モブ崎くんに転生したので、謙虚に生きようと思う   作:惣名阿万

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第19話

 

 

 

 ● ● ●

 

 

 

 思わぬ再会から数時間後。

 自室のベッドへ横になった雫は額に右手の甲を添え、じっと天蓋を見上げる。

 

 夕食を終えてからは駿も自身の下宿先へ戻り、沓子は貸し与えた客間で少ない荷物を広げていた。

 黒沢以外のハウスキーパーは全員仕事を終えており、唯一住み込みの彼女も今頃は自室で落ち着いている頃だろう。

 

 賑やかな食卓から一転して、すっかり慣れたUSNAでの自室は窓越しに風音が聞こえるほどの静けさに包まれていた。

 講義の復習や端末で気になるニュースを調べたりなど、普段のこの時間にしている習慣にはうってつけの環境だ。

 

 だが激動の一日を過ごした後の雫にとってこの静寂は心休まる時にはならなかった。

 

 人間は夜になると悲観的な思考をしがちになるという。

 雫も例に漏れず、抱えた悩みと昼間の騒動の記憶で鬱屈とした溜め息が零れていた。

 

 生死に関わる争いへ巻き込まれたのはこれで四度目。

 春の襲撃事件は幸い現場に居合わせることはなく、本格的な戦闘に直面したのは二度目の横浜からだ。

 この時の経験があったからこそ前回の『屍食鬼』との遭遇や今回の一件はまだ衝撃が小さかったものの、後になって思い返す程に別の恐怖と後悔が滲んできた。

 

 もしも沓子がいなかったら、駿は命を落としていたかもしれない。

 もしも自分がいなかったら、駿は危機へ陥らずに済んだかもしれない。

 

 一度頭に浮かんでしまえばもう考えないふりはできなかった。

 『FEHR』との会合を経てからずっと胸に(つか)えていた迷いが頭をもたげる。

 

 

 

 果たして、自分は駿の隣に居ていいのだろうか。

 

 

 

 自らが巻き込まれるのは覚悟の上だった。

 けれど自分が居ることで駿の負担になるのは望んでいない。

 

 加えて昼の騒動の時、『屍食鬼』の前へ飛び出した駿の表情に迷いはなかった。

 危険を避けるために手を出さない。そう語った時に押し殺していただろう義心が、あの時ばかりは解き放たれているように見えた。

 

 雫の護衛を続ける限り、駿は心のままに振る舞うことができないだろう。

 頼りにしていた指針を失い、代わる何かを見つけるためにアメリカへ来た駿が自分のために行動を縛られてしまうのだとすれば、それは雫にとっても喜ばしいことではない。

 

 

 

 果たして、自分は駿の隣に居ていいのだろうか。

 

 何度となく抱いた問いが頭に浮かぶ。

 

 

 

 悶々と思考が渦巻き、その度に胸へ圧し掛かる重しが増えていく。

 悪循環に陥っていると理性ではわかっていても、沈み込む感情を留めることはできなかった。

 

 不意にノックの音が響く。

 内へ向いていた意識が現実に引き戻され、雫は身体を起こしてドアへ目を向けた。

 

 午後十時を過ぎたこの時間、黒沢が訪ねてくることは緊急時を除いてない。

 そして仮に緊急の用事であれば返事を待たず踏み込んでくるだろう。

 

 残る可能性は一人だけ。

 快活な笑顔が頭に浮かび、思わず息の漏れた自身に首を振ってから雫はベッドを降りた。

 

「遅くにすまんのう」

 

 ドアを開けた先には予想通りの人物が立っていた。

 アメリカ人サイズの大きな扉を両手で引き、海色の髪の少女と正対する。

 

「沓子。こんな時間にどうしたの?」

 

「うら若き女子高生が夜にすることと言えば一つしかあるまい」

 

 仰々しい言い回しと共に腕を組む沓子。

 何を言いだすのか予想が付かず、雫は首を傾げることしかできなかった。

 

 わざとらしい間が空き、やがて腕組を解いた沓子が高らかに宣言する。

 

「がーるずとーく、なのじゃ!」

 

 ピンと立てた指先を顔の前に突き付けられ、雫は思わず気圧されてしまった。

 

 一歩身を引いたのを承諾と見てか、沓子は笑顔のまま部屋へと入り込む。

 そのまま雫の許可を得ることなくベッドに上がった沓子はひとしきりゴロゴロと転がった後、クッションの一つを抱き寄せて振り向いた。

 

「ほれ、何をしておる。雫も隣へ来ぬか」

 

 小さなため息が自然と漏れ、胸に乗っていた重しが一緒に何処かへ消える。

 傍若無人な振る舞いに内心でだけ感謝しながら、雫は沓子に求められるまま彼女の隣へ腰を落とした。

 

 

 

 

 

 

 ● ● ●

 

 

 

 

 

 

 唐突に始まった『がーるずとーく』は当初こそ近況報告が中心だったものの、15分と経たない内に懸念していた方向へ傾いた。

 

「それで。あやつとはどこまで進んだのじゃ?」

 

 とはいえこれほど直球に訊かれるとは思わず、雫は抱えた膝に口元を隠した。

 

「どこまでも何も、大きく変わったことはないよ」

 

「白ばくれるでない。夏の頃よりも近しい仲なのは見ればわかる」

 

 面倒くさいとばかりにため息を吐く沓子。

 バークレー校の同級生たちと同じことを言われた雫は苦笑いで表情を繕いつつ、彼女たちへ返したのと同じ答えを口にする。

 

「彼の言った通り、ボディガードと雇い主ってだけだよ」

 

 途端、沓子から向けられる眼差しも彼女らと同じ胡乱なものを見る色に変わった。

 

「恋仲になったわけではないと? 毎日食卓を共にしておいてか?」

 

「うん。告白はしたけど、色々あって断られちゃったから」

 

 嘘は吐いていない。想いを伝えたのも交際を断られたのも事実だ。

 ただその結果に至る経緯が単純ではなく、詳細を語るのも憚られるというだけ。

 

「ハァ……。あれほど気に掛けておきながら、難儀な男じゃのう」

 

 今度漏れたため息は直前よりも大きなものだった。

 

 この場にいない駿へ向けた呆れも含まれているのは明らか。

 しかしこの時の雫にそこへ気付く余裕は残されていなかった。

 

「やっぱり気に掛けさせてるんだ」

 

 言葉の一部に反応して、雫は抱えた膝に額を当てる。

 感傷的になっている自覚がありながら弱音が零れるのを止められなかった。

 

 そうして内に沈み込むばかりの雫へ、沓子は訳知り顔で問いかけた。

 

「なんじゃ。自ら踏み込んでおいて、揺らいでおるのか?」

 

 堪らず息を呑む。

 何故と窺った先には沓子の瞳が待っていて、黄昏色のそれに気圧された雫はおずおずと心情を吐露した。

 

「……いつも守ってもらってばかりだから。負担になってるんじゃないかって」

 

 段々と尻すぼみになる雫に沓子は口を挟まなかった。

 やれやれとばかりに笑みを浮かべ、俯いた雫をじっと見つめるだけ。

 

 ただ、雫の零した弱音を聞いていたのもまた彼女だけではなかった。

 

『随分と甘くなったのね』

 

 突然聞こえた声に雫は身体を震わせる。

 驚いたのは当然として、自ずと背筋の伸びる迫力がその声音にはあった。

 

「やれやれ。もう少し引き出してやろうと思っておったのに。せっかちなものじゃ」

 

 残念とばかりに首を振って、沓子が抱えていたクッションを脇へ除ける。

 小柄な身体の正面を隠していたその下で沓子の手は一台の端末を握っていた。

 

「もしかして、愛梨?」

 

 光を放つ画面と聞こえた声から雫は沓子の企みを察する。

 通話を繋げた先にいるだろう人物を想像して無意識の内に身体が強張った。

 

 口元に笑みを湛えたまま沓子が端末をシーツの上に置く。

 ちらと窺った先の沓子に画面の前へ促され、雫はおずおずと端末を覗き込んだ。

 

 やや眩しく感じる画面には想像通りの人物ともう一人、彼女の友人が映っていた。

 

『こんばんは。夜分遅くごめんなさい』

 

「栞まで。どうして……」

 

 十七夜(かのう)(しおり)。沓子と同じ魔法大学付属第三高校に通う一年生で、夏の九校戦では雫と二度に渡って対戦したライバルの一人だ。

 

 疑問への答えはすぐ傍の沓子から示された。

 

「せっかくのがーるずとーくじゃ。賑やかな方が楽しかろう」

 

『ということらしいわ。ごめんなさいね、沓子の気まぐれに付き合わせて』

 

 そう言って小さく首を傾ける栞もまた巻き込まれた側だろう。

 カリフォルニア州バークレーは午後11時になろうかという頃で、時差を考慮した日本時間は午後3時の手前。カリキュラムの詰め込まれた魔法科高校ではまだまだ授業中のはずの頃合いだ。

 

 一高と同じく三高も一般科目は自習形式で、所定の課題を提出すれば授業時間を早めに切り上げられることは雫も知っている。

 だが単位の取得には学期を通して相当量の課題をこなさなければならず、魔法実技の訓練時間を確保するためにも授業時間中は先を勧めるのが普通だ。特に学年末試験を控えた時期ともなれば尚更のこと。

 

「こちらこそ、ごめんなさい。多分、きっかけは私だから」

 

 忙しいだろうこの時期に授業を抜け出してまで通話を繋いだのだ。

 それも雫の本音を引き出すために、回りくどい仕掛けまでして。

 

 早合点してますます恐縮を深める雫。

 画面越しにそれを見ていたブロンドの少女――一色(いっしき)愛梨(あいり)はここで我慢の限界を迎え、煮えたぎる不満をまっすぐに投げ込んだ。

 

『泣き言を聞くために授業を切り上げたわけではないのだけれど』

 

 栞が非難の目を向けるも愛梨は止まらず。

 苛立ちも明らかに腕を組んだ彼女は言葉に詰まる雫を横目に小言を並べた。

 

『まったく。黙って聞いていれば、まさかこんな弱音を聞かされることになるなんて。一緒に留学しているからって腑抜けてしまったのかしら。富士で、横浜で、正々堂々を謳った貴女はいなくなってしまったのね』

 

 失望したと言わんばかりに捲し立てて、愛梨は画面越しの雫へ鋭い眼差しを向ける。

 

『今の貴女はとても彼の隣に立てると思えない。怯えて守られるだけの人に彼を支えることなんて出来ないもの』

 

 反論は浮かばない。愛梨の言う通りだと、雫自身も思っていた。

 だからこそ黙って受け止めていたのだが、そんな雫の態度もまた愛梨にとっては苛立ちの本だった。

 

『私にはあの人と一緒に戦う覚悟があります。たとえ求められていなくても自分の意思で傍に駆け付ける。負担になるだとか、迷惑だとか、言われてもいないことを気にして逃げたりしないわ』

 

 段々と愛梨の語気が強くなる。

 吐き捨てるのでなく、焚きつけるように。

 厳しい口調で言葉を並べながら、それでも視線は常に雫を捉え続けていた。

 

「逃げるなんて、そんな……」

 

『逃げているわ。だって貴女は自分が思っていることをあの人に話していない』

 

 弱々しい反論はすぐに押し潰され、雫の声が震え始める。

 

「言えるはずないよ。だって、私の所為で余計な負担を掛けてるのに」

 

 対する愛梨は冷厳に、突き放すような口調で追及する。

 

『余計な負担だと、彼がそう言ったのかしら』

 

「そうじゃないけど。でも、もしかしたらって……」

 

 零れ落ちた言葉はまるで悲鳴のようで。

 聞き留めた愛梨は僅かに目を細め、冷淡に断じる。

 

『なら、貴女はもうあの人の隣にいたくないと言うのね』

 

「っ、そんなわけない! 私は――私だって、駿くんの隣にいたいよ!」

 

 衝動のまま言い返して、直後はたと目を見張る。

 小さな画面に映る愛梨は言葉と裏腹にまっすぐ雫を見据えていて、表情こそ凛としたまま眼差しだけが柔らかくなっていた。

 

 まるでその答えを待っていたと言わんばかりに。

 

『ちゃんとわかってるじゃない』

 

 愛梨の一言が胸にストンと落ちる。

 

 そうして初めて雫は愛梨の意図や沓子の計らいに気付くことができた。

 悲観に囚われていた頭がクリアになり、胸を圧迫する不安も遠ざかっているようだった。

 

「……もしかして、励ましてくれたの?」

 

 毒気を抜かれた雫が訊ねると、愛梨は「まさか」と応じて顔を逸らす。

 

『譲られたものをただ受け取るなんて、そんなつまらない勝利は求めていないだけよ』

 

 瞬間、愛梨をよく知る二人が画面を挟んでため息を漏らす。

 

『素直じゃないわね』

 

「まったくじゃ。どちらもあやつに似て面倒になりおって」

 

 当の愛梨は友人たちの苦言を聞かなかったことにしたらしい。

 

『雫』

 

 親友の苦笑いには気付かぬふりを決め込んで、愛梨はまっすぐ雫だけを見据える。

 藤色の瞳に苛立ちの色はない。雫の表情に悲観の名残もない。

 

『あの人の背を追いかけるのは、貴女自身がそう願ったから。そうでしょう』

 

「そうだね。愛梨の言う通り。考えすぎてたみたい」

 

 雫の返答に、愛梨は満足げな笑みを浮かべた。

 真剣そのものだった目元が好戦的な形に変わり、いつか競争を誓った時と同じように雫のそれと交錯する。

 

『少しは張り合いが戻ったかしら』

 

「塩を送ったこと、後悔しないでね」

 

『まさか。正々堂々競い合うと言ったはずよ』

 

「うん。ありがとう、愛梨」

 

『どういたしまして。――さあ。気を取り直して、留学生活がどんな感じか聞かせて頂戴。多分、私には叶えられないことだろうから』

 

 雫が頷くなり、沓子が肩を寄せる。

 画面の向こうでも愛梨のすぐ傍へ栞が歩み寄って、間もなく4人の間には驚きと笑いの声が広がった。

 

 

 

 趣の変わった『がーるずとーく』は長らく続き、第二回の約束と共に通話が切られた時にはもうバークレーは日付が変わろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 ● ● ●

 

 

 

 

 

 

 同日 日本時間午後7時30分

 

 臨時役員となった生徒会での仕事を終えたリーナは滞在先のマンションへ帰るのではなく、港区赤坂の米国大使館を訪れていた。

 

 留学生としてのアンジェリーナ・クドウ・シールズが大使館を訪ねた理由は『大使館に勤務する親戚のシルヴィアに用事がある』というもの。

 当然これは建前に過ぎず、案内された先の部屋で待っていたのも従姉の役に就くシルヴィアではなかった。

 

「学校帰りに足を運んでもらってすまないな、少佐」

 

「問題ありません、大佐殿」

 

 一高の制服のままであることに細やかならぬ抵抗を感じながら、リーナは慣れた動作で挙手の敬礼を行う。

 中等教育を受ける頃にはもう軍の養成所にいたリーナは当たり前に軍の制服へ着替えるべきと考えていたのだが、当のバランスからその必要性はないと断じられてしまった以上、我を通して上官を待たせるわけにもいかなかった。

 

「貴官に来てもらったのは伝達事項があるためだ。まずはコレを見てほしい」

 

 リーナの返事を待たずにバランスが手元の機器を操作する。

 部屋の照明が落ち、暗くなった室内の壁に定点カメラのものらしい映像が映し出された。

 

 一人の少年に対し、複数の魔法師が攻撃を仕掛ける。

 宙を舞うナイフと対象に燃焼の状態を強制する魔法、そして赤外線レーザーによる狙撃。緻密な連携の下で殺到する攻撃に対し、少年は反撃もままならない様子だった。

 

 スターズ隊員3名の連携も見事なものだが、真に驚くべきは少年の対処能力だ。

 

 仮にリーナが少年の立場に置かれたとしたら、リーナは持ち前の干渉力の高さで《ダンシング・ブレイズ》と《生体発火》を制圧するだろう。レグルスの放つ《レーザースナイピング》にも光線を反射するシールドで対抗できる。

 

 一方、少年はリーナのような干渉力やキャパシティを持ち合わせていないようだった。

 にもかかわらず、常人離れした体捌きと強力だが効率の悪い対抗魔法のみで三人の猛攻を凌いでみせた。魔法力そのものよりも少年の技量と胆力にこそ驚嘆するほかない。

 

 動画は劣勢だった少年の傍に二人の援軍が加わったところで終了する。

 画面の大半が霧に覆われる寸前に映った姿は、加勢した二人がどちらも顔見知りの男女であるとリーナに知らせていた。

 

(タツヤだけじゃない。エリカとミキもかなり手強いわね。まったく、日本の高校生はどうなってるのよ)

 

 内心で愚痴を漏らしたリーナはそれを表情に出さぬよう苦心しながら振り返り、再びバランスへ正対する。

 

「見てもらった通り、1等星級(スター・ファースト)1名、衛星級(サテライト)2名、スターダスト5名から成る捕獲部隊はターゲットの確保に失敗。タツヤ・シバ、及びその友人2名の戦闘能力は我々の想定を遥かに超えるものと言えるだろう」

 

 バランスの評価もリーナと変わらないようだ。

 魔法師でない彼女が自身と同じ警戒感を抱いていると聞いて、リーナは上官への信頼をさらに高めた。

 

「また今回の戦闘記録を照合した結果、タツヤ・シバのサイオン波パターンがとある要注意目標のそれと合致した」

 

 語り口が変わったのを感じて、リーナの眉がピクリと動く。

 より真剣味の増したリーナと視線を交わしてから、バランスは続きを口にした。

 

「先の大亜連合による侵攻、その際に発生した横浜での戦闘において、多くの機動兵器を消失させた分解魔法の使用者。コードネーム『マヘーシュヴァラ』がそれだ」

 

 二重の衝撃がリーナの心臓を強く鳴らした。

 

 『マヘーシュヴァラ』とは大亜連合軍内で語られていた噂を流用した呼び名(コードネーム)であり、戦域に多大な影響を与えるジョーカーとしてUSNA軍内で要注意目標とされている魔法師だ。

 機械兵器はもちろんミサイルなどの弾体や生身の人間に至るまで。一切の区別なく消失させる分解魔法を操る魔法師にして、『灼熱のハロウィン』を引き起こした大爆発はこの『マヘーシュヴァラ』が放った魔法の結果であると軍上層部は結論付けていた。

 

「タツヤ・シバは能力を秘匿している、ということでしょうか」

 

 達也が『マヘーシュヴァラ』と同一人物であると告げられて、最初に浮かんだ疑問はこれだった。

 

 攻防自在の強力な魔法を持つ戦闘魔法師であると同時に、非公式の戦略級魔法すら操る日本軍の秘密兵器。それが『マヘーシュヴァラ』に対するUSNA軍の評価である。

 だからこそ、リーナは今しがた見た映像とのギャップを感じていた。

 

 バランスはリーナのこの問いに肯定を返した。

 

「先の映像を見る限り、その可能性は高い」

 

 上官の追認を受けたリーナはその一言で疑問を――自身の失態への後悔を呑み込む。

 

 リーナが第一高校に留学したのは達也と深雪の調査のためだ。

 だというのに、1カ月ほどの潜入調査においてリーナは達也の能力を見抜くことができなかった。深雪の優秀さは何度となく体感していたものの、達也に関しては頭脳と技術力への評価に留まっていた。

 

 自身の見る目の無さを悔やみながら、それでもリーナは顔を伏せない。

 

 分析が間違っているという発想はない。

 サイオン波パターンによる人物の照合はUSNAの極秘技術であり、その信頼性は参謀本部直属の部隊であるスターズ隊員なら誰もが把握している。

 リスクを冒して暗闘を仕掛けたのも確実な観測のためで、入念な準備の下で観測されたデータが『マヘーシュヴァラ』のそれと一致したのであれば最早疑いようもなかった。

 

「本作戦の結果を鑑みて、参謀本部は『マヘーシュヴァラ』の正体をタツヤ・シバと断定。仮称『グレート・ボム』の使用者であると予想されることから、同人物を安全保障上の脅威となる戦略級魔法師と推定し、これの捕縛、若しくは抹殺を最優先任務に設定する」

 

 これこそがリーナの胸を揺さぶったもう一つの衝撃だ。

 

 『グレート・ボム』と呼称された、質量をエネルギーに変換する魔法の使い手を捕縛、あるいは無力化すること。

 USNA軍魔法師の頂点に立つリーナへ課せられた、それが最大にして最優先の任務である。

 

「次の作戦には()()()()()()、貴官にも出動してもらうことになる。心積もりをしておくように」

 

了解であります(Yes)大佐殿(Ma’am)!」

 

 バランスの檄へ応えるリーナの目には、燃え盛る闘志の色だけが覗いていた。

 

 

 




 
 
 
 
 
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