幻想郷。
現代から隔絶された妖怪にとっての理想郷。
そこへ幻想入りしたとある一般人の日々を綴った物語である。



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息抜きに書いた短編です。
のんびりとしたのを書きたかった。




一日目~三日目

■月Δ日

幻想入りをして早2ヶ月となる。

やっと人間の里にも馴染めてせっかくなので日誌を始めることにした。

なんというか、どう書いたものかと考えに耽る物のあの日に何があったかなどを思い出せるのでとてもいいと考えたためだ。

とはいったもののこの広いようで狭い隔絶された世界で書くことなどせいぜいがその日誰と会い、話し、過ごしたかといった程度である。かなり淡白となるだろう。始めたばかりなので今日はここまでとする。

今日の味噌汁は我ながら会心の出来だった。

家事を覚えておいてよかったと思ったのは何度目だろうか。

 

○月◎日

今日は自分がこの幻想郷に来てからお世話になり続けて頭が上がらなくなった人物の一人である上白沢慧音さんが我が家に訪れてくれた。我が家に来てくれたお客人第一号が恩人であり美人とは心が踊ったのは自信の心とこの日誌にのみ留めておくこととする。世話焼きなのかそれとも自分が駄目人間の類いに見えたのか2ヶ月もの間面倒を見てくれた慧音さんに今日の自分用に取っておいたお菓子を出して話をすることにした。今日は二日目の日誌にして長くなりそうだ。

 

心配なものは心配だから、とのことだったので素直に感謝して大丈夫だと伝えるとホッとしていた。はて、今までも同じやり取りを既に両手で数えられなくなるほどにはした筈だが、自分はそこまでだらしがないだろうか。人里での居住権も確保し、後はこの幻想郷の異常な常識を知識としてでなく体に覚えさせるだけなのだが…と思っていたら妖怪にも興味を示して一人でふらっと行こうとするからだと叱られた。反論の余地無しとはこの事か。

気になるものは気になるし、知りたいものは知りたいのである。

野垂れ死ぬのは御免だが無知で生きるのは御免被りたかったと伝えると説教を軽く一時間された。寺子屋の教師らしい正論という弾丸を軽く十発は叩き込まれたため精神はボロボロである。

その後は何か困ったら頼って欲しいという事と無茶は控えるようにと言われ、慧音さんは帰っていった。

何とも世話焼きな人である。自分がそこまで言われてふらふらと何処かへ行く人種と思われるとは心外オブ心外だった。

 

◇月◆日

朝早く起きて準備をしていたら9:00になっていた。時間とはかくも早い物だと染々と感じることが出来たが嬉しくはなかった。

幻想入りしてからの相棒の背負い鞄に色々と入れてから外へ出てそのまま里の外に出た。

目指すはこの幻想郷の妖怪退治のプロの元である。

いざ行かん!ということで一旦筆を置くことにする。

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 

 

朝の日差しが自分を照らす、気持ちのいい朝とはこの事だ。

人里から出てそのまま整備があまりされていない道を通る。

目指すはこの先だ。

 

黙々と歩いて早二十分となるが気だるさは来ない。

外の世界とは違って移動手段が徒歩しかないと分かっているからだろうか。それとも外の世界自体に鬱屈としていたのだろうか。

今となっては覚えていない…何せ、2ヶ月もの間色々と叩き込まれてきたのだ。そんなことを考える暇なんて無かった。

 

というか、慧音さんは意外とスパルタだった。

現代社会とはまた違った厳しさに目が死にかけたが愛の鞭だと思い込んで頑張った。

寧ろこの徒歩すらも幻想郷を生きる上での醍醐味なのではないか?

旅人向いてるんじゃないか自分、転職来たか自分。

ハロワなんぞ要らなかったんだという全能感を楽しみつつも数分後にはそれはないと自らの考えを振り払う。

そして更に歩くこと五分程だった。

 

目の前には長い階段があった。

整備、というよりは掃除は…されていない。

参拝客が殆どいないというのは事実だったかと、とある書物の情報は正しいことが証明された。されてしまった。

しかし、階段を上るのはいいもののこれは大変だった。

何段も何段も飽きもせず続きがあるものだから張り合って急ぎ目に上ったのが良くなかった。

 

「ッ…ッ…!」

 

お陰で足はガタガタだった。後ろを見るのはやめておくことにした。多分驚いた足躓いて死ぬ。死因が階段から転げ落ちた事故死は洒落にならない。死ぬとしてもせめて老衰かなぁ…

 

閑話休題(それはさておき)

 

急ぎ目に上ったのが功を奏したのか階段に終わりが見えた。

つまりは鳥居が見えた。紅い鳥居だった、ザ・鳥居だった。

真ん中を歩くのは良くないと覚えていた賢い自分は横を歩いていたのでヨシッ!鳥居を潜る時に一礼するとかしないとか。自分はとりあえずしておいた。

鳥居を潜ればやっとこさ着いた神社の姿。

境内は一応綺麗だった…のだが、心なしか寂れたようにも感じる。

神社特有の荘厳さが欠けているというか、神様がいるのかも怪しい。

とある新聞でもここはとても落ち着くとかなんとか…妖怪が作った新聞なのだが、その評価はよろしいのだろうか?

取りあえずと清められそうな湧き水はあったのでお清めをしてから賽銭箱へと向かう。

これまた寂れた雰囲気の賽銭箱だった。具体的にいうとびた一文投げられてなさそうな賽銭箱だ。

何ということか…これだと自分は異常なのだろうか?

いやいやと頭を横に振る。

これから色々と祈願するのだから雑念は捨てるべし。

 

取りあえずお賽銭を入れる。

お金?そりゃ明治時代らへんのお金など自分が持ってるわけがない。慧音さん様々なのである。そこ、だらしがないとか駄目な奴とか言わないように。

 

二礼二拍手一礼

 

一つの挙動に自然と力が入った。

生まれてこの方神様にお祈りなんてするまいと思っていたが、することにしたのは何故だろうか。

やはり、魑魅魍魎の新天地だからか?

多分、違うのかもしれない。外来人が生きる確率なんてそれこそ低いだろう。

運が良かっただけなのかもしれないが、それはそれとして生きているので拾ってくれた慧音さんには頭がやっぱり上がらない。

 

祈願する内容は簡単だった。

 

そうして閉じていた目を開けると視線が一つ自分に突き刺さっているのが分かった。

この神社でそんな視線を寄越すなんて妖怪か、それ以外。

つまりは一人しかいないわけで。

そちらへと体を向けるとそこには

 

「お賽銭、入れた…」

 

第一声が神社の巫女として疑われる発言の紅と白の巫女服が目立つ女の子だった。

楽園の素敵な巫女、博麗霊夢。

幻想郷の異変を解決する巫女であり、スペルカードルール発案者であり、調停者。

…らしい。らしい、というのは書物でしか知らないので仕方ない。

実物は初めて見たので話しかけることにした。

 

「あの」

 

「え、ああ…こういう時、何て言うべきだったかな…いらっしゃい?」

 

「巫女としてどうかと」

 

「神社がいて、私がいる。それでいいじゃない」

 

ちょっとの指摘はどこ吹く風。

噂通りというか、思い描いていた人物通り。

賽銭を入れた変な人という扱いだろう。

取りあえず話を続けよう。

 

「博麗霊夢さん?」

 

「そうよ、貴方は…里の人間にしては変よね。外来人?」

 

「どうして分かったんです?」

 

「勘よ」

 

「勘」

 

「そう、何となくってやつ」

 

実に彼女らしい回答だった。

博麗の巫女の勘は凄まじい、とは聞いてはいたがここまでとは。

見破るとかでなく、何となく。

けれど根拠も何もかもを壊す弾丸に違いない。

恐れ入った、負けでいいです。

 

「賽銭を入れる人なんて久しぶりね」

 

「具体的には?」

 

「覚えてないくらい」

 

つまり忘れたということか。

 

「賽銭がないのに生活出来るんですね」

 

「異変解決とか、色々してるからね」

 

「色々」

 

「そ、副業とか色々。賭事もしたかな」

 

「巫女とは一体…うごごご…」

 

「変な奴」

 

少女にこう言われると心に一本の針が刺さった気分だった。

何て呼べば?と聞くと好きにしたらと言われた。

ここは無難に博麗さんと呼ばせて貰おう。

しかし、呼んだ直後に

 

「下の名前はよく呼ばれるけど上だと何か…下にして」

 

注文された。

好きにしたらと言われたからそうしたのに自由はなかった。

難問かな?難問だった。

霊夢さんと呼ぶと納得した様子だった。

呼ばれ慣れてるんだろうなとこちらも納得した。

その後、お茶でもどうかと聞かれて、是非ともと言うと

 

「そう」

 

と素っ気なく言われた。

淡白なのかなとも思ったけど、親しいわけでもないから何とも思われていないだけなのだろう。

警戒心が全くないのも自分が弱いからだと推測する。

窮鼠猫を噛むというが、霊夢さんには当てはまらないだろう。

 

お邪魔しますと神社の中へ。

博麗神社、通称妖怪神社。

通称の時点で首をかしげるがそう呼ばれてるのだから仕方ない。

まあ、円満な関係が築けているのならそれに越したことはないのだろう…霊夢さんがどう思っているかはさておくとして。

 

中はやはりというか、和風である。

これは日誌に何と書くか…

うんうんと考えていると柱に頭をぶつけた。

ゴツンといい音がした。

 

「何してんだか」

 

呆れ顔で言われてしまった。

返す言葉もないのですみませんと謝ると、別にと言われた。

 

「痛いのはアンタでしょ、私に謝る意味ないわ」

 

「あー…確かに」

 

「変な奴」

 

二度も言われた。

心に二本目の針が刺さった気がする。

これは名誉挽回の機会を狙わねばならない。

 

客間と思わしき部屋に着いて、座ってるように言われたから背負い鞄を置いて座る。

落ち着かない、ソワソワとした気分が収まらないのは多分こういった場に慣れてないからだろう。

断じて美少女巫女さんとお茶が飲めるからではない、断じて。

 

「はいどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「何というか、律儀ねアンタ」

 

「何分、外の世界出身なもので」

 

「そう、私が見たことがある奴は大抵自由奔放だったけど」

 

「そういった外来人はどうなりました?」

 

「食べられたんじゃない?」

 

「はえー…」

 

想像できないが、多分馬鹿な人達だったんだろう。

夢のような場所で食べられるとは、可哀想に。

 

「何ていうか、異世界だ~とか何とか」

 

「あー…」

 

「心当たりある?」

 

「いやまあ…夢見がちとか?」

 

「起きてるのに夢なんて、変なのね」

 

「夢のような世界で起きてるんですよ、外来人からしたら」

 

もしかしたら、逆もまた然りなのかもしれない。

中から外へ、外から中へと行ったり来たりが出来たなら自分ならどうするだろう?多分、外は嫌なんだろう。

ここでひっそりといよう。

 

「アンタ、ここに来る時妖怪に会わなかった?」

 

「そういえば会ってませんね。運がいいですかね」

 

「そうね、今年の運は消えたんじゃない?」

 

「それなら大丈夫ですよ。さっき祈願した内容が『運が良くなりますように』なので運は補充されてますから」

 

「運って補充するものじゃないでしょ」

 

「え、でも消えるならどこかから来ませんか?」

 

「…そうかしら」

 

「そうなんじゃないですか?」

 

「そういうことにしておいてあげる」

 

何じゃそりゃ。

それからも頭にパッと浮かんだ話題を続けた。

 

「妖怪がよく来ると噂ですけど、今日は来ないんですね」

 

「珍しく、ね」

 

「個人的にお会いしたかった」

 

「やめといた方がいいわ、取って食われるかも」

 

「それなら退治してくださいよ」

 

「生憎馬鹿を助けるつもりはないわ」

 

「お賽銭一ヶ月に一回入れますから」

 

「一週間に五回ならいいわ」

 

「ちなみにいくら?」

 

「二円くらい」

 

「二円は高い」

 

「じゃあ一円」

 

「もう一声」

 

じゃあ一銭でいいわ、と溜め息ごしに言われてガッツポーズ。

ここで二円は高い。

明治時代頃に幻想郷が出来たと考えると二円は無理だ。

こう、半端な知識だけは持ち合わせてる自分が誇らしい。

 

「そういえば、祈願しに来たのよね」

 

「はい」

 

「何でウチなのよ」

 

「何となく?」

 

「呆れた、行動も気分屋なの」

 

「いやぁ、そんなことは」

 

「ま、私のことじゃないしいっか」

 

おいおい、と思うけども口に出さないでおく。

のんびりとした空気が続く。

お茶とはこんなにも美味い物だったか。

お茶を飲んで落ち着いていると霊夢さんが自分の背負い鞄をひょいと取った。

そんなに物は入ってないとはいえ軽々しくとは恐れ入った。

 

「これどう開けるの?」

 

「これはこうして…」

 

「わ、結構空洞。外の世界も便利ねぇ」

 

「便利といえば便利ですけど、便利すぎる」

 

「そうなの?」

 

「まあ、個人的には。贅沢な考えですけど」

 

「そうね」

 

「面目ない」

 

「それ言う意味ある?」

 

「…ないですね」

 

「変な奴」

 

二度あることは三度あるということか。三本目が心に刺さる。

うーん、針山にならないか心配だ。

しかし、外の道具は幻想郷の人には便利な代物として映るようだ。

確かに慧音さんにも便利だと言われた。

こうして思うと外の世界は色々と楽な部分もあったのだなと理解する。身近にありすぎて分からないという奴だ。

この鞄だってお高いわけでもない。

あんまり外の道具は見せないようにしよう。

鞄はいいとしても携帯とかは…うん、なんか引ったくられそうだ。

 

「アンタ、帰りたいとは思わないの?」

 

「?」

 

「外来人なら、外の世界が恋しいとかあるでしょ」

 

「あー…いや、ないですかね。二ヶ月過ごして、帰りたいとは一回も思いませんでした」

 

「…そう」

 

その話題はそれで終わった。

別に何があるわけでもないのだが、終わったものは仕方ない。

自分としてはずっとここにいて良いものかと思い始めてきた。

 

「巫女の仕事とか、何するんですか?」

 

「さあ?」

 

「えっ」

 

「境内を掃除したりするんじゃない?少なくとも、境内の掃除はしてるわ」

 

「あ、そういう…」

 

グータラ巫女…というよりは関心がないのだろう。

神が居ようと居まいと構いはしないといったところか。

うーん、良くも悪くも判断基準は自分なのだろう。

そこに敵も味方もない。

この人と仲良くするなら利害関係とかの方がいいのだろうか。

こちらから出せる利が無いわけなのだが。

 

しかし、何というか…静かだ。

この二ヶ月過ごして分かったことは外の音が自然が大半ということだ。それは外で過ごした自分からすれば新鮮なものだった。

田舎だとしても車がある場所はある。

人里ならば多少の賑わいはあるが電子音等は皆無だった。

夜になれば殆ど静かで、さっさと寝ようという気になる。

持ってきてしまった携帯を見ようとも思わない。

そも充電するのを忘れているので電源が付くかは、さて。

 

「アンタ、何か仕事はしてたりするの?」

 

「無職ですね」

 

「二ヶ月よく生きれたわね」

 

「慧音さんにこれでもかと色々と叩き込まれていたら二ヶ月経ってました」

 

「慧音…寺子屋の?」

 

「はい」

 

「ふーん…随分と世話焼きな事ね」

 

「本人曰く『ふらっと何処かへ行ってそのまま死にそうだった』とのことです。そんなにふらふらしそうに見えます?」

 

「…見えるんじゃない?」

 

「えー…」

 

「戦えないのにここまで来てるんだからそういうことでしょ」

 

行動で示してしまったということか、無念。

そんなにふらふらしているのだろうか?

少し思い返してみることにした。

 

慧音さんの人里の説明中に物珍しそうに辺りを見回したり店に入る自分。

幻想郷のルールを聞かされているときに子供たちに遊びに誘われて遊ぶ自分。

そして最後にいい加減にしろとばかりに頭突きをくらう自分。

 

とてもふらふらしている。

 

「控えます…」

 

「三日坊主ね、どうせ」

 

「ソンナコトアリマセンヨ」

 

「どうだか」

 

悲しいことに信じてくれないようだ。

行動で示す他ない。

こういう時は心に決めることが重要なのだ。

 

「…死にそうね、このままだと」

 

「マジですか、何でですか?」

 

「勘よ」

 

「勘」

 

「そうよ。…仕方無いわね、ちょっと待ってなさい」

 

気だるそうに立ち上がって行ってしまった。

ポツンと一人。

…本当に誰も来ない。

ここまで来ると作為的な何かを感じる。

あの妖怪神社に一人も来ないとは…噂はただの噂だったのか?

実態はこんなでした、とは一日で判断するのは難しい。

何せこの博麗神社に来る妖怪は一勢力では無いのだから。

 

これだと日誌に何と書くべきか…続きを投げた過去の自分に土下座すべきか?

今ここですべきかもしれない。

よし、ここはしよう。

日誌にではなく過去の自分に申し訳ございませんでしたとしよう。

 

そうして鞄を過去の自分に見立ててから正面に正座し、いざ謝罪をと土下座しようとした時

 

「アンタ何してるの?」

 

「……」

 

末代までの恥とはこの事か。

霊夢さんが奇っ怪な物を見る目でこちらを見ている。

正面には自分の鞄が。

前門の鞄、後門の霊夢さんといったところだろうか。

 

「過去の自分に謝罪をしようと思いまして」

 

「は?」

 

「いや…はい…忘れてください」

 

「…まあ、いいけど」

 

軽く引かれてる気がするが、頷いて貰えた。

霊夢さんは座った後に自分に札を何枚か突き付けるように差し出してくる。

 

「これは?」

 

「魔除けの札よ。

戦えないアンタじゃ妖怪から逃げるのも大変でしょうし」

 

「ありがとうございます」

 

ご利益、という奴だろうか。

一枚で良さそうなのに結構貰った。

いいのだろうか…?

 

霊夢さんはいい人だ。

こんなにくれるのはそうとしか思えない。

 

「な、何よ…」

 

「優しいなぁと」

 

「仮にも参拝客が帰りに食べられたじゃ寝覚め悪いでしょ」

 

「でもこんなにくれたわけですし」

 

「ふらふらしている人に一枚で足りる?」

 

「仰る通りですはい」

 

それに、あまり長居も良くない。

霊夢さんの折角の一人の時間をこのまま潰すのは自分からしても望むことではないし、夕方までここにいてはそれこそ妖怪の餌食だろう。ここはそろそろ帰ることにしよう。

 

「お札、ありがとうございます。

このまま居るのもあれなので帰ります」

 

「はいはい、お礼ならお賽銭でいいわ」

 

あ、そこは要求するんだな。

その内素敵なお賽銭箱は彼処だとか言いそうなのでまた来た時にと言っておいた。

そして、出ようとした時にストップがかかった。

 

「そう言えばアンタの名前聞いてなかったわ」

 

「ああ…」

 

そういえば。

自分は名乗ってなかった。

名乗らなければなるまい…と思ったところで自分の心が待ったをかける。

ここまで自分は変な奴扱いだった。

そこを考えればここが挽回のチャンスだ。

格好いい自己紹介にすべきだろうか?

 

それは違うよ!

 

今自分は名前の知らない変な奴である。

そこを考えればその要素の中に謎の人物が加わっている。

いうなればシークレットなのだ。

このアドバンテージを失うつもりか?

…ならば、こう答えるのがベストだ。

 

 

 

 

 

「外来人の、旅人です」

 

「…なにそれ、ふふ」

 

面食らった霊夢さんがすぐに笑った。

話しても見れなかった笑顔を見れた。

それはとても良いことなのだろう。

その代償として自分は色々と失敗した訳だが、良しとする。

いつだって少女の笑顔は何者にも勝るのだと小説にもあった。

 

「そういうことにしておいてあげる、旅人さん」

 

「あ、あはは…忘れてくれたりは?」

 

「どうかしたの旅人さん」

 

「あ、はい…帰りまーす…」

 

固定されたので諦める。

これは会うたびに弄られるだろう。

彼女が覚えていれば、だが。

それでは、と神社を後にする。

鳥居を潜り、階段を下りる。

また長い道だが、それでも幾分か心は晴れていた。

 

自分はこの縁を大事にするが、彼女はどうだろうか。

博麗の巫女たる彼女は、どうだろうか?

自分は覚えるが、彼女にとってこの縁は価値があったのだろうか?

それは分からない、自分には分からない。

博麗霊夢の心を知るのは博麗霊夢だけなのだ。

 

忘れてるのかもしれない、それでもいいだろう。

変な旅人の印象が消える程度には何かあったのだろうと期待することにする。

一般人としては記憶に残りやすい自負はあるが彼女にとってどうかは…さて。

 

「さて、帰ろう」

 

きっと覚えて貰ってるだろう。

何だかんだと優しい巫女さんだから、誰だっけと言われるかもだが…それは彼女なりのからかいなのかもしれない。

どうせ彼女は彼処に居る。あの神社に居る。

博麗神社に、博麗霊夢はいるのだ。

 

それが分かっただけでも、良しとしよう。

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

続きを書いていく。

巫女、博麗霊夢はとても強かな人物といえる。

自分と自分以外、そんな感じに分けているのではないだろうか。

しかし、少しの笑顔を見せてくれたりと少女らしい一面があった。

 

霊夢さん曰く、自分は『変な旅人』らしい。

このまま他の誰かに伝わらなければいいが。

もし、自分が『変な旅人』として誰かに伝わったのならば凹む…が、それ以上に─

 

 

 

 

─博麗霊夢という素敵な巫女に覚えられたという証拠になる。

 

それは素晴らしい収穫なのではないだろうか。

ただの外来人の自分からすれば光栄なことだろう。

これは博麗神社への祈願が叶っていることに賭けることとする。

我ながら変なことを気にしている。だから変な奴扱いなのだろうが…まあそれはそれということで。

 

一応ながら記入するが帰ってきたら慧音さんから頭突きを貰った。

説教は二時間続いたものの、それは彼女の心配だと思えば申し訳無いので素直に聞くことにした。

内容は思い出すと頭が痛くなるので記入しない。

 

総じて、自己評価としては…素晴らしい一日を過ごした。

 

ちなみに今晩は味噌汁と焼き魚にしたが、米が美味しかった。




・主人公
単なる幻想入りした一般人。
フラフラしたり、好奇心旺盛だがこれでも成人はしてる。
幻想郷の空気に充てられたか、それとも元々かはご想像に。

・上白沢慧音
保護者のような先生だが、単に心配症なだけである。
青年ならば若いからと納得はしたのに彼が成人だったばかりにこいつ大丈夫だろうかと心配して世話を焼く。
その内人里名物『人里ど真ん中旅人説教』となる。

・博麗霊夢
くそ強巫女。東方の顔。
作品によっては表情豊かな時もあるが基本的に何事にも興味がないような対応を取る。今回彼をお茶に誘ったのは珍しい人間だったから。ただそれだけである。
彼女の中での彼は『変な旅人』。

・ロザミア
連載小説執筆しながらもこっちの方が早く書けてることに絶望したくそ雑魚作者。
女の子に酷いことをするのは別に望んではいないと連載小説から目を逸らしている。


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