人の夢は終わらない。

憧れは止められない。

それはきっと美談なのでしょう。

終わっても、止まっても、それはドキュメンタリーとして人々から愛される物語になるのだから。

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※作者が承認欲求に満たすため、駄文なのにも関わらず深夜テンションで書き上げた業深い小説です。
吐き気、頭痛、目眩などの症状が出た場合、無理せず視聴を中断してください。
症状が出てなくても無理しないでください。

それではどうぞ。


タンスの角に足の小指をぶつける程度の物語

 私にはある夢があった。

 

 その夢を抱いたのはいつだろう。

 

 中学生、思春期真っ盛りの黒歴史製造期か。小学生、知性なんてクソ食らえな黒歴史生産期か。あるいは物心ついたばかりのマンモーニ(ママっこ)な黒歴史生成期からだったか。

 

 まぁ、そんな事思い出してたって何の徳にもならない。どうでもいい事だろう。

 夢にひたすらに突っ走って、盛大に滑って、転んで、落ちていったのが私の半生であった。掻い摘まめばそう言う事だ。

 

 よくある話だ。子どもの頃からの夢を諦めきれずに大人になり、現実よりも夢を優先してしまう。そしてどん底に落ちるのだ。

 

 ミュージシャン、漫画家、コメディアン、スポーツ選手。憧れを止められずに人生を棒に振る。

 ありきたりな話だ。誰しもが一度は耳にしたことがあるだろう、夢追い人の半生を語る美談(ドキュメント)は。

 

 だから私の話も、どうか美談(ドキュメント)として聞いてほしい。

 

 

 

 

 私の夢は、ある能力を持つことだ。

 

 それはどんな能力か? 

 

 絶対音感や作曲センス、あらゆる曲を弾きこなせるミュージシャンの能力か。

 画力やストーリー構成のセンス、人々を魅了する漫画家の能力か。

 発想力やネタ作りのセンス、世界中に笑いをもたらすコメディアンの能力か。

 身体能力や運動センス、見る人を熱狂の渦に巻き込むスポーツ選手の能力か。

 

 いや、違う。

 

 私の追い求めた能力は、一般的に想像する、才能や努力で手に入るようなつまらないモノではない。

 

 念じれば理をねじ曲げ、空を想えば引力から脱し、言葉を介さずとも心中を丸裸にする。物理学者をバカにするような超現実的現象を起こす能力。

 私の夢は卓越した能力を、"超能力"をこの身に宿すことであった。

 

 子どもっぽい。

 

 馬鹿馬鹿しい。

 

 私の夢を聞いてそう思った事だろう。だが、私は至って真面目で、真剣だ。

 そうでなければ、能力を身に付けるために世界各地のパワースポット巡りに奔走したり、約10万3000冊ものオカルト本をかき集めたりはしないだろう。

 

 そんな私が成人を過ぎ、年齢的にも社会的にもキツくなってきた頃、能力開花の可能性を見出だしたのが"幻想郷"であった。

 

 曰く、忘れ去られたモノ達の終着点だ。

 曰く、全てを受け入れる桃源郷だ。

 曰く、魑魅魍魎が巣食う魔境だ。

 

 日本各地の伝承を調査し、幾つかの書物に記されていたのを偶然にも発見したモノだった。

 はっきり言って、それは信憑性の低い眉唾物な話。自分自身探すのはアホらしいと思ったものだ。

 しかしその時の私は、周囲の冷ややかな目線が強くなり始めた為に焦っていた。結果、藁にもすがる思いで信憑性云々を度外視した行動をとったのだ。

 

 私はその幻の土地に一縷の望みをかけ、日本中を駆け巡った。直感的に怪しいと感じた場所全てに訪れた。

 突如として消え去ったという神社跡。山奥にひっそりと佇んでいた寂れた神社。神々が集うという島根。日本最後の秘境グンマー。海底都市SAGA。etc.etc.

 

 私は私の夢の為にできる努力は全て行った。

 しかし世間とは不思議なモノで、夢追い人である私の半生は美談(ドキュメント)としては不合格だったらしい。

 他の夢は叶えど破れど美談(ドキュメント)として成立しているというのに。

 

 だから誓ったんだ。

 絶対に夢を叶えてやるって。

 

 それがいくらアホらしい行為だとしても、いくら無謀な願いだとしても、努力をし続ける、と。

 

 鼻で笑われたのなら鼻を明かしてやる。強い決意のもとそう誓ったんだ。

 

 叶えれば、夢追い人としての私の半生がついに美談(ドキュメント)となる。

 

 そう、思っていた。

 ……思って、いたんだ。

 

 

 

 アホらしさ満載な努力。そう思ってた事が何故か実を結んだ。私はついに幻想郷にたどり着いたのだ。

 

 案外あっさりと見つかってしまったので、夢かと思い頬をつねるという古典的行動をとってしまうほどだ。

 

 柄にもなくガッツポーズをとってしまったのも無理はない。これで非科学的な存在が確認できたのだから。

 曖昧でぼやけていたスタートラインが、明瞭な線として現れたのだから。

 

 ……。

 

 ……全く、その時のガッツポーズを返してほしいよ。

 

 世の中には知らない方がいいことがある。

 その通りだ。

 

 やっと見えたスタートラインは、ゴールテープだった。

 

 しかもそのテープは、素直に切れてはくれない曲者で、完走した走者に与えられる筈の、感動も、達成感も、全てを台無しにした。

 だがゴールはゴール。切れずに残ったテープは、そのまま私の心のしこりと成って残ってしまった。

 

 幻想郷に来たことにより、私の夢は叶うとも破れるとも言えない、宙ぶらりんで、最悪な結末を迎えたのだ。

 

 幻想郷には能力が無かったから? いや違う。能力は確かにあった。私の想像よりもえげつない能力がわんさか存在していた。

 幻想郷に来たけど能力が発現しなかった? いや、能力は発現した。私の想像よりもえげつない能力が発現した。

 

 

 能力が発現した。開花した。でもな、でもな……

 

 

 

 

 

 "タンスの角を足の小指にぶつける程度の能力"は無いだろう! 

 

 私は悟った。

 

 叶えど破れど美談(ドキュメント)になる? 

 そりゃならないわけだ。これでは喜劇(コメディ)ではないか。

 全くもってアホらしい。

 

 

 

 

 

 

「待ちなさい!」

 

「ひぃぇええ! 誰か助けてー!」

 

「面倒事は弾幕ごっこで決着させるのが此処の常識なのでしょう? なんで逃げるのよ!」

 

 目に痛いほどに緋色で塗られた屋敷の一廊下、そこでは二人の女性が追って追われの逃走劇を繰り広げていた。

 

 追われている女性は私こと桐野(とうの)キリエ。特出した個性もない──強いて挙げるならば、部屋着という緩い格好しており、この紅い屋敷から浮いている事だろうか──極普通の美少女である。

 対して追う側の一人は、メイドであった。銀の髪を持ち、フレンチタイプのメイド服を着こなす美少女。思わず嫉妬心を持ってしまうほどのだ。それに加え、ナイフを両手に携えるという個性の爆発っぷりであった。

 

 銀髪戦闘メイドとかズルいぞ。男心を擽る属性特盛だ。勝てるわけないじゃん。2つの意味で。

 

「ナイフを飛ばす人からは逃げるのが私の常識よ!」

 

 イラつきを隠せずそう強く反発する。言い終わると同時に、メイドが放った一本のナイフが服の裾を捉え、壁もろとも突き刺さる。

 皮切りに突如として出現した大量のナイフが、一斉に私に襲いかかった。私はこの先起こることを想像してしまい、短い悲鳴を挙げる。SANチェックもやむなしである。

 しかし、結果としてはナイフは一本も私を傷つけることはなかった。肌にかすることなく、器用にも服の端だけを捉え壁へと縫い付けた。

 

 安堵する私を前にメイドは声量を抑え話しかける。

 

「常識は疑いなさい」

 

「あんたは常識より感性を疑ったら? 私の意思も尊重しなさいよ」

 

「この紅魔館に侵入した時点で人権はない。慈悲もない」

 

 その言葉には納得出来ない。メイドは"侵入者"と揶揄してくるが、とんでもない。私からすればこのメイドこそが"侵入者"なのだ。いやそれだけでない、この紅い屋敷──紅魔館というらしい──そのものすら"侵入者"なのである。

 

「どっちが侵入者なのかね、あんたはここ(幻想郷)へ来るのに許可は取ったのか?」

 

「いいえ、必要だったのかしら?」

 

「いや、ないけど。マナーは必要でしょ? 特にあんたみたいなメイドは」

 

 メイドがこちらへと歩を進める。

 私の真正面に立ったその時、一瞬だけの浮遊感を感じた。見るとさっきまで確かに服に刺さっていた大量のナイフが消えていた。

 私は重力に任せたまま座り込む。

 

 ……催眠術だとか瞬間移動だとかチャチなモンじゃあない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ

 

「で、何故この屋敷に入り込んだのかしら。もしかして貴女があの八雲紫が言ってた巫女かしら?」

 

「私は巫女じゃないわ。ほら、脇がでてないでしょう? ……入り込んじゃったのはあんたたちの不手際よ」

 

 そう、私は紅魔館に侵入してきた訳ではない。

 私は元々、霧の湖の畔に家を構え暮らしていた。しかし、今朝目が覚め窓の外を見ると、そこは紅魔館のエントランスであった。

 おそらくこの屋敷の幻想入りに家が巻き込まれてしまったのであろう。私は被害者だ。だからこそメイドの問い立てに不服な態度を示しているのだ。

 

「まあ、怪しい奴にはかわりない。ごっこついでに駆除するわ」

 

「侵入者の駆除は警備員の仕事では?」

 

「掃除はメイドの仕事でしょう」

 

「なるほど、そう来ますか」

 

「弾幕ごっこの練習もできて一石二鳥ね」

 

 メイドは再びナイフを構える。追い詰められた私は顔を伏せた。

 

 無防備にも目を反らしたその女性にナイフを刺すために、メイドは一歩足を踏み出す。

 

 その時だった。

 

 メイドの背後から乱暴に扉を開ける音が聞こえ、ナイフを持つ右手は私の首にかかる既の所でとまる。

 一瞬のうちに私から距離を取り、何事かと振り返る彼女の目に映った()()、それは蝶番から外れ壊れてしまった扉。

 重いものが引き摺られたようにボロボロになってしまったカーペット。

 そしてなにより、その無惨な光景を引き起こしたと予測される大きな()()

 

「なっ!」

 

 四角形。

 

 初めにメイドの頭に浮かんだのがその図形。

 素材は木材、恐らく桐が使われた年期のはいった代物。

 アンティークな意匠が施された取っ手が8ヶ。

 それぞれ引き出しと思われる4ヶの口に2ヶづつ付いている。

 

 タンスだ。

 

 ……なぜタンスが? 

 

 冷静に分析するメイドだったが、その光景を前に頭の上に疑問符を並べていた。

 

「あなたの能力は時間操作ね。長年能力を追い求めてきた私だから気づけたわ。……全くもって羨ましい。なんてカッコいい能力なのよ」

 

「……だからなんだって?」

 

 時間操作能力、実に羨ましい。

 私なんて()()()能力なのに。だというにコイツは時間を止められる銀髪戦闘メイドだ。ふざけんな、数え役満だ。ちくしょー。

 私は依然座り込んだままの体勢で、メイドを無視し語り続ける。

 

「あんたがアホらしい会話に付き合ってくれて助かったよ。お陰で私の能力を使う時間が稼げた。お礼に私の能力を教えて上げる」

 

 この状況、端から見れば不利なのは私。相手は時間を止める。無防備な私は攻撃され放題。攻撃もあっさり避けられるだろう。攻守ともに鉄壁だ。

 時間操作能力といえば、強力すぎるがゆえ操作時間が短いというのが私の中のセオリー(脳内設定)なのだが……ナイフの回収なんて余裕を見せているところを見るとその兆候は見られない。反則級の能力だ。

 対して私は()()()能力。チェックメイトにハマっている。

 

 そう、端から見れば。

 

 時間系能力者への対抗策は相場が決まっている。

 

 不意打ちだ。

 

『俺が時を止めた……』なんて急展開にならない限り、殺られる前に殺る戦法を取る他ないだろう。

 ……そして私の能力は、そんな戦法を取るのにこれ以上ない程うってつけだ。

 

 本当は見せたくはないが仕方ない。

 

「タンスの角を足の小指にぶつける程度の能力だ」

 

「は?」

 

 そう、これが私の能力。冒頭でも言ってた通り、嘘偽りない私の能力だ。

 メイドの反応は想定済み。私自身もこうなったのだから。

 え……? 不意打ちの話はどうしたって? まぁ見てなって。

 

「タンスの角を足の小指にぶつける程度の能力。タンスの角()足の小指()ぶつける程度の能力ではないから注意して」

 

「……なんて?」

 

「タンスの……って、何回言わせんよ! 私だってもっとカッコいい能力を使いたかったわよ!」

 

 本心からの咆哮であった。私の夢は"超能力"を発現させること……いや"超()()()()()能力"を発現させることだった。

 丁度このメイドの時間操作能力のように……。

 

()()()能力で勝てるとでも?」

 

「相手の能力を貶めるのは内心恐れている証拠よ。なに、恐れる事はないでしょ。メイド足るもの家財に怯えてどうするの? 掃除(駆除)してやろうくらいの気概は持てないの?」

 

「会話くらいしなさいよ。誰が恐れてるって?」

 

 分かりやすく挑発をする。これは別に作戦でも何でもない。ただの憂さ晴らしだ。すでに()()()()は整っているし。

 

「あんただよ、メイドさ──」

 

 

咲夜の世界

 

メイドは話途中の女性にも、後ろのタンスにも気を掛けることなく能力を使う。

 

気に掛ける必要なんかない。

だってここは……このメイド──十六夜咲夜の不可侵領域なのだから。

 

世界は色を失っていく。既にここには咲夜以外に動けるモノなど()()()()

 

侵入者はその口振りから不意打ちを狙っていたか、罠を張っていることが容易に推察できた。

自分の能力にも感づいていただろう。

 

だが、十六夜咲夜は焦らない。

焦る必要はない。完璧で瀟洒なメイド長足るもの、常に余裕をもって魅せる。

 

冷静さを欠くことはない。常に周囲に気を配り、冷静に物事を対処する。

不意打ちや罠の類いは()()()()()()

 

必死に侵入者を追う素振りを見せてはいるが、それすらお茶目なメイドの演出に過ぎない。

 

十六夜咲夜は焦らない。

 

時間は誰よりも有り余っているのだから

 

 

 

 

ガンッ!  

 

 

 

 

 

 全てが静止した世界。そんな世界での衝撃音はあり得ない筈だった。

 その衝撃音は、メイドの右足から響いていた。

 塞き止められていた時間が徐々に動き始める。ゆっくりと、雪解けのように、鈍い痛みと共に、動き始める。十六夜咲夜の余裕を保っていた表情も徐々に崩れ、やがて負傷した箇所を、足の小指を抱えて転がり込んだ。

 

「──ん。……おっと、かかったな?」

 

「~~~ッ!!」

 

 唇をギュッと噛みしめ、声にならない悲鳴をだすメイドがそこにいた。

 プルプルと震えながら小指をおさえている彼女の様子から、一体なにが起きたのかと気になることだろう。

 

 簡単な話だ。彼女はタンスの角に小指をぶつけた。ただそれだけ。

 

 停止した世界の中で、メイドと女性の間に挟まるように突如として現れたのは、タンスだった。

 いや、現れたというのは表現上おかしい。タンスは()()()()()()()()()のだから。

 

 止まった世界でメイドは自らタンスへと近づいていったのだ。

 これが私が仕掛けた罠……いや能力である。

 

「タンスは初めからそこにあった。あったことは分かっていても、あなたはそれを認識できない。この能力はタンスの角に小指をぶつけるという無意識下の一撃を再現できるモノよ」

 

 たしかに時間を操る程度の能力を持っている。だがその強大な能力が逆に仇となった。決定的なスキを作ってしまった。

 慢心というにはあまりに酷であろう。時間を操作できる自分に対しあり得ない事象だったのだから。

 

 強能力者の一番の弱点、それは自分能力への自信だ。

 時間操作能力者が最も気を抜く瞬間はどこか。それはきっと時間を止めているときだろう。

 

 いくら常に冷静さを保ち、周りを注意できるようなメイドの鑑だろうが、最も気を抜く瞬間に無意識下の攻撃は避けられないだろう。

 

 よぉく注意すれば当たらなかったかもしれない。知らんけど。

 

 タンスだからと甘く見ちゃいけない。言ったでしょ、私の予想よりもえげつない能力が発現したって。

 ま、カッコ悪いのは変わらない。

 対象がタンスを認識して、さらにタンスから意識をそらさせなければならないって厳しい発動条件もあって使いずらい能力だし。

 

「ごめんね、弾幕ごっこの練習にならなくて。そもそも私、弾幕打てないし……」

 

 悶絶するメイドを尻目に私は扉が壊れ開放的になったこの部屋から出ていく。

 

 行き先は勿論この屋敷の主のもと。

 

 話を着けなくてはならない。私はメイドに襲われ、結果使いたくもない能力を使ってしまったのだ。主には一言言わねば気が済まない。

 

 ……弁償するので許してください、と。

 

 私はタンスで傷ついてしまった、どこまでも続く床の傷を見てそう思った。

 

 そう、私は幻想郷の問題児たちとは違って律儀で、筋の通った美談(ドキュメント)が好きな美少女なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




続かない。

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