こえなかったのか香織はキョトンと首を傾げている。

 ハジメは慌てて気を取り直すと、なるべく香織を見ないように用件を聞く。

 

 「いや、うん。なんでもないよ。えっと…何かあったの?連絡事項でもあった?」

 「ううん、その、少し南雲くんと話したくて…やっぱり迷惑だったかな?」 

 

 香織の上目遣いにハジメの内心にクリティカルヒット。思わず扉を開けそうになるが、その前に竜騎が香織に話しかける。その時に、竜騎は香織に視線を向けて、『二人っきりにしてやろうか?』と目線だけで話しかけるのも忘れない。

 

 「俺が邪魔なら少し部屋から席を外そうか?」

 

 「あ…うん、悪いんだけどお願いできるかな、炎王くん」

 

 すぐに視線の意図を感じ取り、竜騎の提案を飲む。

 後ろから救援の信号をハジメから感じる竜騎だが、その視線にはあえて気が付かないフリをしてそのまま香織と入れ違えるように部屋を出る。

 

 「……ありがとう

 「……どういたしまして

 

 お互いにすれ違う瞬間に小さく言葉を交わすと、竜騎は部屋を出て外に向かって歩き出す。香織はハジメの促され部屋に入っていくのだった。

 だが、気が抜けていたのだろう。竜騎は普段なら気がつくはずの存在の気配を見逃していたのは、あの時に起こることを未然に防げたかもしれないと後に竜騎は後悔する。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 ハジメと香織を二人にすることに成功した竜騎は、宿に併設されている広場に来ていた。

 

 (しばらく時間かかるし……魔法の練習でもするかな?)

 

 広場に移動した後、竜騎は広場で上半身の服を脱いで最初のストレッチをしていく。練習するのは前日あまり練習ができていなかった滅竜奥義である。かつて竜騎と同じ火の滅流魔導士が愛用した奥義で、文献には『竜の鱗を砕き、竜の肝を潰し、その魂を狩りとる』とまで謳われたという攻撃型の滅竜奥義『紅蓮爆炎刃(ぐれんばくえんじん)』。炎を纏った両腕を振るい、爆炎を伴った螺旋状の強烈な一撃を放つ大技と記されておりあまり狭い場所では使えなさそうであるが、この宿屋にある広場は新兵の訓練にも使われるそうで王宮にあった訓練場ともさほど変わらないので大丈夫だろうと竜騎は広場の中心で練習を開始する。

 

 「爆炎と、螺旋……」

 

 やってみようとするが案外イメージが難しい。まずは普段の訓練から使う炎ではなく、ハジメがリンチされた時に発生した『焔』を使うという直感があるのもあるが、その焔の性質をコントロールし螺旋状に放つのはかなり難しい部類に入る。爆炎と焔に指向性を付与し相手にぶつけるには大量の魔力が必要になるだろう。正直、滅竜魔法を習得し始めたばかりの竜騎にはかなり難題なものだ。

 

 「だけど、やれるようにならねえと……」

 

 だからこそ、竜騎は習得のしがいがあると感じていた。普通に戦っても強力な滅竜魔法、それの奥義ともなれば絶対的な切り札にもなり得る可能性があるからだ。

 

 「燃えてきたぞ……!」

 

 体からやる気と同時に溢れ出した炎と共に口から出たその言葉を合図に、竜騎は習得に向けての練習を始めた。結局その後に部屋に戻ったのはハジメと香織が会話を終わらせてからしばらく時間が経った後であり、ハジメを心配させるのはまた別の話である。

 

 ♢♢♢

 

 場面変わって場所はハジメと竜騎の部屋。現在この部屋にいるのはハジメともう一人の竜騎ではなく、香織がいた。

 ハジメは若干緊張しながらも用意したお茶を窓際のテーブルセットに座っている香織の前に置いた。お茶といっても、紅茶モドキなのだが。

 

 「ありがとう」

 

 嬉しそうに紅茶モドキを受け取り口をつける香織。窓から月明かりが差し込み純白の彼女を照らす。黒髪にエンジェルリングが浮かび、まるで本当の天使のよう。

 ハジメは、欲情することもなく純粋に神秘に彩られた香織に見蕩れた。香織がカップを置く音に我を取り戻し、気を落ち着かせるために自分の紅茶モドキを一気に飲み干す。ちょっと気管に入りむせるハジメ。

 香織がその様子を見てくすくすと笑う。ハジメは恥ずかしさを誤魔化すために、少々、早口で話を促した。

 

 「それで、話って何かな。明日のこと?」

 

 ハジメの質問に「うん」とうなずき、香織はさっきまでの笑顔が嘘のように思い詰めたような表情になった。

 

 「明日の迷宮なんだけど……南雲くんには街で待っていて欲しいの。教官たちやクラスの皆は私が必ず説得する。だから……お願い!」

 

 話しているうちに興奮したのか身を乗り出して懇願する香織。ハジメは困惑する。ただハジメが足手まといだからというには少々必死過ぎないかな?と。

 

 「えっと……確かに僕は足手まといだとは思うけど…流石にここまできて待っているっていうのは認められないと思うけど……」

 「違うの!足手まといとかそういうのじゃないの!」

 

 香織は、ハジメの誤解に慌てて弁明する。自分でも性急過ぎたと思ったのか、手を胸に当てて深呼吸する。少し、落ち着いたようで「いきなり、ごめんね」と謝り静かに話し出した。

  

 「あのね、なんだかすごく嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど…夢を見て…南雲くんがいたんだけど……声をかけても全然気がついてくれなくて…走っても全然追いつけなくて、そして最後は……」

  

 香織は、その先を口に出すことを恐れるように押し黙った。ハジメは、落ち着いた気持ちで続きを聞く。

 

 「最後は?」

 

 香織はグッと唇を噛むとなくそうな表情で顔を上げた。

 

 「……消えてしまうの」

 「そうか……」

 

 再び顔を俯く香織を見るハジメ。確かに不吉な夢だ。しかしどこまで行ってもそれは夢、そんな理由で待機が許可されるわけは絶対にない。これが技能で「予知夢」でもあれば違うことになっただろうが、治癒師の香織の呼びかけでは多分無理だ。許された場合はクラスメイトからの批難の嵐になる。間違いなく今回の遠征で着いて来ているものたちの中での立場が失われる。そもそも、ハジメの中には”行かない”という選択肢はない。

 

 「夢は夢だよ白崎さん。今回はメルド団長が率いる騎士団の人たちだっているし、天之河君や竜騎みたいな強いやつもたくさんいる。僕だってこの二週間訓練にも参加しながら戦うための手段を開発したんだ。今回僕が参加したのは実戦の時の演習と開発したものの試運転をするためなんだし。それでも不安だというのなら……白崎さんが守ってくれないかな?」

 「え?」

 自分が男として相当恥ずかしいことを言っている自覚があるのだろう。すでにハジメは羞恥で真っ赤になっている。月明かりで室内は明るく、香織からもその様子がよくわかった。

 

 「白崎さんは”治癒師”だよね?治癒系の魔法に天性の才を示す天職。何があってもさ……例えば僕が大怪我することがあっても白崎さんなら直せるよね。その力で守ってもらえるかな?それなら、絶対僕は大丈夫だよ」

 

 しばらく香織は、じーっとハジメを見つめる。ここは目を逸らしてはいけない場面だと羞恥に身悶えそうになりながらハジメは必死に耐える。ハジメは、人が不安に感じるの最大の原因は未知であると何かで聞いたことがあった。香織は今、ハジメを襲うかもしれない未知に不安を感じているのだろう。ならば、気休めかもしれないが、どんな未知が襲い来ても自分には対処する術があるのだと自信を持たせたかった。

 

 しばらく見つめ合っていた香織とハジメだが、沈黙は香織の微笑と共に破られた。

 

「変わらないね。南雲くんは」

「?」

 

 香織の言葉に訝しそうな表情になるハジメ。その様子に香織はくすくすと笑う。

 

「南雲くんは、私と会ったのは高校に入ってからだと思ってるよね? でもね、私は、中学二年の時から知ってたよ」

 

 その意外な告白に、ハジメは目を丸くする。必死に記憶を探るが全く覚えていない。

 

 う~んと唸るハジメに、香織は再びくすりと笑みを浮かべた。

 

「私が一方的に知ってるだけだよ。……私が最初に見た南雲くんは土下座してたから私のことが見えていたわけないしね」

「ど、土下座!?」 

 

 香織は、ハジメを初めて見た日の出来事を話していく。そして、その姿を見たときに感じたことも。

 

 「強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。光輝くんとかよくトラブルに飛び込んでいって相手の人倒しているし……でも、弱くても立ち向かえる人や他人のために頭を下げられる人はそんなにいないと思う。……実際、あの時、私は怖くて……自分は雫ちゃん達みたいに強くないからって言い訳して、誰か助けてあげてって思うばかりで何もしなかった」

 「白崎さん……」

 「だから、私の中で一番強い人は南雲くんなんだ。高校に入って南雲くんを見つけたときは嬉しかった。……南雲くんみたいになりたくて、もっと知りたくて色々話し掛けたりしてたんだよ。炎王くんに南雲くんの話を聞いたりもした。いつも南雲くん直ぐに寝ちゃうけど……」

 「あはは、ごめんなさい」

 

 香織が自分を構う理由が分かったハジメは、香織の予想外の高評価に恥ずかしいやら照れくさいやらで苦笑いする。

 

 「だからかな、不安になったのかも。迷宮でも南雲くんが何か無茶するんじゃないかって。不良に立ち向かった時みたいに……でも、うん」

 

 香織は決然とした眼差しでハジメを見つめた。

 

 「私が南雲くんを守るよ」

 

 ハジメはその決意を受け取る。真っ直ぐ見返し、そして頷いた。

 

 「ありがとう」

 

 それから直ぐハジメは苦笑いした。これでは役者が男女あべこべである。今夜のイケメン賞は間違いなく香織だ。だとすれば、さながら自分はヒロインかと、男としてはなんとも納得し難い気持ちに笑うしかなかったのだ。

 

 そして、香織はしばらく雑談をした後に自分の割り当てられた部屋に帰っていった。

 ハジメは自分の部屋の入り口から出て、その姿を見送る。見えなくなったのを確認すると今日の出来事を噛み締めて部屋に戻ろうとしたが、急に感じた悪寒に咄嗟に銃を構えて感じた方向に向ける。

 

 「っ…?気のせいか」

 

 自分も香織の話を聞いて敏感になっているのかもしれないと思いながら銃を持ったまま部屋に入る。

 

 

 

 

 だが、その考えはあっていた。ハジメが銃を向けた方向に隠れていた者がいた。その者は、竜騎は気を利かせてハジメと香織を二人っきりにするために部屋を出た時からそこにいて、ずっと静かに部屋を見ていた。その者の表情が、ひどく歪んでいるのを知るものは……誰もいない。

 

 

 

 

 

竜騎・ハジメ側かクラスメイト側の話、どっちが先がいい?

  • 竜騎・ハジメ側
  • クラスメイト
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